第54話 メンヘラはメンヘラです。
「わかった、サキはもう殺さない」
俺たちが黒龍に会ったのが昼過ぎくらいだった。
それから感情の浮き沈みの激しい黒龍をだな、俺は……
なだめて、すかして、持ち上げて、ほめて、ほめて、ほめて、謝って、土下座して、怒って、心中しようとして、仲直りして……。
というのを何セットか繰り返し、トップリ日も暮れたところでなんとか上記のセリフを引き出すことができた。
はっきり言ってあれだけ怖かったシャルル・プルーンを相手にするより何倍も精神を削られた。
サキは呪いから復活してから、なんとなく体育座りで俺たちのやり取りを見てたが途中で消えていた。
そのサキが再び現れ、聞いてくる。
「私、殺されずにすんだ?」
「なんとかな……」
げっそりして俺はサキに答える。
「お兄ちゃんに頼まれたから! お兄ちゃんに頼まれたから殺さないで上げるんだから! 感謝して! 感謝してよね!」
「わかった、感謝する。主、ごはん、できた」
サキは台所に行き、何か料理してたらしい。
肉料理、サラダ、パン、スープとまぁまぁ豪勢な料理を作ってくれてた。
俺たちは山荘のキッチン・ダイニングに移動し、夕食にすることにした。
「え? なにこれ? なにこれ? なにこれ?」
黒龍がテーブルに並んだ食事を見ていきなりテンションが上がった。
「私が作ったんだけど」
「え? え? サキが? サキが作ったのこれ? すごい! ちゃんとしたお食事! これ三人分あるよね! あるよね! もしかして私の分!? 私の分もあるの!!??」
「うん、ちゃんと黒龍の分も作った」
「すごい! 私はじめて! こんなのはじめて! お食事! こんなちゃんとした食事はじめて! うれしい! めちゃくちゃうれしい!」
ヨダレをダラダラ流しながら黒龍は大はしゃぎだ。
「私の分まで作ってくれるなんて! サキ大好き! サキも私のこと好き? 好きじゃなきゃ私のお食事作らないよね!」
ヨダレをダラダラ流しながら黒龍はサキに抱きつき、はしゃいでる。
お前、さっき殺そうとしてた相手だぞ……。
「はいはい、いい子だから、席に着いて、食べようね」
サキが黒龍のヨダレを拭いてあげながら席に誘導する。
「うん! 私、席に着く! お兄ちゃんの横! お兄ちゃんの横に座る! お兄ちゃんの横に座ってお食事する!!」
黒龍が俺の隣にべったり横づけして、ウキウキで座る。
「いただきまぁ~~~す! ……ん~~~~おいしい! おいしいよ! サキ! これなに? これも……もぐもぐ、ずず~~~」
黒龍はあちこちこぼしながらむさぼり食う。
「うまいか? こんな食事ができるんだから、サキを殺さなくて良かったろ?」
「は? お兄ちゃん、私、サキ大好きなんだから殺すわけないし」
……くっ、コイツ!……どの口が……。
俺たちは食事を済まし、今後の方針を話し合う。
「え~と、とりあえず、だ。黒龍ちゃんは俺たちのことを助けてくれる、てことでいいのかな?」
「うん! 助けるよ! なんでもするよ! なんでもしちゃう! でも条件があるの!」
おっと、さすが神様、ただじゃあ、助けてくれないか。
アレじゃなきゃいいけど、一応尋ねてみる。
「……条件てなんだ?」
「私とエッチして! 私とエッチするの! エッチしてくれないと助けない!!」
やっぱりか……とウンザリしてたら黒龍はいきなり立ち上がりスカートをまくってみせる。
ガーターベルトストキッングで……下着はなかった。
「ホラホラ、エッチしないと助けないよ! 助けないよ! お兄ちゃん! エッチしないと助けてあげないよ!!」
「よしよし、とりあえず座れ、まず話しあおう」
サキがジトっとした目で見てくる……。
「え? え? なになに? 話し会うって? エッチするか、しないかでしょ? お兄ちゃん、ごまかすのやめて!」
「オーケー、オーケー、スティ、ステイ……え~と黒龍ちゃん?」
「何よ! お兄ちゃん! ごまかさないで!」
「まずは、だ……」
俺はズバリして欲しいことを聞いてみる。
「黒龍ちゃんがぁ~、龍になってぇ~俺とサキをぉ~ブラウ大陸まで運んでくれる、てのはどうかなぁ~?」
黒龍が思いっきり頭をブンブン横に振る。
「無理! 無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理!」
「ど、どうしてかなぁ~?」
「炎龍とこなんか行きたくないし、絶対やだ!!」
まぁ、これは何となく予想がついていた返事だ。
想定内、てヤツだな。
龍神はそれぞれテリトリーの大陸を持ち、不可侵条約みたいなものを結んでいるらしい。
ブラウ大陸に今いる雷龍と水龍の場合は、炎龍が俺の為に頭を下げて来て頂いた、というお客様状態だ。
つまり、基本的に他の龍神のテリトリーに行く場合、そのテリトリーの主の了承を得なくてはならない。
もちろん許可の可否はその龍神しだいだ。
「そうか~、じゃあ、この魔大国・・ガンドウ・ロゥワ大陸のどこか、南の港町まで龍になって連れて行ってくれることはできる?」
「やだ! やだ! やだ! やだ! やだ! やだ! い~や~だ~~!!」
「ど、どうしてかな?」
「できるけど、やんない、そんなことしてあげないよ!」
コイツ、さっきなんでもする、とか言ってたくせに……。
いや、耐えろ、耐えるんだ俺!
「な、な、なぜぇ~かなぁ~?」
黒龍は俺の腕にからまりデレデレしながら答えた
「だってぇ~、黒龍、もっと、もぉ~~と、お兄ちゃんと一緒にいたいもん! 一緒にいたいんだよ! サキのごはんも美味しかったし! もっと食べたいし! そんな、一瞬でさよならするようなのやだし!」
~~~頭いてぇ……。
「ふぅ~~~、だって、俺たち、この大陸の言葉知らんし、金もないんだぜ? 地理もわからんし、どうするんだよ?」
「だ、大丈夫だよ。わ、私もお金ない! お金ないよ! けど言葉はわかる!! 道もわかる、よ!」
なんてポンコツ神様だ。
そんなの現地の一般人と変わらねぇじゃねぇか!
「主、今日はもう寝よう。とりあえず明日ここを出よう」
サキは会議終了の合図をだす。
……そうだな、今晩はここまでだ。
果てしなく疲れた……心が。
「そう言えば、シャルルはまた、襲ってこないかな?」
「あ、アイツなら、た、多分もう来ない、と思う、よ」
なぜか黒龍が答える。
「わかるのか?」
「うん、ア、アイツ遠い、とこ、行った」
「ふ~ん?」
ま、深く追求すのはいいか、とりあえず、また襲撃されないなら、それに越したことはない。
その晩、俺たちは川の字で寝た。
前途は多難だ。




