第65話 【悪魔騎士】討伐に向けて
ダンジョン探索準備回。今までの稼ぎで強化したり、反省したり。
その日、ダイバーオフィスのダンジョン予報についてはフロアボスの【悪魔騎士】の出現率が80%の予報が出た。
予報の結果に大声が出るダイバーが出たが、対個人で行ってるダンジョン予報に対しオフィスとしても流石に、これを打ち消すような真似はしなかった。逆に全面的に特別警戒として全ダイバーへと告知した。
3層のフロアボスが現れるともなるとこれに尻込みするダイバーが多くなる。何せ、ダンジョンの死は蘇生することができると言われても命自体は有限だ。無限に生き返るわけでもなければ、無駄に命を散らす必要はない。
その日のダイブ率はだいぶ落ち込んだが、オフィス職員としても仕方ないとしか言えなかった。逆に、無駄死にするダイバーが減ったと思えば良かった。3層のダイバーは1層のルーキーみたいに放っておけば補充されるような人材ではない。1層と2層のフロアボスを倒し、実力を見せてきた叩き上げだ。伊達に【モンスター】のランクを背負ってるわけではない。
その【モンスター】でさえも尻込みさせるのが【悪魔騎士】と呼ばれるフロアボスだ。
しかし、あるチームは逆にやる気を見せていた。生気のない顔をした少女のハルカが居るチームだ。好機とばかりに、彼女たちはカウンターで簡単な資源収集のオーダーだけを受けて事前準備に取り掛かるのだった。
ハルカたちは3層で停滞するつもりはなかった。できることなら、一刻も早く5層へ辿り着き、人類に敵対的なミストマン、「ヴァイス」に絡むことやハルカやメルが抱えている事情を解消したい。ここ最近の稼ぎで装備の更新や強化をやってきた。今なら、フロアボスへと挑めると判断していた。
その中で、一つ懸念していたことがフロアボスを含むワンダリング・エネミーは出現が確実ではないことだった。倒すつもりで潜っても空振りだったり、逆にこちらの状況が悪いところで見つけてしまうということもあり得た。
ダンジョン予報は完全ではないが、高確率で出るというのなら準備していくのは悪い手ではないと思えた。ハルカはそう思い、他の面々に声をかけた。
「事前準備して、【悪魔騎士】討伐を第一に動くんダヨネ?全然アリじゃナイ?」
「ようやく戦うわけか!腕がなるってもんだぜ!!」
「某も異論はござらん。」
アモット、ユラ、メル3人の答えは賛成だった。ここ最近のオーダーの完遂で自信は取り戻せていた。早速、それぞれの強化などの打ち合わせをオフィスの一角のスペースで行い始めた。
「私はサイコガンとフラウロスのマテリアルの強化を行ったんです。ここまで来ると、下手な防御をあげるよりもチーム全体の生存率は上がるかなと思って。防具を買うのと悩んだんですけれど。」
「イイんじゃナイ?後衛への攻撃はワタシとユラチャンで食い止める方向デ!!」
ハルカはサイコガンの精密性を上げていた。ハルカのジョブのサイオニクスシャーマンは敵に対する阻害効果が高い。命中性を上げることで、その効果もさらに見込めるようになる。
フラウロスのマテリアルの親和性をあげたことで、使える効果も増えている。第一段階は命中した対象への氷結による足止めだが、一気に親和性を上げて束縛効果とダメージ強化まで得ることができた。ハルカ自身も自分がこのチームでのアタッカーという自負が芽生えている。ルーキーの頃はアモットの戦車砲やメルの手裏剣の方が強かったが、今ではエネミーに与えるダメージ量は総合的にトップクラスだとチームメンバーからも認められていた。
若干、前回のダンジョンボスから一撃をもらった経験から防具を装備することも考えたが、ユラとアモットの前線を抜けてくる攻撃はそうないと判断し、今回は見送った。
「ワタシはモウ、戦車砲の強化したヨー!あ、デモネ?皆が思ってる方向じゃナイと思うヨ。サラに、サブヒーラーとして召喚術も学んダノダ。ブイ!」
アモットは戦車砲の強化を行った。シンプルに威力を上げると思った周囲を裏切り、装填数を上げることを選択してきた。一撃の火力ではなく総合的な火力を上げる選択をした。さらに、防御にもCPを費やした。【癒卵】という召喚術を習得した。アモットはエレメントサモナーであり、ゴーレムの特性であるヴィークル兵器の装備に隠れがちだったが、歴とした魔術師なのでもある。今まではサボってたところもあるが、1から勉強をしなおして召喚術を手に入れてきた。【癒卵】は召喚すると敵に対する壁として動ける他、自身の耐久力を消耗しながら広範囲への負傷回復を行うこともできる。入手するためには3層まで来る実力が必要な分、その見返りも大きい魔術を手に入れていた。
「アタシは相変わらずだが、ワザを覚えてきたよ。疾風迅雷と雲の型。どっちも攻撃のワザだな。」
ユラは相変わらず、ワザを覚えている。今回は前回のような多人数に対応するために、疾風迅雷を覚えて多数に対し、同時に攻撃するワザと、手の構えを変えることで素手に切れ味や耐久性を備えさせるワザとなる。チャクラの気の循環効率を上げてより回復するように鍛え直してもいる。
「某は、戦闘面ではなくダンジョン探索時の知識や判断などをできるようになるべく講習を受けたでござる。あと、マテリアルの親和性を上げて射程距離を上げる力と、チャクラムを投げることでフルツフルの大咆哮を模した音を鳴らす効果も手に入れたでござる。」
