第108話 閑話 龍乙女 ハルフィナ
本編とあまり関係のない話になります。
早く本編の続きが読みたい! という方は第109話にお進みください。
その娘は路地裏をお供の者を連れて歩いてた。
「アルエ」
「はい、姫様」
「本日の髪型はどうかしら?」
「はい、姫様、完璧でございます。姫様の為に私が整えましたから!」
「ふむ、よろしい。では私の格好はいかが?」
「とてもお似合いでございます。姫様の為に昨晩複数のメイドと一緒に私が考えましたから!」
「ふむ、なるほど。異世界の君のお好みに合うでしょうか?」
「きっと、きっと姫様のこのお姿をご覧になられたら異世界の君とて姫様に想い焦がれることでございましょう!」
「ふむふむ、ならば、よし。本日は大使館に届いているといいのですが……」
「姫様、わざわざ姫様が向こうへ御自らお出向かなくても、届いたら大使館の職員がお屋敷まで持ってきてくれると思うのですが……」
「ふふふ、想い人のことを一刻も早く知りたい。私はただそれだけなのですよ」
~龍乃四条・エル・ハルフィナ 龍乃四条本家の長女・十五歳~
四条家は龍帝国では外交などを担っている存在であり、一族の子女はもれなく見識を広めるために幼いうちより本国より出される。
ハルフィナも例外ではなく十八歳になったら龍之宮龍一の側室入りが決まっているが現在、友好示公武国へ留学中である。
本日は学業が終わった後、迎えの馬車を断り、侍女を伴い、大使館へと向かっている。
と言うのも本国に注文した冊子が届いてないかどうか早く確認したいがためである。
『龍乙女が知りたい異世界の君、100のこと』
初版は『~10のこと』だったが版を重ねるごとに龍乙女たちが知りたいことは増え、遂に100になった。
本家には初版より全ての冊子が揃っていて南区の館で催し物がある度にこっそり婦女子たちが集まり、まわし読みをしたりする、人気の冊子だ。
もう本国に半月も前に注文したのに未だに届かない。
逸る気持ちのハルフィナが選んだのは大使館への近道である路地裏の道だった。
「ちょっと待ちな! お嬢ちゃん!」
そんなハルフィナ達を道の前で塞ぐ一団がある。
「!」
侍女のアルエはすぐ撤退できるよう後ろを確認する。
が、後ろも複数の人数で塞がれた。
「ふ……む、あなた方はなんですの? 私になにか御用かしら?」
堂々と慌てる素振りもなくハルフィナは応える。
「はっ、落ち着いてやがるな、おい! コイツでいいのか?」
前方集団のボスらしき人狼が前に出て後方の人間に確認する。
「ああ、こいつだ、僕に恥をかかせた留学生だ! コテンパンにしてやってくれたまえ!」
「ふん! 一度龍人とはやり合いてぇと思ってたところよ、お嬢ちゃん、覚悟しな!」
ハルフィナは愛用の扇子を口にあてて考え込む。
「ふむ、ところで、その……そちらの方はどちら様でしょうか?」
「姫様、お隣のクラスの……確かどこぞの貴族の子息かと」
「お前! 僕を覚えてないのか! 今期のテストでは僕が学年一番になるはずだったのに! おまけに剣の授業でも汚い手で僕に恥をかかせやがって! ふざけるなよ!」
「ふむふむ、よくはわかりませんが……逆恨み、と言うヤツかしら?」
「そのようですね……あなた方、バカな真似はおよしなさい! 姫様になにかあったら国際問題になりますよ!」
一瞬、不良たちが怯む。
が、その貴族の子息とやらが気炎を吐く。
「はん! そんな脅しが通用するか! ウチのパパはこの国の大臣なんだ! いくらでももみ消してやるさ! いいか! 今日は落とし前をつけてやる!」
ハルフィナとその侍女は顔を見合わせる。
なるべく争い事は避けたい。
アルエはパっと見ただけでも自分より戦闘力の低いこの連中を殺さず相手するのは骨が折れるな、と考えていた。
するとハルフィナが前に出る。
「ふむ、あなた方は私をどうするおつもりなのかしら?」
「ん? そうだな、まず痛い目にあってもらう。 その後は、ふふふ、じっくり犯してお楽しみ、てヤツよ」
「ひひひひ、じっくりねっとり相手してやるぜ!」
「その後は密売奴隷商に売り払ってやる!」
その言葉にハルフィナは扇子を口に当てたまま少し考える顔をして微笑んで彼らに告げる。
「ふむ、お下品ですこと。あなた方がそのようにお考えであるのでしたら私たちが抵抗してあなた方が御命を落とされても文句はおっしゃらないで下さいましね」
人形のように着飾った可憐な少女のその言葉に一同は一瞬言葉が飲み込めずきょとんとしたがすぐに大爆笑に変わった。
「はははははは! 面白れぇこと言うな嬢ちゃん! やれるもんならやってみな! お前ら、行け!」
ボスの言葉に獣人たちが一斉に姫様とその従者に襲い掛かる。
だが彼らは気づいてない。
今、ハルフィナは殺しても構わない、と言質を取ったということを。
◇◇◇
~カリファ・カルレスト~
カルレスト副大臣の三男だ。
彼は今まで親の金に任せて好き勝手生きてきた。
なんでも一番で、チヤホヤされないと気がすまない性質だった。
友好示公武国のエリート校と言われる、首都にある友好示学園にも金で入学したし、その後もまぁまぁ、そこそこ金で解決してきた。
それがおととし留学してきた転校生にことごとく負けている。
ずっとクラスが遠かったのでうざいのがいるな程度だっだが、今期は隣クラスなので合同授業が多く、地の力が出るものにはことごとく負けてしまう。
昨日の剣の授業では運悪くこの令嬢と当たってしまい、あっという間に負けた。
彼のプライドはズタズタになり、もう、許すことはできない、と実力行使に出ることにした。
……おとなしく僕に負けとけば良かったのだ
従者に頼み、手頃な街のいつものチンピラを雇い、襲わせることにした。
少々痛い目に合ってもらわないといけない。
売り飛ばせばいくらになるだろう?
