第40話 ハルカの決意
思ったよりも長くなりました。もっと続きます。
マフィアのアジトは貧民街の一角にあった。確かに、あまり規模の大きくないところの様だった。向かう間に、メルから概要の説明を端末へ送ってもらい、ウェポンスロット経由で読み込んでいく。
マフィア自身は下っ端を除いて、ドラッグには手を出していない様でソドムに洗脳されている様子はない。
マフィアのボスは3人で合意制で運営している様で、リーダー格のオサム・フクナガ。武力担当のカツミ・サダモリ。シノギ担当のセイヤ・ナカムラの3人だ。
例の洗脳ドラッグチップは凄まじい売れ方をしていて、一度でも使用してしまえば洗脳への脆弱性を作られる様で依存度は関係してないらしい。他マフィアへの攻撃に参加した鉄砲玉は使用頻度が1、2回前後で参加させられていたらしい。
メルが空中を飛び、偵察をしている。ナフサファミリーのアジトは構成員らしい武装した男女以外に、拳銃程度を持たされた洗脳済みの一般人がいる。チームを組んでいるらしく、構成員一人に対して5人前後のチームの様だった。
正面から行っても、ウェポンの強さの違いや練度の差でこちらが勝てると思えるが、一般人に犠牲者を出すのは本意ではない。洗脳済みの一般人を装うには、自分たちは種族がバラバラすぎるので目立ってしまう。特に、ハルカは目立つ。アモットは更に目立つ。
メルが悩んでいる間に、アモットから連絡が入る。
「モウ、目の前まで来てるケド。ドウするー?正面突破?」
「いや、ソレでは犠牲者が出過ぎる。洗脳済みの一般人を盾にしながら連中は戦うだろうし。」
「なら、陽動するってのはドウ?」
「ほう?」
アモットの作戦としては、少し離れた廃墟に潜む班と、強襲する班に分かれる。廃墟班が攻撃を行なって、鉄砲玉達をこちらに引き付けて守りが手薄になったところで強襲班がボスとソドムと名乗っているヴァイスを叩く。
廃墟班は適度に陽動が完了次第、強襲班へと合流する。
廃墟班は陽動するための砲撃にアモット、移動を阻害されないメル。
強襲班はハルカと色々とフォローが効くユラ 。
廃墟班のアモットの合流がネックだが、どうにかするつもりらしい。
班別に分かれて行動する。
「アモットちゃん、無理しないでね。」
「ダイジョーブ!任セテ!!」
アモットとメルが定位置に着く。程よく背が高く、目標までの射線はしっかりと通っている。
ハルカからあちらも準備はOKという連絡が来た。
「ハルカ殿から連絡が来た。いつでも大丈夫だそうで御座る。」
「リョーカイ!」
「某はさておき、そちらはどういう風に合流するつもりで御座るか。そろそろ教えてもよかろう。」
「ふっふっふ、どうせナラ皆を驚かせたいからモウちょっと秘密ー!」
アモットはそう言って戦車砲を伸ばして3階建になっているナフサファミリーのアジトへ照準をつける。
事前情報だと、2階で会合をしているらしいことを把握しているので照準はそちらに合わせている。戦車砲で出来るだけ分かりやすく撃つ。轟音が鳴り響き、白い煙がアジトと廃墟を結ぶ。
メルの言い分だと、急激に拡大した為に構成員の数はソレほど増えていなく、また武装の供給が間に合っていないので、一般人は脅威としては大したことがない。ただ、違法ドラッグに手を出しているとはいえ、直接的にマフィアの手駒にされているのは哀れすぎるので手を出したくはない、ということだった。
ちなみにダイバーとマフィアの明確な違いはジョブの補正があるかどうか、というところも大きい。ハルカでさえ、ジョブの補正があるから一般人に囲まれても戦うことができる。これがマフィアとなると、ウェポンの性能でしか戦えない。
武力派のマフィアと後衛のダイバーなら、ウェポンにもよるがダイバーが勝利する。だからこそ、人類の資源を確保するためにダンジョンに挑む強さを持つことができる。
ダイバーに前科があっても問題はないが、端末によってトレースされているため何かを悪事を働けば即座に賞金首になるというシステムもある。
そんなことを思い出しながら、アモットは着弾を確認する。無風だったが、狙撃用のウェポンではないため、かろうじて2階部分に当たったという感じだ。
「早速、アジトから構成員が鉄砲玉を連れて出てきたな。どこまで引きつける?」
「ソレじゃ、ワタシのアイデアをお披露目するね」
そう言って、アモットは形を変えていく。ピンクに染められた装甲が滑らかに生き物の様に変形していく。
