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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
ハルカたち
55/97

第55話 3層の旅路

 3層のダンジョン内はどこかしら、ファンタジックな要素が漂うエリアが多い。石で出来た遺跡のような内装が多く、出てくるエネミーも魔物というべき見た目が多い。

 そんな風景のダンジョンの中を2両編成の車両が通っていく。トレーラーコンテナを繋いだ戦車が履帯をギュラギュラと音を立てながら牽引していく。セイジン率いる小規模キャラバンの【ベイビーバス】と名付けられた重戦車だ。専任の運転手のスカイが運転し、戦車の上にテッククルセイダーのセイジンとプロミスマスターのバレリアが乗ってそれぞれが側方の敵影を警戒している。

 猫耳を生やした二足歩行のアザラシという珍しいキメラ型の獣人ケモであるバレリアがカタナを担ぎながら、セイジンに言った。


「あっちのコンテナはニコだけで良かったのかい?」

「ああ、距離的に俺たちが駆け寄るまでなら問題ないだろう。バレリア、珍しく心配性だな。」

「そういうわけじゃ無いよ。ただ、アンタはよっぽどニコを信頼してるんだなって思っただけだ。」


 バレリアはぶっきらぼうにセイジンに言葉をぶつけると、ちらりと背後のトレーラーコンテナを見やる。そこには今回雇った3層攻略中のダイバーチームが雇われて乗り込んでいた。


****

 ハルカたちはセイジンに雇われてトレーラーコンテナ側に乗り込み、屋根に腰掛けてエネミーが向かってこないかを警戒していた。一人当たりの報酬は前払いで20CP、後払いが30CPの合計50CPだった。この額はこの階層でも高い部類になる。さらに倒したエネミーのドロップもこちら持ちで良いということで、待遇面では文句の付け所がなかったのだった。

 気になる点と言えば、何故か狂戦士のニコだけがこちら側に乗り込んでいて、戦闘試合の内容についてユラ と語っているところだった。


「ジョブが格闘家とか、マジでテンパランス師匠の直接の弟子ッスね。ワラヒはダンジョンの歩き方と戦い方の基本しか教わってないから、そっちの方が弟子っぽいっすよ。」

「いいや、そっちの強さは師匠譲りというべきだ。アンタのあの3連撃、回復する暇もなく攻撃されてどうしようもなかった。アタシの完敗だった。」

「いやぁ、あそこで良い攻撃貰わなかったら時間切れしてワラヒの負けッスよ。守りの硬さはハンパなかったっスよ。そこは誇って良いところッスよ。マジでワラヒも狂化するまでは手が出なかったッスからねー。」


 お互いに健闘を称え合うニコとユラ。お互い、同じ師についた者同士で通じ合うものがあったようで、鬼気迫る剣幕で挑んだとは思えないほどにユラはニコと会話を弾ませていた。会話の内容は直近の修行方法や鍛錬法に移っていくようで、横から聞いていたアモットは聞き耳を立てるのを切り上げた。 

 アモットは横に浮かぶメルにぼやく。


「ワタシもその場で見たかったナー、ソレ。メルちゃんから録画記録もらったケレド、やっぱ違うヨネ?」

「我慢するでござるよ、流石に2回もこんなところで死なせるわけには行かぬでござる。」


 結局、アモットは試合に間に合わずにユラが記憶媒体に移した視野記録をダウンロードして見ていた。それは臨場感にあふれた映像であり、その場で感じた記録そのものを追体験していたが、どうしても他人の経験という感覚がついて回るためライブで参加した経験とは違うと感じるのが一般的であった。

 どちらも広い意味でのロボット(魔法由来と、超科学由来の違いはあるが)であり、中間を介する装置を使えば、比較的に視野記録や聴覚記録などは共有しやすかった。


 ちなみにハルカは以前のエスパーの能力のように、サイオニクス・シャーマンの能力の一つである「祖霊の導き」を使えばある程度の情報を集められる。人の記憶や、過去の情報のみに縛られないのである意味では万能性が増したとも言える。ただ、全ては祖霊が見せる夢の形でしか取得できないため、アモットたちのようなダイレクトな経験の共有は出来ない。


