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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
デッドラインのエル
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第4話 ダンジョンダイブ

 エルはツバメと別れた後、久しぶりのダンジョンダイブということで準備をそこそこに行い、翌日にダンジョン入り口で待機していた。

 ダンジョン入り口には、表層都市が配置した衛兵が立ち話をしながら待機している。彼らのメインの仕事は、ダンジョンから這い出てくるエネミーを迅速にダイバーズオフィスに連絡することであり、装備も強化装甲服とライフルとなっていて1層のエネミーには通用するが本格的になってくる2層の化け物相手には火力不足である。

 エルは衛兵を横目に見つつ、ぼんやりと他のメンバーが現れるのを待っていた。流石のエルでも、一度請け負えば仕事をキャンセルすることはなかった。最も、キャンセル料を払ったら生活できなくなりそうな気配があったからでもあった。そんなエルに衛兵が声をかけてきた。


「珍しいな、ザ・リーチ。ダンジョンダイバーから引退したって噂を聞いてたが、ありゃ所詮噂だったってことか。」


「ほとんど事実だよ、真面目な兵隊サン。できれば、引退したかったってのが本当のところだ。」


 引退したところで、エルの財産で余生を暮らすというのは難しいところだった。表層都市での仕事に着くというのも手ではあったが、エルができそうな仕事といえば荒事がメインの用心棒や衛兵くらいであり、ストリートチルドレン上がりの自分には結局のところ美味しい話なんて転がってくることもないのであった。

 親兄弟の居ない自分には頼れる相手も居なく、逆に路上生活を余儀なくされている血の繋がらない兄弟たちのために定期的に経済的な援助を行っているくらいである。ツバメの件がなくとも、そろそろ1層にでも潜って資材回収でもして稼がねばならないと思っていたのもある。

 

 「やはり、君が一番最初に来ていたか。我が友よ」


 Mr.トリックが唐突に視界の外から歩きながら現れた。「ミストマン」である彼には距離の概念はイマイチ意味がないので、もしかしたらずっとここにいたのかもしれない。彼は友好的な種族、いわゆる人類の目の前にしか現れることができない。基本的なプログラムの中に組み込まれている。なのでミストマンのソロダイバーというものは存在しない。彼らはどこまでも人頼みでしか動きようがないのである。

 Mr.トリックに適当な挨拶を返し、ツバメとレフト・インサニティを待つ。Mr.トリックが隣でやかましく喋り続けているが、適当な相槌だけで済ませておく。

 駆け出しの頃に出会ってから唯一固定しているメンバーであり、本当にルーキーの頃には世間一般の常識なども教わった相手で恩は感じている。しかし、地味に情報が50年ほど古い話だったり、推測憶測を真実のように語る悪い癖に気づくとオフィスにいる同業に確認するようになった経緯もあるので、この対応になっている。

 大体、待ち始めてから30分もしないうちに大柄かつ豊満な身体をチャイナドレス(という服だとMr.トリックに教えてもらったことがある)に身を包んだレフト・インサニティがツバメを連れてやってきた。どうやら、念の為にここまで一緒に来たらしい。

 

「依頼主をエスコートするのも、依頼料のうちじゃないかい、エル?」


「しばらくぶりのダイブで、そこまで気が回らなかったよレフト・インサニティ」


 エルがベニエと呼ばないのは、彼女がそう呼ばれるのを嫌っているからだ。彼女と組んだのは少し前になるが、その時には呼び名は既にレフト・インサニティだった。彼女も初陣で死亡し、ブギーマンに蘇生されて左手を「救済の左腕」に置き換えられている。他人の生命を救うことができるが、自分の肉体を傷つけてしまう。それでも、その力を使い続ける彼女に誰かが付けたあだ名を好んで呼ばれ続けているのだ。

 

「おはようございます。今日はよろしくお願いしますね」


 ツバメがゆっくりとお辞儀を挨拶をしてきた。路上生活出身のエルとしては、生きている世界が違うんだろうなとぼんやりと思いながらも挨拶を返す。見た目も小綺麗にしていて、ダイバーにはよくある「服だけは派手だけれど所作が粗野なまんま」という感じがしない。


「おはよう、ツバメさん。さすがに、このメンツで間違いはないと思うが念のためダンジョン内では前に行ったり、目の届かないところに行くのは勘弁してくれ。以前、そんな護衛対象がいて困ったことがあるんだ。」


「もしかして、ジョロトキア博士でしょうか?有名ですからね、博士の好奇心の強さに関する逸話」


「全くだよ。それを知ってるなら、道中の行動に心配は要らなそうだな」

 

