第17話 カタリナ共和国
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都合により今までひらがな表記の女性名をカタカナ表記に替えました。
龍帝国はどちらかと言えば、南北に長い国である。
その北西にカタリナ共和国が隣接している。
建国120年でブラウ大陸では、比較的若い国家である。
国土面積が龍帝国の10分の1ほどの小国家だが他の新興国よりは経済的に成功していて他の大国との繋がりも大きい。
その主席代表、ラクラン・アンドラのとこに一つの報告が届いた。
「ラクラン主席に申し上げます。昨日『鱗切り計画』は丙案で完遂されました」
報告者はそう告げると部屋を出て行った。
そこはこの国の10名の代表評議員が集う議会室である。
「どうやら連れ帰ることには失敗したようですな」
「あの国で殺せただけでも御の字である」
「龍人を使うなど……。あのがめつい龍どもに国庫からどれだけの予算をつぎ込んだと思ってる。傭兵の龍人一人雇うだけでも一個軍団を賄えるほどの資金が飛ぶのにましてや裏稼業の者などに頼らなくてはならないとは……」
「異世界人が我らの手に入らない責任は果たしてどなたが取っていただけるのかな?」
「その前に里から放ったシノビがことごとく失敗した責任の所在も明らかにしたいものだな。かなりの手練れを失ってしまった痛手は大きい」
「そのシノビどもが役に立たぬから龍なんぞに国家予算に匹敵する額を使わねばならなくなったのであろうが!」
「落ち着き給え、諸君!」
黙って議員たちのやりとりを聞いていたラクラン主席の一声で10名は静まり返る。
「『鱗切り計画』に関し、使用された予算に関しては、とある筋より完全に補填される」
「おお~、ではやはり」
「あの噂は本当だったのか……。」
議員たちがざわつく。
「いいかね、諸君。かの帝国を敵に回せば我が国など一日で灰にされてしまうであろう。我々はこれまで通り、注意深く、どこをも敵に回さず、味方は多く、だがどこへも深入りせず、己の国の独立を守らなくてはならない。くれぐれも油断せぬよう」
首席代表が議会室を後にし、自分の執務室へと戻ると黒ずくめの男が待っていた。
「大司教、来ていたのか」
大司教と呼ばれた男は柔和な顔で首席代表に答える。
「ええ、こちらで待たせていただきました。議会は無事終了しましたか?」
「粗方、予定通りにな」
大司教は窓を向き外を見ながら言う。
「しかし、残念です、異世界人様をお迎えすることができずに。これも神のおぼしめしか……」
「そちらが提示された案の中には暗殺もあったが?」
「それは、最後の最後の手段ですよ。やはりギリギリまで踏みとどめていただきたかった、というのが本音ですね」
「起こってしまったことはどうしょうもない。これからのことをお話いただければ」
「もちろん! 教会は貴国の今回のご協力に関しまして十分な補償と報酬をお約束通りお支払いいたします」
「それはありがたい、できましたら二度とかの国にちょっかいをかける様なご依頼は勘弁して欲しいものです。ヘタをしたら私の首が飛ぶなんてやさしいものではなく、国が滅びかねない」
ラクランの皮肉に対し大司教は大げさに手を広げ答える。
「もちろんです! 私も本国からの指示で今回の件は本当に悩みましたし、苦労させられました。お互いしたくもない仕事は引き受けたくないものですね。だがこれも神の試練なのでありましょう。かのお国もこれ以上余計な事をしないよう神に祈るばかりです」
「なるほど、まさしくそのとおりでありましょう。ではお互いの胸のうちがわかったところでお引き取り願おう。私もこう見えて忙しい身でね。外に出なくてはならない」
「おお! これは失礼しました! お忙しい御身にお時間を取らせてしまい、申し訳ございません。私もこれで退散するとしましょう。あなたに神のご加護がありますように……」
一礼して大司教は帰っていった。
「あの人、いつも会話の中で神様を連呼して胡散臭いですね」
嫌そうな顔をして秘書がいう。
「まぁそう言うな、しかし今回はただ運が良かった。あのまま城に引きこもっていられたら。いたずらにこちらのシノビが殺され続けるところだった」
「教会の圧力はそんな、ですか?」
「我が国のためにはやることはやって見せねばならん。人が死のうが国庫を圧迫しようがな」
「……ラクラン代表」
「小国が生き延びるにはなんでもやらねばならんのだよ。我が国の民が明日も笑って暮らせるなら喜んで協会の足の裏もほおずりするし大国のケツも舐める。異世界人もあのままこの世界に何ももたらさず死んでくれて却って良かったかもしれん……」
今回の件は教会が、おそらくその裏にいる聖教国が発案だ
しかしうまくいけば教会を出し抜いて我が国に異世界人を迎え入れて大きな発展を遂げることができるかもしれない、という野望を抱く一派もいた。
しかし教会はそれを許さないだろう。聖教国の創始者が異世界人なので、かの国はその再来を強く望んでいる。
龍帝国も黙ってはいまいが、異世界人がここにいたら問答無用で亡ぼしにかかってくることはないだろうが戦争はどうやっても避けられないし、勝ち目は100%ない。
結局異世界人の気持ちなど関係なく、彼は存在するだけでこの世界の為政者たちが、そして大勢のその関係者が振り回される羽目になるのだ。
ラクランは顔も知らぬ異世界人が何も知らず死ぬことができて彼は幸せなのだ、と思うことにし己の罪悪感を少しだけ紛らわせる。
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