第101話 航海の中で
航海は順調と言えた。
楽団などが演奏し、派手な出港式だった。
近隣の一般人も大勢見学にきて俺を含め、お偉いさんたちが壇上で挨拶し、船団は港を離れた。
ブラウ大陸を一日かけて離れ、北上し、ガンドウ・ロゥワ大陸近海まで移動した。
現在、龍帝国を出航し、十日ほどが経ち、船団はガンドウ・ロゥワ大陸を右に見えつつ北上中である。
第一艦隊、旗艦・焔弾と皇室専用艦・焔郭を中心に前後を軍船ではさみ、後は第八軍団を五百人ほど乗せた輸送船八隻と四隻の商船が船団の陣容である。
軍船と言っても旗艦を含めても三隻しかいない。
この三隻の役割は索敵と護衛する艦船の保護が主任務で
攻撃の中心は龍帝国海軍 第一海竜群 甲一組の役目だ。
ブラウ大陸近海ではどんな荒くれ海賊ややんちゃな腕自慢の海軍でも手を出さない船の一団がある。
それが龍帝国の国旗や海軍旗を掲げた船だ。
絶対に海上で戦ってはならない、と彼らは部下にきつく教える。
勝てない理由は船や武器、操船の良し悪しではなく、必ずこれらの船には海竜が護衛についているからだ。
どんなに丈夫な最新鋭の高速船や丈夫な戦艦であろうと海竜には敵わない。
だから龍帝国の国旗付きの船を発見したら用がなければ早々に離れるのが吉である。
~航海 十二日目~
龍帝国 親善使節団・海外取引商船団・軍輸送船団・連合船団
皇室専用艦・焔郭 船上
俺は早くも飽きてきていた。
することがないのだ。
レイラ様は良い機会です! と俺にあれこれレクチャーしてくださるがちっとも頭に入らない。ごめんなさい。
そしてレイカさんやサキさんの部屋にもお行きなさい、と部屋を追い出される。
レイカさんのお部屋に行くと
「良く来た我が半身、だが……残念ながら今は時が満ちていない。この我が肉体を欲望の赴くまま蹂躙したいのであれば、あの七つの宝石と七つの宝剣を捧げよ」
なんだよ”あの”って……
レイカは一度火がつくとソレばっかりのエロモードに突入するがそうでない時はとことんつれない。
そんなレイカさんは下着姿でボリボリお菓子を食べながら本を読んでいらっしゃる。
「なに読んでるんだ?」
興味はないが窓の外を眺めながら一応聞いてみる。
「牙王と鍵爪姫の料理大戦 第百三巻 血みどろの結婚式と不倫の行く末」
あ~聞いたことあるタイトルだな。
確か、世の奥様方に人気の恋愛小説だ。
そんなに長いこと続いてるのか。
しかし不穏な副題だな……。
さて、俺はこういうこともあろうかと持参したカゴにガンドウ・ロゥワ大陸で寄港した時購入したぶどう酒やらチーズやらハムやらクラッカーを入れてきた。
どうせ何もしないんだ。
船の揺れに任せレイカさんの尻や窓の外の大海原でも眺めつつグラスを傾けようじゃないか!
ビバっ! 船旅!
……と、思っていたが一人での昼酒はなにか肴がないと味気ない。
この場合の肴とは雰囲気だ。
ぼんやりテレビを眺める、とか、誰かとおしゃべりしたりとか、だ。
今のレイカは話しかけても生返事しか返ってこないので俺はそこらに散らばっている彼女の本を漁る。
すると「デライア見聞録 第四巻 ガドン砂漠」というのを見つけた。
よしよし、これはこの旅にちょうどいいタイトルだ。
面白そうだし、ぶどう酒も進みそうだ。
内容はガドン砂漠の描写は最初の方だけであとはいかに作者がこの砂漠で苦労したのか、という話に終始した。
途中寄った村の少数民族の娘とラブロマンスが始まり……。
「はんしん! 我が半身!!」
「ん……あ? ……」
どうやら寝てしまったようだ。
窓の外を見てみると水平線の上も下も綺麗なオレンジ色で、もう夕方なのか、と思う。
レイカが俺のヒザの上にまたがり抱きついてる。
「ねぇ~半身~逢魔が時がきたぁ~このままでは危ない~我と一つになってこの時間を過ごさなくてはならないんだぁ~」
と無理やり口を重ねてきた。
……ぶどう酒臭い
夢中で俺の口の中ををむさぼるレイカをよそにサイドテーブルを見る。
用意してきたぶどう酒が三本とも空の容器と化し、転がっていた。
もちろんツマミもきれいになくなっていた。
「お前……飲んだな……?」
「我が半身、寝ちゃったからさぁ~、んっ……本読みながら、あっ……頂きました……ん、いいよ……」
「しょうがないヤツだなぁ~、我が用意し供物を横取りし邪龍よ!! 我に従え!」
「あぁ~ん、わがはんしん~~~」
と、我が半身との淫夢の契約を血の条約により二回行ってから我と我が半身は食堂に赴いたのであった! ふふふふふ
……そのまま食堂で皆と食事をし、レイカの部屋に戻り一晩過ごした。
◇◇◇
~航海 十三日目~
本格的に暇だ。
今日はレイラさんに呼ばれてレイカさんとサキさんは俺達の部屋でなにかしてらっしゃる。
俺は当然追い出される。
さて、どうしましょう?
