第111話 フークマン砦の攻防
~ミリガン王国~
三百年ほど前に大国、ラドルグリフェ連邦より独立した小さな国家である。
東に鬼面帝国、西に連邦を控えたそこそこの国だ。
独立のきっかけはこの場所を治めていた領主がキリエス教の後ろ盾を持ち、独立宣言をしたことによる。
連邦は当初はしぶい顔をしていたが鬼面帝国に対し、毎年膨大な防衛費をつぎ込むこの領地は悩ましい場所であったことも事実で結局は教会の説得もあり、鬼面帝国に対しワンクッションがおけることでかさばる防衛費が無駄にならなくてすむという方針に切り替え、無駄な争いも起きず独立を果たした。
そのような経緯からミリガン王国は王はじめ、大多数の国民は熱心なキリエス教徒の国でもある。
その夜、ミリガン王国・王都では聖地より聖女マリアが聖騎士団を引き連れ現れ、民衆に説法をしていた。
ミリガン王国では初の快挙だ。
夜の月をも燃やす勢いであちらこちらで松明が燃やされた。
何万もの聴衆が外国からも押し寄せ、我が王国もここまで来たのか、と国民は誇らしげに思ったことだろう。
警備体制も万全で国境警備軍まで借り出しての厳戒態勢であった。
が、そのスキを突かれた形で国境付近の比較的大きなパルムという街が夜間、鬼共に襲われた。
ここ十数年ミリガン王国には鬼の被害がなかった油断も確かにあった。
一晩を掛けて略奪と凌辱と殺戮の限りを尽くして鬼は去った。
後に残ったのはむせる様な血と贓物の匂いと燃えくすぶる大量のガレキで埋め尽くされた無残な街の姿だった。
だが不幸中の幸いであったのは聖女の説法の手伝いの為、教会の人間が王都に集まっていて聖職者に被害がなかったことだろうか……。
◇◇◇
龍帝国領は南北に長い領地である。
一万の兵を備える基幹ヴァムス要塞を中心に南にグォオバ砦、中心にセオロス砦、北にホーン砦とそれぞれやはり一万の兵が守る大砦、その間に千~二千の兵が守る中小の砦が存在する。
現在ホーン砦とセオロス砦の間にある前線基地の一つであるフークマン砦には三十の竜人と他にリザードマン、首狩りウサギ、人狼合わせて千五百の兵が守備を固めていた。
と言っても、たまに小鬼の三十~五十程度の集団が出てくるのを蹴散らしたり、時々出てくる大型鬼を中型火竜で退治したりする感じで被害者が出たことは一度もなく比較的危機感の薄い砦だ。
そのフークマン砦が敵の出現に慌てふためく事態が起こった。
「注進、注進!!」
司令室に飛び込んできたのは本日斥候班の人狼だ。
「騒がしい、小鬼でも出たか」
この砦を任されている竜人の司令官はまたか、という態度で人狼に応対する。
「た、大変です! 鬼の、集団が!」
「うむ、数は?」
「な、七千はくだらないかと!」
「なに!」
小鬼どもが夜に騒ぎ出し砦に向かってくるのは良くあることだ。。
しかし今回は数が尋常じゃない、多すぎる。
司令達は慌てて砦の上に出るとすでに数十名が荒野の向こうに居並ぶ鬼の軍団を見ている。
「小鬼だけじゃないな、大型もいる」
「中鬼も多いですよ、あんなにいるのは見たことがない」
「やつら……なんのつもりだ? すぐに飛竜でセオロス砦と隣の砦に伝令を飛ばせ、応援を要請しろ!」
「はっ!」
「非番の首狩りウサギの隊も招集しろ! 副官!」
「ここに!」
「よし! 待機中の全戦闘竜を動かすぞ! 貴様ら! 今から戦争の時間だ!」
「「応!」」
◇◇◇
「隊長、隊長!」
「なぁんだ、う~るせぇ~な」
「非常呼集すよ!」
