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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
ハルカたち
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第81話 ユルギタの館への侵入

もう少しでユルギタ領終わりですかね。

本当に終わるんですかねぇ。

 ハルカたちは1週間の調整、準備の期間でどう言った形で暗殺するかを練っていった。

 問題は、どうやってユルギタの館へと潜入するかだった。ユルギタの館は領主の館ということで、吸血鬼たちと人間による警戒が厳しい。人間側は青薔薇同盟の伝で警戒を緩めることはできたが、吸血鬼となるとそうはいかない。

 4人の中で特に問題となったのはアモットだが、これについては意外な解決をアモット自身が行った。


「ワタシ、変形スルことで一時的にヘンシンできるヨ。」

 

 そう言って、アモットは目の前で変形を行い人間大の少女の形を取った。一見してロボットというイメージは拭えないが、人間大の大きさで、しっかりと目鼻などの顔の造作はあり、人間らしい所作をさせると、コスプレでロボット娘をしている女の子、程度に化けることができるのであった。これにはデメリットとして、変形のたびに無理が祟りダメージを機構部分が受けてしまうというところだが、長時間同じ形を維持するのであれば、極端なデメリットにはならないのであった。


 これに、服やローブなどを羽織らせることで人間として騙し通すことができるかもしれない。アモットの件はなんとかなったところで、問題は他に移った。


 メルは小ささを利用して、隠れて行くつもりだ。何かトラブルが起きたときのフォロー役としてスタンバイする。

 ハルカの場合、見た目はごまかせる。とは言え、近づかれるとバレてしまうのではないかと予想された。そこは、力技でどうにかすることになった。

 ユラはかなり迷ったが、人間として扱うと血液検査でバレてしまうのでメルと同じく、隠れて侵入することとなった。場合によっては、巨人化を駆使して陽動をする。


 後の日数は館の間取りを暗記し、どのように人間や吸血鬼が入れ替わるのかを把握し、暗殺するタイミングを図っていく。特にネックだったのは、ラモンを吸血するタイミングだった。ユルギタはかなり気分屋で、これと言ったタイミングで吸血をするわけではないようだった。そのため、あらかじめ館の中に侵入し、必要なタイミングで動くこととした。



作戦決行当日となった。青薔薇同盟で用立てた別人の身分を使い、人間牧場で出荷された人間として人間車に乗る。馬車の代わりに、人間に引かせる台車だ。過酷に見えるが、吸血鬼に捧げられるよりはマシという扱われ方だった。


 しばらく街の中を進み、館が目に入ってくる。周囲には街をぐるりと巡る大きな壁以外は田園風景といった長閑な世界が広がっている。

 まれに、人間の悲鳴が聞こえてくる以外は、長閑そのものだった。


 館の前では、ちょっとした建屋があり、そこで運び込まれたものを検分するようだった、検閲者らしき二人組が下働きの人間に指示をして、荷物を改めさせる。荷物には対したものは載せてなく、何も問題はなかった。


 そして、検閲者たちのテイスティングが始まる。実際のところ、テイスティングは必要ではないのだが、ユルギタ様へと貢がれる人間を味見できるという役得が暗黙の了解とされていた。


 先に別の人間牧場から運ばれてきた人間がテイスティングされる。方法は注射器を使った血液採取で、その血液を味わっていくこととなる。

 

 ついに、順番が回りアモットの番になった。アモットは落ち着いて彫像のような顔をローブから少し出して、右手を検閲者に差し出した。


「ふむ、物わかりが良いな。」


 アモットは右手に小さな赤い傷をつけられて、多めの血液を吸い取られる。その表情はほとんど変わらない。あまりにも表情に変わりがないことで検閲者は興味を無くしたのか、フンと鼻を鳴らすと吸い取った血液を注射器から口へと落とし、味わう。味は悪くないようで、やや、目尻が下がって「合格だ」などと言われて、中へと案内される。


 アモットの腕にはあらかじめ血液パックが仕込まれていて、その部分は柔らかいシリコンのような素材へと変形していた。検閲者はまんまとその部分へと針を刺させて血を吸い取らせていたのだった。もちろん、仕込んであったのは人間牧場で太鼓判を押されていた人間の血液パックだった。


 アモットを見送りながらも、ハルカの番となった。ハルカの顔色を見て、検閲者が期待できなさそうだ、と口をこぼす。

 ハルカは右手を服の中に隠したままだったが、左手を差し出した。差し出された左手に注射器を突き立て、血液をこちらも多めにとっていく。先ほどとは別の検閲者がテイスティングを行い、「まずまずの合格点だな」と言って、ハルカも通り抜けることができた。 


 ハルカの場合は血液が問題だった。心臓が止まって久しい体に新鮮な血液が流れているわけがない。

 仕方ないので、市販されている吸血鬼用の血液パックを大量に体に流し込み、心臓を無理やり動かして循環させるという手を使った。心臓には右手が入る程度の小さな切れ込みを入れておいて、手動で動かす。かなり強引な手法だが、馬鹿なレッサーヴァンパイアはこれでごまかすことができた。


(なんでゴーレムのアモットちゃんの方が美味しくて、ゾンビとは言え、元人間のワタシの方が美味しくないのでしょうか!?)


