第56話 エルフ
「ねぇ~、おにぃちゃぁぁん、ここ通るのやめようぅよぅぅぅ」
今日はもう大森林を目の前にしてから、ずっとこんな感じのだだっ子・黒龍ちゃん。
……もう勘弁してよ。
俺たちは馬車を街道脇に泊めて野営をしている。
今は道中狩った獲物の干し肉にしたものを夕飯に食べ、焚火の前で一息ついてるところだ。
「エ、エルフはさ、ほんと、は、排他的なんだよ、わ、私だけじゃなくてさ、龍そのものが嫌いなんだよ、お兄ちゃんもサキも、必ず嫌な思いするよ? ね? やめよ?」
「俺たちの国にもエルフはちょこちょこいたけど、そんな嫌な感じでもなかったぞ?」
「そ、外に行ったヤツは違うよ、そ、それなりに外の世界で、順応してくんだよ。け、けど、この国だけじゃなく、集落なんかでもエルフだけで固まって引きこもってる連中は、はっきり言って、ゴミだよ、クソだよ、ウジ虫だよ、い、生きてる価値ない廃棄物だよ」
悪口が止まらないなコイツ。
「り、龍だけじゃないよ、ここはエルフの国ってことに、なってるけど、べ、別に大森林はエルフだけじゃなく、森林に適した種族も、いっぱい、す、住んでるんだよ。そ、それなのに勝手に自分達の国みたいにしちゃってさ、ほ、他に住んでる、た、例えば獣人なんかは、すごく差別しててさ、ほ、ほんと最悪だよ、コイツら」
その時、あらぬ方向から黒龍のグチに割り込んできたセリフがあった。
「なるほどなぁ~。エルフは傍から見るとそういう風に見えるのかい?」
「!!!」
驚いて全員が声のする方に注目すると暗闇から一人の女性が手を挙げ、にこやかに現れた。
「やぁ、今晩は」
早速、人見知りの黒龍は隣にいたサキの影に隠れる。
「今晩は……てニホン語がしゃべれるんですか!?」
俺は唐突に闇から現れたその女性を不審に思うより先に、言葉が通じることの方がビックリした。
なんせシャルルの山荘を離れてからは、俺たち三人以外にニホン語を話す人物に出会えなかったからだ。
「いやぁ~遠くからね、この炎が見えてねぇ、ちょっと当たらせてもらっていいかな」
「どうぞ、どうぞ」
と俺は突然の闖入者に席を作る。
「ところで、あなたは?」
話しかけてきた人物に俺は尋ねる。
一見したところ、旅人風の格好に、荷物を持ち、腰に剣を差している。
体格は中肉中背、長い茶髪を大きな帽子に纏めている。そしてその端正な顔の横にはエルフの証である長い耳が両脇から生えている。
「私は……流浪の剣士、てとこかな? まぁ、ただの旅人とも言うな。君たちは?」
「俺たちは、まぁ、訳あって、南に向かって旅をしています」
「ほう、理由を聞いても?」
「ええ、南の……どこか港へ行ってブラウ大陸へ渡りたいんです」
「なるほど、どうしてブラウ大陸へ行きたいんだい?」
「俺たち、実はあっちの出身で、まぁ、行きたい、というより帰りたい、と言った方が正確です、かね」
「なるほど、なるほど……それはそれは大変だね。ガンドウ・ロゥワ最南端を目指すとなると、そこの隠れてるお嬢ちゃんの言う通りにアウディーゴを迂回するとなると、まぁ一ケ月は余計にかかるね」
やっぱりそうだよなぁ……迂回なんてしてる場合じゃないだよ、俺たちは。
「それで、貴女はどこから来て、どちらへ向かわれるんですか?」
おれは流浪の剣士に聞いてみる。
「ああ、ゴメンね、君たちのことばかり聞いてしまって。私もこうして人と話すのは七日ぶりでね。なんせあてもない歩き旅だもんだから、寄った集落をでると十日やそこら、一人っきりってことが多くてね。ついつい人と会うと色々聞いてしまうんだ。クセみたいなもんだからごめんね、なんか詮索してるみたいになって」
久しぶりに人と会話してハイになってる感じか。
「いえいえ、こちらも俺たちに以外に、ニホン語を話す人と会えて嬉しいです。それで?」
「ああ、そうだったね。先ほども言ったとおり、私の旅はあてがないんだ。昨日は別れ道で棒をね、こう倒して倒れた方を目的地にしたりしてね。そんな旅なんだよ」
エルフはとても楽しそうに話す。よほど人恋しかったのかな?
