第56話 【凍れる悪魔】
エネミー名は何かのダジャレだったり、昔見たモンスターの名前だったりするので、もし心当たりがある人はそういうことです。
セイジン達はハルカを監視していた。それこそ、雇用してからずっと行っている。
しかし、ここ数日対象の動きが今までと違う。こちらに対して、故意に視線を送ってくることが増えた。
監視がバレているかもしれないが、怪しい素振りを行うまでは監視は引き続き続けていく。
チームメンバーで交代に向こうのトレーラーに行っているが、今のところは特別に変わったところはないようだ。
だが、すぐにでも尻尾を出すはずだ。なぜなら、近くの衛星都市ではドラッグチップの流行の兆しがあった。あれを作れるのはヴァイスと呼ばれるミストマンだけのはず。
事前に調べた情報では、ドラッグチップの製造などという技術を持っているものはいないはずだった。ましてや、ジョブ能力を付与するなどというとんでもない効果、洗脳などの特殊な部類の効果を意図的に持たせることは他にできるものはいないはずだ。
危険性と隣り合わせでとんでもない快楽が手に入る、一般人でもジョブ能力を一時的に手に入れて強くなることができる、すでにジョブ能力を手に入れている上に第二、第三のジョブ能力を得るダイバーなど、顧客は色々といる。規制をかけただけではもうすでに止められないところまで来ていた。表層都市と違って、法規制が緩いのも後押ししている原因だった。ダイバーオフィスが頑張ったところで、限界があったのであった。
早いところ、何とかしないと手遅れになる。その予感が外れて欲しいと願うセイジンであった。
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ハルカは居心地の悪さを覚えながらも、トレーラーに揺られながら監視業務を続けていた。
今はセイジンのチームメンバーのヒーラーであるアランがトレーラーに同乗している。寡黙というほどではないが、筋骨隆々の偉丈夫は黙っていると圧を感じる。おそらく、セイジン側の監視の意味も込めた同乗とハルカは捉えていた。
祖霊の見せた夢は間違いということはない、そう思っている。受け取り方、解釈の仕方により間違うこともあるかもしれないが、あれほどハッキリと警告をしてきた夢はなかった。
セイジンと一度しっかりと話し合う必要があると感じていたが、なかなか話をする機会を持てないで3日目を終えようとしていた。
思い悩むハルカを横に、話を聞こうとしたアモットが叫び声を上げた。
「大変ダヨ!ワンダリングエネミー発見!!後方からスゴイ勢いで追いかけてキテル!!」
アモットの声に従い、後ろ側を見ると一つ目の巨大な頭部を持ち、6本の腕と8本の脚を持った奇妙な存在がこちらへと走り寄ってくるところだった。その奇妙な存在はこちらのトレーラーと同じぐらいの大きさを持ち、6本の腕にはそれぞれレイピアのようにも見える尖った刺を生やしている。
「【凍える悪魔】だな。存在を確認した。いずれ追いつかれる。この先に開けた場所があるはずだ、そこで迎え撃つ。ちょうどいい、君たちにも討伐の手伝いをしてもらうぞ。」
セイジンが有無を言わさぬ勢いでハルカ達の端末にボイスチャットで連絡してきた。
【凍える悪魔】はこの辺りにいるワンダリングエネミーの1種で、姿形は様々だがここらでは上位に相当する強さのエネミーだ。ハルカ達は3層に上がって、いきなりこのクラスに挟まれて救難信号を飛ばした経緯があり、このエネミーには各人思うところがあった。
「ちょうど良い、アタシたちもあの時は運が悪かったってことを証明しようぜ!」
「確かに、2体同時でなければ拙者達も勝機があるで御座るよ。」
ユラもメルもやる気は十分のようで、接敵に際し構えている。
「ハルカはダイジョーブ?」
アモットがハルカを気にかけて声をかけた。ハルカはこの戦闘が終わり次第、セイジンに話をすることを心に決めて、気持ちを切り替えようと努めた。
「うん、アモットちゃん。大丈夫だよ。今はこの戦闘を切り抜けよう!」
戦いに際し、準備をし始めるハルカ達に弾薬を装填しながらアランが声をかけてきた。
