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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
ハルカたち
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第72話 マチルダの依頼

 騒がしくなった入り口の方を見れば、そこには通りがかるダイバーに誰彼構わず話しかける女がいた。

 女が捕まえたダイバーに何かを訴えるが、女は振り払われてダイバーは去っていく。そのような事が何回も繰り返されたが、女はめげずに別のダイバーを探すのだった。


「悪いけれど、報酬が少なすぎて受ける気にはなれないな。他を当たってくれ。」

「吸血鬼の領地の近くってことは……、悪いがお嬢さん諦めな。」


 何人ものダイバーが同じようなことを女へと告げる。

 その度に、女は下を向くがすぐに頭を振りかぶって次のダイバーを探すのだった。オフィスを通さない依頼は違法ではないが、その依頼に裏がないかどうかなどの精査はされていないので詐欺だったり、簡単な依頼に聞こえたものがとんでもない難易度の依頼だったりしても受けたチームの責任となる。この女の場合、リスクに見合ったリターンが得られない事から、オフィスの審査を通らなかったんだろうと思われた。


 ハルカたちはウェポン取扱店にいくために出入り口へと向かうと、やはり女がハルカたちにすがってきた。


「お願いです。ラモン、ラモンを探してください。」

「えっと、すいません。その方がどうしたんですか?」

「吸血鬼の領土の近くで、ラモンのチームごと消息が途絶えたようなのです。お願いです。足取りだけでもいいので、調べてください。彼の発信が途絶えたのが吸血鬼の領地近くなので、私心配で。何も無ければ良いのですけれど、もしかしたらマンハントにあったのかもしれないんです。」

「とりあえず、落ち着いてください。私はまだあなたの名前も知りません。落ち着いて、教えてくれますか?」


 ハルカはとりあえず彼女に落ち着くように声をかけた。女はその言葉で我を取り戻したように、少しだけ落ち着いた様子だった。


「すみませんでした。彼のことを考えると、頭がいっぱいで……。私の名前はマチルダと言います。このソーンシティでウェポンを取り扱っている武器商人です。お願いです。私の大切な人なんです。探してください!お礼はあまり出せなくてすいません。前払い30CP、後払い40CPでお願いしたいと思います。」

「えっと、ラモンって名前の人は聞いた事があります。シティの防衛の後、解体班で一緒になりました。何かの縁です。私は受けたいと思うのですけれど。」


 ハルカはそう言って、チームメンバーの方へ向いた。


「ハルカが良いってイウナラ、ワタシは異論はないヨ!」

「吸血鬼か、上の階層では結局戦わず終いだったな。良い機会だ、アタシはやるぜ。」


 アモットとユラは即答でOKを出したが、メルは若干渋りを見せた。


「吸血鬼というのは、階層ごとでかなり強さが変わると聞いた事があるでござる。我々で対処できる相手ではない可能性があるでござるよ。場合によっては、依頼の完遂を放棄するかもしれないでござる。それでもよろしいか?」

「えぇ、探し出してもらいたいのは本心ですけれど、危険な事と言うのは承知しています。その上で、少しでも彼が戻ってくる可能性を増やしたいんです。」

「ならば、我々はこの階層にきたばかり。ウェポンの取り扱いをしているという事でござったな。装備の更新などを行いたいでござる。どうでござるか?」

「そういう事なら、私が力になる事ができます。報酬に加えて、そちらの方もサポートさせてもらいます。時間が惜しいです。引き受けてくれるなら、私の店に今から行きましょう。」 


 そう言って、マチルダはダイバーズオフィスから出てハルカ達を案内するのだった。


 案内されたマチルダの店はウェポン全般を扱っている店で、かなり大きめの建物をしている。何かの専門店ではないものの、様々な装備が一通り揃っている。4層は3層と比べるとヒトの行き来が少なく、専門店を構えるには顧客が少ないとハルカに説明をしながら奥の部屋へと案内した。そこには実物ではなく、ホログラフで展示される4層のウェポンが並んでいた。

 新しく見かけるウェポン達を前に、品定めをするハルカ達。その中で、アモットがちょこちょことハルカの近くに寄って、ハルカに疑問を尋ねた。


「ハルカちゃん、ラモンって人に心当たりあるの?」

「アモットちゃんには喋らなかったんですね。解体班で一緒に解体作業をした時に、色々とこの階層について教えてくれたんです。だから、ちょっと見過ごせなくて。」

「ナルホドね!そういう事ナラ、全然オッケーダヨ!」


 アモットはハルカが何故この依頼を受けたのかが知りたかったのだが、ハルカの説明を聞いてとりあえず納得した。これは「純粋な人助け」のようだと。そうわかると、アモットは上機嫌に鼻歌を歌って武器を見定めている。残念ながら、ここには新しいヴィークル用ウェポンは置いていなかったが、それでも機嫌を悪くする事はなかった。


 マチルダは早速ハルカ達に切り出した。


「早速ですが、何が御所望でしょう?」

「私はこのサイコガンを強化改造してもらいたいです。」

「承知いたしました。こちらは明け方までには完了させますので、一旦お預かりしますね。他の方は?」

「アタシはパスだな。ワザを教えてもらう分にとっておく。急ぎの話なら、ちょっとワザを教えてくれそうなヤツを探してくる。酒場あたりにいると思うから、後で合流しようぜ。」


