第110話 ビーエルドーワ市
はい、どぉ~も龍一です。
やってきましたよ、ご立派なゴツイしゃれっ気の一つもない要塞で、総司令官任官の演説てヤツを。
て言っても総司令官てのは当然お飾りで感覚的には”アイドルの一日署長”みたいなもんだがな。
演説も「優良人種たる我々は!」みたいな戦意高揚的なものじゃなく(台本があればやりますが)軍人の皆さん、いつもご苦労様です。皆さんのおかげで今日も帝国領も共和国も安全が保たれています。みたいな柔らかいものだ。
そんな行事をこなしてだな、俺は今、エルドビー共和国の首都、ビーエルドーワ市に来ています。
……BL童話じゃないよ?
あ、お気づきだと思いますがこの国の名前の付け方が
エルフ・ドワーフ・ビーストからなんとなくそれぞれの文字をもじった名前になっています。
「あまりにも適当で笑ってしまうだろ?」
目の前にいるのは龍成・エル・ヴァンフ・エッサールさんご夫妻。
龍成さんはレイラ・レイリの異母兄で俺の義理の兄である。
さすがの美形でなんというか、龍人というよりはエルフ独特の透明感のあるような雰囲気の人だ。
現在はエルフ族ハイエルフのファウエル・エル・ヴァンフ・エッサールさんと結婚、婿入りし、前代表のドワーフから引継ぎ、現エルドビー共和国の代表となっている。
「こんなややこやしい国の代表なんてね、なるもんじゃないよ、めんどくさいだけだよ」
「まぁ、やってらっしゃることは各部族の意見調整みたいなもんですからねぇ~ほほほ」
「それでも出身国でもない遠い異国で代表を務めてらっしゃるのはさすがお異母兄様です」
「いやぁ~この代表をね、引き受けるってのがファウエルとの結婚条件だったからねぇ~、しょうがなく、だよ」
「そうなんですか?」
「ふふふ、この方ってばお母さま大好きっ子ですから、何度か我が森に来るうちに口説かれてしまいましてねぇ、ちょうど次回の代表に誰がなるかという時期でしたので、ほら、皆様めんどくさがってやりたがりませんしねぇ~」
「そうしたら彼女の親がお前が国の代表やるなら結婚してもいいと」
やりたくないにもほどがあるな。
エルフだから森から出たくないとかかな?
しかし国の代表がそんな単純に決まるものなのか?
「他の部族からは意見はなかったんですか?」
「全然さ、龍の帝国の皇子ならなんの文句もないってさ」
「我が帝国の信用は厚いんですねぇ~」
レイラも呆れている。
「いやいや、彼等は帝国のご機嫌を取れるならなんでもいいのさ」
「はぁ……そんなもんなんですか?」
「そんなもんさ、僕としては森で母上の側でゆっくりと暮らしたかったんだけどねぇ~」
「それは代表を引退なさったらご存分になさいまし」
「でもね、龍帝国から離れられてさっぱりもしてるんだよ、僕は龍にもなれない落ちこぼれだからねぇ~」
「ああ、それは……」
気持ちは良くわかる。
龍人で龍体になれないヤツはかなり見下される。
体面を気にする貴族なんかは家から追放されるなんてこともあるようだ。
それは極端な例としても帝国で、しかも皇子で龍体になれないのはさぞ肩身の狭かったことだろう。
「お気持ちは良くわかります。自分もまだ龍体になったことはありませんから……」
「そんな! あなたはそんなこと気にしなくていいんです!」
「いや、でもな……」
「ははは、夫婦仲が良くてけっこうだがそう言うのは後にしたまえ、ではこれからの……」
そうして俺達はエルドビー代表と今後のことを話した。
◇◇◇
「え~! 本当に学校に行くの!?」
「ミライ姉、最初から聞いてただろ?」
そう、彼女らは公務がない時はビーエルドーワ市の学校に特別編入し、本国の学校から出された課題をしつつ、こちらの生徒と交流を深める。ということになっている。
