第41話 ナフサファミリー
大穴が開いたナフサファミリーのアジト2Fでハルカ達はファミリーのボス3人と対峙していた。
それなりに小綺麗にしていた事務所の部屋は埃まみれになり、見るかげも無い。
腰に下げている2本の刀を引き抜きながら、オサムは言った。
「そこの嬢ちゃん以外、皆殺しにする。セイヤ、カツミ気を付けろよ。」
「俺は分かってるさ。そういうのはカツミに言ってやんな。」
「ふん、殺しちまう前に止めてくれや。」
蛇の様な目つきのセイヤは両手に大きな手甲をはめながら、巨漢のカツミは巨大な銃を構える。
男達はハルカ以外を全員殺し、ハルカを人質にして再度ソドムと名乗っていたヴァイスにチップの流通と使用者のコントロールを再開させようとしていた。
元を正せば、ナフサファミリーは中規模以下でここらのマフィア、ギャングと抗争し合っている程度の存在だった。
そこをヴァイスが違法ドラッグチップで経済的にのし上げ、さらには鉄砲玉としてドラッグ利用者を使って抗争にも上位に食い込んできていたところだった。
今、まさにのし上がろうとしていた矢先にハルカ達のせいでご破算になったとあれば、怒りも心頭に来ても仕方がないところであった。
そんな一触触発の状況の中で、口火を切ったのはメルだった。
「悪党の戯言に貸す耳など持ち合わせておらん!大人しく、縄につくか死ぬんだな!」
両手のガンファーから弾丸を吐き出しながらオサムへと攻撃を行う。それに対し、オサムは両手の刀を使って、無数の弾丸を弾き返した。
「馬鹿な!マフィア風情がサムライの様な真似をなぜ出来る!?」
「くくくっ、やっぱりたいしたもんだな。このチップもまだまだ作ってもらわねぇと。」
余裕の表情を浮かべながら、オサムが笑った。オサムは今、サムライの上位職ケンゴウの受けの極致を使った。サムライでは出来ない銃弾を受け、弾き返したのだった。これもヴァイスが提供した別の違法チップで、特定のジョブの能力を一時的に与えるというものの効果だった。
先手をとったメルの勢いが削がれないうちにハルカ達が一斉に動き出す。
ハルカがマインドコネクトをユラとアモットに接続して、同時に攻撃を行った。サイコガンをカツミに命中させ、アモットが室内だということをお構いなしに戦車砲を放ち、巨大化をして、事務所の狭さを感じながらユラが拳を当てていく。
ほぼ、全ての攻撃を受け止めながらもカツミは笑みを崩さない。カツミの体は今、ベルセルクのジョブ効果を得ていた。大量の出血をしながら、常人なら死んでてもおかしく無い負傷を引きずりながらも前に走り出す。カツミに合わせて、セイヤも事務所の壁を蹴って、変則的な動きをしながらアモットへと攻撃を行った。
「こいつを喰らって、ガラクタになんなピンクのゴーレムようっ!」
1、2、3、4と連撃を放つセイヤはドラゴンフィストのジョブ効果を受けている。体に竜の様なオーラを纏いながら、その輝きを手甲に絡み付けてアモットを殴り抜いた。アモットは自身の装甲を信じていたが、装甲を貫通する様にオーラが抜けてくる。内部で炸裂した輝きはアモットに大きなダメージを与えた。
「ハハハハッハハッハハハハッ!!」
狂った様に笑うカツミは構えた銃から凄まじい勢いでエネルギー弾を扇状に放ち始めた。あらかじめ知っていたセイヤは身をかがめてやり過ごしたが、ユラとアモットはモロに輝く弾丸の雨を受けてしまう。幸い、こちらには装甲が通用したため大きなダメージはアモットは受けなかったが、ユラはこれを受けて足を貫かれた。
さらにオサムは二刀流でユラ に追撃を行い、両足の自由を奪っていく。
「強い!まさかマフィア程度がこんな強さを持っていたとは!!」
メルはナフサファミリーの様な規模のマフィアを潰した経験もある。だからこそ、こんな強さを持っているとは思わなかった。何せ、相手はジョブだけとはいえ自分たちのジョブよりも上位の能力を得ている。メルの考えていた想定とは違う流れにティンクには無い冷や汗が流れた様に感じる。
ハルカは異様な強さを持つ3人の男の中で、何が鍵となるか考えていた。マインドコネクトをした状態で、高速の思考のやりとりを行う。
◆ユラちゃん、アモットちゃん、メルさん、この中で誰が一番早く倒せそう?