 表層都市の有名人を出すと、彼女は納得したようである。何があっても、護衛対象を守ることだけは違えないつもりではあったが、やはり仕事は楽な方がいい。

 少し打ち合わせをして、ダンジョン内の動き方などを合わせてもらう。前衛2人、後衛2人となり、敵が出た時の動き方、斥候が安全確認したところ以外は立ち入らない事などを確かめる。

 打ち合わせの後にダンジョンに早速入っていく。ダンジョンの入り口はちょっとした小部屋になっている。そこの中央に丸い土俵(とMr.トリックが言っていたがなんだかは分からない)があり、その中に入ってダイバーズオフィスで支給される端末で番号を入力すると1層のダンジョンに転送される仕組みだ。

 ダンジョンに潜ると、すぐに人の影が見えて来る。1層では遭遇するエネミーに大したものはいない。強いて言うなら、目の前の連中が気をつける対象だ。

 無機質な金属の壁にもたれかかっていた連中は、エルの顔を見るなり悪態をついた。


「ちっ、ルーキーかと思えば飛んだ野郎が来ちまった!移動だ野郎ども!!」


「なんだよ、俺だけに言うんじゃねぇよ。地味にムカつくな。」


 今いた連中は、いわゆるダイバー崩れだ。ルーキーが入って来ると後ろからついて行き、エネミー相手に全滅したところで装備を剥ぎ取る連中だ。

 悪辣な連中になると死人に口なしを実行する。オフィスに届けがなければ、賞金首になることもない。

 表層都市で装備を売るのは珍しい事じゃない。ついでに言えば、悪事がバレても2層以降の衛星都市に逃げ込んでしまえば良い話なのだ。

 今見た連中も賞金首には登録されてなかった。こちらから手を出すと、うっかり自分達が賞金首になりかねない。

 1層は安全だから、ルーキーから中堅になり損なった連中があの手この手でビジネスを始める。ダンジョンルートを占拠して、通行料を強要するなんて事もある。マトモにダンジョン探索しても稼ぎが少ない1層で稼ごうとするからそうなるとも言う。

 

 「1層は食料も豊富だからねぇ。篭ろうと思えば、いつまでもいられるからねぇ。もっとも、ワンダラーが出なければの話だけどねぇ。」


 ワンダラーは階層毎にいる7体のエネミーだ。特別に強力で、特殊能力を備えた連中も多い。その中でも、最強なのがフロアボス。この階層だと、今回の依頼ターゲットにもなっている赤龍になる。


「最悪、長期戦となるね?ミストマンである私はともかく、皆が持つかね?」


「なんとかなるだろ。さっきも言ってたが、ココは他の階層に比べて食料は豊富だ」


Mr.トリックの言葉にエルが返す。ダンジョンにはいろんなものがあり、資源となるものも人類はココから手に入れている。マトモな食料だって、例外じゃない。

 表層都市じゃ、エルの飲み食いしてた酒場だってダンジョン産の食料なのだ。貧乏人は配給の食料カプセルで食い繋ぐが、無味無臭のカプセルだと味気ないので余裕があればちゃんとした食い物を食べたくなるのが人情だ。

 食料となるのは、ダンジョン内で稼働している植物プラントや謎の肉を培養してる場所など。定期的に回収する依頼もルーキーにはちょうど良い。他に、生物型や食料型、そのものズバリ食料型エネミーなんてものを討伐し、可食部を剥ぎ取る事でも得ることが出来る。そして、ここ1層のエネミーはそんなタイプが多いのであった。


「ふむ、早速だが次のエリアにエネミー反応があるね。諸君、戦闘準備をお願いするよ。」


 Mr.トリックはダンジョンの警備システムにハッキングし、エリア内容を調べていく。その情報を伝えてくれたわけだ。

 サイバーアームズから、装甲銃を引き出して戦闘準備をする。レフト・インサニティは長身の太刀を引き抜いた。


「相手は?」


「キノコソルジャー、タケノコマンドー、それにメガスクイドだね!」


 食料型エネミーが2体に、生物型が1体。非常食をさっそくゲットといったところだ。連中は火力型で、タケノコマンドーが機先を制するタイプだが壁役が居ないので先手さえ取られなければ楽勝といえた。

 余裕の面持ちで次のエリアに入る。そこには唐突に植物が繁茂している空間が広がっていた。見通しが悪く、敵を視認できない。解除できるトラップでもないので、こうなるとこの環境で戦わざるを得ない。

 1層の相手だから、油断さえしなければ怪我一つ付かないだろうが、先手を取られて射撃されると手傷くらいは負うかもしれない。サイバーアームズから伸びた銃身が前を向く。何かあれば、即座に撃てる構えをとった。

 

