第46話 ジャスティスの処遇とヴァイスからの報酬
エグゼキューターのイメージはトライガンのアレです。こちらでは棺桶のような外観になりましたが、みんな大好きロマンの塊「執行人」です。
金属の床の上で倒れ伏している何人ものアザゼルの面々は無力化された後に、キッチリと縛られて浮荷台へと積み重ねていった。
幸い、死者は出していない。死ぬ寸前だったものもいるが、ユラのチャクラで回復してやっていた。
テックウェポンだけは、別の浮荷台に置いておく。万が一、逆らう手段を持たせるなんて間抜けたことはしたくない。
占拠されていた施設は、どうやら金属部品を作り続ける工場のような場所だったらしく、依頼にあった3DPも1台置いてあった。
テック至上主義者の中で一人だけ、意識を保ったままの人間がいる。ヴァイスからのオーダーに入っていた違法チップ量産者、ジャスティスだ。
ジャスティスの外見はボロボロにくたびれた白衣の下に金属製のアンダーアーマーを着込んでいる。顔はどこでもいそうなオッサンで、口髭が生えていた。
彼は大人しく手枷を受け入れ、立って歩いている。危険そうな巨大ウェポンはアモットの浮荷台に乗せてある。そのせいで見た目が戦車に近づいていることは、皆口にはしなかった。
「あの、ジャスティスさん?マシンヘブンについてからでもいいんですけど、なんでヴァイスの違法チップ作成をやめて、彼らと合流を?」
ハルカが尋ねて、肩に手を当てる。マインドリいーディングを併用しながらの質問をしている。もう、だいぶ情報を集めることに慣れてきたハルカだった。
「…このチップは素晴らしい。しかし、このチップでは世界は救われないんだ!」
(チップを使ってジョブを手に入れて戦う力を手に入れても、世界は救われない…。)
心の中の声と出した声はそれほど変わらない。おそらく、アザゼルに合流してテック技術を高めることで根本的に世界を救おう系の人であろうと察した。
テック至上主義者には、そういった人物も多く、全員が危険人物というわけではない。危険人物は多いのは間違いないが。
プロミスとは違った形で、世界を良くしようとしている人物の一人ということらしい。
「なるほど、違法チップは世界のためには必要ないってことで、辞めたのですね。意外というか、なんというか。」
「僕はこの世界を【テックの力】で持ってより素晴らしい世界へと変貌させたいんだ!違法チップは素晴らしい力を持つが、チップ自体に依存してしまう。それじゃダメなんだ。依存するのではなく、利用でなければいけない。僕はそのために、違法チップの依存性を下げて、弱いチップを作れないかを色々と試作していくうちに、【アザゼル】の中で試して行った方が、効率的だということに気づき、参加したんだ。」
横のゾンビ女子がエスパーだと気づいてから、饒舌になるジャスティス。オタクが早口になる理屈と同じだろうか。
「最も、レイザーザモンはテックで人類を支配すべき、だなんておかしなことを言ってる奴だったからね。今回、捕まって良かったんじゃないかな?僕とは違う主張だったのは残念だったよ。」
元々、過去の世界ではテックが人々の身近な存在にあったということは誰でも知っている。何せ、それ故にマザーAIが生まれたのだから。
そこから飛躍して、自分たちよりも優れている【テック】の存在を崇めて生きていけばいいという考えに至った人たちがいる。それがテック至上主義者だ。
その思想を受けたレイザーザモンは2層において宣教師のような存在だったらしい。故に下っ端であり、彼らを本格的に調べようとするなら5層へ行く必要があるという。
最近では、宗教として流行っていて知らない人間は居ないというレベルで蔓延してきているらしい。マシンヘブンだと、他の層よりも真に受ける人間も多いようだ。
「やれやれ、あのゴミのような教えを受け入れるとは…。オイラが考えているよりも人間は愚かとしか言いようがないな。」
ハルカを通じて、ヴァイスが現れた。ミストマンは基本的に自分に好意的な人間の前にしか姿を表せないという種族特性がある。そのため、以前交わした連絡先を根拠に無理やりこの場に現れたのだった。
「何はともかく、ジャスティス君。君の中にあるレシピは焼き切らせてもらうよ。その代わり、君がやりたいことは自由にして良いよ。」
ジャスティスは「うぐっ」と呻くとこめかみの辺りからショートしたような音がなった。ジャスティスは記憶の中のチップの作成方法を忘却させられてしまったようだった。
しかし、彼は意外にも前向きだった。
「うう、大丈夫。人生をかけてでも探って見せるさ。」
そう言って、彼はハルカに保釈金を払うからここで解放してくれと訴えてきた。少し考えた後、ハルカは保釈金として40CPを受け取り、ジャスティスを解放した。彼は再び、占拠していた施設のある方向とは別の方へ去っていった。ヴァイスの方はこの結末が意外だったらしく、少々間の抜けた顔をしていたが、すぐに切り替えてハルカたちへと話しかける。
「ふむ、とりあえず成功ということで。報酬としてオイラから情報を一人なんでも一個教えてあげよう。答えられないのにはノーカンでいいよ。」
