第114話 闇への落下
その日、鬼眼城に伝書オオグロワシがアルマに届いた。
運んで来たのは小さな箱でその中にさらに小さな、古そうな瓶が入っていた。
以前シャルルが思い出した一品だ。
どこにもなかろうと思っていたがラドルグリフェ連邦の大聖堂に地下の倉庫にそれらしきものがあるとの情報があり、アルマが色々なコネを使いまくって届けさせた品だ。
「う~ん、古すぎてラベルにはなんて書いてあるかわからないっすねぇ~」
アルマが小さな瓶をしげしげと回して見ているが中身は判別不能だ。
「どうっすか? シャルルちゃん」
そんなに興味はなさそうに無造作にシャルルに向かってポイっと投げつける。
それをシャルルは慌ててキャッチする。
「ととと、どこへ投げてるんじゃ、大切に扱え!」
そう言いながらシャルルは瓶の蓋を開け、鼻の前にさっと一瞬かざし、すぐ蓋を締めた。
「間違いない、龍香じゃ」
◇◇◇
魔女先生は小さな巾着から丁寧に一つづつ木のテーブルの上に玉を並べる。
青・白・黒の透き通った小さな玉だ。
「かかか、まずはのぅ、この白い玉じゃが、これはなにか、癒す作用があるようじゃな」
「癒し、ですか?」
「かか、うむ、我らの使う癒しの術にも似てるようで人間の使うソレにも似てるようなでもどれとも違う波動を感ずる」
「はぁ、なるほど?」
「かかか、でじゃ、この黒い玉はの、なにか、召喚する物っぽいの。召喚術に似た様な波動じゃな」
「ふむふむ」
「かかか、最後のこの青い玉は……」
ごくり
「青い玉は……?」
「かかか、まったくわからん、かかかか」
「え~」
「かかか、仕方あるまい。長く生きとるワシじゃが森羅万象全てを知るわけではない。知りたいとは思うておるがの、かかかか」
「それで、その使い方、とかは?」
「かかか、それもわからん。船中でも色々やってみたがの、発動条件がなにやらさっぱり、まったくわからんの」
なるほどね。多少なりともわかっただけでも良しとしよう。
「では引き続き……」
「ダメじゃ」
調査をお願いします、と言う前に断られた。
「かかか、二の丸様よ、ワシにはこれ以上調べてもわからんよ。本国に戻って色々用意したらまた違った見え方もするかもしれんがの」
「……そうですか……」
「かかかか、それにの、これは二の丸様が肌身離さず身に着けていた方が良い気がするでの」
「なぜです?」
「かかか、これはの、勘じゃな。この玉は多分二の丸様にしか使えん、様な……気がするの」
魔女先生にしては歯切れが悪い言い方だ。
だが魔女の勘がそう言うのだ。
そんなものなのだろう。
「わかりました、では……」
「かかか、うむ、この巾着にの、こうして紐を編んで付けておいた。首から下げて離さぬようにの」
「はい、ありがとうございます。この組み紐、丁寧に編まれてて魔女先生の愛情を感じますね」
「かかかかか! 気づいたかの、たっぷりワシの愛を受け取るが良い」
◇◇◇
その夜、エルフの森を警護していた龍帝国近衛配下の亜人たちは幻惑鬼に幻惑を魅せられ気を失ってしまった。
近衛達はリーゼが龍香を使い、気絶させる。
龍香には弱点がある。
まず第一に本来ならば部屋の中とか密閉された空間でこそ威力を発揮する、といのものだ。
そして効果があるのは人間、獣人、龍人である。
幻惑鬼は鬼と龍人以外に効果がある。
使用する武器が味方にも効果があるのでとても作戦内容がややこやしい。
とりあえず対策として幻惑鬼の幻惑にはアルマが魔除けの石を持たせ、龍香に関しては単純だが鼻と口をマスクで覆った。
目標の寝室も見つけた、大樹に張り付いている猫族のリーゼがハンドサインでメンバーに合図する。
棒の先に付けた瓶を静かに部屋に差し入れる。
一分ほどして棒を戻し仲間にまた合図する。
襲撃メンバーは黒髪の異世界人を発見し、布袋に入れ、早速外へ運び出す。
首尾は上場だ。
さて撤収という時、一同の頭上から声がした。
「かかかか、待て、我が主をどこへやる」
声の方を見ると少女がすぐ側の枝に仁王立ちで立っていた。
一同は困惑し、顔を見合わせる間に真っ先に魔鬼那が少女に向かって飛び出した。
向かいながらも後方に先に行けと手で合図する。
魔鬼那の爪が少女に届いたと思った瞬間、少女は煙のように消えた。
「かかか、こっちじゃこっち」
背中から声がする。
「ちっ! 魔術系か!」
何体も現れて殴りかかっては消える。
(本体が必ずいるはずだ! くそっ!)
