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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
ハルカたち
49/97

第49話 エルとヴァイス

思ったよりもハルカたちの話が長くなりました、と言うか区切りがついていません。もう少し、続くかもしれません。

 冷気も薄れつつある氷雪の溶けかけた床の上で、ハルカ達はフラウロスの解体を行なっていた。フラウロス自体は死後も冷気を放ち続けていて、解体作業がなかなか進まないでいた。


「あの、本当に死んでますよね?作業している私の手が凍っているんですけれど。」


 体温が上がらないハルカの指先を見れば、凍結して動いていなかった。

 

「間違いなく、死んでいるで御座る。しかし、この冷気の出所はどこで御座ろうか。フラウロスの亡骸がいまだに凍っているのも関係があるので御座ろうが。」

「あ!もしかシテ、コレじゃない?」


 アモットが凍結するマニュピレータも気にせずに解体を続けていると、声を上げて皆に知らせる。

 そこにあったのは、フラウロスの心臓付近から取れた掌大の大きさの青い球型の内臓だった。触れているだけで、アモットのマニュピレータの凍結が進んでいく。


「アモットちゃん!それ、とりあえず浮荷台に置いちゃいましょう!!」


 ハルカがアモットに指示して、体内から出してしばらくするとフラウロスの肉体の凍結が溶けていく。強烈な冷気の出所は球型の内臓のようだった。


「これを使えば、強力なウェポンが作れそうで御座るな。」

「なら、ハルカが作れば良いんじゃないか?そろそろ、新しい武器を作るか買うかしてもイイ頃合いだったんじゃないか?」

「私?うーん、とりあえず都市に帰ったら考えてみましょうか。」


 てっきり、アモットかユラの武器を作ると思っていたハルカは意外にも皆から推されて武器を作る方向になって驚いていた。

 解体を続けて、他の可食部分や、溶けていない毛皮や牙などを解体して浮荷台に積み込んでいく。

 フラウロス・フラペチーノの名前を表した茶色のシェイクもとりあえず浮荷台に付属しているジッパー付きの袋に入れていく。


「うーん、私たちの中でこのエネミーの味が分かるのってユラ さんだけですよね。おいしいんですか?」

「こんな寒気の中で凍った食いもん食べるなんて、拷問だろう。せめて都市に戻ってから食べさせてくれ。」


 流石にユラもここで食べる気にはなれないらしい。とりあえず、大方の解体を終えて都市に戻る準備をする。

 一度、マシンヘブンに寄ってから解体部分を売却して、その後に表層都市へと戻るキャラバンに便乗の流れを予定する。


「ジョブチェンジ、マシンヘブンでも出来りゃイイのにな〜。」

「仕方ないヨ、ユラチャン。ジョブチェンジ可能な施設が表層都市にしか残ってないんダモン。」


 アモットの言うとおり、マシンヘブンの支部には基本的な施設は揃っているが、表層都市にしかないものも多い。代表的なところがジョブチェンジを行うための施設だ。こればかりは衛星都市にはないため、表層都市には定期的に深部へ到達したダイバーも戻るようになっている。素材などは深部に行った方が良いものが獲得できるが、高グレードの素材を使ってウェポンを作ろうとすると企業連にも連なっている古代技術庁や、集積図書庁が所有している3DPを使うことになる。


 帰りの道は何もトラブルもなく、無事にマシンヘブンへとハルカたちは帰ることが出来た。

 浮荷台には元々、鮮度維持のための機構が取り付けられていて、食肉部位などの鮮度の維持はできていた。アモットが取り出した青い球型の内臓は自力で鮮度を保っており、逆に一緒に載せた解体部位も凍り付いていたほどである。

 通りすがりのダイバーが何を狩ったらそんな状態になるんだ、という目線を投げかけてくる中でオフィスに直行して素材を売却する。


「ちょ、ちょっと!何を倒してきたんですか!?」


 オフィスの受付で職員が慌てふためきながらも買取を行う。ここ何年もオフィスに勤めているが、こんな状態になる獲物が2層にいたという話は聞いたことがない。

 職員の問いに、苦笑いを浮かべながらハルカが答える。


「えっと…、フラウロス・フラペチーノです。」

「はぁ!?それって、4層の賞金首じゃないですか!?あの、冗談も程々にしてください。そんなのがここの階層を彷徨くわけがないじゃないですか!?」

「いや、居たらしい。先ほど、討伐の報告を【デッドライン】から受けた。討伐の証拠記録も端末から送られてきた。とりあえず、奥で話そう。ここじゃ、狭すぎる。」

「支部長!本当ですか…?と、とりあえず奥の広間へ皆さん移動をお願いします。」


 オフィスの奥から、支部長と呼ばれたどっしりとした貫禄のドワーフの男性が別の部屋へと先導していく。

 かなりの広さの別室に案内されたハルカたちとその浮荷台が並ぶ。ここは大型の解体処理施設らしく、様々な素材が並んでいた。奥には倉庫らしい扉も見える。


「ふむ、4層で活動している【デッドライン】の報告だ。間違いと言うこともないだろう。奴は1層で|バルバトス・フレッシュフィレ《5層の化物》とやりあった実績もあるからな。そこのお嬢さんたちと共闘して、解体権利は譲ったと報告を受けている。」