少々、どよめいたハルカ達。すぐに答えが出たユラ がヴァイスへと質問する。
「なら、アタシから。ニコってバーサーカーの居場所を教えてくれ。」
「それなら、3層と4層を行ったり来たりしているよ。チームで小規模キャラバンのようなことをしているね。」
「おっしゃー!遂に具体的な情報が出たぜー!!」
ユラは目的が明確になり、喜びを隠せない。続いて、メルがヴァイスへと質問をした。
「某は、5層にいるはずの賞金首『メム』の詳細を知りたい。」
「ほうほう、それならそっちの端末に居場所を含めて詳細を転送しておいてやろう。もっとも、移動してしまったら、クレームは受け付けないからねー。」
端末を確認し、目を細めるメル。少し、苦そうな表情をするも直ぐに普段通りの顔に戻る。
「次はワタシー。4層って厳しい?今のワタシデも通用スル?」
「無理だな。次。」
「ワタシだけ、扱イしょっぱくナイ…?」
「あの、ワタシはゾンビから人間に戻れますか?」
「うーん、戻れるよー。ただ、5層に辿り着けないと無理だね。方法は何通りかあるけれど、5層にたどり着ければ教えてあげるよー。」
「そ、そうなんですか。意外に、期待ができるんですね…。」
ハルカはヴァイスへとマインドリーディングもサイコメトリーも使えなかったので、話半分に聞いていた。
だが、まだ具体的な方法はわからないものの、5層へと希望を持って歩いていけるようだ。最近は慣れているが、やはり人間の体に戻りたい。
ハルカの質問を受けた後、ヴァイスはまたオーダーするからねー、と言いながら消えて行った。
意外なタイミングでヴァイスから報酬を得た一行だったが、とりあえず帰路につく。幸か不幸か、帰り道ではワンダリングエネミーに出会うこともなく、無事にマシンヘブンへと帰り着いた。
2層のハンターズオフィスへと戻り、拘束したテック至上主義者たちを引き渡す。それなりの人数を渡したので、一時オフィスが狭く感じたが、大体の連中は強制サルベージの役につかされるようだ。最も、施設占拠をして行っていたことはウェポンの作成による武力拡張と信者を増やす程度のことだったので、それなりの長い刑期になるようだ。
「それじゃ、約束の報酬ね。受け取って。60CPよ。」
順調にCPを手に入れて、早速ここいらで人気の食事処を聞き出す。そうして店に着いてから、意外と言えば意外、当たり前といえば当たり前のことが起こった。
「私だけ、食べるものがない…。」
そう、ゾンビのハルカが美味しいと感じることができる、新鮮な生肉のようなものがなかったのだ。仕方なく、雰囲気だけ楽しむために飲み物だけ頼む。アルコールを入れたところで、彼女は酔う事もできないのだが。
「ごめんねー、ハルカ。次は、そっち系のエネミーも狙っテコ?」
「申し訳ない、ハルカ殿。我々ばかり楽しんでるようで。」
「うーん、ハルカの傷は癒せてもチャクラは空腹までは癒せないからなぁ。」
三者三様の答えが返ってきたが、ハルカの虚しさは埋められなかった。やはり、ハルカは人間に戻るんだ!と強く決意した。
ハルカ以外は食事を楽しみながら、ここまでで、かなりハイペースでCPを手に入れたので、再び装備の調整を行いこの階層のボスとなるギガントタンクへ挑戦をすることが話の中で出てきた。
「多分だけれど、私たちの装備のグレードでギガントタンクを倒すことが出来そうです。3層到達の人たちが何人かいるけれど、それほど変わった装備してないですし。」
「おう!なら、直ぐに探しに行こう!!遂に、【ドラゴンフィスト】が目の前に来てる!やろう!」
「落ち着くで御座るよ、ユラ殿。とはいえ、某もそれは考えていたで御座る。個人的にも、3層到達が早まるに越したことはないので。」
「あ、ワタシがあのウェポンもらっていいの?そうしたらやっチャオウ。」
アモットはジャスティスが構えていたが、使われることがなかった巨大なウェポンを気に入っていた。他に使いたがる物もいなかったため、アモットの装備にすることで話が決まった。
「ンー、ウェポンスロット拡張しないとなー。楽しみー。」
無邪気にアモットは新しい武器【エグゼキューター】に喜んでいる。他の面々は持っている武器の強化や、自分の技術鍛錬に注ぎ込むようだ。
アモットの装備はどうやら3層で手に入るウェポンのようで、改造などもこの階層では不可能のようだった。アモットはウェポンスロットを解放するために密かにハルカにCPを借りてまで解放した。
エグゼキューターの馬鹿でかい棺桶のようなウェポンを左手側に装備したおかげでどんどんと戦車のような見た目になっていく。
ここまで来ると、アモット達をおちょくる調子者も簡単に手を出してこなくなる。1層ではその異様なチーム構成に酔っ払いが絡んできたこともあったが、もう来ることはない。
ハルカは装備更新をする度にエレメントウィザードってなんだっけ?とアモットを眺めながら思うのであった。
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