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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
ハルカたち
52/97

第52話 セイジンへのオーダー

めちゃくちゃ間が開きました。スイッチ版のArkが良くないのですよ。あれは、時間を溶かしますね。

今回はリハビリがてら、短めです。

 久々に男は1層へと戻ってきていた。彼は普段2層と3層を行き来する個人キャラバンを営んでいる。しかし、オフィスの代表者であるオキロ所長からのメールでの招集命令が届き、こちらのダイバーズオフィスへ来ていたのだった。

 オフィスの雰囲気が懐かしく感じる。少しの間しか離れていないはずだが、実にしばらくぶりに感じるのは個人キャラバンが順調に軌道に乗って忙しくなっていたからだろうか。


 カウンターに腰掛けながら、その小さな体にふさわしい小さな手で端末をいじっている顔馴染みの受付員に声をかけると、オキロ所長の都合が空いているのかを調べてもらう。調べてもらっている間にリカからセイジンの近況を尋ねられた。


「ねぇセイジン、確か今は2層を拠点にして3層と行き来して商売してるのよね?そっちの方はどうなの?」

「何事もなしだ、リカ。商売としては順調そのものだ。今、3層からの商品をこっちに持ってきたから、あとで卸させてもらうよ。それよりも、オキロ所長にアポは取れるか?招集命令がメールで届いていたんだ。チームじゃなく、俺宛にだ。」


 リカは小さな手で端末を操作しながら、オキロ所長のスケジュールを調べる。


「所長の方は今からなら空いているわ。1時間後に別件で会議があるから出来れば1時間内に終わらせてね。」

「それは、所長次第だな。ありがとう、行ってくる。」


 セイジンは一人でオフィスの奥の部屋、所長室を尋ねた。何気に、ダイバーとなって所長室を訪れるのは初めてのことだった。名指しで指名を受けたのも初めてであり、セイジンは緊張している自分に気がついて、意識的に肩の力を抜いた。


「オキロ所長、セイジンです。失礼します。」

「おお、セイジンか。待っておったよ。こっちにきて座りんさい。」


 所長室の内装は他の部屋よりも多少カネがかけられているように見えた。壁には巨大なガントレットがショーケースの中に飾ってあり、所長が元ダイバーという話を裏付けるものだった。


 ゆったりとしたソファに寛ぐ70代はとうに過ぎた老齢のお爺さんと呼ぶのにふさわしい人物がいた。オキロ所長その人である。昔はダイバーとしてこのオフィスで活躍していたらしいが、今は引退して裏方に回っているという話を聞いている。その人物がちょいちょいと手招きでソファへと指をさした。

 手招きされたセイジンは所長の対面のソファに腰掛けさせてもらうことにした。

 

 ソファに浅く腰掛けたセイジンは、単刀直入に切り出した。

 

「では、失礼します。それでは、今回自分がオキロ所長に呼ばれた件についてお聞きして良いですか?」

「ふむ、忙しい身分のところを無理言って来てもらったからのう。そっちの商売の方も聞いておきたかったが、後に回すとするか。以前、1層でおかしな違法チップが出回っていたのは知っておるか?」

「詳しくは知りませんが、流行していたのは耳にしています。それと何か関係が?」


 ちょっと失礼、と言うとオキロ所長は天然の素材で作られた葉巻を取り出す。火をつけようとすると、セイジンに止められた。


「所長、ダイバーズオフィスは全館禁煙でしょう。灰皿もありませんよ。」

「そうだったのう、すまんかった。厳しいのう。」


 オキロ所長は胸ポケットから電子タバコを取り出し、口にくわえる。すると、充電式のバッテリーが反応し、中の液体を蒸気(ミスト)に変えていく。そのまま吸うように口を動かすと、煙の代わりに水蒸気が出て来るタイプの物だった。香りはするが、タバコの嫌な臭いはしない。吸殻も出ないリキッド式だった。


「やれやれ、自分の部屋でぐらい好きに吸わせろと言いたいところだの。まぁ、規則は規則だから仕方なし。それでだな、これを見てくれるかのう」


 所長は手元から情報チップをセイジンの方へと渡してきた。機密性の高い情報を扱うとき、このような形で情報を渡せるものだ。ウェポンスロットを経由し、読み取りが行える。事前に設定しておけば、読み取れる人間の限定や、読み返せる回数なども設定できる。今回のチップはセイジン以外が読み込んだとき、全ての情報が消去される仕組みとなっていた。


「これの内容に関して、この部屋以外での口外を禁ずる。まぁ、念のためじゃ。罰則等は特になし。あ、情報漏洩したな、と思えば君への覚えが悪くなるだけじゃよ。気にせんと、読んどくれ。」


 そう言いながら、所長は電子タバコを燻らせ始めた。セイジンは受け取ったチップをウェポンスロット経由で読み取っていく。ダイバー証による承認を受けてチップが情報をセイジンに流し込んできた。

 中身はヴァイスと言うミストマンが起こした1層における小規模な抗争が主な内容だったが、問題はそこではなかった。


「人間を洗脳できるチップに、ジョブをコピーできるチップですか…。にわかには信じがたいですが。もし、本当ならダイバーの人口が大量に増やせますよ。強制的にダイバーにして労働力を増やしたって構わないわけですし。近年、ダイバー人口が緩やかに減少しているそうですね。物流の減少にオフィスの方に貴族からも指示が飛んだとか。それに関する話ですか?」