 支部長は肉片を掴み上げ、しげしげと見ながらハルカたちに話しかけてきた。


「うむ、きれいに解体できているな。ナマモノ相手だ、手早く処置しよう。」


 そう言うと、支部長は査定を素早くこなしていく。可食部位は処置を済まされて奥の冷凍施設へと運ばれ、牙や毛皮なども瞬く間に適切に処理されて奥の倉庫らしいところへ運搬される。


「よし、終わったな。久々に大物を扱ったぞ。全部で150CPだ。賞金のほうは別だが、そちらは【デッドライン】にも権利がある。後日、両チームでここにきて受け取ってくれ。」

「…150CPですか。すごいですね。どうしましょう…?」


 ハルカをはじめ、全員が唖然としている。予想以上の稼ぎになり、さらに追加もあるらしい。改めて、とんでもない相手とやりあっていたんだ、という実感が湧いてくる。

 一人につき35CPを分配し、10CPはチーム資金としてプールすることで皆が納得した。


 マシンヘブン支部での処置が終わり、身軽になったハルカたちは表層都市に戻るキャラバンの護衛依頼を受けて宿屋へと歩いていたところに端末に通知が入った。確認すると、エルからの通知だった。


「先ほど、マシンヘブンからの確認がこっちに来た。その様子だと無事に帰ってきたようだな。疲れているところ悪いが、一休みしたらヴァイスへと繋げてもらいたい。時間と場所を指定するので、そちらに来てくれ。」


 ハルカは通知を読み終わると、皆へと内容を話す。


「一休みしたら、エルさん達と合流しましょう。お礼も兼ねて、あちらの要求を叶えてあげましょう。ただ、ヴァイスがこちらの話に素直に応じるか、なんですけれどね。」

「そこは、もうしょうがナイヨネ。ヴァイスに連絡をつける、とこまでシカ約束できナイシ。」


 悩みつつも、話すハルカにアモットがフォローを入れる。実際、ヴァイスから連絡が来ることはあっても、こちらからヴァイスへと連絡することはなかったのでどうなるか予想ができない。

 ひとまず、拠点としていた宿で一休みして指定された時刻になると皆で出かけていく。夕方の7時ごろ、酒場と言うよりはクラブといった風な場所が指定されていた。

 入ろうとすると、バウンサーも兼ねているんだろうガタイの良い男に止められる。


「アンタら、ここには何の用だ?ここはメシ屋じゃないし、メカ連中のメンテクリニックでもないぞ。」

「あの、エルって人からここに来るように言われまして…。」 


 男の圧に若干引きながらも、ハルカは答えた。実際にはハルカの方が単体で戦っても強いだろうが、強いから対等に喋れるかと言うと、そう言うわけでもなかった。ハルカ自身はいまだに女子高生としての感覚が抜けきっていなかった。


「お嬢さんたちがエルの客か。まさか、とは思ったが。なるほど、言われた通りのチームだな。驚かして悪かった、奥の部屋まで案内させるから先へ進んでくれ。」


 バウンサーの男がそう言うと、近くにいた給仕係の女へと話をつける。給仕の女が笑顔を浮かべて奥へと案内していく。

 通された場所は個室になっていて、10人くらいは軽く入れるような場所だった。そこにエルとアザニンが先客として座っていた。


「よう、休みたいだろうに済まないな。こちらも、この階層でゆっくりしても良いんだが4層でやり残していることもあってな。とりあえず、何か頼むか?」

「いえ、私たちは食事はいいです。それよりも本題にいきましょう。ヴァイスへと繋げると言うことでしたが…?」


 エルたちは飲み物を飲みながら、とりあえず座ってくれと話すと話題をヴァイスの事に変えた。


「そう、俺たちと言うよりは、俺の目的なんだが。俺は自分の失くした記憶を知りたいんだ。そのために、可能な事ならなんでもやっている。その一つが5層到達とかだな。さすがに、4層の分厚さにまだ出来ていないけれどな。」

 

 そう言うと、エルは飲み物を飲んで次の言葉を口にした。


「俺たちはヴァイスが1層でやったことを知っている。洗脳チップにジョブ付与チップ、どちらも人格や経験を操るような内容だ。逆に、記憶の中にないことを思い出せないか、と思ってな。そこのところを、ヴァイスができるのかどうかを知りたい。」


 エルはハルカたちへ喋ると、飲み物を手からテーブルへと置いて答えを待った。


「えっと、私達はヴァイスと対等な関係じゃありません。表層都市に洗脳を潜在的にされたままの普通の人たちが大勢いて、その人たちを解放してもらうためにヴァイスの指示を受けているに過ぎないんです。」

