第62話 フルツフル・サラダ
食料系エネミーは基本的にダジャレの名前がついています。ワンダリングエネミーはさらに悪魔の名前からもじっているので、ちょっと変な名前になっています。
「あの、ハルカ?魔物は食っても美味く無いんじゃないか?いや、美味いのか?」
かぶりついたハルカに少し勢いが弱くなるメル。
エネミーを倒した後にハルカは事前予告なく魔物にかぶりついた。もちろん、周囲はドン引きした。しかし、ハルカは少し後にごちそうさまでしたと言って食事を済ませた。
「ごめんね、皆。ちょっとお腹が減ってて。何故か美味しそうに見えちゃったんです。」
大多数はドン引きするだけで済んだが、唯一の生物人類であるユラはチームメイトの観点から、なかなかに冷や汗をかいた。正直、自分が食われるところなんて想像したくない。
ハルカはどうにも、近頃はお腹が減るようになっている。さすがに、チームメイトを食べたいとは思っても見ないが。しかし、魔物は美味しそうに見えたから食べてみたが、なかなかにイケた。今後は、食べれそうなものがあれば、積極的に食べてみようと思うハルカであった。
ハルカによるいきなりの食事という珍事があったが、フブキによる調査はつつがなく行われていた。
調査は過去の遺跡に残されていた魔術や魔法の形跡を調べ、どのような魔術、魔法が使われていたかを丹念に調べていく。その過程で様々な魔法や魔術の構成を調べられるらしい。
これは、普通に異能資源を漁っているダイバーにはできない芸当で、調査員がいることでダイバーなら見逃していたような異能資源が発掘されていく。
「これでご飯を食べてますからねぇ。このくらいは朝飯前ですねぇ。」
そう、片手に持った古い紙製の書物を読みながらフブキがハルカへ何をしているか、どのくらいの価値があるかを説明してくれた。どうやら、ここら辺にあるものだけでも数十CPの価値はあるらしい。どれもこれも、価値がわかる人間が見て初めて価値がつく類のものとのことだが。
「3層に限っての話だけれど、護衛をして発掘するのって割とガチでありなんじゃない?」
その光景を見てアモットが言う。しかし、ハルカの考えは違っていた。
「多分だけれど、フブキさん並に解読とか調査が行える人じゃないと意味が薄いと思うんだよね。フブキさんと同じレベルで調査ができる人って、この階層には何人くらいいるんですか?」
「なにぶん、異能しかない階層ですからねぇ。集積図書庁でも、あと3人くらいはいますかねぇ。みんながワタシみたいに自分で調査に来たがる人間じゃないことは断っておいた方が良さそうですねぇ。」
フブキの話で、このレベルで発掘が出来る調査者がいないと話が崩れるということでこの話は断念せざるを得なかった。
さすが、高い費用を払ってまで護衛をさせるだけはあると感じたハルカだった
遺跡の中で、少し違和感のある遺物があった。ここらへんには異能とテックを両方使った跡があった
「残念ねぇ、これはこの遺跡でも旧時代の技術を再開発している資料のようだわ。ワタシの求めているものには違いないけれども、そのものズバリというわけではなかった見たいねぇ。」
結局、それはどうやら旧世代の技術の再発見を目論みたモノだったようだった。その調査を続けていくと、フブキが感嘆の声をあげる。
「あらあら、これは貴重な資料だわ。さっきの発言を訂正するわ。これだけでワタシは30CPの価値をつけると思うわぁ。」
その資料の中には、旧時代のブギーマンの成立が記されていた。あくまで旧時代の後の時代で考察されたモノだが、時代が近い為に信憑性があると思われた。
それによると、ブギーマンは過去のダンジョンの中で緊急救護のロボットとして活動していた。しかし、マザーAIによる暴走でダンジョンが追加されていくにつれ、どんどんと仕様にない技術が追加されていった。本来は救護用だったが、戦闘能力、ダンジョンアクセス能力、階層間移動権限の追加、などなど。そうして、現代における迷宮のブギーマンが完成したようだった。
その中でブギーマンにはダンジョンの中で死亡した者を強化して生き返らせる能力が付加される。そして、その中でマザーAIが意図的に加えたモノではないかと結論されていた。現状ではテック技術が使われていた救護機能に魔術による蘇生を加えた結果だという仮説が支持されていたが、それが覆ることになる。