「あ、小鬼め、いつもより多かったかな? よし! 兵どもを集めろ! 行くぞ!」
戦闘狂の首狩りウサギ族はブラウ大陸には存在しない。
共和国の一部族だったが、とにかく鬼どもをブチ殺したい! と多くの部族が帝国の軍隊に入った。
元々は共和国軍にいたのだが帝国領防衛軍が来てからはヒマになってしまい、また軍備縮小の煽りを受けてかなりリストラされてしまった、という経緯もある。
なので家族がこちらにいたりもするので帝国軍の入れ替わり時には帝国領の与えられた領地に住まい訓練、演習を繰り返す日々を送り、また自分の軍の番が来たらはせ参じる、というリズムで軍に在籍している。
「半年ぶりか?」
「いえ、十ケ月くらいたってますね」
「さっき、伝令旗を持った飛竜が後方に飛んだな? そんなにやばい数か?」
「竜舎も慌ただしいっすね、竜騎兵があんなに……大演習並みっすね」
「くくく、腕がなるぜ!」
「おう、ウサギの、非番なのにご苦労だな」
そこへ人狼隊の隊長が通りかかる。
「ん、狼の、状況は?」
「かなり多い、七千以上は確認されている」
「ここは龍人様がいないからなぁ~苦しい戦いになりそうだぜ!」
「ふっ、その台詞、にやけた顔と合ってないぞ」
攻撃三倍の法則
一般的に砦や城などを攻める時、攻撃側は三倍の数が必要と言われている。
もちろん、守り手が間抜けで攻め手が知恵者で、と言った場合などその限りではないが。
その他にも戦闘とは天候を含め様々な要因でお互いの勝敗がシーソーの様に揺れ動く。
今回は一般論を遥かに超えた五倍近い数の敵が攻めてきているが砦の兵達はむしろ、笑みさえ浮かべ余裕の態度だ。
よほど戦闘に自信があるのだろうか?
◇◇◇
鬼の軍団が砦に攻め込む様を目立たぬよう、観察していた一団がいた。
「あ~始まったみたいっすね~、うひょ~すっげ~! クリフ君、見るっすよ、ホラ! 小鬼の首がポンポン飛んでいくっすよ!」
とアルマ。
「ふ~む、あれは首狩りウサギじゃな、戦闘狂で手が付けられんと聞いたがなかなか連携の取れた闘いをしよる」
とガンテツ。
「あ! ファイアードラゴンが出てきました、火まで吐いてる、卑怯です!」
とナルセ。
「くぅ~~~、妾もあの中に入り闘いたいぞ……」
「魔鬼那ちゃん、だめっすよ! うちらはあっちの国へ、このドサクサに紛れて潜入するのが目的なんすから」
「う~ん、中鬼たちもけっこう連携が取れているんだけどなぁ~、イマイチだな」
「……フジクロさ、どっちの応援してるわけ?」
「ん? リーネ、一応……今は鬼軍団だな、彼等が奮闘してくれないとあっちに潜入する隙が出来ない」
「まぁ……そうなんだけどさ、まさか……鬼の仲間になるなんてさ……複雑……」
「子猫よ、それは妾に向かって言うておるのか?」
「……あ、いえ、その……ごめんなさい……」
「くくくく……まぁ仕事が終わるまではその気持ちは閉まっておれ、ホレ、砦の南側が行けそうじゃぞ?」
魔鬼那が防衛の手薄になった箇所を指差す。
「じゃ、皆さん、行くっすよ!」
アルマの掛け声と共に一行は静かに、そして素早く行動する。
北側に鬼の集団が集中し、その対応に追われている防衛軍の隙を見て一行は龍帝国領への進入を成功した。
だがエルダールはさらに帝国領を突っ切ってはるか東の向こうに位置する。
果たして異世界人捕縛に間に合うのだろうか?
そして鬼とアルマ以外のフジクロ達はミリガン王国で起きた残虐な出来事を知る由もなかった。