「こちら側もニコとセイジン、俺が戦闘に参加する。大船に乗ったつもりで居な。即死さえしなけりゃ、回復薬が飛ばせる。重要器官さえ残ってりゃ甦生だってやれるからな。大丈夫、ありゃあニコよりは怖くねぇぜ。」
白い歯を覗かせながら笑い、アランはテックスーツのヘルメットを被り戦闘準備を済ませた。
ニコとユラの戦いでは、瞬間的にユラが圧倒的な攻撃力の前に即死してしまったが、本来なら重要器官さえ残っていれば甦生だってやれるジョブである。
タンク、アタッカー、ヒーラーが、しかも自分たちよりも格上のメンバーが参加している。いつもよりも楽に戦える。後はこちらが損害を出さないように立ち回ることに気を回せば良い戦いに思えた。
ユラとアモットが速度を落としたトレーラーから飛び降りる。前を走っていた戦車からニコとセイジンが武装を整えて前線に合流した。
「【凍える悪魔】は戦うまでは能力が把握できない。搦手が怖いから、何かあればアランに連絡してくれ。すぐに回復を飛ばさせる。」
「今度は共闘だよ。ユラ、頑張ろうね!」
轟音を鳴らしながら、ニコが巨大なハンマーを振り回す。振り回すたびに速度が上昇していき、これ以上ないほどの速度で振り回した後、一閃させて雄叫びを上げて【凍える悪魔】目掛けて飛び出していった。
サイキックディフェンダーの上位ジョブであるサイドラグーンのセイジンは思念を4足歩行の竜の形に象らせて、それに騎乗した。さらに背中に背負っていた巨大な盾、腰に吊るした剣2本を浮かべて周囲を旋回させた。セイジンを乗せた竜は咆哮を上げてニコの後を追うように戦場を駆けていった。
前方の戦車はトレーラーとの連結は切らずに、いざとなれば戦線を離脱できるように準備している。最悪、前方からエネミーが出現する可能性も踏まえて、バレリアはスカイが操る戦車側に乗っている。
ハルカとメル、アランの後衛組みはトレーラーに乗ったまま、戦場を俯瞰している。メルが【凍える悪魔】の動きから先手を取れるように仲間に指示を出す。
「ほぅ、そっちの小さい嬢ちゃんは【シノビ】だったか。先手を取れる人材がいねぇから、ウチのチームは後手に回ることが多かったんだが、こいつはありがたいな。」
セイジンのチームはイニシアティブを敵に与えて、攻撃を受けたニコが狂化し、その後のダメージコントロールをセイジンが行い、アランが回復でバックアップするのが基本だった。そこにバレリアとスカイがアタッカーとして加わる形である。
攻撃で先手を取れるのは非常に珍しいことだった。
ニコが勢いをつけたハンマーを【凍える悪魔】に叩きつけた。相手は3本の腕で受け切り、逆に攻撃を仕掛けてきた。胴部に攻撃を受け、鮮血を迸らせるがニコは吠えて力を漲らせる。ベルセルクは手傷を受けて、狂化することで本領を発揮する。受けた負傷を無視し、その怒りを持って攻撃力に転化する。その攻撃力は他の前衛ジョブに勝るとも劣らない。
防御に欠けるので、単独での活躍は難しいがセイジンが防御を担当することによってその弱点は取り除かれる。
強化したニコの【凍える悪魔】への次の攻撃は先ほどの比ではない攻撃が襲うことになる。
ニコの攻撃は防がれたが、続くユラの攻撃は一味違った。
「この一撃を受けてみろ、怪物めっ!!」
叫びながら、巨人化を行い急激な攻撃位置の変化を伴った攻撃は【凍れる悪魔】をして防御することはできなかった。
狂化したニコほどの攻撃力は持たないが、的確に相手の芯をとらえた連撃が【凍れる悪魔】を襲う。攻撃を与えるたびに、ニコの拳や脚に黄金の輝きを放ち始める。ドラゴンフィストの竜気による輝きがさらに攻撃力を上げていく。ユラもまた、ニコと似てスロースターターのジョブであり、攻撃が命中していくほどに攻撃力が上がっていく能力を持っていた。
同じ師匠を仰ぐ弟子達はジョブは違えど、似たような特性を持っていた。
ユラに続きメルが攻撃を行う。しかし、【凍れる悪魔】は容易く弾いた。流石に強化はしているが、そろそろ1層の武器は通用しづらくなってきていた。メルも武器の更新をしたいところだった。
メルの攻撃は3本中、1本は命中してかすり傷程度のダメージを与えるに留まった。
