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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
ハルカたち
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第95話 粉砕

 ハルカたちは、金属の床を蹴り、ヴァイスがいる部屋へと雪崩れ込んだ。足を踏み入れた瞬間、広大な空間が視界いっぱいに広がった。そこは、想像を絶する数のエネミーで埋め尽くされており、その先頭には、先ほどまで戦ったばかりのメムが、静かに剣を構えて立っていた。五層の、そしてこのダンジョンの底知れない悪意が、今、彼らの目の前に立ちはだかっていた。


「コウイウ時コソ、ワタシノ出番ダネ!」


「ようやく覚えたワザが役に立ったぜ!オラオラオラァッ!!」


 アモットの明るく弾んだ声が部屋に響き渡ると、その声に呼応するように、ユラの小さな体が瞬時に膨れ上がった。骨が軋むような音、服が裂ける音がけたたましく鳴り響き、見る間にその身は巨大なスプリガンへと変貌する。巨人の体躯は、狭い通路を遮るほどだ。ユラは、その巨大な質量を活かし、まさに嵐のように戦場を駆け巡った。一歩踏み出すたびに金属の床が震え、その一挙手一投足が、目の前のエネミーたちを容赦なく吹き飛ばしていく。まるで巨大な鉄槌が振り下ろされるかのように、彼女の拳や蹴りがエネミーを粉砕し、彼らは為す術もなく散り散りに砕け散っていった。

 

 アザニンは、両手を天に掲げ、血の契約に基づいた古き言霊を紡ぎ始めた。その声が響き渡るにつれて、部屋の中央に巨大な魔法陣が浮かび上がり、空間そのものが震え出す。そして、轟音と共に、その魔法陣から巨大な龍が姿を現した。それは、雲を纏い、威厳に満ちた雲龍だ。その全身からは青白い雷光が迸り、咆哮と共に口から放たれた雷のブレスが、エネミーの群れを容赦なく焼き払っていく。龍の巨大な牙は、触れるものすべてを砕き、その圧倒的な力で、エネミーの群れを文字通りなぎ払っていった。


 アモットは、背中に担いだ旧時代の棺桶型の殺戮兵器、エグゼキューターを横に構えた。棺桶が変形し、銃口がせり出してくる。そのガトリングガンが地鳴りのような唸り声を上げると、巨大な砲身から途切れることのない鉛玉の雨が、エネミーの群れへと容赦なく降り注いだ。金属の弾丸が空気を切り裂く音が連続し、まるで嵐のような弾幕が部屋中を覆い尽くす。目の前のエネミーたちは、瞬く間にその猛攻によって蜂の巣にされ、次々と地に倒れ伏していった。


 怒涛の攻撃の波に弱ったエネミーたちを、他の面々が容赦なく仕留めていく。エルの装甲銃が、ハルカのサイコガンが、メルのチャクラムが、生き残ったエネミーたちを次々と潰していった。


「ふん、やるじゃないか。せっかく集めておいたエネミーたちが半数以上が潰れてしまった。だが、もとよりこうなるのは計算済みだ。」


 ヴァイスはそう言い放つと、その黄金に輝く両手をゆっくりと掲げた。一本、また一本と、その指先に不気味な紫色の光が灯っていく。まるで、魂の光を吸い上げるかのような、ぞっとする輝きだった。十本の指全てが禍々しい光を宿した瞬間、ヴァイスはそれをハルカたち目掛けて一斉に放った。それは、収束された悪意の光線が、細く鋭い十の筋となって空間を切り裂き、まっすぐに彼らを貫こうと迫る。


 エルは咄嗟に動いた。反射的に、ハルカへと向かう光線が放たれるであろう射線上に、自らの身体を割り込ませた。硬質のパワードアーマーが、ヴァイスの放つ紫色の光線を正面から受け止める。

 しかし、ヴァイスの攻撃はエルの想像を遥かに超えていた。装甲を貫通する熱を帯びた光がパワードアーマーの表面を溶かし、内部へと深く食い込んでいく。ギィン、という耳障りな音と共に、焦げ付くような異臭が鼻腔を刺激した。エルの耳には、自身の肉が焼けるような、嫌な音が聞こえた気がした。その痛みに、エルは思わず奥歯を食いしばって耐えた。


「エルさん、大丈夫ですかッ!?」


 ハルカの声に、焦りがにじむ。


「これくらい、テックソルジャーなら当たり前のことだぜ!ソレより、回復を頼む!」


 エルは、焼けるような痛みに耐えながら、苦悶の表情を押し殺して答えた。彼の装甲の隙間からは、微かに煙が上がっている。


「リョーカイッ!」


 アモットは、いつもの余裕をかなぐり捨て、慌てて癒卵を呼び出した。光を放つ卵がエルの損傷した部位へと飛んでいき、治療を開始する。しかし、その回復に専念した一瞬の隙を、メムは見逃さなかった。黒髪を翻し、二刀流の構えから流れるような動きで躍り出る。召喚されたばかりで、まだその力を完全に発揮しきれていない魔獣を、彼女は瞬く間に切り伏せた。


 回復役である召喚獣を処分した直後、メムは迷うことなく動いた。斬り伏せた魔獣から返した刀身を、そのままエルの胸へと深々と突き刺した。装甲の隙間を狙った精密な一撃は、躊躇なく彼の心臓へと迫る。ズブリ、という嫌な音が、エルの体から響き渡った。


