第50話 ジョブチェンジ
記念すべき50話。中身はあまり話が進んでいませんが。
ハルカたちは表層都市行きのキャラバンに乗っていた。来た時と同じように、【ライダーズ】が護衛をしているキャラバンだ。
もちろん、搭乗客としてではなく護衛チームの一つとして乗っている。今回は最後尾の装甲車に乗って、背後からの奇襲に備えている。
「帰り道は楽に行けそうですね。」
「今のところ、楽ショーだネ!」
ハルカがアモットに話しかけた通り、ここのところは問題なく2日目の移動が終わろうとしていた。もう少しすれば、今夜の野営地へと到着する予定だ。
今のところ、先端側で小規模な戦闘が起こったきり、特に何もない旅路となっていた。
「行きは変なドワーフのオッサンの護衛とかあったけれどなー。」
「今頃、2層で何をしているのやら。腕利きのウェポンマイスターという話だったで御座るが。」
ユラは肩に乗ったメルと行きの道中であったドワーフの話をしていた。3層にいく時に護衛として雇うという話もあった。今頃はビーム商会のロル&ラウルにウェポンでも作っている頃だろう。ハルカ以外はドッシュのことを詳しく知らないため、ウェポンの調整が上手いカスタマーくらいに思っている。
実際のところは、ウェポンそのものを設計できるとんでも無い人物なのだ。この世界で3DPを使う以外でウェポンを作ることはあり得ない。希望するスペックと、つぎ込めるCP、そしてプリンターの性能がウェポンを作る際の限界を決める。そして、プリンターはオリジナルのウェポンを作る際にアーキタイプを選択させることで作っていく。メルの持つガンファーもそのルールに則っている。
ドッシュのウェポン作成は、装甲銃をベースにして、ビームガトリングガンと竜殺剣の性能を一緒に持っている武器なんていうメチャクチャなものだって作れる。それこそ、望んだ武器や防具を作れる。
ダイバーはもちろん、ジョブの力に頼れない一般市民ですら驚異的な攻撃力や防御力をウェポンスロット経由で持つことができる。巨大な資本を持っている企業がCPを注ぎ込んで、自社の私兵に持たせたり、その力の謎を解明するためにドッシュは幽閉されて研究を行われていたのだ。
2層での滞在期間は1ヶ月。その後は3層へ移動する予定であり、その時には事情を知っているハルカに護衛を頼むということになっていた。うかつに能力を使うと、ドッシュは誰かに監禁されてしまいかねない。ロル&ラウルでも起きない保証はないが、何か考えでもあったのだろう。ロル&ラウルは期間限定のオーダーウェポンを受注するという話で巷のダイバー達の中では有名な話になっていた。
「某もそろそろウェポンに手を加えたいところで御座る。いや、ウェポンスロットの拡張をするべきか。」
「何の武器を持つ気だ?両手が塞がってちゃ、持てないだろうに。」
「いや、反応速度をあげる風のタトゥーでも入れてみようかと思った次第。シノビになれば、より早く動ける方が有利になるはずで御座るからな。」
「あー、なるほど。アタシもドラゴンフィストになったら遠距離攻撃できるワザを教えてもらおうかなー。」
今後の方針についてユラとメルが話し合っていると、今夜の野営地にたどり着いたようだ。ここからは、チームごとに歩哨に立って夜間の警戒にあたる。
ひっそりとした時間が過ぎていく。外は2層の工業地帯のようなダンジョンが広がっていて、キャラバンの装甲車の中から見ていると明かりがポツポツと遠くに灯り、どこかで金属が擦れるゴォーン、という音が聞こえる。
夜の交代だが、ユラ以外は睡眠が不要だったり、ほんのわずかな時間で済むので起きっぱなしに近い状態でいた。
ハルカは、熟睡しているユラを眺めながら、ため息まじりに呟いた。
「本当、眠れるって羨ましいです。私も眠れればなぁ。」
「ワタシはそこまで思ったコトないケレド、そういうモンナノ?」
ハルカの言葉にアモットが不思議そうに質問する。ゴーレムの体を持ったアモットには生体が持つ生理的なアレコレは謎に包まれた感覚だった。
「うん、何も考えないで眠ったり、美味しいご飯を食べて美味しいって感じたり。そういうところが無いのは、やっぱり寂しいなって。」
ハルカは普段は考えないようにしている自分の肉体についての悩みを喋っていた。そもそも、ゾンビにならなければ自分はダイバーとは縁のない人生を送るはずだった。今頃、企業の関連した会社に入って日常的なことをして生きていたはずだし、親に黙って消えるような真似はしないで済んでいたはずなのだ。
5層にたどり着けば、もしかしたらこの身体を元に戻せるかもしれない、と思って始めたダイバー稼業だが、意外と楽しくやれている自分にもびっくりする。自分にこんな順応力があるとは思いもしなかった。学校に行ってた頃の自分が嘘みたいだった。それは、今のチームメイトが関係してる、そう思った。きっと、彼女達以外では自分はこうやっていられない、と思ってる。
