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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
デッドラインのエル
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第8話 裏側の世界で

 赤龍討伐、およびバルバトス・フレッシュフィレ撃退後にダイバーズオフィスは騒然とした。1層は危険なエネミーは出ないことがウリだったがバルバトスの出現は暦の浅いルーキー達は言うまでもなく、それなりに経験を積んだベテラン勢も戦慄する情報だった。

 即座にオフィスはバルバトス討伐が可能な精鋭を集めて、ダンジョンに送り込む。何故なら、ルーキーや少し経験を積んだ駆け出しが安全に資源を集めて来られることこそが表層都市にそれなりに安定した流通を形成しているからだった。

 これが無くなると、表層都市は衣食住のほぼ全てに異常をきたす構造をしていた。かろうじて、栄養カプセルがあるから飢え死にだけは免れるが、それ以外は何もないのである。

 どこまで行っても、ダンジョンと都市は縁を切れない。そして、そのように仕向けたのがマザーAIと呼ばれる5層よりも深い場所にいると言われる存在だった。

 マザーAIはかつて、人間やエルフ、ドワーフといった知的種族が作り上げた。人類をより良い方向に導く道標として。

 しかし、何処で狂ったのかマザーAIは徐々にその目的を変えていった。動物をアップリフトし、知的種族として作り上げ人類の友とした。ゴーレムやティンクといった機械種族、スプリガンのような異能種族もこの時期にマザーAIが作っている。マザーAIは自分をサポートするためのミストマンを作り、特定の優れた個体を世界の管理者とした。

 このあたりでダンジョンに当たるものが各地で建造される。人々はわざわざ何処かに出向かなくともダンジョンに潜ることで必要な資源を手に入れることができるようになった。

 

 そして、マザーAIは人類を直接管理することを選んだ。

 

 地表を焼き尽くし、ナノマシンを大量に散布することで地上ではあらゆる作物、植物が育たなくなった。

 人類は唯一、資源を回収できる点在したダンジョンで生きるためにダンジョンに出入りするようになった。ダンジョンから栄養カプセル製造機がもたらされ、飢えだけは解放された。

 しかし、それ以外の全てがダンジョンに依存して生きることを余儀なくされた。何故なら、マザーAIが人類をより管理しやすくするために行ったのだから。



 ツバメはパニックを起こしているルーキー達が右往左往するダイバーズオフィスで、一人静かに今回手に入れた赤龍の素材を受け取っていた。素材を受け取り、集積図書庁のある方向に途中まで歩いていく。しかし、唐突に路地裏に道を変えると行き止まりで周囲に誰もいない事を確認し、壁に手をあてたかと思うとすり抜けていった。

 ツバメがゆっくりと目を開くと、そこはシックな雰囲気のアンティークで整えられた一室だった。少し離れたところからツバメは声をかけられた。


「鎖皇さん、その様子だと大丈夫だったみたいですね。」

「ええ、むしろ私が介入しないで済んだのだから驚きよ、レオン。貴方の予知って本当に正確よね。」


 ツバメの視線の先には癖の強い髪が個性ではあるが、それ以外は特に特徴のない凡庸と評しても良さそうな青年が歩いてきていた。


「まぁ、僕の場合それだけがウリですからね。ここ呪術戦線スペルフロントラインにいられるのもそのおかげですし。」


 レオンと呼ばれた青年は、にへらっと笑いながらツバメだった女性に答えた。

 いつの間にか、物静かなエルフの美女は姿を消していた。今いるのは狼の耳を生やしたケモと呼ばれるデミヒューマン。黒髪を肩あたりで切りそろえた勝気な目の女性だった。身に纏った服装もシルエットがスラリとした印象を与える黒のスーツで、むしろ要人警護をしていそうな雰囲気だ。

 