「くっ、やはりウェポンの更新が必須!拙者は今しばらくは縁の下の力持ちとなるで御座るよ。」
メルの能力は戦闘だけではなく、探索中のそこかしこで活躍する。先手を取ったり、探索中の罠の感知や解除なども含めると様々なところで活躍する。故に、ウェポンの性能を2の次にしてしまっていたが、そろそろ通用しなくなりつつあることに内心では歯噛みしていた。
メルの攻撃がいなされた後、セイジンは詰めるように【凍れる悪魔】の前に陣取り攻撃を行った。宙に浮かべた武器群を流星のように飛ばして相手にぶつけていく。サイドラグーンの能力の一つ、プラネットウェポンは宙に浮く武器群で攻防一体の動きを可能にする。相手を攻撃する以外に、相手からの攻撃を受けさせることもできる。
この能力と、召喚した思念体の竜による防御、咆哮による阻害能力がサイドラグーンの強みであった。
サイドラグーンの致命的な弱点は、召喚した竜が消されることだが、生命力を共有化した竜は受けたダメージをどちらかに割り振ることで致命傷を避けることができる。セイジンが受けたダメージはアランによる回復が可能であり、瞬間的に大ダメージを受けなければ問題になることは少ない。
(【凍れる悪魔】のダメージなら、竜が一撃で消し飛ぶようなことはない。アランの消耗を抑えるためにも攻撃は竜で受けるか…。何はともあれ、ここは彼女達の実力を見させてもらおうか。)
セイジンは今までの経験から判断し、この後の戦闘の流れを予測していく。バレリアとスカイをバックアップに残しているが、ハルカたちのチームがいるので頭数は足りている。実力が未知数なところもあるが、今後敵対することも考えて、今ここで実力を見定めておきたいという腹積りもあった。
前線に居るアモットは景気良く戦車砲を発射していく。このチーム構成だと、普段は自分が壁役を兼任するが、今日に限っては壁が3人も居るので、アモット自身はアタッカーとして参加した方がチームに貢献できると判断した。
「良い加減、この階層に相応シイ装備にするベキダヨネー。火力不足がちょっと目につくカナー。」
頭部に命中した砲弾だが、相手は平然としている。アモットは期待したほどのダメージを【凍れる悪魔】には与えていないことを感じ取った。
「流石、3層のワンダリングエネミーなだけありますね。アモットちゃんの大砲でも大ダメージとは行きませんか…。私の武器じゃ尚更ですね。」
ハルカはサイコガンを構えて、相手の目玉めがけて撃った。しかし、レイピアのような腕に阻まれて頭部に傷をつけるに終わった。
「まぁ、私の場合はダメージをちょっとでも与えることが重要なので、これで良いんですけれどね。」
命中したところから氷結し、【凍れる悪魔】の動きを阻み始めた。
なけなしのCPを支払って、フラウロス・フラペチーノの素材をサイコガンに組み込んだ甲斐があったというものだ。素材を使った強化は使用者とウェポンを密接にする。具体的に言えば、使用者が限定されてウェポンを売買することができなくなる。いわゆる専用装備となる。階層が下り、より良い装備が出たからといって気軽に売れなくなってしまうことは大きなデメリットでもあった。
ハルカは現状を鑑み、素材を使った改造に踏み切った。サイオニクスシャーマンの特徴でもある阻害付与の能力強化、【邪霊の誘惑】と【死霊の囁き】とフラウロス・フラペチーノの冷凍効果は3層攻略に当たって早い段階で機能するようにしておきたかった。そして、それは見事なまでに功を奏していた。
冷気で雁字搦めになった【凍れる悪魔】は皮肉にも名前の通りに凍ったことで動きを劇的に鈍くしていた。回避力が落ちたことで竜の咆哮も受けていた【凍れる悪魔】は大幅に弱体化していった。
戦車側で見ていたバレリアは双眼鏡で戦況を見守っていたが、冷凍を受けた【凍れる悪魔】を見て隣にいるスカイへと伝えた。
「こりゃ、時間の問題だな。詰んだぞ、あの化け物。」
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作者が感激して、執筆速度が向上します!