ゴーレムは戦車武器を扱えるので勘違いされがちだが、異能によって動く存在である。いわば、魔法や魔術に近い存在だ。なので、基本となる形以外を自在に変形、変身してとることができる。現在のゴーレムは性能が落ちたのか変形することで内部部品に無理がたたってダメージを受けてしまうが、遥か古のゴーレムは状況に応じた形を自在にとる驚異的な存在だったらしい。
アモットが変形を完了させたとき、なるほどとメルは合点した。後は、十分に引き付けてここから離脱するだけだと確信した。
ハルカ達は作戦の開始を待っていた。廃墟から轟音が発し、アモットの砲弾がアジト2階に着弾した。近くの廃墟からの砲撃と分かりやすく白煙が空を横切っている。
アジトから大人数の構成員と鉄砲玉が廃墟へと押し寄せる。構成員はマシンガンをでたらめに打ち込み、一般人の洗脳者は拳銃を淡々と打ち込んでいる。アジトの中に人が少なくなったのを見て、ユラを先頭にハルカ達が駆け込んだ。
マフィアのアジト内で貧民街の建物としては小綺麗にした部屋の中、アジトは騒然としていた。子分が行ったり来たりして、事態に収集をつけようとしている。
ソドムを交えての今後のチップの量産計画とその流通に関しての会合だったのにそれどころじゃ無くなっていた。
「くそっ!なんだってんだ!!おい、どうなってやがる!!」
「ヘイッ、外の廃墟からこっちへ向かって砲撃した馬鹿がいた様で!」
「舐めたことしやがって!兵隊連れて落としてこい!どこの馬鹿だか知らねぇがナフサに唾吐いてきやがったんだ。ケジメつけさせてやる」
顔に縦に切り傷が走ったナフサをまとめるリーダー役になっているオサムが激昂しながらも、子分に指示を出していく。2mはありそうな大男、武闘派のカツミは自分のウェポンを腕にはめて戦闘の準備をしている。黙々としているが、かなり怒っているらしく顔には血管がいく筋も浮き立っていた。丁寧に撫でつけたオールバックの黒髪の男、シノギ担当のセイヤは慌てることなく、同じく全く動じていない目の前の男ソドムと会話を続けていた。
「それで先生、このチップの生産量はもう少し増えませんかね?ウチもこの勢いでもう少し拡張したい。そのために使えるコマが多い方がいいんでさぁ。」
「うむ、生産量は増やす分には構わないですよ。見返りの方がしっかりと貰えればね。」
「例の実験でしたっけ?ウチの若えのを10人ばかしそちらに渡したはずですが?まだ足りないと?」
「ふっふっふ、そういうわけではありませんよ。独り言の様なものです。見返りはしっかりと貰えてますよ。そうそう、例のチップはどうです?お気に召しましたか?」
「ああ、あれですか。抗争でこちら側がだいぶ楽できましたからね。ウチのカツミも気に入ってますよ。あれは、もう少し持続時間は増えねぇんですかい?」
「残念ですが、現状はあの時間以上は伸ばせませね。伸ばしてもいいんですが、日常生活に支障が出る様な記憶の混濁に襲われますよ。」
ああ、そりゃ残念。といいながら、セイヤは階下の物音が気になっていた。下に降りていった子分どもにしてははしゃぎ過ぎている。
「おい、そこの。お前、下の様子を見てこい。」
「へい、分かりやした。」
そう言って声をかけられた子分が階下へエレベーターを使って降りていった。何か激しい音がした。壁に何かが叩きつけられた様な音だった。それを境に、下の音は何もしなくなった。
すぐにエレベーターは下から戻ってきた。やけに早いな、とセイヤは思いながらも階下の音がなんだったのか聞いた。
「おい、音の原因はなんだったんだ?馬鹿どもがケンカ前に楽しんでるのはわかるが。」
「んー?アタシはお前んとこの子分じゃないから分からないぞ?」
エレベーターから出てきたのは、先ほど降りていった子分を片手一つで引きずりながら現れた少女の姿のユラと、こういう鉄火場に慣れていないのか何処かオドオドした雰囲気のハルカだった。
「何だぁ、テメェら?」
「そこの、男に用事があって、来ました!」
ハルカがソドムへと指をさした。途端に、ソドムが雰囲気を一転させる。それまでの理知的な表情は、何処か人間を辞めてしまった様に不自然な笑みに変わる。何処か人形めいたカクカクとした動きになり、ハルカへと向き合った。
「ヤァ、嬉しいねぇ。ハルカから来てくれたのかい。オイラからのプレゼントは気に入ったかい?」
「プレゼント?何のことですか?」
「ほら、何でも無い一般ピーポーに囲まれたでしょ?面白かった?」
「面白くも何ともありません。早くこの悪意満載のチップの効果を切ってください。」
ハルカは啖呵を切る。しかし、ソドムの皮を被るのをやめたヴァイスは動じない。いきなり現れた小娘達が始めた会話についていけないナフサの3人。
「あー、それよりもハルカが大人しくオイラの研究体になってよ。オイラの目的はそれなんだから。早くダイバー操作のチップ作りたいんだってば!」