(いいなぁ、感覚共有。エスパーだった頃は私も見れたんですけどね。)


 結構使い勝手が良かったので、時折エスパー時代が恋しくなるハルカだったりする。


「ねぇねぇ、ハルカって『さいおにくすしゃーまん』ッスよね?占いとかできるんすか?」

「やろうと思えば、できると思いますけれど。どんな占いをご希望ですか?」

「ウチのチームのセイジンって男がいるッスけど、セイジンが欲しがってるものが知りたいっす。昔、っていうほど前でも無いんスけど、一度死んじゃってから、憑物が落ちたようにスッキリしちゃって。死ぬ前のセイジンが欲しがってたものが知りたいッス。」


 口調とは裏腹に、瞳には真剣な願いが宿って見えた。さすがに、ハルカもこれは断りづらい。他人のプライベートなことを覗き見るのは良く無いなぁ、と思いつつも今更かと思って苦笑いする。


「生きてる人の死ぬ前の願いって、ややこしい占い内容ですねぇ…。いいですよ、やって見ます。」

「おお!頼んだかいがあったッスよ!よろしくお願いしますッス!」


 占いと言っても、特別不思議なことはやったりしない。人によるのかもしれないが、ハルカの場合は別にカードを使ったり水晶を覗いたりもしない。ただ、横になって眠るだけだ。受動的な未来や選択肢を垣間見る時は向こうからヴィジョンを押し付けられるが、能動的に見る場合はこうやって「夢」を見るのである。


「へー、なんか道具とか使うと思ってたんスけど、本当にシンプルに『夢』で見るんスね。」


 ちょっと肩透かしを喰らったかのような顔をしてニコが感想を述べる。周りのチームメイトも似たような感想だったことを各自が思い出して、苦笑いを浮かべる。


 その後、数分後にハルカがガバッと起き出した。見張り番を変えて今はユラ とアモットが外を見ていた。メルとニコが何事かと近づいてくる。


「えっと、あー…。大丈夫です。ご心配なさらずに。」

「拙者から見て、とてもそんな顔をしているようには見えんでござる。何を見たでござるか。」

「セイジンのことッスよね?何か変なものでも憑いてたッスか?」


 二人がそれぞれに心配そうに顔を近づけてくる。それを両手で制しておく。


「えっと、セイジンさんのことなんですけれど。一度死ぬまでに持ってた感情はネガティブなものだったと思います。同時に女性の顔が見えました。その人に対して、何か暗い感情を持ってたんだと思いますけれど。それ以上は申し訳ないのですが、夢で伝えてくることはありませんでした。おそらく、ブギーマンの【改造の代償】に無くしてしまわれたのかと。」

「そうっスか…。セイジンはあまり自分のことは話したがらないから、上流育ちのイイとこの出ってくらいしか皆知らないンスよね。それが何でこんなところでダイバー稼業してるか、って話なんスけれど。まぁ、仕方ないっすね。今度、目一杯酒でも飲ませて吐かせるッスよ!」


 それは、物理的に吐く可能性が高そうだとハルカは思った。そして、夢の中で祖霊が声高に叫んでいたことを思い出す。


(セイジンに気を付けろ…。セイジンに気を付けろ…。男は…お前を疑っている。疑いを晴らせ…っ!)


