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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
ハルカたち
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第47話 【デッドライン】

久しぶりに出すと、喋り方とか忘れかけてますよね。

 4層のそれなりに繁盛したある酒場。周囲の何処を見ても歴戦のダイバーがひしめく中、一人の男がカウンターで酒を飲んでいた。

 前線装甲服3型を装備したテッククルセイダー。デッドラインとあだ名されるダイバー、エルである。

 最近は4層を拠点として活動していたが、その進捗はあまり芳しくなかった。4層まで来るとエネミーの強さがグンと強くなり、思うように進めなくなったのだ。

 

「エル、どうするの?もう少しCPを稼いで、ウェポン強化する?」

「アザニンか、とりあえず飲みながら話そうぜ。」


 アザニンと呼ばれた女性は、エルの隣に座った。黒く艶のあるロングの髪の毛の間から長い耳を出し、腰には剣と銃を下げている。そのどちらもが異能の力を操るウェポンだった。

 少し暗さを感じさせるが、儚げな美女といった所だ。その彼女は軽めのアルコールを頼み、長い前髪を弄りながらエルに話を続ける。


「わたしとしては、順当に強化をして戦うしかないと思う。エルの場合、5スロットもデッドギフトに占められているから、改造できるところが少ないけれど。」


 アザニンはエレメンタルサモナーであり、このチームのヒーラーとして3層攻略から加入している。元々、エルと組んでいたことがあったのだがエルはデッドギフトのせいで忘却している。

 エルがダイバー稼業に復帰したと噂を聞いて、彼女からチームへの加入を打診してきた。Mr.トリック曰く、裏表なくエルを支援するための参加だと言っていたが、エル自身は何でそこまでしてくれるのかが分からない。

 とはいえ、ヒーラーが居ないチームのタンクなど、時間稼ぎしか出来ない存在なので入ってくれるのは願ったり叶ったりだった。

 おかげで3層は攻略できたが、4層でつまづいている。火力担当が居ないので、エルが頑張っている。アザニンの支援攻撃と召喚した精霊に攻撃をサポートさせるが、ワンダリングエネミーと戦うのも難しいと言った感じであった。


「うーん、俺の強化は根本的に幅が狭いからな。それより、ちょっと小耳に挟んだ情報があってな。」


 そう言って、この酒場でさっきまで会っていた情報屋とのやり取りを思い出しながらアゼニンに説明した。



 人がまばらな時間帯の酒場に、エルともう一人の女性がいた。女性はエルに奢ってもらった酒を飲み干すとエルに話をしだした。


「アンタが言ってた記憶に関する情報だけれど、最近の1層で面白い話があってね。違法ドラッグチップで大量の一般人が洗脳されてマフィアの鉄砲玉にされてたって話があってね。その

ドラッグチップの出所がヴァイスってミストマン何だけど、ただのミストマンじゃない。ダンジョン管理者だって言うらしい。」

「ダンジョン管理者?俺たちダイバーからしたら敵だろう?それの何処が、俺の記憶に結びつくんだよ。」


 情報屋の女は右手の人差し指を振りながら、エルに説明する。


「まず、ヴァイスってミストマンはチップを使った人間の洗脳ができる。それ以外にも、ジョブを一時的にマフィアに与えて壊滅させたダイバーとも互角に渡り合わさせたって話もあるんだ。ダンジョン管理者ってのは、エネミーの出現率や強さを弄る他に、ダンジョンから出る資源やらも自由にできるって聞いたことがある。そんな管理者が人間に作用するチップを作ってた。あたってみる価値はあるだろう?」


 その話を聞いて、エルは端末を操作してMr.トリックを呼び出す。Mr.トリックは半透明な姿を空中に投影し、足を組んだ形で現れた。


「Mr.トリック、管理者ってのはそんなに自由な存在なのか?」

「吾輩とは違い、かなり制約から外れた存在だろうなのは間違いない。しかし、ミストマン共通の本体をマザーの影響から抜け出したいと言う本能もまた残っていると思われるな。この感情、ミストマンは必ずと言っていいほどに持っているからな。ヴァイスという名前にも聞き覚えがある。かなり、マザーへの反抗心があったはずだ。直接話をできたのは、50年も前のことだが。さして変わってはおらぬだろう。効率よく人間を維持するためと言いながら、人間の操作方法についてかなり古くから調査をしていたと思ったが、直接操ることにしたのだな…。」


