第113話 ナトラ・エン・エルファ・フクラム
「もう! なんか、こうクリティカルな一撃を与えられる武器はないの!?」
長引く話し会いについにリーゼが痺れを切らした。
「致命傷、をなぁ~、……そう言えば、何代か前の龍帝の時代に……」
シャルルが頭を抱え、必死に記憶の糸を辿る。
「おうよ!、真なる銀よ!」
「それって……ミスリルのことか!?」
フジクロが答える。
「そうじゃ! 殺すことは出来ぬ、かもしれぬがかなりの痛手を負わす、ことはできようぞ!」
「ふぅ~む、難しいのぉ~。ワシの里でもミスリルなんぞ、素材でも見たことないわ」
とドワーフのガンテツが険しい顔をする。
「で、伝説級の武具、ですよね。エルフでも王しか持ちえない希少品ですよ?」
とナルセ。
それを腕を組んで黙って見ていた魔鬼那がボソリと一言。
「……あるぞ」
「え?」
「確か……この鬼眼城の……武器やらなんやら収めた……場所に……」
「武器庫か?」
「鬼なら宝物殿じゃない?」
「うるさい! え~と、真なる銀と書かれた……こう、小さな木箱が……あった? ような? ……」
魔鬼那のあやしげな言葉を半信半疑に一同が宝やら武器やらガサツにまとめて放り込まれた、一応宝物殿らしき場所で半日ほどかけてようやく見つけたホコリまみれの木箱に入った、それは対になった小刀だった。
「ふぅ~む、これで……なんとか、なる、かも知れんし、ならんかもしれない」
複雑な顔でシャルルは応えた。
◇◇◇
「ようこそ二の丸様、ナトラ・エン・エルファ・フクラムへ」
「あ、はい、よろしくお願いします」
俺は今、絶世の美女の前に立って挨拶を受けていた。
「あの……そのナトラ……なんとか、て言うのは? ……」
「うふふ、ニホン語だと、大自然の中のエルフの森ってところかしら?」
「はぁ、なるほど」
「ふふふ、可愛いわね! ようこそ! 異世界の君!」
いきなりその美女に抱きしめられた。
「は、母上! なんとハレンチな! おやめください!」
「あら、龍成。いたの? 何しにきたの? 代表様」
「ふふん! 私もですね、この国の代表として、遥かなる龍の帝国よりいらした親善使節団をご案内してですね……て母上!」
「ふふふ、あなたは義理の子供、てことになるのかしら、仲良くしてくださいましね」
龍成さんの話など聞く耳もなく俺を抱きしめるこの美女こそ、龍之宮・エル・ラナウェルさん。
現龍帝の側室のお一人である。
「あの、ラナウェル様、そういうのはちょっと……」
レイラが近づいてきて俺を離さないラナウェル様におずおずと抗議する。
「うふふ、あなたは義理の娘、てとこかしら? お会いできてうれしいわ! レイラちゃん」
「むぎゅ!」
俺ごとレイラも抱きしめられる。
「歓迎するわ! 龍の子たち! ここにいる間はめ~一杯! 楽しんで行ってね!」
挨拶も済んだ後ラナウェル様が自ら通訳を買っていただき、エルフの長老たちとの会談も穏やかに終わり、夕食時に開かれた宴会はとても楽しいものであった。
「すごい、ドラゴンナイトなのでしょう?」
「ドラゴンプリンスなんて素敵!」
「私、本で読みました! 是非、私をさらって行って下さい! プリンスライデン!」
交流も長くなるとニホン語も覚える者もチョコチョコいて、この里にも寺小屋みたいなノリだがニホン語をラナウェル様はじめ、数人で教えている授業があるらしい。
特にラナウェル様はハイエルフでありながら森を出て龍帝国に嫁がれたと唄や絵本まであり大人気だ。
一部の子供たちは第二のラナウェル様にならんと、ニホン語習得に必死だと言う。
そんな女子たちに雷電が囲まれてタジタジだ。
アイツの焦っているところを見るのは珍しいので見てて楽しい。
「全く、この子がねぇ~全然成長も独り立ちもしないで私にベッタリだからさぁ~、覚悟決めて故郷に戻ったってぇ~のに、追いかけて来てさぁ~」
「は、母上、少々ご酒飲が過ぎるかと……」