 ピイーッ!と端末から警音が鳴る。茂みから銃口をこちらに向けたキノコ型のエネミーが居た。それに気づいたMr.トリックが各自の端末に軽音を鳴らさせた。


 とっさに動いて、射線を切るのと同時に装甲銃を向けて撃つ。銃弾はキノコソルジャーの頭部と思わしき部分に命中する。装甲銃はエルが稼いできたカネを突っ込んで強化してある一品だ。1層程度のエネミーは防げるような威力ではない。それを立て続けに3連射してキノコソルジャーの動きは止まった。

 続いて、レフト・インサニティが太刀を振り抜いてキノコソルジャーの隣に隠れていたメガスクイドに斬りつけた。メガスクイドは2m近い巨体を持ったイカ(Mr.トリック曰く、海の生物とやららしいが)だ。巨大な触手を振り回し防ごうとするが、振り回すたびに寸断されていく。トドメとばかりにメガスクイドの片目に太刀を突き入れてメガスクイドは絶命した。

 Mr.トリックは先手を打って二人の反射神経を上げるアプリを使っていた。前衛の壁タイプの二人はそこまで機敏に動けるわけじゃなかったが、そのおかげで敵よりも早く動いて先手を打てていた。ダンジョンハッカーのアプリはモノによるが、味方の補助や敵への阻害手段に事欠かない。ウェポンスロットやエネミーの受信装置などを介して様々な効果のアプリを流して戦闘に参加する。直接攻撃能力こそ無いものの、その支援能力はダンジョン内では強力だ。

 残ったタケノコマンドーは懸命に銃を撃ってきたが、装甲銃の盾部分でエルが防ぐ。多少は命中したが装甲服の厚みを超えては来なかった。銃撃が止んだタイミングでお返しとばかりにエルが銃撃を3連射してタケノコマンドーも動きを止めた。動かなくなったタケノコマンドーは円錐型の本体から手足が生えた姿で、銃さえ持っていなければ見ようによっては可愛い格好をしていた。

 3体のエネミー以外の相手はいなかったようなので、価値がある部分を剥ぎ取っていく。ダイバーなら、必須の経験だが意外なことに得意だと胸を張って答えられる者は少数派だ。単純に、解体技術を磨くよりも戦闘力を磨く者が多いだけであり、解体は力任せに価値のありそうなところを引っぺがすか、頭を働かせて貴重部位を丁寧に剥がすなどが大多数だった。

 エルもレフト・インサニティも全然できないわけでは無いが、素人よりは上手いくらいだけでこういう時には頼りにならない。Mr.トリックに至っては蘊蓄を垂れ流すが、直接的な作業には関われないため役立たずに近かった。なので、タケノコマンドーの可食部を持ち帰ることができただけであった。エルが可食部を適当な葉を集めて包んで浮荷台に載せた。浮荷台はダイバーに対してオフィスから貸し出されるツールで、人が二人までは座れる程度の大きさを持った浮遊する荷車だ。基本的に、載せれば重さを感じることはなく引っ張ることができ、いざ戦闘などになれば適当なところに転がして置いて後で回収することができる。これさえあれば、とんでもない重さの貴重品に出会してもみすみす置いていく、などということなく帰ることができる優れ物なのだった。


「俺らじゃ、やっぱり解体は効率が悪いなぁ。1層だから諦めもつくのが不幸中の幸いか」


 ふと、赤龍を解体する時にはどうなるんだろう?と考えたが、すぐに思考を放棄した。今回の仕事はあくまで護衛であり、素材集めじゃ無い。依頼主のツバメに何かしらの手段や方法があるのだろうと、楽観的な考えをすることにした。解体の上手いやつというのはオーダーには無かったので、なんとかなる。かといって、聞くのもはばかれるような気がしてしまった。ふとツバメと目があったのだろうか、考えまでは読まれていまいとエルは思った。


「さすがに1層のエネミー相手では困ることもないようですね。申し訳ありませんが、内心ほっとしました」


「まぁ、他のメンバーはともかく俺はいろいろ言われてるのは知ってるんでね。仕方ないっすね」


 取り越し苦労だったようで、少し気持ちが緩む。雑魚はこの際無視してもいいくらいだが、稼ぎを少しでも上げたいレフト・インサニティが居るのでダンジョンをくまなく探索する方向で決定する。

 赤龍はどうせ、こちらから出向いて会える代物でもない。あちらから向かってくるのを待つしかなく、時間を潰すくらいなら狩りをしたほうが建設的という話である。

 ワンダラーは会える時はいくらでも会えるが、会えない時はひたすら会えない。これは、ダイバーには常識と言ってもいい話だが、ここから半日ほど何とも出会さないことになるとはエルを含め、誰も思ってもいないのだった。

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