「フォッフォッフォ、それがダイバーズオフィスでコントロールできれば、あるいは。あー、…冗談じゃ。」


 所長は身を乗り出し、セイジンへ話しかけた。


「そのヴァイスと言うミストマンはダンジョンの管理者でもある。かなり古い時代から活動している。ちょっとした有名人じゃな。表には出てこないがのう。」


 セイジンはあまり詳しくない分野の話なので、聞き覚えがある範囲で所長に返事をする。


「ダンジョン管理者というと、ダンジョンの構造やエネミーの配置まで自由に行い、マザーAIを補佐しているという?」

「その通りじゃ、セイジン。最も、誰も彼もがマザーに忠誠を誓っているかというとそうでもない。マザーは心までは上手く支配しきれんかったからのう。それが出来れば、こんなダンジョンに人間を追いやってコントロールするなんて遠回りなことを起こさんかったろうに。実際、良いところ100年も経てば強制的に植え付けられた思考が剥がれ落ちてくるもんなんじゃ。近頃はダイバーになった元管理者も数人おるよ。最も、力の大部分は削がれているがな。おっと、話が逸れた。そのヴァイスも思考の枷が解かれたようじゃな。ミストマンの共通の悲願、『本体の安全確保』のために近頃は熱心に活動してるようじゃ。」


 所長が電子タバコをたっぷりと吸い込み、煙をゆっくりと吐き出していく。その間に、セイジンはチップの内容を精読していく。

 なるほど、ミストマンは本体がダンジョンの奥深くにある巨大な立方体だという。いつマザーに壊されるか、エネルギーの供給が経たれるかという状況にあって、人類にコンタクトを取って自己保全のために協力しているものも多い。ヴァイスは表立ってマザーと敵対はしていないが、自己保全を優先させていることが内容に有った。ダンジョンのエネミーを意図的に暴走させたり、人類にも多少有利になるように動いているようだ。


「現在も500人の潜在的な洗脳者がいるという話ですが、そちらはどうなっているのですか?違法チップは現在も流通しているので?」

「そこらへんが、今回君を呼んだ理由じゃよセイジン。500人の洗脳済みの一般人は今も生活をしているが、いつヴァイスの指示を受けて動いても不思議じゃない状況じゃ。チップの流通に関しては、今のところは停止していることを確認しておるよ。しかし、1層で作れる状況じゃなくなっただけで、他層ではどうなっているかが判断ができておらん。そこで、君の活動している2層と3層で状況を調べて欲しい。と、いうのが大きなオーダーじゃ。しかし、もう一つのオーダーもお願いしたい。」

「もう一つのオーダー?」


 セイジンが怪訝な表情を浮かべる。オキロ所長は小難しい表情取り払って、ニヤリと笑みを浮かべる。


「ハルカ、という少女がいる。そもそも、ヴァイスの違法チップに操られて数奇な人生を歩みつつある子じゃ。詳しい内容はこちらの別のチップにある。その子とヴァイスの関係性を早急に調べてもらいたい。傀儡のように歩いているのか、自分の意思を持って歩いているのかをのう。」


 セイジンは別に渡されたチップの内容を読み取る。中々に理解しがたいことだが、違法チップとブギーマンの蘇生が偶発的な事故を起こし、ゾンビに体が置き換わってしまったということだった。それ以来、ダイバーとして3層までトントン拍子に進んでいる。見た目こそ、女子高生ということで若々しいが、いくつかの生傷が見える範囲に有った。

 仲間もいるが、人間種族がいない珍しいチーム構成だ。ダイバーには出自が珍しかったり、曲者も多いがこのチームはかなり珍しい。ゴーレムとティンク、スプリガン。見事なまでに人間がいない。スプリガンの出自に少し引っかかるところがあるものの、本題とは関係ないので話に出すのは控えた。


 情報の大方は頭の中に入った。セイジンは所長の方に向き直り、口を開いた。


「実際のところ、所長のお考えをお聞きしたいのですが。ヴァイスとの主従関係が見出せた場合など、どうするおつもりで?」 

「ハルカ君とヴァイスの積極的な協力が見られるようなら、ダイバーとしての身分を剥奪し賞金首にする。じゃがのう、彼女はヴァイスと取引をして500人の洗脳を一時停止にしているかも知れんのじゃ。彼女が抗争を止めてから、違法チップの流通も停止しておる。なので、彼女の自由意志の有無をまず一つ、優先して調べておくれ。ヴァイスとの繋がり方は取引なのか、命令なのかでまた変わってくる。甘い考えかも知れんが、今のところは500人は一般の生活を送っている。彼女は500人の無関係な人間を助けたようにも思えるんじゃ。」


 オキロ所長は電子タバコを置いて、セイジンに面と向かった。


「ハルカがダイバーとして動いているのか、エネミーとして動いているのか。それ次第では、彼女を賞金首として設定する。エネミーという証拠が出てくるようであれば、処分を頼む。2つのオーダー、合わせて150CPで依頼したい。」


 セイジンはその指示を聞いて、表情を引き締めた。


「ダイバーの中にエネミー側との内通者なんていたら大ごとですからね。了解しました。」


 1層で受けるオーダーとしては破格の額だ。もちろん、チームとして受けることになるだろうから分割させる。それでも一人当たり30CPはそれなりの額だ。それに個人的にも興味が出てきた。彼女は、一度死んで何か大切なものを失ったんだろうか。

 自分も、死んで失ったものがある。もしかしたら、3層までかなりの勢いで進んできた彼女に聞けば自分が失ったものもわかるかも知れない。「さらに深くへ」そのモチベーションがなくなったことについてセイジンは悩んでいた。

 ニコとも最近は4層を目指して進んでいないことについて時々意見を争わせることがある。自分の中でいけないと思うところがあるが、今の安定した生活でも悪くないと思ってしまう自分がいる。

 

 答えが出せると良いな、そう思いながら所長室を後にした。

他チームを絡めつつ、しばらくハルカ主体の話が続きます。


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