俺の大事なワインやらのオシャレセットは結局レイカのヤツの腹の中に納まってしまったしな。
なので子供らの様子を見に行く
スイの部屋へ行くと大学の課題をしている真っ最中で
「次、用もないのに来たらコロス」
と、目の下に隈を作りながら言われドアを勢いよく閉められた。
他の子らは家庭教師と勉強中だった。
操舵室に行って船長たちと話してたが迷惑そうにされたので三十分もいなかったかな?
たまには近衛たちとも話すか、と思ってやつらの部屋に行ったら向こうでの俺達の予定と警備状況の構築と、あとなんやら、かんやら会議してて色々質問攻めにされたのですぐ逃げた。
「だからって拙者たちにからまなくてもいいでござる」
「そうだぞ! せっかくの船旅なんだ! こっち来るな!」
「ま、そういうなよオカッパ。俺も混ぜてくれよ」
あいつらは船底で非番の水夫たちと酒飲みながらバクチをしていた。
バクチといってもカードで四人で輪になって勝ったり負けたりしている。
「かかかか、またわしの勝ちじゃの、悪いな」
他のテーブルで魔女先生の前に銅貨やら銀貨が山積みされていた。
「いやぁ~嬢ちゃん強いなぁ~」
「ギョギョ、一人勝ちじゃねぇか」
「どうだ、もう一勝負!」
「うむ、来るがよい、受けてたとう、かかかか」
魚人たちが熱くなって魔女先生に勝負を挑んでいる。
お前たち、目の前にいるのは伝説の魔女だぞ……絶対勝てないって……
「君のウロコ、すごくきれいだね……」
「本当? でもほら、私、ここの尾びれが欠けちゃってるから恥ずかしくて……」
「何言ってるんだ、それが君の個性さ、尾ひれが欠けてても君の魅力が失われることはないんだ」
「もう、黒田さんたら……けど、うれしいわ」
そんな騒がしい部屋の片隅でクロダが人魚を口説いていた。
見境いのないヤツだな。
他になにか、と、暗い部屋を見渡すと入り口付近の壁に妹サムライが所在なさげに突っ立っていた。
「どうした? 混ざらないのか?」
「そ、某はバクチなどやらんでござる! 兄とは違うでござる!」
その時俺の後ろから声をかけてきた者がいる。
「ゲロゲロロ、師範、集まったゲロ」
「うむ、そうでござるか、じゃあ、甲板に行くでござる」
「なんだ? なにをするんだ?」
「うむ、この御仁はウチの門下の者でござるよ。航海が始まって稽古をつけていたでござるが他にも教えて欲しいと志願者が増えてきたでござるので一緒に稽古をしてござる」
「ゲロゲロ」
蛙人は頭が蛙っぽい造形だが、これで剣が振れるのか?