****

 3層から4層への旅は今の所は順調だった。ワンダリングエネミーの出現もなく、トレーラー相手に群がってくるエネミーの襲撃は元からセイジンたちだけでも十分に感じた。しかし、カネを払われて雇われた以上は働かないわけにもいかず、むしろ安全にこの階層の攻略をしていけるということでありがたい部分も大きかった。

 旅程としては4泊5日の予定だったが、当然のことながらエネミーの遭遇や罠の解除にかかる時間やかかった時のリカバリー、予定していた道が使えなくなった等のイレギュラーに応じて時間は増える。今の所は、それらによる延長はなさそうだった。

 

「それデ、それデ!?アタシも新しい戦車砲にしたいんデスケド、イマイチいいのがピンと来てなくッテー?」

「なるほど、アモットさんだと戦車に直接取り付けるわけじゃ無いから勝手が違うかもしれないけれど。例えば3層で手に入るウェポンからなら…、アレなんかがいいかもしれない。」

「エー、ナニナニー?」


 その日のキャンプでアモットが楽しそうに話す相手はベイビーバスに乗り込んでいた運転手のスカイだった。そして、その隣に黙って酒を飲みながらただならぬ形相をした猫耳アザラシがいた。バレリアである。

 バレリアからしてみれば、恋人がロボット相手にとは言え懇切丁寧に何か熱心に教えている姿は、ある種口説いているようにも見えた。


(寝る前に説教してやる、覚悟しろよスカイっ!)


 何故か、悪寒がするスカイであった。


 ハルカはキャンプの中で、アモットの隣に座りながら普通の食事を取るフリをしていた。後で消化ができない食事を吐く必要があるが、胃腸が動いていないのだから仕方ない。キャンプの間は食事はセイジンのチームが受け持ってくれるようだった。栄養カプセルで済まされるのかと思いきや、大盤振る舞いと思えた。聞けば、アランの趣味らしく食事は全てアランが段取りしていた。


 その中で、キャンプ中にセイジンとハルカは何度か目があった。というよりも、気がつけばセイジンがこちらを見ているという形だ。夢の中の【祖霊の導き】が頭の中に残響して、ハルカは軽くため息をついた。

 多分、そういうことなのだ。ヴァイスなんておかしなミストマンと関わったばっかりに自分はゾンビになり、ダイバーなんて仕事を始めて、ベテランでも躊躇する5層を目指して人間に戻ろうとしている。この何処かにセイジンは引っかかっていると思う。自己紹介の時に、特異体質とは言ったが、ゾンビだとは公言していない。1層のダイバーズオフィスに問い合わせれば簡単に身辺情報は手に入ると思うから、調べる気だったらとっくにゾンビだということはバレていると思う。

 だとしたら、残っているのはヴァイスと繋がりのある者だということ。あの特殊なドラッグチップを作ったり出来る存在だ。誰もが気にかける存在だと思う。もし、ヴァイスとの繋がりを疑っているとすれば、問題は【どちら側なのか】ということだろう。

 人類側なのか、ダンジョン側なのか。実際にはヴァイスは自己のためにダンジョンを裏切ろうとしているのだから、ダンジョン側では無い。とは言え、人類側なのかと言われるとそれも違う。そんな存在に手を貸しているのだから、人類にとっての裏切り行為とみなされても不思議じゃ無いと思っている。


 どう立ち回ればいいのか。エスパーだった時なら、精神感応を行えば簡単に話が済む、もしくはスムーズにことを運べそうな気がする。エスパーって便利だったんだなぁ、とまた思ってしまった。よりダンジョンの深部に適した能力に組み変わったことが裏目に出るとは思わなかった。

 とにかく、セイジンに疑われないように動く。可能なら、正直に話してしまっても問題はないだろう。ヴァイスとの関係は説明するのが難しいけれど、ヴァイスから関係を黙っていろとは言われていない。

 セイジンから、ヴァイスの名前を出された時にどう動くべきなのか。ヴァイスを利用したい側なのか、警戒している側なのか。利用するのはオススメ出来なかった。警戒する側なら、自分たちが危険ではないことを示すしかない。


「への字グチデご飯を食べるのは美味しくナイんじゃナイ?」


 アモットに表情を指摘されて、慌ててアモットに向けて笑顔を作る。とりあえず、今夜にでもチームメンバーには疑念を打ち明けておこう。そう考えるとハルカは残っていた僅かな食事をかき込み、ごちそうさまでした、と言ってアランに器を返してトレーラーに戻っていった。

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作者が感激して、執筆速度が向上します!


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