◉おそらく、ドラゴンフィストもどきで御座ろう。防御手段はほぼ無い上に、回復手段を持っている筈。
○ワタシはサムライのおじさんを倒したいところだけれど、そういうことならドラゴンフィストのおじさんだね!
■アタシ、ベルセルクのおっさんとタイマンしたいんだけれど、いい?
◆今はダメかな。ニコって人との予行演習はまた今度で。
■今度っていつだよー?まぁ、仕方ないか。戦えるだけで十分とする。
◆それじゃ、ドラゴンフィストの人から倒して行こう!
一瞬に作戦会議を終わらせ、ビームガトリングの掃射の隙間を縫ってセイヤにサイコガンを撃つ。奇妙極まりない軌道を描きながら、銃弾がセイヤの心臓狙って命中する。セイヤは大量に血を吐くが、竜気を負傷部に集中させて出血を止める。さらにメルのガンファー、ユラの拳撃の乱打が襲った。
「こいつら、俺から仕留める気か!クソッタレっ!!」
ハルカ達の考えを読んだセイヤだったが、すでに時は遅かった。そこに形態変化して射撃に最適化したアモットが最後の戦車砲を放ち、体に大きな風穴を開けてセイヤは事務所の壁に叩きつけられ即死した。
「セイヤ!?くそ、テメェらぁぁぁぁぁぁっ!」
オサムが激昂し、刀を振るった。動きが鈍くなったユラにさらに深い傷を与え、ついに膝立ちにさせる。
「次は、その首をもらうぜデカブツ。」
オサムが刀を向けてユラに宣告をする。カツミはその流れに乗る様に、銃弾の雨をばらまき、アモットとユラにダメージを与えていく。ユラは次の攻撃がくれば持たないと思い、攻撃に参加できないことを悔やみながらも回復に専念し、アモットと自身を回復していく。
■あのサムライのおっさんも強いな!
◆大丈夫?回復に専念してね!?
◉次に相手をするとしたら、あのケンゴウもどきなので御座るが。銃弾を受け止める技を持つが故、瞬時に倒すのは難しいやもしれん。
○まぁ、仕方ないよね。地道にダメージを重ねて削っていくしか無いよ。ワタシも大砲使い切ったから魔杖に切り替えて攻撃するね。
■それじゃ、次はサムライのおじさんに集中ね。
瞬時に行われた作戦会議の結果、オサムへと攻撃を集中させる。サイコガンが飛ぶが、これを弾きかえしてあまつさえハルカに命中させる。ハルカは胸に自身のサイコガンの弾丸を受けて血が流れる。再度、作戦会議が瞬間的に行われた。
◆嘘でしょ!?なにそれ!?
◉ケンゴウのカウンター技で御座るな。これは厄介極まりない!
○ベルセルクのおじさんの耐久力半端ないと思ったから、こっちにしたのにねぇ。これは不味い?
■押し切るしかねぇんじゃ無いか?おそらくだが、アタシらと違ってジョブの能力の一つが欠けてる。
○欠けてるって何が?
■到達者の耐久力向上。ドラゴンフィストのおっさんが、やけに簡単にやられてる。多分、1層のルーキーと同じか、それ以下だと思うぜ。
◆そっか、大砲で仕留めてるから全然わからなかった。ユラちゃん、ありがとう。もう少し頑張ってみよう!