 Mr.トリックは若干眉間にシワを寄せながらも、エルに話す。


「ヴァイス…、彼奴のことは知っている。しかし、交渉や取引がまともに通じるような奴とは思わない方がいい。効率の良い人間の操作にしか興味がない奴だ。」

「やれやれだ、期待はあまりしないでおくか。だが、2層で目的が叶うってんなら、悪くないな。ありがとうよ、お嬢さん!これ報酬のCPな!」


 そう言って、少し多めに渡して情報屋と別れたところまでをアゼニンに説明した。


「また、わたしに説明もなく…。エル、あなたは本当に昔から変わらないわね…。」


 アゼニンはため息混じりにエルへ小言を言った。


「すまんな、アゼニン。その『昔』がわからなくてな。」

 

 エルはアゼニンに謝ったが、アゼニンは何処か寂しそうに「…そうね」と呟いてちょうど酒場のマスターが持ってきた飲み物を黙って飲み始めた。

 


 2層の工業地帯が延々とつづくダンジョンを4人の人影が金属の床に逆さまに映っていた。ハルカたちのチームは次の階層に進むためにギガントタンクを討伐するために彷徨っていた。

 ここ数日でもうすでにワンダリングエネミーと戦い、4体倒していた。それでも、本命のギガントタンクは現れていない。

 ワンダリングエネミーはどういう仕組みか、チーム単位で出会えるエネミーが固定されている。各階層には7体のワンダリングエネミーがいて、そのうちの1体がフロアボスとなる。フロアボスに挑戦するためには、1体でもワンダリングエネミーを討伐することが必須条件になる。

 逆にいうと、フロアボスに挑める条件を満たしていても必ずフロアボスが現れるとは限らない。確実なのは、時間をかけてワンダリングエネミーを討伐しきることで未討伐の相手をフロアボスのみにしてしまうことになる。

 もちろん、ダンジョンの中にワンダリングエネミー以外のエネミーが普通に存在し、それらとも戦うわけで。


「モー!いつにナッタラ出てくるノー?」

「アモットちゃん、後2体倒せばギガントタンクしか残らなくなるから、もう少し頑張ろう?」


 アモットがダレて思わず叫ぶが、それをハルカがなだめる。それも仕方なかった。この数日で倒したエネミーは4体。

 

 制御装置のバグで自由に走り、人間を襲い始めた武装ヴィークル【野良バイク】

 遥か遠い過去に飛来して、母星へ帰る手段をなくして人間に悪意を持って戦いを挑んでくる【彷徨える木星人】

 高高度を飛行し、強烈な爆撃を先制攻撃してから戦いに入る【FAB】

 鋭利な高速振動ブレードを胴体側面に両側から生やし、高機動で翻弄してくる獣型ヴィークル【ブレードライガー】

 

 いずれも、中々にてこずったが4人にとってはそれほどの脅威ではなくなっていた。今日はまだ残ったワンダリングエネミーとは戦っていない。

 余談だが、【野良バイク】と【ブレードライガー】は解体が上手くいくとヴィークルとして乗ることができるが、両方とも解体後に獲れたのは資源として使えるパーツのみだったのも、チームのモチベーションを低くした一因である。


 「残ってるのは【彷徨う戦車】と【キャノンT-REX】で御座る。せめて、ユニークウェポンでも解体で手に入るならモチベーションも上がるというもので御座るが。」

 「なぁんか、アタシらツイてないよなぁ。普通、もう少し稼げても良さそうなもんなのに。」

 

 メルの言葉にユラが不満を溢す。手に入れることができたのは【彷徨える木星人】からレーザーブレードのみ。近接武器として優秀な部類のウェポンだが、前衛二人が趣味じゃないということで売却してCPに変えてしまった。


 「残ってるのは両方とも戦車装備を解体できるカラ、ワタシは楽しミー!」


 アモットは自分の装備できるウェポンが手に入るかもしれないから、一人だけ元気だ。アモットはこのチームのムードメーカーなところがある。彼女が元気なら、多少は下がったモチベーションも上がるだろうとハルカは内心ほっとしていた。

 案の定、元気になったアモットにのるようにユラが喋り出し、メルもやる気を出して別エリアの偵察をしに行った。

 まだ2層だが、ハルカはチームのメンバーを理解できたように思えて嬉しくなっていた。笑顔になりながらも、少し遅れ気味だったハルカは皆に追いつくために走り出した。


 工場のような場所で、何のために動いているのか分からない複雑な機構をした場所の真ん中。ここのダンジョンのボスは巨大なカニを模した機械をだったようで、破壊と同時に各自の端末にゲートロックの解除通知が入った。