 「じゃあ、早速やっちゃいましょうか。クラップさんの蘇生魔法。ニコラスさんとスティールマンさんも待ってます。」


 先ほどの一室から、いくつかの部屋を経由して地下施設にレオンと鎖皇はいた。その部屋は不自然なまでに温度が低下していて、まるで冷蔵庫の中のようだった。

 そこに、二人の男性がいた。片方は、窮屈そうに着込んだスーツと強面と呼ぶにふさわしい厳つい顔をした巨躯が印象に残る男。もう片方は、長身痩躯ではあるが貧弱な印象よりも怜悧な刃といった雰囲気を持った男だった。二人の男は部屋の真ん中に陣取り、さらに中央には包帯のようなものでグルグルと巻かれた何かがいた。


「遅くなりました、ニコラスさん、スティールマンさん。」

「いや、君の予知通りだ。問題はない。」

 

 低いが、恐ろしさよりも親しみやすさがある声を響かせて巨躯の男が返答した。


「よし、ニコラス。早いところクラップを生き返らせよう。冷気を維持するのも疲れてきた。こいつのために維持していると思うと何もかもが嫌になる」

「そう言うな、スティールマン。クラップは優秀な人員だ。我々にとっても必要不可欠な存在だよ。」


 そう言いながら、ニコラスはひとつの呪具を取り出した。手のひら大の歪な卵のような形をしたもの。それを床に厳かに置き、周囲に集めた素材を置き並べ、最後に鎖皇が赤龍の素材を並べた。

 赤龍の素材を並べた瞬間に呪具は円を空中に浮かび上がらせ、力のある印が円に沿って配置された。光は収束し、白い包帯の塊に輝きをともした。


「かつてのエルフが残した約定に従い、私は求める。供物の代わりに彼の魂を再びこの体に宿せ。死よ、去りたまえ。」


 ニコラスが唱えた言葉に光は反応し、一瞬だけ眩く輝くとその後にはモゴモゴと蠢く包帯のグルグル巻きが残った。それを確認し、スティールマンは湛えていた冷気を霧散させた。次第に部屋の温度が上がっていく。ついでとばかりに、一蹴して包帯だけを凍らせて砕いた。


「イッテェ!スティールマンさん、随分と荒っぽい起こし方っすねぇ!!もっとこう、優しさとかがあってもいいんじゃないっすかね!?」

「お前さん相手に随分と優しく起こしたつもりだよ。さ、次の仕事が待ってるぞクラップ。俺とバルバトスを追うぞ。」

「いや、ちょっと話が通じないっすけど?何で5層の悪魔生肉を追いかけるんすか。ここ、表層都市っすよ。」

「マザーの悪戯だよ。我々が増えすぎたから減らそうとしたんだろう。良いから来い。この会話で人が50人死んだかもしれんのだ」


 何か文句をつけながらも、包帯の中から現れた白銀の髪と褐色の肌を持つクラップと呼ばれた男がゆっくりと体の調子を確かめるように立った。

 なおもぼやきつつ、クラップはスティールマンと部屋をでた。その後にはレオン、ニコラス、鎖皇の3人が残る。ニコラスが鎖皇に話しかけた。

 

「それで、エルと言う青年に関してはうまく行ったのかね?」

「はい、ダンジョンに対しての強い拒否があったみたいですが、依頼が終わる頃にはダンジョンに潜る決意を決めたようです。」

「彼が潜ってくれるだけで、我々は強い味方を得る。そうだね、レオン?」


 レオンはうなづいてニコラスに返答する。


「エルは今回の件を含めて今後3つの災害クラスを取り除いてくれます。1つ目はバルバトスの都市襲来。2つ目は彼自身が都市で死んでしまい、災厄級のエネミーに転生する事、3つ目はメムって少女を探し出して解決に当たる事。特に、最後が大事なんです。彼女が救われないことには、僕らはとんでもない犠牲を払って封じるとしか出来ませんからね。」


 ニコラスはレオンの言葉に一つうなづいて、右の掌を握り締めた。


「数奇な運命を背負ってるな、そのエルと言う青年。何も起きなければ良いのだが、そうは行かないのがこの世界か…。」

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