26−4 「表裏一体」
26話、これにて終わりです。
次回は27話です。
長文のまま行かせてもらいます。
よろしくお願いします。
「この三国は君達の世界と同様、それぞれが次元の異なる場所に存在しているのです。レムが表なら、アビスは裏。表裏一体の関係になっています」
いきなりつまずきそうになった。
違う次元に存在する世界と説明されて、頭の中で描こうとしていた地図がすぐさま真っ白になってしまって戸惑うリュート。
そして地図を思い描くことを諦め、まずは最後まで話を聞くことにしようと切り替える。
隣りに座っているアギトの顔をちらりと覗くと、うんうんと黙って頷いていた。
どうしてこれだけの説明で飲み込めるんだろう、と不思議に思う。これもまた、アギトがこれまで知識として吸収してきた経験によるものだ。
主にアニメやゲームで得た知識、それがこの世界でも通用するなんてリュートは思ってもいなかった。
「ですから互いの世界を行き来するには、特別なレイラインを使用する必要があるのです。そのレイラインは、龍神族にしか扱えません」
お茶をまた一口飲みながら、オルフェが続ける。
「数十年前の大戦の時、戦士と神子が現れたことによってニつの次元の間に道が出来たんです。その道を使って、レムとアビスは激しくぶつかり合い、たくさんの戦死者が出ました。その時は神子の戦死によって再び道は閉ざされ、次元をつなぐカギは龍神族の元へと帰りました」
オルフェの言葉に、二人はピタリと止まる。
「え、ちょっと待てよ? それじゃ今は、その道ってのがまたつながってんじゃねぇのか!?」
その問いにはザナハが答えた。
「それは大丈夫。道が開かれるのは、その神子が自分の世界に存在する上位精霊と契約を交わした時にしか開かれないようになってるのよ。あたしはまだ精霊との契約を交わしてないから、道は閉じたまま。でも……」
ザナハの顔はみるみる浮かない表情へと変わって行った。
「神子は、2つの国に存在するのよ。あたしが光の神子なら、向こうは闇の神子。もしも闇の神子が精霊との契約を先に交わし終えたら、道が開かれてしまうの」
そしてドルチェがくまのぬいぐるみの両手を持って、ばたばたと振りながら静かにささやく。
「アビスの闇の神子は、ルイドの妹……」
二人は、どきっとした。
ルイド、その名が出ると平常心でいられなくなる。
二人の表情がこわばって、一瞬空気が張りつめたがオルフェは構わず先を進めた。
「と、ここまでがこの世界にある代表的な三つの国です、覚えましたか?」
二人はオルフェのペースに少し不満を感じながら、それでも首を縦に振るしかなかった。
「光の国レムグランド、闇の国アビスグランド、そして中立国である龍神族の里。龍神族の里へは普通のレイラインで行き来可能ですが、レムとアビス間は龍神族の許可がなければ行き来不可能です。そして、レムとアビスそれぞれの神子が精霊と契約を交わした時のみ、ニつの国の間に特別な道が現れる」
ミラが復習するように、繰り返した。
アギトは特別メモしてるわけではないが、リュートは要点だけをメモに走り書きした。
リュートのペンが止まったのを確認して、オルフェは次の話題へと移った。
「次に君達が一番知りたかった、『戦争の理由』について話します」
両手を組んで、オルフェの顔に少しだけ笑みが消えた。
また空気が張りつめたのを感じて、二人はごくりと唾を飲んだ。
「このニつの国は元々仲が良かったわけではありません。もうずっと前、何百年、何千年も前から戦争が繰り返されて
きました。その戦争の一番の理由は、『マナ濃度』です」
初めて聞く単語にリュートがオウム返しに聞いた。
「マナ濃度??」
アギトは一瞬、マナーモードと聞き間違えて、ぷっ……と一人だけ吹き出していた。
そんなアギトをちらりと横目で見たミラだったが、またすぐ視線を戻してリュートの質問に答えた。
「マナ濃度とは、自然界になくてはならないものです。世界の生命といっても過言ではないでしょう。以前話したように、レムには光、火、水、雷のマナが存在しており、アビスには闇、風、氷、土のマナが存在しています。それぞれのマナの最大値は定められています。例えば、火のマナ濃度の最大値が100とします。これが安定した状態だと、レムの火のマナ濃度が50。そして反属性であるアビスの氷のマナ濃度が50となります。もし濃度が、片方に極端に偏った状態になると、火のマナ濃度が80にまで満たされると、反属性である氷のマナ濃度が一気に20にまで減少してしまうのです。ここまでは、いいですか?」
ミラが一旦中断して、二人に時間を与えた。
二つの国が表裏一体だと表現したのは、こういう理由があったからだと……今初めて気が付いた。
片方が満たされれば、もう片方は衰弱してしまう。
これが常に安定した状態であれば、恐らく戦争なんてものは起きなかったのだと、こう言いたいのだろうか?
二人は数字が出た途端に、眉をひそめたが。またすぐ大丈夫だと言って話の続きを求めた。
察して、オルフェが続きを引き継いだ。
「マナ濃度はこの国が表裏一体の関係を保っている限り、天秤にかけられた状態にあるのです。マナ濃度の増減を天秤にかけたところから、我々は『マナ天秤』と表現しています。このマナ天秤が常に安定した状態であれば、どちらの国も安定した環境で生活することができます。しかし魔法科学や魔術など、マナは常に我々の生活に欠かせず常に消費する状態にあるのです。マナは消費と再生を繰り返すという還元能力を持っていますが、その能力を遥かに超えてしまうとマナ天秤は大きく偏ってしまいます。減少した方は、それを取り戻そうとするのが当然です。そこでマナの還元能力を高める唯一の方法が、神子に与えられた使命でもあり戦争の理由でもあるのですよ」
ここにきてようやく『神子』の名が出てきた。
神子の存在と戦争、このニつが大きく絡んできているのが、これからの説明で明らかになる。
二人はそう直感した。
時代を感じさせる拙作。
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