「ぐっ……ぼぁ……!」


 メムの刃が心臓を貫き、大きな血溜まりがエルの足元に広がる。しかし、その顔に諦めの色はなかった。彼は装甲銃を構え、至近距離からメムへと銃撃を放った。弾丸がメムの細身の体に迫る。メムはそれを斬り伏せようと、もう一刀を動かしたが、その瞬間、ハルカのサイコガンが閃光を放った。


 ハルカのサイコガンから放たれた光弾は、魔眼の力によってメムの防御を容易く貫いた。咄嗟に防御した刀をすり抜け、メムの体へと光弾がたどり着き彼女の動きが凍りつき、その体は瞬時に氷像へと変わる。一瞬の硬直。その隙を、エルは見逃さなかった。彼は装甲銃を氷漬けのメムにねじ込み、そのまま引き金を引いた。轟音と共に、メムの氷像が粉々に砕け散った。


「……メム、お前はもう眠るんだ。安らかに、な。」


 エルは、そう呟くと、大きな血溜まりの中でゆっくりと膝を突き、そのまま事切れた。彼の視線は、砕け散った氷の破片の先を、まるで遠い故郷でも見ているかのように、ただ静かに見つめていた。


 メムを砕き、力尽きたエルが地に伏した。その瞬間、彼の体が大きな血溜まりに沈み込み、静かにその命の灯が消えていく。誰もが絶望しかけた、その時だった。


「アモットちゃん、今です!」


 ハルカの、切羽詰まったしかし確信に満ちた声が響き渡った。アモットは、その声に導かれるように、まるで大切な宝物を手渡すかのように、隠し持っていた切り札――完全蘇生の詠唱を唱え、エルへと放った。まばゆい光がエルの全身を包み込む。その光の中で、彼の体はゆっくりと、しかし確実に動き始めた。そして、片膝をついた状態で、エルは再びその身を起こしたのだ。


「本当ハ、ハルカチャンノタメニ取ッテオイタンダケド!仕方ナイヨネ!!」


 アモットは、少し悔しそうな声を出しながらも、エルの無事を心から喜ぶように、その銀色のボディを震わせた。

 エルは、再び動き出した体に感謝するように、装甲銃を構え直した。


「悪いな、アモットの嬢ちゃん。助かったぜ。今度、ハイグレードオイルでもなんでも奢るよ。」


 彼の声には、いつもの皮肉めいた調子が戻っていた。しかし、その感謝の気持ちは本物だ。


「出来レバ、大砲 ノ弾ヲタクサン、プレゼントシテ欲シイネ!」


 エルの調子に合わせて、アモットもノリを合わせて答える。


 パワードアーマーの戦士が音を立てて再び立ち上がった姿を見て、ヴァイスは信じられないといった様子で叫んだ。


「バカな、魔術で蘇るだと!?ブギーマンは何をしていた、即座にアイツをエネミー改造しなけりゃいけないだろうがッ!?もう一度だ、もう一度殺してやる!」


 彼の言葉には、計画を狂わされた苛立ちと、純粋な悪意が滲んでいた。


「もう、俺は攻撃に回らん。あとは耐えて、耐え続けるだけだ。お前をやるのは嬢ちゃんたちに任せたぜ。」


 エルはそう言い放ち、装甲銃を文字通り盾のようにして、ヴァイスが召喚したエネミーたちの突進を右に左に捌いていく。彼の体は完全に回復したわけではないだろうが、その動きに迷いはなかった。


「吾輩も微力ながら支援しよう。ヴァイス、お前は吾輩としばらく付き合うんだな。」


 Mr.トリックはそう言って、実体のない体から大量のデータをヴァイスのシステムへと送り込続け始めた。ヴァイスの動きが目に見えて鈍り、その表情には混乱の色が浮かんだ。大量のデータを無理やりに処理されて、ヴァイスの判断力が下がっていく。

 残ったエネミーたちは、巨大化したユラたちの圧倒的な攻撃力によって次々と蹴散らされていく。ヴァイスも遅々とした反応ながら光線を放ってくるが、そのほとんどはエルの装甲銃によって阻まれた。アモットの戦車砲が地響きのような唸りを上げ、残された敵陣を壊滅させる。


 そして、ハルカのサイコガンが、ヴァイスの本体を直接狙い撃った。紫色の光線がヴァイスの装甲に触れると、瞬く間に凍りつき、まるで脆いガラスのように砕け散る。光線が当たるたびに、ヴァイスの本体からは大きな氷の破片が飛び散り、その姿は見る見るうちに削られていった。それはまるで、氷の彫刻が溶けるように、しかし確実に、ヴァイスの存在を消し去っていく光景だった。


「バカなっ!五層の支配者の力を持ってしても、この俺が押されるだとっ!?」


 ヴァイスは絶叫した。残された片手から、怒りに任せて五連続の光線を放つ。しかし、その必死の攻撃も、エルの装甲銃に虚しく阻まれた。弾かれた光線が虚しく空間に散る。ヴァイスの攻撃の隙をハルカは見逃さなかった。彼女のサイコガンから放たれた光線が、ヴァイスの黄金の体を余すところなく捉え、瞬く間に完全な氷の彫像へと変えた。


「無理やり手に入れた力が、手に余ったのではないでしょうか?これで、さよならです。」


 ハルカは静かにそう言い放つと、傍に立つアモットの銀色の体にそっと手を置いた。ハルカの意志を受け取ったアモットのボディが、まるで生き物のように変形を開始する。脚部が固定され、腕が格納され、背部の戦車砲が前へと突き出される。瞬く間に固定砲台モードへと移行したアモットは、ヴァイスの氷像目掛けて、渾身の戦車砲を放った。轟音と共に放たれた砲弾は、氷のヴァイスを正確に貫き、粉々に砕け散らせた。

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