第99話 龍神会 ・その後
「そんな訳でさ、デロイア大陸に行くんだけど、なんか情報ないか?」
俺は龍之宮城にある七大龍神を祀る神社に来ている。
後宮の誰かの神社にしたかったが皆自分とこの社に他の龍神が来るのをいやがるからな。
「ち、地龍がいるよ、おしまい」
「地龍様がいるでありんすな」
「ん~、地龍さんがいるねぇ~」
三柱とも言うことは同じだった。
「え? なにそれ」
「あ、あとは知らない、じゃ」
と言って黒龍・クロは黒い霧と共にさっさと消えた。
「あのさぁ~、他になんかないわけ? アレに気を付けて、とかコレは見とけ、とか、コレは注意しとけ、みたいな?」
「あのねぇ~龍一くん、僕たちは基本的に他の龍神には不干渉なんだ。だからあの大陸のこともわかんないよ、じゃぁねぇ~」
とバチンと光って雷龍・ヒカリも消えた。
「シズク……」
俺は残された水龍・シズクを見る。
「ほんに皆、逃げ足のお早いことでありんすなぁ~。さて、主様、良く聞くでありんす」
「お、おう」
「デロイア大陸は……」
「デロイア大陸は……?」
「この世界で一番大きな大陸でありんすぅ~」
「んなことぐらい地図見りゃわかるよ、ておい! 消えるな!」
言ってるそばからシズクは霧のように消えていった。
結局、何も得るものもなく俺がお堂を出るとスイが待っていた。
「母さんたちは?」
「もう消えたよ」
「そっか……」
「それでな、スイ……」
俺はスイにレイラと決めたことを伝えた。
◇◇◇
~龍ノ宮城 後宮 集会所 午後四時三十分~
「じゃあ、いいわね。本日の議題は……色々あるんだけど、まずは……」
「スイ姉さま! 今朝、龍邦が私のとこに来たわ!」
「ミライ……まだ話してる途中でしょ? ……それで?」
「なんだか勝負! だってさ、バカみたい、姉弟で」
「ああ……最近あの子来ないと思ったらあなたに目標を変えたのね」
スイが憂鬱そうにする。
雷電がそこに口をはさむ。
「順番から言ったら次は夜霧姉じゃないのかい?」
「雷電兄さま、それは無理と言うもの」
「雷電兄さま、夜霧お姉さまとあの方では、格が違うと言うもの」
「そうそう、たまに二の丸でお会いになっても」
「挨拶もそこそこにお姉さまに目を合わさず、そそくさといなくなりますわっ、ふふ」
「よほどお姉さまが恐ろしいのでしょう、ふふふふ」
「エリー、サリーおよしなさい。あなた達の兄上ですよ?」
兄下げをする双子を長姉がたしなめる。
「わかりました、スイ姉さま」
「出過ぎたことを申しました、スイ姉さま」
素直にスイに謝罪する双子にミライも突っかかる。
「そうよ、そうよ! 双子は口をだすんじゃないわよ!」
「……ミライ、あまりこの子たちにキツくしないで」
夜霧が双子を庇うとミライは夜霧にも絡みだす。
「夜霧姉さま、姉さまが双子を連れて来なければすむ話だと思うんだけど?」
「……ミライ、あまりしつこいと一ヶ月トマトしか口にできなくなる呪いをまたかけてあげるけど?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、夜霧お姉さま、本当にごめんなさい、もうしません、ごめんなさい」
言われて、とたんに過去の記憶が蘇ったのか、青くなりブルブルとミライが震えだす。
そのやりとりを見て双子たちは小声でほくそ笑む。
「ふふふ、我ら兄弟姉妹で夜霧お姉さまに勝てるものはおりませんわサリー」
「あらあら、このお城では、の間違いじゃなくてエリー?」
「ならば龍都最強ですわねサリー」
「いえいえ、帝国最強よエリー」
一連のやり取りをスイは手を叩き、終了させる。
「はいはい、もうおしまい、とにかく龍邦は相手にしないこと! 絡んできたら即撤退、これを心がけてね。間違ってもケガなんかさせないように……しないと思うけど、収拾がつかなくなるわ」
「はぁ~い」
「雷電もいいわね?」
「兄上は自分には、絡んではこないけど?」
「そうでもないんでしょ? いい? 相手にしないで適当に受け流してね?」
「はいはい、仰せのままに」
「それじゃあ、本題に入るわよ?」
スイは父から言われた今日一番、皆に知らせなくてはいけないことを全員に伝える。
今回の視察には龍神の子を全員連れて行くこと、である。
父と正室レイラが決めて、詳しいことは教えてもらえなかったが、人気のあり過ぎる彼女達を懐柔しようとする貴族たちやマスコミ対策、ということらしい。
「え~外国に行けるの!? え? 学校は? 学校はどうするのよ!?」
「……ミライ、顔がにやけてるわよ? 勉強は一応、六条家から教育係がいらっしゃるらしいわ」
「なぁんだ、勉強もしなくちゃなのね、でもさ、父様も気にしすぎなのよ、そんなの後宮にいれば安全だし、学校の送迎も護衛がいるんだから心配ないわよ」
「あのねぇ~……一度あなたたちに言おうと思っていたのだけど……」
スイの改まった物言いに一同は身構える。
「いいですか、近衛も影一族も信用してはいけません」
「……姉さま、それ、どういうこと? サキ母様のことも疑ってる?」
夜霧にとってはサキも大事な母親だ。
マリーが親戚の大きなお姉さん的存在だとしたらサキは文字通り、母のように接してくれた数少ない人物で夜霧にとっては実母の黒竜・クロやマリーと同じくらい大切な存在だ。
「落ち着きなさい夜霧、首すじから黒い霧が出てるわよ。もちろんサキ様のことを疑っているわけではありません。あの方は私達を分け隔てなく接してくれてるし、尊敬に値するお方です。いいですか? この国の中で出自の違う私たちに関わる、誰がどの貴族に取り込まれている可能性があるのか、注意深く接しないといけないわ。例え自分の侍女、侍従、近衛、でもね」
「ひどいです! スイ姉さま!」
「そうです! スイ姉さま、私達と夜霧お姉さまが離れ離れになってしまいますわ!」
「エリー、サリー、これは、お父様がお決めになったことです。私にはどうすることもできないわ。苦情はお父様に言って頂くしかありません」
「そんな……お姉さまに一年もお会いできないなんて、どうしましょうサリー……」
「……この世の終わりですわエリー……」
「エリー、サリー、可哀そうだとは思うけど、飲み込んでちょうだい」
「あらあら、エリサリは父様にお留守番て言われてたものねぇ~可哀そう~ぷぷ」
「……ミライ姉、煽るなよ、はしたない」
「はいはい、それじゃあ、旅行に持っていく物と、持って行ってはダメなもの、他、注意事項を……」
夜霧の後ろですっかり意気消沈している双子をよそにスイは渡された資料を元に妹弟に旅行の概要を伝えていく。