第102話 霧の中で
船団はその後も事故なく進む。
たまに雨が降ったり波があったりと天候が荒れたりもするがそれも退屈な船旅のスパイスと言える。
船長や船団運営が気を利かしてパーティ-をしてくれたり、楽団の演奏や演劇なども上演してくれている。
パーティーにはご馳走が並ぶが同乗している他の階の使節団のお偉いさん連中もいて気を遣う。
ほとんど仕事のようなもんだった。
まぁ、俺よりも子供たちの方が大人気ですぐに囲まれてしまって疲れる、ということで二回目以降は欠席していた。
大人たちもだるい時はまぁまぁブッチしている。
それで劇団の団長が挨拶に来てくれたので普段は何をしてるか、と質問したら実は日替わりで他の船に行って上演してるので意外と忙しいらしい。
たしかに全部で十六隻もあるから大変だろうな。
商船や軍船では客層も違うのでそれぞれにあった演目らしい。
うん、プロだな。
あとは、落語やら、手品やら、ちょっとした催しがある。
俺はさすがに全部は見てないが気に入った演目があるとウチの連中が見に行っているのでいい気晴らしにはなっているようだ。
◇◇◇
船団はガンドウ・ロゥワの最後の寄港地を出発し、いよいよ西方面に大陸間の海峡を渡って中ほどまで来た頃、なのだろうか?
もう何処を見ても陸地は見えない。
三百六十度の水平線で見渡す限りの大海原だ。
さて、これは度々暇つぶしに行っている操舵室で知った事なのだがこの世界の航海ではコンパスを使わない。
その他、測量器具なども見当たらない。
ではどのように目的地まで行くのか?
それは共振石を使う。
そんなに珍しい岩石ではなく、溶岩性の山ならだいたい採掘できるらしい。
まずこの石を二つ用意する。
なにか箱に入れて一週間ほど置いておく。
するとこの二つはペアになり、くっつくようになる。
それはどんなに離れていてもペアの石を求めるようになるんだとか。
なので丸い盤の中心に釘をうち、穴を開けた共振石とヒモを通して繋ぐ。
するといつでもペアの石の方向がわかるわけだ。
ペアの石に関しては各地の港にある海運事業者組合が管理していて料金を払えば石を管理してくれる。
ただいくつか問題もあって共振石は他の共振石をやはり箱に入れて一週間すると新たなペアができて最初のペアは解除されてしまうし複数入れると全てが共振し、ペアでなくグループができてしまう。
扱いには要注意、という訳だ。
~航海十八日目~
朝からどんよりとした曇り空だった。
その日俺はサキの部屋にいた。
夜霧が持ってきたというボードゲームをミライ・雷電を交え、興じていた。
それぞれが七大龍神となり、サイコロで自分の大陸を決め、発展させていくという、元の世界の人生的なゲーム的なものだ。
俺、サキ、夜霧、ミライ、雷電の五人しかいないが他の二龍神はノンプレイヤーとして参加する。
ヘタをするとノンプレイヤーが優勝ということもあり得るので皆、気が抜けない。
熱中してやるとけっこう時間がかかり、ワンプレイニ、三時間は取られる。
「あ~また、俺がビリか」
「父様弱すぎなんだよ」
「ふふ、主はドラゴンスレイヤーに弱い」
「なにか飲む?」
「俺、レストランに何か飲み物貰ってくるよ」
「じゃあ、私も行くわ。雷電センスがないから。夜霧姉さまは?」
「……一緒に行こうかな? 座りっぱなしだし。ついでになにかお菓子も」
と、子供たちがドタバタと仲良く出て行った。
「主、霧が濃くなってきた」
サキに言われ、窓を見ると確かにさっきまで隣にうっすらと見えていた商船が今では完全に見えなくなっていた。
「ん~? 本当だ、真っ白だな。……俺もちょっと息抜きに甲板まで出て見てくるよ」
「ん、私はちょっと部屋を片付けておく。あの子たちはやりっぱなし……」
「ああ、すまんな、ちょっと行ってくる」
ダラダラ歩いて甲板にでると、本当に真っ白だった。
十メートル先も見えないな、と思いつつちょっとこわばった体をのばしつつ甲板の上を散策する。
そうだ、こういう時こそ、と龍眼にしてみたがやはり隣にいた船は見えなかった。
「これでも見えないなんてなぁ~、やっぱり自然はすげぇや」
いや、おかしいぞ?
霧がさらに濃くなってきてないか?
船の進む……波の音も聞こえない!?
足元すらもう見えない!?
なんだ!? なんだ!?
目の前に、なんかぼんやり、……座敷童??
「二の丸様よ、落ち着け! いいか! ヘタに動くのではないぞ!」
魔女先生の声だ、あっという間にまた姿が見えなくなり、俺の視界は完全に一面の白一色で覆われてしまった。
◇◇◇
そして、目の前に知らない天井、傍らには魚顔……
俺達の船に乗っていたのはどちらかと言えば映画なんかに出てくる半魚人的な存在だが今そばにいるのは魚に手足が生えたような感じだ。
どこを見ているのか?
果たして言葉が通じるのか?
あれから俺は気を失ったらしく、気が付けば知らない部屋で粗末な台に寝かされていて、目が覚めた。
そしてそばに魚の、なんて言ったらいいんだ?
まぁ魚人(仮)としておこう、……が槍? 銛? を持って立っている。
そいつはなにも喋らない。
じっとこっちを見てる、いや見張っているのでヘタに動けない。
そんな膠着状態は続いた。
その静寂な時間は部屋の外のなにやら騒がしい話声で破られた。
姫様、あの者が気が付いたようです
こちらです
あ、お待ちください
そんな声が聞こえ、いきなり扉を開け、豪華な美女が入ってきた。
その第一声が
「ああ。目が覚めたのね、じゃ、ぼやぼやしないでついて来て」
とぶっきらぼうなものだった。
俺が寝かされていた台から降りたら、魚人(仮)がギョっと(シャレじゃなく)したように慌てて俺に向かって銛を構えた。
ああ、そうか、こいつはこいつで俺のことが、未知の生物が怖かったんだな、と今気が付いた。
そう思うとちょっとおかしかった。
そうして俺はそのぶっきらぼうな美女に付いて行って部屋を出た。