「ユラ殿の顔を見てると、まぁわからんでもないで御座るな。」
実にユラは幸せそうな顔をして眠っている。普段から、マイペースなメンバーが多い中でいまだに素手を貫いてウェポンを装備しないスタイルの彼女は悩み事があるのか、と思う時も多い。ニコというベルセルクと勝負をすることが目的だと言っていたが、チームに迎えた時はいざ知らず。3層到達者として鍛えられた今の彼女なら、案外良い勝負をするのではなかろうか。
「逆に、アモットちゃんは眠ったり、食べたりしないけれど、何か欲求ってないの?人間なら、食欲、睡眠欲、性欲ってあるけれど。どれもアモットちゃんは関係ないよね?」
「ワタシの場合は、スペック向上欲、誰かのためにナリタイ欲、戦車砲撃ちたい欲カナ!もっと自分を強くシタイシ、皆に頼られたいって思ウシ、戦車砲をバンバン撃チタイ!!」
「ふむ、そういうことなら某も似たようなものがあるで御座るな。やはり、出自からして人間と共生するために生まれた種族ならではなのだろうな。」
アモットとメルがお互いにうなづいている。アモットは大柄なピンクのゴーレムだが、その種としての起源は旧世代の技術で生み出され続けたゴーレムだ。メルは小型の人類サポートアンドロイドとして作られた。二人とも、ダンジョンのどこかで製造され、1層に配置された後にダイバーが表層都市に連れてきている経緯がある。
アモットはその後、学校へ入学している。特別な特待生枠でオフィスからバックアップを受けていた。人間の生活を学び、人間と共生できるようにということだったが、戦車砲を装備できることを知ってしまったのが全ての始まりだった。
戦車砲を装備できる体と知ったアモットは戦車砲の虜となった。その後の転落というか、スピンアウトはハルカも知っての通りで同時期にダイバーとなった。
メルの方は、ダイバーが表層都市に連れてきた時、闇市での売買にかけられた。その後、ダイバーとして自分の金額を稼ぎ出して自由の身となったメルは普段はリサイクルショップの店員、裏では悪を裁く私刑執行人になった。その後、当局につかまって刑期を賭けて5層に逃れた犯罪逃亡者を捕まえる、もしくは殺すという名目を持ってダイバーに復帰している。
ハルカ達が自分たちの今までを振り返って話していると、近くのダイバーチームが警報を鳴らした。どうやら、一仕事の時間らしい。ユラもその音で、バッと起き出して即座に戦闘準備を行う。
現れたのは2層のダイバー崩れが徒党を組んで襲ってきたようだ。今夜は長い夜になりそうだった。
「ご苦労様だったな、これが今回の報酬だ。」
ライダーズのリーダーから報酬を受け取る。今回は大した問題も起きなかったため、一人5CPと言ったところだった。
キャラバン護衛も無事に終わり、ハルカ達は表層都市のダイバーズオフィスに着いた。
受付員のリカが笑顔で応対する。
「あなた達をダイバー登録したのがついこの間のようだわ。そう思うと感慨深いわねー。もう3層到達者なのだものね。」
「まだ、3層に入ったわけじゃないので、正確には3層資格有りくらいですけれどね。」
「そうね、でもここらでなら中堅として見なされるけれど、3層に入れば周りは同じくらいのダイバーだからね、気をつけて行ってね。3層からはダンジョンと人間の関係性が変わるわ。マシンヘブンのような都市も少なくなって、本当に開拓村みたいなところが多くなってくるの。ダイバーの総人口もグッと少なくなって、人間が優勢だったエリアから逆転していくわ。本当に気をつけてね。それと、たまにはこっちにも顔を出してね?」
「ええ、もちろんです!」
ハルカが笑顔でさよならを言うと、ジョブチェンジの施設への連絡をしたリカが名残惜しそうに、手を振っている。
いよいよ、ジョブチェンジが目の前にまできている。ハルカは動いていないはずの心臓が動いているような錯覚を覚えた。
「うわー、私もこれでエスパーとお別れですねー!新しいジョブの名前が長いんで馴染みにくいんですけれど。」
「エスパーの次、なるほどサイオニクスシャーマンで御座るか。確かに長い…。」
「ですよねー、メルさんのシノビとか短くていいですよね。」
「悪く言えば、ニンジャからシノビは代わり映えがしないとも言うで御座るよ。」
各自のジョブについて、ヤイヤイと言いながら施設の中に入る。施設の中は雑談が絶えないオフィスとは反対に、静寂が満ちた場所だった。施設員がハルカ達の来室に合わせて出迎えてくれる。
「オフィスのリカから話は伺ってます。ジョブチェンジは各自で行いますので、それぞれ別室に向かいます。」
「わかりました。皆、あとで食事処メシヤに集まりましょう。」
ハルカの言葉に他のメンバーがそれぞれに答えて散っていく。期待を胸に、ハルカは扉を開いて入室した。
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