第58話 クロ
11/9 少し書き足しました。
「主! 起きて!!」
サキの叫び声で一瞬で覚醒する。
道中はなにがあるか、わからないから寝ていても緊張のしっぱなしだった。
それが今もある、が、体がしびれて動けない。
これは!?
これは嗅いだことのある、あの甘い匂いだ。
”龍香”
北区のあの、血液事業所、地下の……
ヴァンパイア・シャルル・プルーンの……
だめだ、思考が……
◇◇◇
部屋の備え付けのイスに腰掛け、シャルル・プルーンはベッドの上で麻痺し悶える二人を見ていた。
「やれやれ、龍一よ、何度騙されると気が済むんじゃ? よく知らない人は信用してはならぬぞ? くくく」
呆れたように笑うシャルルの、その隣でナタリーが金貨を数えていた。
「やだなぁ~、ひどいよプルーン。私をそんな悪人みたいに言わないで欲しいな」
「くくく、何を言う、そちは極悪人じゃろうが?」
「まったく、とんだ言いがかりだよ、私は頼まれた君の借りを返しただけだ。報酬ももらったし、とっとと去るよ、私はこの後のことは知らない」
「付き合いが悪いのぅ~」
金貨をジャラジャラ袋に詰めたナタリーは、立ち去る支度を整えた。
「この子達とは共に旅をした仲だしね。ひどい目に合う様を見たい、とは思わないよ」
「ひどいのはコッチじゃ、残りの龍香も全部使い切りおって。あれが……」
「私は契約は果たした。もう行くよ」
シャルルの言葉の終わらないうちにナタリーは部屋から出て行った。
「ふん、まぁ良いか。後はこやつらを運ぶだけじゃな」
と、そのときだ。
突然、部屋の床の中央から黒い光が溢れだした。
「!! まさか!!??」
その闇より深い、黒い光の中から、闇そのもの、としか言いようのない女性が一人現れた。
「まったく……あのままこちらに構わなければ見逃してあげたのに……」
「こくりゅ……!!」
シャルルはその姿を見た瞬間、撤退を決意し、窓に向かう。
しかし、その体は窓にたどり着く前に黒い霧のようなものに包まれ、動きを止めた。
倒れたその体の肉は腐り、溶け落ち、骨になっていく。
(だめだ、再生……できない……龍一の……血を……)
どんどん溶けた体はやがて、骨だけになり、その骨も粉と化し、やがて全て、なくなった。
黒い女性は消滅したシャルルに見向きもせず、ベッドの上で、裸でよだれをたらして瞳孔が開き、満足に動けなくなっている龍一とサキに近づく。
そしてサキと龍一にそれぞれ口づけをする。
◇◇◇
「はぁはぁはぁはぁ……」
「う……ん……」
黒い女性に口付けされた途端、体の痺れも抜け、思考もクリアーになり、気分も楽になった。
サキも頭を抑えながら上体を起こしている。
俺は女性に問いかける。
「お前、黒龍か?」
俺はその大人びた、神秘的に美しい黒い女性に聞く。
どことなく、クロの面影があり、クロが成人したらこんな感じだろうと思われる容姿だ。
「そうだよ、お兄ちゃん」
「その姿は?」
「私ね、神様だけど、信仰してくれる人がいないでしょ? だから普段は子供の姿なの。この姿は、炎龍のおかげね」
「炎龍さまの?」
「そう、炎龍はあの国に七大龍神を祀る神社を作ってくれたわ。私の中にある、たったわずかな神聖は、あの神社で、他の龍神のついでにお祈りしてくれる人達のおかげなの」
「そうか……」
「私は生と死を司る龍なんだけど、ここでは邪竜と忌み嫌われてるから、怨嗟しか私には向けられないから、人を呪ったり、殺すのは得意なの」
「……」
「お兄ちゃん、ここまで無事にこれたのは私のおかげも少し、あるのよ?」
その意見には異を唱えさせてもらう。
「え~、お前、喚くか、食べるだけだったじゃねぇか」
「ふふふ、忌み嫌われてる、といったでしょ? 私がいるだけで本当はあなた達には誰も寄ってこれないのよ?」
「え?」
「この大陸だって全然治安がいいわけじゃないの。盗賊やら強盗、魔獣などの獣。だれにも襲撃されなかったでしょ?」
「そういえば……」
「エルフの国だって、ヨソ者は平気で襲ったりするのよ。まぁ、サキとお兄ちゃんなら誰も襲えないでしょうけど」
「じゃあ、あのエルフ、ナタリーは?」
「彼女、なにか強烈な呪いよけの魔術具みたいな物をもっていたわ。あと奇跡の石とか色々、よほど私が怖かったのね」
やっぱり最初から俺たちをシャルルに売るもりだったのか。
ナタリー……いい旅の師匠だったのに、ちょっと尊敬してたのに……。
「……彼女はあと一週間で死ぬわ」
「呪いをかけたのか?」
「ええ、あのまま黙ってなにもしなければ、お兄ちゃんたちのいい旅の仲間だったしね。でも……」
シャルルが死に、俺たちが無事と知れれば彼女がこの先、俺たちに何かしないとも限らない。
ここはドライになるしかないんだろうな。
けれど、やはり、割り切れない思いだ。
多分、俺はナタリーもシャルルも好きだったんだ。
ひどいめにあわされた。
それは間違いない。
シャルルは俺の血が目的で別に殺すつもりはなかったはずだ。
吸血鬼特有の、嗜虐的なことはあったたが、形が違えばこれからも付き合えたのでは? と思う。
あの、本丸で過ごした夜のように。
……しかし、それも俺を騙すための、血をとるための布石だったかとも思うと、複雑な気分だ。
ナタリーもアゥディーゴからの道中は本当に助けられた。
暗闇を進んでるような旅に差し込んだ、一筋の光の様だった。
しかし、それもこれもこの宿まで俺たちをおびき出すための……。
「そうか、わかった。……寂しいもんだな……」
「それで、お兄ちゃんにお願いがあるの」
「……なんだ?」
「今晩だけ、私を抱いて下さい」
「それはダメ」
今まで黙ってやりとりを聞いてたサキが口を出す。
「お願いサキ。私はもう、しばらくこの姿になれない。あなた達を助けるためにこの姿になったの。神様が人の姿になるのは、大変なの。特に、私は」
「でも」
「明日、あなた達を大陸最南端のイーデまで連れていくわ。そこにはブラウ大陸からあなた達を探しに来てる人たちが来てる。その人達のもとまで連れていくわ」
「……」
「サキ、今晩一晩だけでいいの」
「主……」
サキが俺に抱きつき、キスを交わす。
そのまま黙って服に着替える。
黒龍の提案が今、俺たちに最善手と判断したのだろう。
「私、今日はナタリーの部屋で寝る。そういう気分」
そう言い残すとサキは部屋を出ていった。
黒龍はドアを見つめてポツリと礼を言う。
「ありがとう、サキ……」
何とも言えない気持ちになった、なんか、色々割り切れない。
黒龍は服を脱ぎ、俺に抱きつく。
「ごめんね、お兄ちゃん」
「黒龍……」
黒龍はキスをし、俺を押し倒す。
「ちゃんとクロって呼んで。お兄ちゃんが付けてくれた名前だよ?」
「そうだな……クロ……」
そのまま俺とクロは同じベッドで一晩過ごした。