先行して逃げた方にも少女は現れた。
何体も。
「かかかか、ホレホレ、その荷物を置いてけ、そしたら見逃してやるぞ?」
アルマは頭の中で必死に勘定する。
後ろではカンカンカンと非常事態の合図だろうか、鐘の音がする。
完全に作戦がバレた。
相手はどうも格上らしい。
対象を抱えて逃げ切るのは無理筋っぽい。
「仕方ない、クリフ、対象を殺せ! 撤退だ!」
「かかかか、させるかよ」
少女の本体がクリフに手が届くその瞬間、クリフは対象を抱えたまま枝から飛び降りた。
「!」
少女は焦って幻影術を解き、背中から羽根を生やしクリフを追いかけようとする。
「追わせるか!」
それをナルセが少女の羽根を矢で射った。
的確に吸い込まれるように何本かの矢が彼女にヒットする。
「なに! 龍人か!?」
刺さった矢に構わず少女は落ちていく対象を抱えたクリフを見たのか、驚愕の声を上げた、が右手をかざし、クリフに対し炎を撃ち放った。
それはクリフに当たり、クリフは対象を手放してしまった。
そしてクリフも連弾されている炎の攻撃を避けるため、違う方向へと逃走した。
「魔女先生! 」
「オカッパ! こっちじゃ!」
駆け付けた応援に一声浴びせ、少女は翼に射られた何本かの矢を抜いてそのまま何処までも続く暗闇へと落下するように対象を追いかけていった。
◇◇◇
「全員無事のようじゃの。鬼の何匹かは失のうてしもうたがの」
右腕を失い血まみれの魔鬼那が笑う。
「もう二度とこんな任務はごめんだよぅ……いてて」
巨大な獣にえぐられたように左足の太ももがえぐられているリーゼが青い顔で応える。
「生きているだけヨシってところでしょうか」
体の半分が焼け焦げたナルセ
それをやはり焦げ跡のあるフジクロが泉の水で冷やしている。
「それで、じゃ、結局対象の、異世界人はどうなったのかの?」
アチコチ焦げ跡があるガンテツがクリフに聞く。
少女の炎攻撃を何発か喰らったこちらも焦げ跡のあるクリフが答える。
「手を離れた瞬間ミスリルナイフで横に払った。手ごたえはあったが……布袋の上からだし、死んだかどうか……」
「まぁまぁ、皆さん、もうすぐウチの神官が応援に来てくれて治癒してくれるっすから、また元気になったら考えるっす」
「アルマ様、しかし追手がかかってるんじゃないかの? ワシらは皆手負いじゃ」
「クリフ、どうだ?」
「この程度なら三日程度で元に戻る」
「とりあえず、もうちょっと回復したらまた私が回復術使うっすから、皆さん、泉で焦げたとこ冷やすっすよ」
自分もなかなかの黒焦げのアルマが皆を励ます。
果たして作戦は成功なのか、否か。
この時点では判断が付かないところだった。