 アモットの方が美味しかったようで、それが地味にハルカを傷つけたが、それは些細なことであった。



 検問所を超えると、運ばれた人間たちは人間用のオリのようなものがあり、4人ひとまとめに入れられるようになっていた。

 誰もが疲れた、絶望をした顔色をしており、話を聞きにくい雰囲気を纏っていたが、ハルカは意を決して話しかけた。


「あの、ラモンって人に心当たりはありませんか?私の知り合いなんです。今、どうなっているのか気になっていまして。」

 

 先に入っている人間に尋ねると、ラモンだと思われる人間は特別扱いで独房に入れられているらしい。


「ユルギタ様のお気に入りのことだね。残念なことだけれど、一息に死ぬこともできず、されとて長生きするわけでもない。今月が終わるまでには死んでしまうだろうよ。お気に入りは私らとは違う、独房に入れられているから私たちにはどうなっているのかは判りはしない。残念だったね。さ、配給の時間だ。食料カプセルを頂いて、少しでも長生きできることを祈りな。」


食料カプセルを配給され、それを口にして水を飲む。どれもハルカとアモットにとっては振りだったが、今のところはバレる様子はまだない。ハルカたちは何に祈るのだろうと思い、周囲を見ていると誰もが、マザーAIへと祈りを捧げていた。この場所では、マザーは祈りの対象になり得るのかと、内心驚いていた。人間をこの狭い世界へと押し込んだ張本人というのが、1層で受ける教育だ。

 それが、ここでは造物主のように崇め立てられている。もしかすれば、吸血鬼が世界の中心にいるせいかもしれないな、とハルカは思った。



 ハルカたちは一晩の睡眠を取りながら暗殺プランを思い返していた。暗殺のプランは至極単純。先にアモットとハルカが人間として侵入し、メルとユラが別ルートで入ってくる。ラモンが吸血される時、ユルギタは2人っきりになるということで、その時を狙って4人が合流してユルギタを倒す。

 問題点としては、ユルギタがラモンを吸血するタイミングをどう察知するかだが、それは潜り込んでいるユラとメルの2人に任せることになっている。



 ユラとメルは小柄な体を生かし、館の庭から後ろの通用門から侵入していた。こちら側はほぼ監視をする吸血鬼はおらず、人間へは青薔薇同盟の名前と多少の賄賂で問題なく侵入を果たした。


 ついでとばかりに、賄賂を受け取った人間にラモンのことに関して聞いてみると2日後にも吸血をするんじゃないかという話が聞けた。どうやら、もうかなり弱っていて、次の吸血には耐えられないのではないかという話が出ていて、吸血鬼の間では賭けにもなっているようだった。

 そのまま、この館に詰めている吸血鬼を調べるが、どうやら50にも満たないようだった。館の空調を這い回り、集めた情報だと、ユルギタ本人にもそれほど強い戦闘力があるわけでもなさそうで、ユラがこの点については落胆をしていたようだった。


「あのとき、無理にでもクラウディネとやらと戦っておけばよかった。」

「トカンツ殿の立っての希望でござったからな、仕方なし。それより、手に入れた情報をハルカ殿に知らせてくるでござるよ。」

「わかった、アタシがいたら邪魔になりそうだ。ここらへんでおとなしくしてるから、早めに頼むぜ」


 ハルカたちは人間とは違い、睡眠を取らない。寝たフリをしていると、オリの近くのダクトからメルが静かに現れた。


「情報を持ってきたでござるよ。ハルカ殿、他の2人の人間は寝ているでござるな?手早く、情報媒体にしてきたでござる。ウェポンスロット経由で読み取るでござるよ。大きな話としては、2日後にユルギタがターゲットの吸血を行うであろうということ。そのタイミングでで牢を破るでござるよ。」

「はい、判りました。幸い、アモットちゃんも私も内臓ウェポンにまでは探りを入れられなかったから助かりました。本当、ここの検閲者って美味しい血が飲めるかどうかってところにだけ気が行ってるみたいでしたからね。人間が真面目に仕事をしなければ、進入もあっさりでしたよ。」

「吸血鬼の支配体制が長く続いた弊害でござろうな。さて、そろそろ失礼するでござるよ。2日後よろしく頼むでござる。」


 そう言って、メルは姿をダクトの中へと消していった。

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