メルは戦闘を強化するのではなく、ダンジョン探索を有利にするようにダンジョンに対する知識と、解体の技術を上げる講習を受けてきた。直接的な戦力をあげたのはマテリアルの親和性上昇による効果獲得となった。大咆哮は戦闘開始時に1度だけしか使えないが、全体に対して麻痺を与える強力な効果だった。
各人で何が出来るのか、何に対して弱いのかを擦り合わせをしていく。ハルカたちのチームには明確な壁役がいない。そのせいで、エネミーに長距離攻撃が可能な相手がいるだけでユラ とアモットの壁を無効化されてしまうのが今までだった。それに対し、【癒卵】が防壁のように動くことでその穴を埋める。もしくは、大地の精霊を召喚して土壁を作り防御するという選択肢もある。
アモットが砲撃以外に目を向けることで、このチームの柔軟性は飛躍的に上がった。後は、今まで通りに各ポジションで仕事をするだけで良いと言えそうだった。
「アモット殿が臨機応変に動いてもらえるだけで随分と助かるでござるな。その分、忙しくなろうが。」
「ムシロ、今までゴメンネー。ワタシが自分ノ役割をしっかりと考えて無カッタ。許してミンナー。」
ユラの言葉にアモットが謝罪する。とは言え、今までどうにかなってたので、これからの伸び代と捉えて悪いイメージに持っていったものはいなかった。
アモット自身もふざけていたわけではなく、攻撃役として真面目に取り組んでいたことが仇となった形であることを皆が理解していたので不和は起きなかった。
「それじゃ、みなさん。資源回収の簡単なオーダーを受けてきました。この依頼自体はダメでも気にしません。第一に考えるのは【悪魔騎士】との戦闘だけと考えてください。」
ハルカはダンジョンに行くのに普通にオーダーを受けると難易度が上がりそうだったので、資源集めのオーダーだけ受けた。達成できれば、ラッキーと思う程度に受けたものだ。なので、考え違いが起きないよう、優先度は下だとはっきりと伝えた。皆も一様にうなづいた。
それを見届け、打ち合わせは終了させてダンジョンへと全員が立ち上がり向かい始めた。
ダンジョンに入るまでの道のりではちょっとした雑談をして、緊張を解していた。ジニーズキッチンはダンジョンの中に建造された都市なので、都市の外に行くだけでダンジョンに出る。比較的治安の良いルートを通り、衛兵にダイバーの身分証ともなる端末をを見せて都市をでていく。
それまでユラ とメルは今までのビジネスライクな付き合いが嘘のように仲良く会話をしている。会話の中身を聞いても、意味は全く理解できなかったが、何かヒーローモノのコミックの話のようだ。
前回、カラオケに行ってからユラとメルの仲が良くなったようだ。まさか、ユラはさておきメルにもそんな趣味があったとは思わなかったハルカだったが、クライムファイター なんて発想、コミックの中から発想を手に入れたに違いない。そう考えると、メルが危険人物に感じてきたが、今更でもある。
それよりも、アモットの方がハルカとしては気になる。さりげなく、距離が近い。今までは精神的な距離感は近い方だと思ったが、物理的なスキンシップを増やしてきた気がする。何せ、専用の人間サイズのスキンシップ用途の出力を抑えた腕を増設したくらいだ。別に気味が悪いというわけじゃないが、何とはなく気になる。
心なしか、声も弾んでいるように聞こえるのできっと良いことだと考える。緊張とは無縁に思えるアモットのことだから、これもいつも通りといえばいつも通りのことだった。
チームが結束するのは悪いことじゃないので、ハルカも別に気にしないでおく。
アモットとたわいも無い冗談を交わしつつ歩いていく。ここ数日で時折、生肉や鮮血に対する飢えや乾きを感じるが、それは仲間には黙っておく。喋ったところで5層に早く到達するわけではないし、これが元で焦って全滅しても仕方ないと思う。
今は何より、フロアボスの【悪魔騎士】に集中するべきだ。
【悪魔騎士】に対しての情報は事前に仕入れてある。巨大な両手剣による直接攻撃がメインだが、あらゆる攻撃に呪いが付属するらしい。4層到達者で、以前組んだことのあるセイジン曰く、「それまでのフロアボスの中で最も嫌らしい戦い方だった」と言っていた。気をつけるべきは、いろんな意味で回復を切らさないように、とのことだった。
状態異常に関するケアはチャクラ、ドラゴンフィストの気功・龍を使えるユラが何とかしてくれる。
だが、距離が極端に離れるとその効果は届かない。後衛にまで呪いが届くようなら、考えものだと思い回復アイテムを用意してきた。ダンジョンでは回復アイテムは専門職のテックドクター以外はあまり使わないが、ここぞとばかりに仕入れてきた。
何より、ユラが行動不能になるとチーム全体が瓦解する恐れがあるので、今までのようにユラに頼りきりにするのではなくフォローできるようにするべきだった。今からでも遅くないので、今回のダンジョン探索ではそうすると意識した。
次回から、ダンジョン探索パートに入ります。
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作者が感激して、執筆速度が向上します!