「私はね、もともとこの大森林の生まれでね、さっきお嬢ちゃんが言ってたみたいに……」
と言ったところで黒龍がビクっとしてさらにサキの後ろに隠れ、姿が見えなくなる。
コイツ、神様のくせにエルフ一人くらいでビビってんじゃねーよ!
「ああ、ゴメンね、君のことを悪くいうつもりはないよ。怖がらせちゃったかな? まぁ、つまり、私もここの生活が嫌になって、飛び出した半端者ってわけだよ。それで最初はただの流浪の旅人でね、ガンドウ・ロゥワも段々飽きちゃってきてブラウ大陸に渡ったんだ。ニホン語はそこで覚えたんだ」
お、てことは?
「龍帝国ですか?」
「いや、けね……いやケナンだ、ケナンて国さ、龍帝国の側の国で居心地が良かったよ」
サキが焚火に薪を追加しながら無表情に、無感情に言う。
「ケナンは、もうない」
エルフは少し悲しそうな顔を一瞬だけして遠くの、昔を懐かしむような、郷愁の念を込めて語った。
「そうか……もう、ないか、自然がいっぱいでね、四季もはっきりしてて人も暖かかった……そこでは色んなことを学んだよ。剣もそこで習ったんだ。五十年くらい、いたかな?」
なんかしんみりしてしまった。
皆黙り込んで、焚火の音だけが、パチ……パチ……と聞こえた。
と、ふいにエルフが俺に提案してきた。
「ね、私を君たちのパーティーに入れてくれないかな?」
! マジか! これは、とんだ救世主か!? こんな旅慣れしてる人が一緒にいてくれると百人力だ!
「いいんですか?」
「もちろん、さっきも言った通り、私はあてのない旅だ。この大森林も別に寄る予定ではなかったんだ。私がいるとなにかと役に立つと思うよ? そこの隠れてるお嬢ちゃんにも絶対いやな思いはさせないよう誓うよ」
神! 神はここにいた! ここにいたんだ! 黒くて情緒不安定なだけの邪竜じゃない! モノホンの神だ!!
女神! エルフさん、マジ女神!!
「それにね、この国はまた言語が変わるから通訳としても私は役に立つと思うよ?」
俺は涙を流し! 本当にうれしすぎて涙がでた!
彼女の手を取り、感謝した。
「お願いします! ありがとうございます! 本当、嬉しいです!」
もう彼女が一緒に来てくれるなら土下座してもいいし、拝んでもいい!
靴を舐めろと言われればヤメ! がでるまでなめ続ける自信があるぞ!
「お兄ちゃん! ダっ!
黒龍が俺を止めようとするのをサキが羽交い絞めして制止する。
口を押えてモガモガし、暴れる黒龍をこの場から徐々に引き離す。
「そうかい? 受け入れてくれて良かった。なんか君たち面白そうだしね」
「?」
彼女はいたずらっぽく笑って俺の耳元に囁く。
「君たち、龍人だろ?」
「!」
別に隠すことでもないけど、わかるもんなのかな?
「はは、ごめん、ごめん、そう警戒しないで欲しい。何か企んでるわけじゃないよ。ただの好奇心さ。私の名はナタリー・カシム。ナタリーと呼んでくれ」
「俺はた、龍一と呼んで下さい。あっちにいるのがサキ、ちっこいのが、こ……クロ、です。よろしくお願いいたします」
「リューイチにサキにクロね。オーケー覚えた。じゃあこれからよろしくリューイチ」
俺たちはガッチリ握手した。
迷走しっぱなしの旅だったが、なんとか光が差した気がする!
これもう、ほんとゲームとかなら
ピンピロリン ”エルフがパーティに加わりました! 戦力が増強された”
みたいな?