メルがガンファーを撃ちこみ、オサムが弾き返そうとするが上手くいかずに逆にダメージを負う。血を吐きながらも次の一手に対応せんと眼を見開く。
アモットは魔杖に持ち替えてユラに回復と竜鱗の魔術をかけて補助を行う。サポートをもらったユラは再度回復し、前衛組の負傷を癒していく。
カツミは相変わらず、銃弾をばらまいてくるが精度が甘くなったのか、アモットは回避に成功する。ユラも防御魔術のおかげで負傷は手足を抉られる程度で済み、致命傷は免れた。
オサムは回復手段を持つデカブツを殺そうとしていたが、ここでゴーレムも回復手段持ちだったことに気づき、一寸攻撃を迷いどちらが殺しいやすいかで判断してアモットに攻撃を集中させた。3連撃を繰り出し、アモットは回避することができずに全てを受けてしまう。
「っちょ、ココでワタシに変えてくルノ!?」
「すまねぇな、ガラクタ。お前さんの方が首は低いんでな」
アモットの言葉に律儀に憎まれ口を叩くオサム。しかし、眼光は冷え切っている。セイヤの仇でもあるゴーレム相手に殺意が刀身から溢れ出る様だった。
さっきの出来事のせいでサイコガンを撃つことに躊躇いが出てしまうが、攻撃しないという選択肢はないと己を鼓舞してハルカが銃撃を行う。上手く軌道を変化させて弾き返されずに左足へと命中させることができた。
「くそっ!早々上手くはいかねぇかよっ」
悪態を吐きながら、次の攻撃に身を構えるオサム。魔杖を構えたアモットが光弾を杖から放つ。これは一刀にて切り捨てる。しかし、回復に専念すると思っていたユラが攻撃してきた。
「アタシの全力攻撃だ!くらいな!!」
4連続の拳を受けきれず、胸に一発、頭に一発を受けてしまった。オサムは強烈な衝撃を受けて、床に倒れ伏した。
「アタシの首を刈るには身長が後2m足らなかったな、オッサン。」
オサムが倒れたのを見て、カツミが雄叫びを上げる。しかし、形勢が覆ることはもはやない。
銃の乱射と怒号が響き渡ったが、最後には4人全員が無事に戦いを終えたのだった。
そこら中に穴が空いた事務所にて、死体一つ、縄で縛った男が二人それぞれの浮荷台に乗せていく。ついでに、ヴァイスの義体も乗せていく。何かの部品になるだろう。
オサムとカツミは死なない程度に負傷を癒しておいた。セイヤはさすがに大砲の直撃を受けて死亡していたのでどうしようもなかった。
「やっと、倒せたか。やはり、ベルセルクはタフだったで御座る」
「ねぇねぇ、この場合の解体…、もといはぎ取りって違法?」
「多分大丈夫だと思うんだけれど、オフィスに突き出す前に聞いてみる?」
物騒なことを話しながら、戻ってきた構成員に浮荷台の上にいるカシラたちを指差してハルカが告げる
「あなた達のボスはこの通り。それでも歯向かいた行って人はどうぞ。」
「まぁ、勝てるとは思わんことだな。」
巨体のまま、ユラが動こうとした構成員を牽制した。
構成員達は違法チップを握りしめたまま、結局ハルカたちが去っていくのを見るしかなかった。
貧民街を周りの住人から恐れられながらも通り抜け、オフィスへ向かおうとしたときにハルカへと着信があった。ヴァイスからだった。念のため、ウェポンスロット経由で無音でやりとりする。
「ヤァ、オイラだよ。」
「今、疲れてるんで後にしてください。」
「下手なジョークだね、ゾンビは疲れないだろう?」
「精神的に疲れてるんです。それで、何の様ですか?」
「いやぁ、とりあえずお疲れ様ってね。おいらのジョブチップ凄かったでしょ?3層のダイバーと戦ってみてどうだった?」
「強かったですよ、それより本当になんですか?」
「つれないねぇ、まぁいいや。本当に話したかったことはとりあえず、2層へと進んで欲しいって話だよ。拠点も2層に移してね。キャラバンが3日後に出るだろう?それに乗り合わせて、僕の用意したところに滞在して。」
「あなたの用意したところってのが嫌なんですけれど、拒否権は?」
「500人のうち、20人くらいかなぁ。」
「やめてください。わかりました、このことはメンバーの皆には言っても?」
「無論、OKだよ。さすがに、君たちの装備まで更新する気はないから。そこら辺はOK?」
「ええ、じゃあもういいですか?」
「いいよー。またねー。」
掴み所のないヴァイスとの終えて、先ほどの会話内容をチームの皆へと話す。
「へぇ、先に宿があるのか。楽でいいな。」
「ヴァイスの用意した家なんて、正直気が休まらないで御座る。」
それぞれ、両極端な反応をするユラとメル。
「ついに2層かー、マシンヘブンのあるところダヨネー?楽シミー」
アモットは相変わらずにマイペースな答えをしている。
気がつけば、ダイバーとして慣れてきた自分もいる。ハルカはアモットに「そうだねー」と返事をして、少し考えていた。
自分は500人の名も知らない人の命を天秤にかけてしまって良かったのだろうか。自分はそこまでしなければいけなかったのか。
単なる女子高生だったのに、気がつけば500人の命と人間に戻るために5層なんてとんでもない所に行こうとしている。
「ンー?何か難しいコト考えてるデショー?あんまり考えすぎても良い答えでないよー?」
「そうだねー、割り切って考えるよー。とりあえずは、5層目標は変わらずだし!」
そんな受け答えをしつつ、4人はダイバーズオフィスへとたどり着いたのだった。
もし、この作品を読んで面白かった場合は是非ともいいね!や評価、感想をください。