つまり、デッドギフトは暴走の結果ではなく、意図的に引き起こされていたことになる。マザーAI側にテック技術と魔法技術を組み合わせた新しい技術があったようだ。もちろん、それは人類側が生み出したモノではなく、後の世にも伝わってはいないモノだったが。
中核となる異能とテックの融合に関しては分からずじまいだったが、ダンジョン側が意図的にデッドギフトを付与する目的をもっていることが判明した。その中で、蘇生した対象の記憶を奪うことも当初の仕様に入っていたモノらしい。つまり、最初からその記憶を奪取する機能は正式に搭載されていたということだった。
「何故、そのような機能が搭載されていたのかしらねぇ。この資料では、これ以上はわからないみたいだわねぇ。」
ハルカはフブキの説明を聞いて、なぜ人から思い出を奪うのだろうか?そんなことをして、何がマザーAIの意図するところになるのだろうか、と考えていた。
物思いにふける所で、メルが先のエリアにフルツフル・サラダがいることを発見した。運悪く、奥のエリアから移動をしてきているとのことだった。
「ダンジョン調査に時間をかけ過ぎていたで御座るな。もう少し奥にいると思っていたでござるが、移動を始めたようで御座る。」
「ダンジョンボスも倒していませんから、正直言えばここで相手をしたくなかったところなんですけれどね。そうも言ってられないみたいですね。」
「残念ながら、あと数分もすればこのエリアにたどり着くと思われるで御座る。どう判断致すか、ハルカ殿。」
ダンジョンのボスも倒していないんで、このダンジョンは封鎖されたままだ。ダンジョンボスを倒し、このダンジョンのロックを解除していざというときの逃げ道を確保してから戦いたいと考えていたが。そう、うまくは行かないようだった。
「フブキさんを最後衛に回して、せめて有利に戦闘を行えるところを探しましょう。」
手近な廃墟を背後にして、その中にフブキを隠し、戦闘の準備を行う。
ダンジョンの奥から、絶叫のような鳴き声が響き渡る。おそらく、フルツフル・サラダの鳴き声だろう。まだまだ距離があるはずだが、そのとんでもない音量で遺跡に積もったチリが崩れ落ちていく。
顔をしかめながらハルカたちはエネミーが接敵するのを待った。ダンジョンの奥、遺跡の中からブワッと翼のようなものをはためかせて白い怪物がドスンと重量感のある音を立てて降り立った。
フルツフル・サラダは見た目こそライチの実が並んだサラダボウルに足が生えたような形だが
首に思える部分が餅のように伸びて襲ってくると事前にメルから説明されていたが、その生々しい首元が嫌悪感を抱かせる。翼はレタスのような葉物野菜でできているようで、うっすらと緑色をしている。旧時代の狂った技術が、生鮮食品を現地に新鮮なうちに届けようとした結果生まれた自立移動するサラダが原型だ。そもそも、その発想自体が狂っているが、異常な技術が腐敗もさせず、この奇妙な悪魔を歩かせている。
その打撃には電撃が含まれており、ダメージとともにスタンやショックなどの二次的被害が出る恐れがある攻撃だ。
「電撃攻撃はかなり厄介なもので御座る。しびれては、満足に動けなくなるはず。その時は、頼むで御座るよユラ殿。」
「任せておきな、メル。アタシのチャクラのワザで回復してやるさ。」
フルツフル・サラダが遠距離ウェポンの射程距離に入り次第、戦闘が開始された。
幸い、フルツフル・サラダはそこまで反射速度は高い部類でなかった。すぐさまに出迎えたフルツフル・サラダに向けてフォーメーションを整えて前衛にアモットとユラ、後衛にハルカとメルが移動して陣形を維持する。フルツフル・サラダは鎌首をもたげながらバチバチと電撃を口元からスパークさせる。
口火を切ったのはハルカのサイコガンだった。思念を弾丸に形成し、白い怪物へと打ち込んでいく。その弾丸は、ハルカのジョブで呼び出された邪霊の祝福を受けて相手に鈍重になる呪いが含まれている。さらに、以前手に入れたフラウロス・フラペチーノのマテリアルの効果も重ねられている。
弾丸は多少のダメージを与えつつ、相手の動きを確実に鈍らせていく。
