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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
ハルカたち
54/97

第54話 戦闘試合

少しづつ、テンポが戻ってきたと思います。

 ダイバーズオフィスにハルカとメルがたどり着くと、群衆がダイバーズオフィス前に群がっていた。


「なんでしょうね、メルさん。」


 ハルカに問われ、宙に浮かんだ機械妖精ティンクは背中に浮かべた球体重力操作装置を調節し、高度を上げて群衆の上から輪の中を見下ろした。


「あ、中心にユラと女の人が見えるでござる。もっと前に行くでござるよ、ハルカ。」


 そこにはチームメイトの戦闘妖精スプリガンユラと巨大なハンマーを背中に背負った不敵に微笑む女性を中心に野次馬が周囲をぐるりと取り囲んでいた。

野次馬をかき分けて中心へと向かうとユラが笑みを浮かべた女性に啖呵を切るところだった。


「狂戦士のニコ!ここであったが100年目だっ!!テンパランス師匠から受けた試練をここで果たさせてもらうぞ!!」


それに対し、微笑みを浮かべていた女「ニコ」が口を開いて答えた。


「いいっすよ!ワラヒに妹弟子がいるなんて知らなかったッスけど、ここ最近退屈していたところッス。面白いッスね、受けてたつッスよ。名前はなんて言うんスか、ちっこい人?」

「アタシの名前はユラ。スプリガンのユラだ!覚えておけ!!」


そういうと、ユラは構えた。それは、相手の攻撃を受け止める防御の姿勢だった。


「アタシが5分耐え切ったら、アタシの勝ち。そうじゃなかったらオマエの勝ち。それでどうだ?」

「ワラヒに有利な条件に聞こえるッス。そんなんで良いんスか?」


 構えたユラに対し、ニコは疑問をぶつけた。4層に到達した狂戦士を相手に、3層のダイバーが耐え切れるとは思ってもいなかったからだ。

 その問いかけに対し、ユラもまた笑みを浮かべて答えた。


「それで勝てなきゃ、アンタに挑んだ意味がない。」

「了解っスよ。なら、こういう時の見届け人のアランにレフェリーを頼むっスよ。いいっすか?」


 野次馬の中から、割って出たテックスーツを着込んだ男が手を上げて答えた。テッククルセイダーからテックメディックに転身した変わり種、ニコのチームメイトのアランだった。その横にはより戦闘に向いた重装甲のテックスーツを着た男も並んでいる。

 

「お前さんが戦い始めたら、止めようがあるのは俺くらいだろうからな。危険な試合になりそうだったら容赦無くストップかけるからな。」


 アランと呼ばれた男がそうニコへと言葉を返す。それに対してニコは朗らかな笑顔を浮かべながら、背負っていた巨大なハンマーを一振り旋回させて構えた。

 

「では、アランの合図で始めさせてもらうっスよ。準備はいいっスか?」

「文句なしだよ。ドラゴンフィストのユラだ。いつでもかかってこい!」

「良いっすね!ベルセルクのニコッス。手加減は出来ないんで、よろしく頼むっすよ!」


 二人が名乗り合い、一拍置いてアランが声を張り上げる。


「始めっ!!」


 ユラを制止するどころか、成り行きを見届けるままにダイバー同士の試合が始まってしまった。ハルカとメルは困惑しながらも事態を見守るしか無くなってしまった。

 ユラが常々に師匠から課題として、姉弟子と戦い勝つことを課されたと言っているのを知ってはいたが、まさかこんなところで出会うとは思ってもいなかった。

 ここしばらくのユラは停滞していたチームの中では覇気があり、チームの淀んだ空気を良くも悪くもかき混ぜてくれていた。新しい技を覚え、チームの中でタンクとしての位置を確立させつつあった。そして、停滞することに喝を入れて前に進むことを常に提言していた。

 その彼女の旅の目的が、この戦いにこめられていた。


「ど、どうしましょう、ユラさん!?大丈夫でしょうか!?」

「もう、私たちが手を出せる段階は通り過ぎてしまったでござるゆえ、見守るしか他ありませぬ。」


 戸惑うハルカの問いかけに答えるユラ。戦闘試合に横入りをかけるのは野暮というのはダイバーの暗黙の了解だった。もし、手助けしようものならこの野次馬たちが納得しなくなってしまう。

 それ以外にも、アランと言われた男がテックメディックならよほどのことがない限り、大事故には発展しないだろうという予想もついた。即死さえしなければ、蘇生技術があるテックメディックなら、この戦闘試合にも全幅の信頼をおいて任せることができる。


 審判を任されたアランの視界の隅にはタイマーが表示、残り時間を示していた。刻一刻と減り続けていく時間だが、攻め手のニコの勢いが思ったよりも鈍いことを長い付き合いになったアランは気づいていた。


(まさか、あれだけ啖呵切られて手加減してるのか?いつものバーサークはまだしてないってことかよ?)