「うるさいわねぇ~、いいのよ、こんなに可愛い新しい息子と孫たちが来たんだから! これが、うっぷ、……飲まずにいられるかっての!」
◇◇◇
~龍之宮・エル・ラナウェル~
旧姓 ラナウェル・エル・ニーウェン・ウェルダ
高貴なるハイエルフの一族の一人。
共和国には龍帝国入植初期より帝国と交換留学生制度があり、この国のエルフも少しづつではあるが帝国に留学する者があった。
留学生には滞在時は全て衣食住を保証され、更に学費無料で帝国が費用を持ってくれるので種族的には引きこもりのエルフだが向上心が高く、好奇心旺盛な者が年に一人や二人程度ではあるが毎年留学希望者があった。
その留学帰りの者が里でニホン語を教えるようになりラナウェルも幼いうちから教養として親に習わされている。
学ぶうちに龍帝国に興味を持ち、遂に渡海し、憧れの帝国留学を果たす。
留学中に現在の龍帝に見初められて後宮入りを果たし一女一男を設ける。
長女は嫁いだが長男は優秀ではあるのだがいつまでもダラダラとしていてやる気がない。
龍帝と相談し、思い切って故郷に戻り、母離れさせようと試みる。
そうしたら皇族の一員としての意識も芽生え、なにか国の為に働く気が起きるかと思えばある年、帝国の親善大使にくっついて来て里にそのまま居ついてしまった。
堪忍袋の緒が切れたラナウェルは長老達に頼み込み、適当な年ごろの娘を見繕ってもらい、なんとかくっつけることに成功した。
気高い人ではあるのだが気苦労の多い人でもある。
◇◇◇
「あの、ラ、ラナウェル様はどうしてこの里を出て龍帝国にご留学なさったのですか?」
「私のクラスにもエルフの方がいます! すごい内気な子で……」
ラナウェル様はウチの女性陣にも人気で質問漬けにされていた。
周りを見てみると心なしか近衛たちも気が緩んで見える。
けっこう祖先にエルフの血が入ってるのも多いしな。
師匠(初代龍帝)からして側室に数人のエルフがいたみたいだし、魂の奥底でエルフの里に安らぎを覚えるのかもしれない。
初めて来たのに懐かしい、てヤツかな?
向こうでは早速オカッパ達がエルフ達と歌ったり踊ったりしている。
アイツらどこへ行ってもブレないな。
妹サムライはそんな中でも律儀に正座で静かに杯を傾けていた。
俺はラウフェル様にウチの女性陣が皆群がっていったので中座してこの壁の端で飲んでる彼女の所へ来て喋りかけてみる。
「お前は踊らないのか?」
「某は見ているだけで十分楽しいでござる。」
「そうか、お前らしいな。ところで魔女先生はどこだ? 見当たらないが」
「少し、夜風に当たると外へ行ったみたいでござるが」
「ふむ、俺もちょっと外で涼んでくるかな」
皆の熱気は中々のものだ。
俺達は炎の龍人だから盛り上がると余計熱いだろう。
エルフ達は上着を脱いで薄着になってる者も多い。
他の場所では下着姿で踊っている男性もいて、これが他の人種だと、あ~あ、てなるんだろうが無駄に美しいエルフなので傍から見てると芸術的に見えてしまう。
しかしあの真っ赤な顔だときっと本人は今晩の事を覚えてないだろうな
外に出ると意外と月明かりがあり明るかった。
見渡すと巨大な木々に小さな窓が所々付いていて明かりが灯っている。
こんな場所にも人の営みが感じられてすごくほっとした気持ちになる。
これで明かりがなかったらさぞ薄気味悪い風景に見えただろうな、と少し感傷に浸っていると木で出来たテーブルとベンチに腰掛けた座敷童がいた。
「酔い覚ましですか? 魔女先生」
「かかか、どうした二の丸様よ、一人で。わしを口説きに来たか?」
「そうしたいところですが今度女房衆がいない時にします」
「かかかか、奥方様にはかなわんものよのぅ」
「それで……あの」
「かかか、三つの玉のことじゃな?」
「ええ、何かわかりましたか」
「うん、まぁ座れ、かかか」
ぐいっと杯を飲み干しながら招かれる。
俺は促されるまま魔女先生の対面に腰掛ける。
「これはのぉ……」