 基本的にダンジョンは一度転送されると戻ることができなくなる。そのダンジョンのボスとして配置されたセキュリティエネミーを倒すかギミックを解除する以外は帰ることができなくなるのだ。護衛を連れてダンジョン調査に入った企業の人間や研究者を守りきれず、SOSを発信して助けを待つことになったダイバーたちを助けるオーダーも珍しくはない。

 例外的に、ダンジョンとしての機能を失っている場所や、再配置されるたびに倒し続けることでダンジョンを自分たちのアジトのようにするならず者や賞金首などが居座っている場合もあ理、そのような場所はセキュリティーエネミーが不在のため出入りは自由となる。


 セキュリティーエネミーを倒してしまうと後は行っていないエリアを潰すくらいとなる。ここまで来れば、MAPも全て埋めていこうということになり、全エリアを回って帰ろうという事で決が取れた。

 やる気を下げた面々が残った場所を調べていると、そう遠くないところからゴォーン!ゴォーン!!と激しい音が聞こえた。


「もしかして、この音!戦闘音ですか!?行ってみましょう、皆!!」

 

 ハルカが皆へ向かって叫び、全員が走って音のする方へと向かった。今度こそ、ギガントタンクでありますように!と全員が願っていた。

 音のする方にたどり着くと、そこには巨大なロボット型のエネミーがその姿を戦車型へと変形しているところだった。

 そして、相対するダイバーらしき人物もいた。装甲鎧に身を包んだ、テックソルジャー系のタンクが一人でギガントタンクを圧倒していた。距離を置いて後衛に軽装の異能使いらしきエルフの女性がタンク役が負傷をするたびに手に持った銃から回復の魔術を射出している。

 たった二人でフロアボスと戦っているようだった。


「うぉー!すげーな!!って、言ってる場合じゃないな!」

「私たちも戦って良いか尋ねましょう!」


 ユラが興奮して叫ぶとハルカが共闘の申し出をするために後衛の女性に話しかけた。


「あの!すいません!!私たちも討伐に加わらせてください!!」

「あら?あなた…。わかったわ、エルに聞いてみるわ。」


 何か含みのある言い方だが、共闘の申し出をもう一人のタンクへと聞いてくれるようだ。

 目前で行われている戦闘にハルカたちは各々が戦闘準備を行う。アモットとユラはすぐにでも前衛に加われるようにギリギリまで近づいている。メルとハルカはエルフの女性と同じ後衛位置についてウェポンをいつでも使えるようにしていた。

 端末を経由して、女性がエルという男と話をしているようだ。戦闘しながらだというのに、男の声はスピーカーを通して余裕のある雰囲気を出していた。


「マジか!?ツイてるな、そりゃ!!なら、俺は後ろに下がるからギガントタンクを譲るぜ。後は頼むと伝えてくれ!!」

「だ、そうよ。大丈夫なら、参加して頂戴な。」

 

 そんなやりとりをしている間にも、タンクの男は直撃した砲撃を右手に直接繋がれた装甲銃で受け止め、さらに弾く。装甲鎧の傾斜のついた装甲で直撃を最低限に抑えるなど、かなり高性能なウェポンを装備しているらしいところが見え、ユラはその強さに感動して、絶対に戦いが終わったら挑もうと決意する。

 メルは「もしや…【デッドライン】?なぜ、こんな階層に?」と呟いていた。


 ギガントタンクから放たれた砲撃を全ていなすか、弾き返すと装填のために間が空いた。すかさず、アモットとユラが前に出てタンクの男は後衛に合流する。


「よう、ギガントタンクは譲るぜ。その代わり、君の名前を確認して良いか?ハルカであってるかい?俺の名前はエル。巷では…、まぁ、【デッドライン】が響きがいいな。そう呼ばれている。」

「【どん詰まりのエル】とも呼ばれているわ。」

「最近は、それで呼んでるやついねーよ。」


 ギガントタンク戦の最中とは思えない余裕で会話を始める二人。

 ハルカはその名乗りでピンとこなかったが、メルが代わりに答える。


「こちらはハルカ殿で間違ってはいないで御座る。【デッドライン】が、こんな小娘たちのチームに何のようで御座るか?」

「俺は自分の失った記憶を取り戻したいんだ。ヴァイスってやつと話をさせてくれ。そのために、君らに会いにきた。」


 そう返答したエルの目は強い熱意を感じさせた。【デッドラインのエル】、1層に現れた5層のエネミー【バルバトス・フレッシュフィレ】を撃退した逸話を持った男だった。

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