 ニコの思惑を測り兼ねつつ、何かあってもすぐに回復を飛ばす準備だけはしておく。隣に控えたチームメイトのテッククルセイダーのセイジンも何か起こる前に食い止めるつもりだ。

 

 防御の姿勢を崩さず、ニコの攻撃を捌いていくユラは苛立ちを抑え切れないでいた。それは、自分への攻撃が明確に手加減されたいると感じたからだ。


(アタシのレベルじゃ、本気で戦えないってことかよ。本気でやりあえないってことなら、不本意だけれどこっちから手を出させてもらう。)


 残り時間は1分を切ったというところで、ユラは相手を本気にさせるつもりで渾身の一撃をニコにぶつけた。



 それがこの試合の大きな【間違え】だった。



 ニコは凄惨な笑みを浮かべつつ、ユラの大振りの突きに対し顔面から迎え撃った。額で受け止め、盛大に血を流すニコ。

 一瞬、ニコに対しカバーをしようとしたアランとセイジン二人も判断を見誤った。ニコが狂戦士であることをこの場の全員が今の今ままで忘れていた。単なる戦士だと、戦いの流れのなかで思い込んでしまっていた。

 

「!!!!ッ!!!!!!!!!!!ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 額を割り、血を流しおそらくは脳震盪も起こしているだろうニコはそれまでの動きを一変させ、急速かつ精密な攻撃を怒涛の勢いで仕掛けていく。その動きはまさに狂戦士。一気に動きが変わったニコに対して、合わせられないユラは凄まじい連撃を捌き切れずに受けていく。普段使う回復のワザも、防御の受けも意味をなさずに巨大なハンマーを受けとめた片腕がちぎれ飛び、モロに受けた胴体からは内臓が後方へはみ出すほどだった。

 ニコが名付けたワザの組み合わせ、【オーバーレイジ】がエネミー相手ではなく人類へと振るわれるとどうなるのか、というのを予測しないタイミングで知らされたアランとセイジンだった。慌てて、アランがニコの狂化を解くがすでに全てが遅かった。


 まさかの展開に声も出ないハルカとメルだった。

 こんなにあっさりと死んでしまうとは思わなかった。

 今までの潜り抜けた死線はなんだったのかと思うくらいに呆気ない最後だった。


 ここで、ユラにとっては不幸中の幸いがあった。ここはダンジョン内の都市であり、表層都市と違う点があった。

 この場で死んだものに対しては、ブギーマンの蘇生が行われるということだった。


 唖然とした群衆を尻目に、遠くから何かを引きずる音が聞こえてきた。それは、不気味な者(ブギーマン)が手術道具を引きずりながら歩む音だ。


「ここここ知らに、我々の手を必要とするk他がいらっしゃいますね?こちらのかtで数ね。では、手術オペを開始いたしms」


 有無を言わせず、ブギーマンによる蘇生手術が行われる。

 

 飛び散った内臓を洗浄、修復、再度収納。千切れとんだ腕をつなぎ合わせ、ナノマシンを投与して再生していく。出鱈目な医療技術が、現在における奇跡を目の前で成し遂げていく。


「了解いたしました。不づいするオpションhあ、【庇い尽くす脊椎】dsね。遺書おく手術を開始いたしms」


 ブギーマンによる移植手術が行われ、蘇生に関する一連の流れが終了した。

 行末を見守っていた群衆が安堵のため息をもらす。少ない人数が過去に似た経験を持つのだろう。ここまでくれば安心だと、そういう顔をしていた。


 ハルカもメルも、初めての体験であり他ならぬチームメイトの死をこんな形で経験するとは思わわず足が動かなかったが、周囲の雰囲気を感じ取り、二人ともユラの元に駆け寄る。


「だ、だ、大丈夫ですかユラさん!?」

「体は動くでござるか!?」


 ぼんやりとした感じのユラ、全ては終わったと何処かへと去っていくブギーマン。察したニコは場を退いてハルカたちに譲る。

 

「あー、アタシは負けたのか?」

「そうなるっすね、あそこで仕掛けられなかったら危うかったっス。狂戦士は手傷を負ってナンボなので、無傷のまま本気を出すのって、無理なんスよね。」

「ちっくしょう、そういうことかよ…。それじゃあ、アタシの完敗だ。あんたの本気を受け止めて負けたわけだからな。」 


 後ろから、審判役のアランがすまなそうに声をかける


「すまなかった、万全の準備をしていたつもりだったが…。間に合わなかった。」

「いや、アタシの実力が足りなかっただけだ。アンタたちが謝ることじゃないよ。あー、アタシがチームで最初の蘇生者かぁ。」


 どこか、ピントのズレた悔しがり方をするユラだった。

 

「これで、勝ったら師匠探して、さらにパワーアップして皆の力になれると思ったんだけどなぁ。うーん、やっぱり2層に戻るべきじゃないか?」

「いえ、3層で稼ぐ方が効率自体は間違い無いんですよ。この間のワンダリングエネミーの2連続は運が悪かったとしか言えないので。」

「でも、資金不足で潜る準備ができないんじゃ仕方ないだろう?」

「確かに、それは言えるんですけれどね…。」


 どうやら、資金不足で3層攻略が手間取ってるようだった。それを察したセイジンが提案する。


「聞いたところ、資金不足で攻略ができないってことなのか?なら、俺たちのキャラバンに雇われないか?4層までいくから、エリアボスは倒すつもりはないが、3層の攻略と資金稼ぎが同時にできる。どうだ、試合の手落ちの詫びというわけにはなるまいが…。」


 テッククルセイダーの男の提案を聞いて、資金不足と攻略の同時達成をできるなら、とハルカとメルが顔を見合わせて話し込む。ユラはこういう時はあまり口を出さない。できることをするだけ、というスタンスなのだ。


 遠隔通信でアモットの了承を得て、ハルカたちは申し出を受けることにした。


「私はハルカ、このチームのリーダーです。よろしくお願いしますね。」

「俺はセイジン、このチームで小規模キャラバン【ベイビーバス】をしている。こちらこそ、よろしく頼む。」 


 この時、ハルカはセイジンの目にどこか値踏みするような輝きを感じていたが、その時はあまり気にすることはなかった。

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