「それは、【ミストマンの願い】だな。『5層まで来て、自分を救って欲しいって」奴だ。ウチにも似たようなのが居るからな。」


 そう言うと、エルの近くに唐突に光が集まり、Mr.トリックが現れた。


「吾輩はそこまで煩くした覚えはないがな!お嬢さん方、ヴァイスへの連絡先を知っていると思うが、吾輩に教えてもらえるかな?何、迷惑をかけるようなことはしないさ。」

「えっと、出るかはわかりませんよ?」


 そう言いながら、ハルカは端末を操作してMr.トリックに情報を渡した。


「うむ、これがあれば直接奴を呼び出すことができる。少々、待っていてくれたまえ!」


 Mr.トリックが空中に向かって手を伸ばし、何かを操作するような手つきをする。すると、ハルカの隣に光が集まり、人の形となった。


「うるさいなぁ、オイラは忙しいんだよ。なんだってんだ、Mr.トリック。貴様との連絡は104年前に断ち切ったはずだけど?」

「君に話したいことが出来てね、悪いが我が友の問いかけに答えてもらおう。」


 ヴァイスは現れるなり、Mr.トリックに悪態をついた。気にした様子もなく、Mr.トリックはエルへと目線を投げかける。


「悪いな、ダンジョン管理者。話を聞きたいのは、俺だ。単刀直入に言う。失った記憶の再生は可能か?」


 目の前のテック・クルセイダーを見ると、ヴァイスはなるほど、と独言を漏らして返答する。


「悪いね、痴呆老人の記憶を蘇らせる程度ならどうにでもなるんだけれど、その『記憶』はブギーマンが関わっているだろう?それじゃ、オイラにはお手上げだ。偽の記憶を植え付けて欲しいってわけでもないんだろう?」

「あぁ、俺が欲しいのは失った記憶であって、幸せな過去とかが欲しいわけじゃない。」


 エルがヴァイスの問いかけにノーを答えると、ハルカたちの方を見やってからエルに話しかける。


「なるほど、フラウロス・フラペチーノの解体権利を渡してもらったのか。うーん、オイラからボーナスとして3つの方法を提示するよ。オイラの手駒をキャリーしてもらったようだからね!」


 ヴァイスはハルカたちが戦った戦歴を勝手に読み取り、エルたちに報酬として話すことを決めたようだった。


「1つ目は、蘇生の逆をすること!デッドギフトを外すことで手放した記憶が戻るかもしれない!どうやってデッドギフトを外すのかはそちらで調べてね!!」

「2つ目!何かを得る代わりに、何かを失う魔法がある。専門外だから、それ以上詳しいことはオイラは知らない。その魔法で記憶を取り戻すことができるかもね!」

「3つ目!!ブギーマンに手術されてみれば良いんじゃないかな?餅は餅屋って言葉は使わなくなって1500年くらい経過してるけれど、まだ通じるかい?連中に無くしたものを取り戻させるのはアリかも!!ただ、連中が正常に動かなくなって久しいから、正直な話で言えば最も可能性は低いと思うよ。」


 ヴァイスは一気に捲し立てると、最後に付け加えた。


「オイラが関わらないで出来そうなことは以上の3つだよ!オイラが関わって良いなら、さらに増やせるけれどオイラの指示に従ってもらおうかなって。」

「悪いな、Mr.トリックからの忠告でアンタに従う選択肢は取らないことになっている。答えはノーだ。ハルカちゃんだったな、世話になった。フラウロスの賞金は俺たちが7割、そちらに3割で良いか?」

「え、えっと。はい、大丈夫です。元々、私たちだけでは勝てない相手だったでしょうし。」

「了解、よしアザニン、Mr.トリック行こうか。」


 エルは立ち上がると、隣に座っていたアザニンとMr.トリックに声をかけて個室の扉に手をかけた。


「せっかちな男だねぇ、オイラみたいにモテないよ?」

「悪いな、ロリコンじゃないんだよ。強迫して付き合うような趣味もないからな。じゃあな。」


 そう言って、エルは出て行った。


「まぁ、良いや。ハルカ、とりあえずジョブチェンジしておいでよ。話せることは今はそれだけ。それじゃあねー。」


 ヴァイスもまた、ハルカに一言告げてホログラフを空中に溶かすように消えて行った。

 

「言われなくても、ジョブチェンジはするっての。」

「相変わらず、胡散臭いやつで御座るな。」


 ユラとメルがヴァイスの話し方に思うところがあったのか、ハルカをフォローするように喋った。

 ハルカは疲れたのか、ゆったりしたソファに思いっきりもたれかかった。その様子を見て、ハルカの肩をポンと叩いて、アモットがお疲れ様と声をかけたのだった。

50話はTRPG版のデータを載せたいと思ってたのですが、区切りが悪いんですよね。


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