処女の方が高く売れるのか?
いや、龍人ならば処女じゃなくともかなり高く売れるだろう。
なんせ奴隷密輸品でも項目の中で見たことがない。
今回チンピラ二十人で金貨十五枚を使った。
成功したらもう十五枚。
全部で三十枚だ。
自分のプライドの為なら安いもんだ。
国際問題になるから身柄はとっとと魔大陸に運ばせよう。
外国から来た留学生でここの空気や水に合わず、鬱になって行方不明になることは良くあることだ。
さてこの女たち、金貨五十枚……二人で百枚はいけるかな、そうなれば今回は黒字になるだろう。
獣人たちには何度か世話になっていて目障りなヤツを懲らしめてもらっている。
龍人は強いと言うが獣人二十人相手にはさすがに勝てないだろう。
カリファがそんな皮算用してる間に勝負が始まった。
「はははははは! 面白れぇこと言うな嬢ちゃん! やれるもんならやってみな! やれ!」
カリファは後ろから見ていたが高笑いしていたボスの背中からいきなり手が生えた。
!? なにかの魔術か? と思ったらボスが倒れ、左手を血まみれにしたアイツが立っていた。
「ふむ、あっけないこと」
物足りなそうな顔でアイツは言った。
とっさに頭の中で理解できないうちにボスの両隣にいた二人の首が飛んだ。
アイツの後方を見ると従者が一方的に背後組の連中を虐殺している。
やばい!
「ひ、ひぇぇ!!」
何人かが逃げ出した。
自分も逃げなくては!
だが、カリファはいつの間にかへたり込んでいて立つことができない。
あまりのことに腰が抜けたのだ。
その光景を見ても逃げずに向かって行った連中も一人は蹴られて壁の染みになり、一人は肩に嚙みついたがそのまま体をねじ切られた。
う、動けない
「今お逃げになった方を連れてまいりますので少々お待ちくださいませ」
血まみれの彼女はカリファに向かって丁寧に令嬢風にスカートの端を持ち、挨拶した後、背中から羽根を生やし、ものすごいスピードで飛んで行った。
い、今のうちに……
カリファは動かない下半身を諦め、匍匐前進しようともがく。
少しでも遠く、この場から離れなければ。
だが、そのカリファの目の前に逃げた二人の首がボトボトと落とされた。
そしてフワリとアイツが着地して笑顔で告げる。
「ふむ、カリファ様、あなた様のおかげで折角従者が選んでくれたお洋服が汚れてしまいましたわ。え~と、落とし前、でしたかしら? どう、つけてもらいましょうか?」
カリファは自分の股間から生暖かいものが流れるのを感じながらこの女、最初から僕のことを知ってたんじゃないか?、とぼんやり考えていた。
◇◇◇
どの人種もそうだが皆、他の人種を見下している。
エルフは短命種を、そして肉を食らう者どもを
ドワーフも短命種を、そして創造性のないものを
獣人種もそれぞれ他の獣人種や他の人種を
ただの人種は全ての亜人種を恐れとともに、だが見下しもしている。
龍人もすべての自分達より弱い他人種に価値はないと考えている。
ハルフィナもアルエも他人種を殺すことに何も躊躇はない。
降りかかった火の粉をただ払った。
それだけのことだ、と思っている。
殺人に対する禁忌のハードルが龍人はかなり低い。
こちらを害しにきているものを殺すことになにもためらいはない。
だから彼等は恐れの的なのだ。
この大陸に住み、生きている者でそれを知らない者はいない。
最強人種のことを。
だが、帝国を一歩外へ出るとブラウ大陸とて知識で知っていても”肌感覚”としてそれがわからない輩が龍人に絡んでいく。
もちろん、その後例外なく悲惨な目に会うのだが。
◇◇◇
ピピピ~~~
「警備兵さん! こっちです!」
路地裏の向こう、本通りの方から声がする。
「姫様、移動しないと面倒なことに」
「ふむ、ではとりあえず大使館に行きましょう。アルエ、彼を頼みます」
「はい、姫様」
そうして姫様と従者は翼を広げると人間を一人、連れて空を舞った。