 ユラはいつもの通り、ウェポンは買わずに行くつもりらしく何も購入しないと言い、新しいワザを教えてくれる人物を探しに別行動をとった。


「ワタシは魔術ウェポンを新調しようカナ。この階層に合わせたモノにシヨウ。魔術ウェポンの取り扱いはアルノ?」

「ええ、一通り揃えていますよ。どのような魔術をご希望ですか。」

「基本ハ今持ってイル魔術の発展系を買おうかな。竜鱗、火球、魔刃アタリノ。アル?」

「ええ、御座いますよ。後はお使いの魔術媒体のウェポンも強化しますか?生憎、4層では魔術媒体になるウェポンはまだ発見されておらず、複製が作れないので取り扱いに並んでないのですけれど。」


 基本的にウェポンは原型から3Dプリンターで作成される。原型、再現するプリンター、消費素材の3点から作りあげられるウェポンが決まってくる。表層都市では原型を持ち込んだとしても、再現するために必要な素材がたらず、深い階層に潜って素材を集めなければならない。プリンターも深い階層の方が性能は良いものが産出する。性能の良いウェポンは深い階層でしか手に入らない理由の一つでもある。

 逆に言えば、原型があって、それを再現するプリンターと素材があれば階層に関係なくウェポンを作る事ができる。プリンターの所有はダイバーズオフィスに登録が必要だが、まれに潜りの商人が浅い階層で強めのウェポンを売ったりもする。見つかると罰金刑になったりもする。


 そういうわけで、マチルダは4層では未だに魔術を使うための杖や魔導書のウェポンは作れないということを説明したのだった。もし原型が見つかれば、生産されて店に並ぶことになるだろう。


「某も、ウェポンの強化を頼むでござる。こちらのチャクラムをお預けするでござるよ。む、アモット殿。防具の取り扱いもしているようだが、そちらは良いのでござるか?拙者、このワイバーンマントを所望するでござるよ。」


 メルはウェポンの強化と一緒に防具を買いこんだ。ワイバーンマントは強靭なワイバーンの皮を使ったマントで、回避をする際にはためかせたマントが目眩しになって回避力を高める。攻撃が直撃してもマントの防御力が貫通させず、防御としては回避を行うメルにはピッタリの逸品だっった。


 お勧めされたアモットがショーケース風のディスプレイの中でゆっくりと回転している鎧を見定める。

(このドラゴンスケイルメイル、端末で受け取ったスペック通りなら高い運動性と防御力を兼ね備えた上に、大きな衝撃を受けた時に衝撃軽減の機能まであるんだ。うわぁ〜、欲しいけれどコレ40CPもするんだ。ちょっとどうしようか悩むかなぁ。あ、でもこれ装備しておけばユラちゃんの負担も減らせるし、ハルカちゃんを守るためにも必要だよね。うん、決まり!)


「ウン!それも欲シイ!!」

「ありがとうございます。こちら、お客様に合わせるのであちらへどうぞ。採寸して、お客様にピッタリに合わせて生成しますので。」


 そう言って、アモットは奥の部屋に通された。さすが、ダイバーを相手にする店だけあってゴーレム種族のアモットが余裕で通れる高さの天井をしている。

 少しした後に、アモットはドラゴンスケイルメイルを装備して現れた。ゴーレムの体に合わせた鎧はどちらかというと装甲板のようなスタイルになっている。取り外しも容易にできるらしく、アモットは非常に喜んでいた。


「ハルカチャンは防具は良イノ?この間、大変な目にアッタノニ!」

「えっと、ちょっと迷ってます。でも、滅多なことでは攻撃自体がこちらにこないと思えば、私がCPがを払うのは別なところだと思っちゃうんですよね。」

「ハルカチャン、ソンナに手持ちノCPって少なイノ?」


「いえ、そういうわけではないのです。勿体ないっていいますか。」

「マチルダサン、コノ人に合いそうな防具を一つ。可能な限り強化もしてクダサイ。」

 

 唐突に手を掴まれたハルカはアモットに引きづられるようにして奥の部屋へと連れられていく。苦笑いをしながらマチルダが跡をついていきハルカの採寸を行っていく。


「当店で扱っている防具となると、先ほどのドラゴンスケイルメイルがジョブを問わずに高性能なので、お勧めなのですが。」

「ナラ、それデ!やったね、ハルカチャン。お揃いの装備ダネ!!」


 支払いを終えて、ドラゴンスケイルメイルを装備したハルカが奥の部屋から出てきた。


「そうだね、お揃いになったね。うーん、私が装備しても……。いえいえ、もう装備したのですからね!これはこの先に必要な時が出てくるかもしれませんし!!」


 何やら、自分を納得させるために自分に言い聞かせているハルカだった。

 残ったウェポンの強化改造を行うマチルダは、今夜は徹夜仕事になりそうだといいながら、預かったウェポンを奥に移動する。


「もし、既に手遅れだったとしても遺体は回収して欲しいです。おそらく、吸血鬼の人狩りに会ってしまったのなら即座に死亡することはないと思うのですけれど、その分助けるのが難しくなってしまいますね。吸血鬼の領地に侵入して欲しいとはいいません。領地に入ってしまっていたら、諦められます。でも、もし連れ帰ってくれたのならお支払いは倍額にします。即金で支払いはできませんけれども、お時間かかっても必ずお支払いしますから!ああ、お願いラモン。無事でいて……。」

「大丈夫です、マチルダさん。必ず、連れ帰ってみせますよ。だから、泣かないでください。そのためにも、私達は装備を更新するんですから。」


 そう言って、泣き崩れたマチルダを励まして落ち着かせた後、静かにハルカ達は店を後にした。

 


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作者が感激して、執筆速度が向上します!


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