「そうだ! 二の丸様も暇でござろう! 我らと共に剣を振るでござるよ!」
「いや、でもカードもしたいし……」
「なにを言ってござる。乗船してからあまり体も動かしてないでござろ? 一緒にやるでござる!」
「ゲロゲロまだ竹刀もあるでゲロ」
俺は今でも城で朝稽古をしてるが船に乗ってからはさっぱりご無沙汰だ。
「……それもいいかな」
確かに最近不健康極まりない生活だったので健全な汗をかくのもいいだろう。
「おお、行け行け、金賭けないヤツはこっから出ていけ」
カードから目を離さずオカッパが言ってくる。
咥えタバコで目つきが悪くなって言葉遣いも乱暴だ。
水夫たちと混じって鉄火場に入り浸って感化されたのか、すっかりガラが悪くなっちまったな。
向こうに着くまでには元に戻ってるといいが……。
部屋から出る時クロダと目があったがヤツは肩をすくめるジェスチャーをするだけだった。
◇◇◇
その後、俺は妹サムライ達と一緒に剣の稽古をした。
途中勉強を終えたミライと雷電も加わった。
この二人は時々妹サムライに船上で稽古をつけてもらっていたらしい。
なんだよ、誘えよ。
夜霧の姿は見えなかった。
ラウンジで読書中とのこと。
「はぁ~ひと汗かいた後は、潮風でも気持ちいいわね!」
稽古後にかいた汗を冷やすために上半身裸で甲板の日陰のベンチに腰掛けて休んでたらミライが隣にきた。
「部屋に戻らないのか?」
「今はスイ姉さまが課題中で怖いから別々にしてるわ」
「何をそんなにため込んでるんだ、アイツは?」
「どうも、一年休学すると知った複数の教授達から色々と課題を押し付けられたらしいわよ? 期待値が高すぎるのも考え物ね」
「お前だってそうだろ? 衝撃の連光姫」
「なによ、知ってたの? やめて欲しいわ。そんな呼ばれ方」
「どうだ、学校は? 来年高等部だろ?」
「ウチが繰り上げ式で助かったわよ。出された課題もたいしたことないし」
まぁそんな親子っぽい会話をしていた時だ。
突然! 目の前の海から茶色い、イルカっぽい、イルカより大きな魚的なものがジャンプしてまた海の中へダイブしていった。
「うわっ! 驚いた!」
「なに、アレ!? 大きいわね!」
ミライはびっくりして思わず放電したらしく体からバチっ、バチっと火花が光ってる。
「姫様、ありゃ~ゴッブですぜ。ほら、あそこに群れが見えやす」
近くにいた魚人の水夫が教えてくれる。
ミライがわざわざ龍眼になって群れを確認する。
「ん~、あ、本当だ。多いわね……あ! 危ない!」
と、一体が近くを航行していた船団の巨大な輸送船にぶつかった。
が、平気らしくそのまま泳ぎ去った。
「はっ! さすがゴッブだ、なんともないぜ!」
なぜか魚人が誇らしげだ。
「そうね! たいしたもんだわ!」
ミライもうれしそうだ。
俺たちは綺麗に群れになって時々水面をジャンプするゴッブを眺めていた。
退屈な船旅のいい見世物だ。
そんなのんびりとゴッブ見学をしていたら、だ。
そのゴッブを咥えた海竜が波しぶきをあげ、突き出たと思ったら海中に戻っていった。
「あ~~! 星流丸ダメじゃない! ゴッブを食べちゃ!」
「ミライ姉、あっちも」
ゴッブを見に来たのか、いつの間にかワラワラと見学人が集まってきて、その中に雷電がいて違う方を指差す。
「嵐生丸まで!」
他の海竜たちもあっちでザパ~ン、こっちでザパ~ンと次々とゴッブを捕獲中だ。
この航海で毎日のように海竜を見ていたのですっかり馴染みになったがこんな派手な食事シーンは初めてだ。
「すみません、皇女殿下、ゴッブはいいタンパク源なのであの子達には必要なご褒美なのです」
この海軍の人はなんだったかな? 確か海竜担当の佐倉さん? 佐倉中佐、だったかな?
「五、六匹は喰ったな、上手なもんだ」
「まぁ……必要なら……しょうがないわね」
「ふふ、ミライ姉、海竜たちもうれしそうだよ?」
「なによ、満足そうな顔しちゃって、ま、可愛いから許してあげるわ」
ミライが嵐生丸を可愛い、と言った瞬間、魚人がギョっとした顔をしたのを俺は見逃さなかった。
……いや洒落じゃなく。
まぁ魚人と龍人じゃ感性が違うんだろうが……。
俺達の航海はそんな雰囲気でまぁまぁ順調な旅路と言える、と、この時の俺は思っていた。
それがまさか、あんな事になるなんて……。
いよいよ龍一と一行は航海に出ます。
なんとか影の薄いレイカさんも主人公に絡めることができて良かったです。
今回は船の中でこんな風に過ごしてますよ、という描写です。
お楽しみ頂けたらうれしいです。