「みんな、相手の動きを鈍らせました!攻撃を集中させましょう!!」
ハルカに続いて、バーニングチャクラムをメルが投擲する。炎の尾を引きながら投げられた戦輪は弧を描いてフルツフル・サラダを引き裂いてメルの手元へと戻っていった。引き裂かれたライチの実に炎が上がる。焦げた果実の匂いが周囲に満ちていく。
巨人化をしたユラが前面に立ち、アモットがその脇から戦車砲による攻撃を加えていく。
新調した戦車砲はアモットの肩口から発射され、かなりの打撃を与えていく。腹部のような場所に弾丸が抉り込まれ、穴を開けていく。炎柱をあげながら、フルツフル・サラダが攻撃に転じた。
「ギュオエエエエエエエエエエエエッ!!」
白い悪魔が絶叫を上げながら、その首を持ち上げて振り回す。絶叫をモロに聞いたハルカたちは体が勝手に竦んでしまった。それは、本能に呼びかけるような声で理性ではどうにも出来ない圧力だった。
そこに振り回した首が伸びて襲いかかってくる。アモットが動きの鈍さを見抜かれたのか、攻撃されて命中する。大きく装甲板を凹ませて、なんとかその場に食い止まった。
「何ヨアレー!?ちょっとグロいんでスケド!!」
かなりのダメージを負ったはずのアモットがグチを吐いていく。
「チッ、流石に後ろの方までは回復が届かねぇ!!アモットだけでも!!」
ユラが生命の力を転化して回復のオーラを放出する。緑の光に当てられたアモットは先ほどの攻撃のダメージをいくつか癒し、絶叫の支配下から逃れた。
それを見ると、フルツフル・サラダはハルカたち後衛の方へ首を向けて大きくしならせる。
後衛目掛けて、攻撃を変更したのだった。アモットやユラは迎撃する術を持たず、後衛のハルカにまで攻撃が届いてしまった。
「グゥ!?こっちの方まで伸びるなんて……!!」
攻撃を受けたハルカはさらに首を伝って電撃までが襲いかかってきた。電撃による麻痺はゾンビの体にも影響を及ぼし、ハルカの動きが止まってしまう。
こうなると乱戦にしかならず、前衛をアモットに任せて治療のためにユラが後衛側に走って合流しようとする。
後ろに手出しをさせずまいと、精一杯の攻撃を仕掛けてフルツフル・サラダの攻撃を自身で食い止めようとするアモット。もちろん、触手のように攻撃を繰り出してくるフルツフル・サラダにダメージを受け続けて、あっという間にボディが傷や粘液塗れになっていく。
「ユラチャン!なるはやデお願いネッ!!」
アモットの悲痛な声が後ろへと届く。
「わかってる、ハルカ起きろぉっ!!」
ユラが後衛側にたどり着くと、呼吸を一瞬で整えて緑の光を放出していく。その光に触れたハルカたちは受けていた状態異常を回復した。
「……、あっ!ごめんなさい、私気絶してましたっ?」
「よし、メル!ハルカを頼んだ!!アタシは前線に戻る!!」
「了解でござる。戻りの間は拙者に任されよ。」
小さい体に不釣り合いに大きいバーニングチャクラムをメルは驚異的なスピードと精密さで投げて、フルツフル・サラダから襲われるユラを守っていく。
「次から次へと、キリがないな!」
その後も、攻撃を受けるたびにアモットやハルカに回復を施してユラは攻撃になかなか出られないまま先頭が進んでいく。今もまた、アモットが緑の回復の光を受けて、凹んだボディが逆再生のように直っていく。
「コレでラスト!倒れテヨネッ!!」
アモットが叫び、最後の弾丸が放たれる。その一撃を頭部に受けて、遂にフルツフル・サラダが地面へと地響きを鳴らしながら倒れていく。
「ふぅ、ようやく終わったか。コレでマテリアルが無かったらショックすぎるな。」
「解体、頑張ってやりましょう。お疲れ様でした。一旦、この後は休憩しましょう。アモットちゃんの弾丸も生成に時間がかかりますしね。」
ユラがぼやき、ハルカが労う。幸いワンダリングエネミーは倒せたが、この後に必ずボスエネミーとの戦闘が待っている。使い切った弾丸の補充のためにも、休息が必要だった。
「ヨッシャ、マテリアル取っタドー!」
アモットの元気な声がダンジョンに響くと、チーム全体で休憩に入るのだった。
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作者が感激して、執筆速度が向上します!




