26−3 「表裏一体」
みんなそれぞれ特に席は決まってはいなかったが、目の前にあったイスに腰かける。
メイドが淹れた温かいお茶を一口含みながら、オルフェが軽く息をつくと早速本題に入った。
「さて、まずは何から話しましょうか。とりあえず初歩的で基本的なことからお話した方がいいですよね?」
少し小馬鹿にされたようなニュアンスで、あたかも選択権がこちらにあるような話し方をする。
結局はオルフェにしか選択権が残されておらず、大人しく首を縦に振るしかなかった二人。
「ある程度は前回来た時に少し説明しましたが、あの時は色々慌ただしかったですからね。改めて説明させてもらいます」
オルフェが言葉を続けようとすると、ミラが即座に反応する。
丸めてある大きな紙をテーブルの上に広げた。
それは、地図だった。
オルフェはその地図で一番大きな大陸になっている場所に人差し指を当てて、説明する。
「ここが今、我々がいるレムグランドです。通称『光の国』と呼ばれており、光と水……植物や自然に溢れた豊かな世界とされています」
そう言うと、今度は反対側に位置している少し小さい大陸の方へと指を動かす。
「そしてここがアビスグランド、通称『闇の国』と呼ばれています。ここは常闇で陽の光が射さない世界の為、自然に恵まれず非常に環境の厳しい土地となっています」
二人は相槌を打ちながら真剣に聞いていた。
とりあえずこの世界のことを少しでも把握していなければ、後でとんでもないことになるかもしれないとわかっていたからだ。
なぜなら前回ここに来た時に、『どっちに正義があるか』という判断が自分達には出来なかった。
悪に加担するなんて二人ともまっぴらごめんだと、キッパリと言い放ったはいいが……。
しかし一口で戦争といっても、一体どんな理由で戦争しているのか、どちらが正しいのか。
そういったことは結局何ひとつ、聞けず仕舞いだったからだ。
次にオルフェは二つの大陸の間にある、まるで三角形のような位置になるように小さな島が一つあった。
「ここは中立国、『龍神族の里』です。この里はレムとアビスの橋渡しのような役割をしていて、現在休戦状態にあるのは彼らの貢献あってのことなんです」
つまりこれは簡単に言うと、三つ巴というやつだ。
レムグランドとアビスグランドは敵対同士、そしてそれを静観しながらも仲裁しているのが龍神族の里。
少なくともリュートやアギトは、そんな風に捉えた。
オルフェは続ける。
「しかし龍神族の中には、二つの国の戦争に全く関与しないという者も少なくありません。レムとアビスが勝手に争っているのだと静観する者がいれば、積極的に仲裁に入る者もいる。まぁどこの国でも同じことですが」
中立国とはいえ、その戦禍に巻き込まれなければそれでいい、と考えている連中がいることも説明するオルフェ。
龍神族にとってレムとアビスの戦争など、対岸の火事……と言ったところなのだろう。
それはそれでなんだか合点がいかない気がするリュート。
とにかく事情を全て話してもらわないと、納得のいく答えは出ない。
リュートは黙って話を聞き続けた。
「よって、この休戦状態もいつまで続くのかわかりません。現に以前ルイドがここへやってきたのも、彼らの協力あってのことです。敵の首領がこのレムグランドに簡単に侵入出来てしまえる状態……、それが悩みの一つでもあるのですが」
やれやれ困った、という風に両手を掲げるポーズをするオルフェの仕草が寒々しかった。
本人もわざとやっている、という自覚があるとしか思えない。
この国を守る気があるのかと疑いたくなる。
それ位、今の状況説明に対してオルフェがおちゃらけているようにしか見えなかった。
「とにかく、だ。ニつの国同士が喧嘩してて。あとの一つは他人のフリ……ってことなんだろ?」と、これはアギト。
「その国がたまに仲裁に入る程度、ってことなんですね」と、リュートがメモ帳に書きなぐった。
今度はオルフェに代わって、ミラが説明を始める。
「この地図からだと一つの世界に三つの島が存在しているように見えますが、実は平面上に存在しているわけでは
ありません。この三国は君達の世界と同様、次元の異なる場所に存在しているのです」
そう説明され、リュートはより一層真剣に耳を傾ける。
これはきっと一度説明されても理解が追いつかないやつだ、と察したからだ。
アギトは相変わらずメモすら取らず、両腕を組んでうんうんと頷いている。
そんな彼の飲み込みの早さが、リュートは羨ましかった。