帝国領にも学校などはあるし護衛などもそちらの方がしやすいのだが、やはりレベルが高く、施設の整っている方が良いだろうとの判断だ。
「正直私は助かるわ。勧められた大学に資料が揃っているといいんだけど……」
「はふぅ~~ん、異国でもおスイ様の信者が激増してしまいますね!」
「やめてよアイ、今回は課題でそれどころじゃないわ」
おスイ様の信者は本国でも絶賛増殖中である。
大体高校時代くらいの皇族の生徒有志の親衛隊などは卒業すると解散するものなのだが。
現実にレイリの親衛隊も龍一との結婚で解散していた。
だが、スイの信者は解散もせず、未だに週に一、二回の集会を(本人の知らないところで)開き、おスイ様を讃えていると言うからもはや宗教に近くなっている。
当の本人は
「彼等も飽きたらやめるでしょう」
くらいのスタンスで特に気にする風でもない。
「それで? 最初はエルダール地方に行くんだっけ?」
一行はまず北東のエルダール地方にてエルフの部族と会談。
次に北西のドルグラフト渓谷にてドワーフの部族と会談。
その後南西に広がる獣人の部族と会談。
といった行事を月一くらいで半年かけて行う。
子供たちは基本的にビーエルドーワ市を拠点とし、龍一たちはドラゴンタウンとビーエルドーワ市とを行き来する生活になる。
「……めんどくさい。私はここに引きこもりたい」
「けど夜霧姉上、ドルグラフトは面白そうだよ? 色々工房なんかもあるみたいだし」
「そうよ、姉さま、引きこもりはよくないわ」
「やれやれ」
まだまだやることがいっぱいで夜霧はうんざりしつつあった。
「船に戻りたい……」
思わずぼんやりなにもせず過ごせた船中の生活に想いを馳せるのであった。
◇◇◇
龍一達がビーエルドーワ市に留まっている頃、鬼眼城では着々とアルマ一味による異世界人誘拐作戦が計画されつつあった。
「エルフの森でやるっす」
「ドワーフの坑道の方が暗くて良くないか? あそこは中は大迷宮だと言う。一旦撒けばなかなか見つかることはあるまい」
「いや、侵入者はそうかもしれないっすけど意外とドワーフは自分の棲家の坑道は把握してるもんっすよ」
「うむ、アルマ様に賛成じゃ。エルフの森の方が良かろう」
「エルフは優れたレンジャーでもあるからなぁ……なぁナルセ」
「……私はこの森は知らないけど坑道よりは逃げる選択肢が多いと思う。私もエルダールでやるのに賛成」
そこへ魔鬼那が部下の鬼を連れてやってきた。
「どうじゃ、作戦は決まったかの?」
「はい、やっぱエルダールでやることに決まったっす」
「エルフ共の森か、清廉すぎて好かぬ場所よ」
「それでそっちは何人すか、こっちは私入れて六人っす」
「そうじゃの。部下は三人もおれば良いじゃろ」
「じゃ、全部で十人すね。ま、キリのいい数でいいっすね」
「で、じゃ。こやつがの。付いて来るわけではないが知恵を貸すというから連れてきた」
魔鬼那が連れてきた人物を見てフジクロ達が立ち上がる。
「魔鬼那さん! ソイツは!」
「ヴァンパイアじゃねぇか!」
気色ばむフジクロ達を魔鬼那がなだめる。
「まぁ落ち着け、お主らを取って食ったり……こやつの場合は血を吸ったりか……せぬよ」
「そうじゃ、そうじゃ、しばらくここにいて感覚がおかしいかもしれんがの、ここにおるのは皆人喰い鬼じゃぞ? 今更わしの様な吸血鬼一人に騒ぐでないわ」
言われてみれば確かにそうなのだが、吸血鬼を前に緊張するなと言うのも無理がある。
だがフジクロは一人落ち着いているアルマ以外の仲間を見渡し、座るよう促す。
「それで、あんたは?」
「わしか? わしの名はシャルル・プルーンと言う」