「おいおい、ソドム先生。話が見えねぇんでコッチにも分かりやすくしてもらえねぇかい?」
「やだよ、そっちがついてきて。」
「はぁ?何だ、その口の聞き方は!?テメェ、自分の立場が何だかわかってねぇ様だな。おい、カツミ、オサム!」
「おうよ!」
ナフサの幹部3人がウェポンを各々握り、チップらしきものを握り潰したそのときだった。
何の前触れもなく、壁が砕けた。
その直後にピンクの影が部屋の中に突入してきた。
「だーいセーいこーウ!」
「アモット殿の作戦は、どうもこう博打要素が大きいな。次は事前に教えて欲しいで御座る。」
壁を破壊して現れたのは戦闘機の様な姿に変わったアモットと、その中でアモットの重量軽減を行っていたメルだった。
アモットの作戦とは、戦闘機の姿をとって空を飛んで突入するというとんでもなく大胆な発想だった。そのために、メルの球型重力操作装置でアモット自身の重量を軽減して一緒に来たのだった。
突入の衝撃で、意識を失わなかったものの混乱するナフサの面々。しかし、ヴァイスは動じない。
「ふむふむ、それでどうする?オイラ、一般人500人くらいの人質あるよー?一人一人、目の前で殺してく?」
さらりと、言ってのけるヴァイス。オサム達は、話の行き先が自分たちの描いていたものと大きく変わっていることに気付きながら、話に入れない。
ハルカはヴァイスの人質は間違いなく本物だと思う。チップの中をサイコメトリーして直接確認しているということもあるが、この男はここで嘘を言いそうに無い。つまり、
500人の一般人の人質は本当で、目の前に連れてきて、一人一人が拳銃で自殺するくらいやってのけるということだ。
ならば、人質を無意味にすること、交換できる条件を提示するしかない。
「ヴァイス、あなたが欲しているのは5層まで到達できて、あなたの本体を安全な場所へと運べる存在でしょ?人間じゃなくてゾンビだけど。私がそれになるから、人質を解放して。」
「へぇ?どうやってそれを約束できる?」
「あなたが流通させてるチップを私の体内に入れる。あなたがその気になったら、それで操るなり何なりすればいい。あなたに見切りをつけられるまでは、私は5層を目指す。」
ふむふむ、と顎に手をかけて考える仕草をとるヴァイス。パチンと指を鳴らして、ハルカへと告げた。
「いいね!それで行こう!!オイラは別に本体をどうにかしてくれる確証が欲しかっただけだからね!それがハルカになるなら、それでいいや。なら、これオイラとのコンタクト用のアドレスさ。ハルカ以外には出ないから、ハルカ専用ね。以後、これでオイラと連絡すること。オイラからのオーダーもあるから、よろしく!」
「その前に、一般人の人質をどうにかしてください。」
「はっはっは、それならチップを先に体内に入れてもらわないとね!」
そう言われて、仕方なく自分の頭にサイコガンを突きつけて頭部を撃ち抜く。その中にチップを入れた。
「ユラちゃん、ごめん。癒してもらっていい?」
「お、おう。いいんだな?」
コクリとうなづいたハルカを確認して、ユラはチャクラで傷口を癒す。
「オッケー!なら、人質は無しだ!全員解放したよ。最も、カチコミかけにいった一般人はどうなるか、オイラにはクレーム入れないでね!それじゃ!!」
あっという間に捲し立てて、ヴァイスの義体はコトリと糸が切れた操り人形の様に倒れた。
それを見て、我に帰ったオサムがハルカ達に叫ぶ。
「な、何だと!話が違うぞ!!テメェら、勝手に乗り込んできやがって、何してやがる!全部戻しやがれ!!」
「と言われましテモ、ワタシ達も何が何やら。」
人型に形を戻しながらも、話についてけなかったアモットである。
本当なら、やめて!とか、そんな約束してはダメだよ!とか叫びたかったが、間に合わなかった。マフィアの気持ちが痛いほどわかってしまう。
「元々、5層まで言ってゾンビから人間に戻るつもりだった。そこにヴァイスの約束がついただけだよ。気にしないで、アモットちゃん。」
「あー、…うん。それは置いておくとして、ここの落とし前どうツケル?」
珍しく、混乱しているアモット。メルがため息をつきながら提案する。
「もう、やってしまったことだ。どうしようもない。どうにか出来ることから進めるで御座る。まずは、この男達の始末で御座るよ。」
「ふざけるなよ、小娘どもーッ!!貴様らたたっ殺して、野郎に元に戻す様に脅したるわッ。ヤルぞ、カツミ、セイヤ!!」
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