第38話 赤竜邂逅
遂に待っていた赤竜が現れた。一直線に飛来してくる。
それに対してユラは巨大化し、赤竜に向けて構えをとる。大体だが、赤竜が立った時の大きさとユラの身長は同じくらいの様に見える。普通のダイバーが相手をしたなら、かなり巨大に見えるだろう。このチームだと、見慣れた大きさともいえる。
アモットは戦車砲の狙いを赤竜につけつつ前線を構築する。空を飛べる相手なので、頭上を越される様なら、撃墜するつもりだ。
ハルカとメルは後衛に陣取り、先手をとるべく【マインドコネクト】を張り巡らせながら攻撃を開始した。
サイコガンを放つと複雑な軌道を取りながら竜の鼻先に命中した。竜が一瞬だけたじろぐ。その隙にメルはガンファーを射撃の型で構えて左右それぞれから弾丸を吐く。
ガンファーの弾は右翼に集中攻撃を行った。おそらく、飛龍と同じく空を飛んで有利な位置から攻撃してくると読み、チーム全員が攻撃を右翼に集中する事で地に降り立たせようと言う狙いだ。
アモットの魔導エンジンが唸り、戦車砲に魔力を充填させていく。強烈な発射音を響かせて、怯んでいる赤竜のほんの僅かな隙を狙ってアモットが打ち込んだ。
右翼をボロボロにできたが、飛行能力は失っていない。
ユラは攻撃を行うが、空にいる相手では上手く攻撃できず、有効打にならない。
赤竜が体制を整えて、空気を吸い込みファイアブレスを吐き出した。アモットとユラのいる場所があっという間に炎に包まれる。
「アモットちゃん、ユラちゃん!」
ハルカが思わず叫ぶが、巨大化しているユラがこちらを振り返り、大きくうなづいた。大丈夫そうだ。
アモットがこの次も戦車砲で翼を狙うべきか精神接続を通して聞いてきた。ハルカとメルで破壊できなければ、お願いする。
気楽な調子でアモットが了解と答えた。
竜の鱗はあらゆるダメージを軽減する。装甲とは違い、それはまるで魔法の様だった。攻撃が命中した場所に炎の揺らめきの様なものが輝いているのが見えた。翼に与えたダメージも、飛龍の時に比べれば軽傷に留まっている様に見える。
竜はブレスを吐いた後に、再度高度を上げようとする。
させまいと、サイコガンとガンファーで追い打ちをするが、破壊には至らなかった。切り札であるアモットの戦車砲をここで切るのは惜しい気がしたが、勝てる戦いをしなければならない。躊躇せずに、アモットへ発射要請を伝える。
オッケー!撃ち抜くよっ!!とアモットから小気味よく返事が返ってくる。
2発目も轟音を響かせながら、赤竜の翼へと弾丸は命中した。さすがに耐久力が持たなかったか、右翼を失った赤竜が着地をする。
そこを待ってましたとばかりにユラが動いた。
ユラは【シャープフィスト】と同時に新たなワザを覚えていた。【浸透撃】と言うそれは攻撃対象の装甲の内側を撃ち抜くワザだ。衝撃を内部で炸裂させる事でどんな硬い装甲を持っていようが、無効化することができる。ただし、負荷が掛かりすぎるのでダンジョンに潜っている間に3発までしか打てない回数制限付きだ。
「これでどうだぁぁぁあッ!」
3連撃の連携を打ち込み、最後の一撃に【浸透撃】を打ち込んだ。高さ5mの竜に対し、同じ程度の大きさの巨人が拳を打ち込んだまま一瞬動きを止める。
ゴポリ、と竜の口から鮮血が溢れた。竜はすぐさま強靭な後ろ足を使って後ろへと下がった。
ニヤリと笑いながら、炎によるダメージを受けるユラ。まだ回復は要らないと言う判断で、アモットもユラも炎はそのままだ。
赤竜は距離を取った後に再びブレスを吐いてくる。この攻撃は扇型に吐かれるので回避が取りづらい。
アモットとユラは2発目の被弾をする。炎の勢いは消えるどころか益々勢いを強くする。
さすがに不味いと思って、ユラが回復に回るため、複雑な印を組んで構える。
すると、ユラが回復役だと思ったのか、赤竜は急激な猛進を見せてユラに牙と爪による連撃を当ててくる。
まさか、自分に攻撃が集中するとは思わなかったユラは回復したものの、すぐさまに赤い爪痕が身体中に切り刻まれる。
ユラとアモットはそこまで回避力は高くない。回復で耐えることを前提とした前衛なので連撃をしてくる相手には脆いところがあった。
「不味いで御座る!ユラは回復の要!某が前に行って囮になる間に体制を立て直してもらおう」
メルがそう言って、前線へ割って入った。メルの回避力はかなりのものだが、一撃が致命的になるティンクとしては後陣に構えていた。しかし、次もユラに攻撃が集中すると、ユラは倒れる可能性が高かった。
ユラを後ろに下げ、回復のチャクラを使って安全圏にまで回復していく。
その間、新たに出てきた虫の様に感じるメルに対して赤竜は飲み込もうと牙を向けるが、機械の妖精は巧みに攻撃を回避する。
アモットにも爪による一撃が振り下ろされたが、こちらはバリアを展開してダメージを軽減して装甲で耐えていた。こちらも、バリアの回数は3回までしか使えない期限付き。短期間で勝負をつけたいところだった。
前線に出るなりメルは、ガンファーを本来のトンファーとして使いながらも、要所要所で銃撃を行っている。打撃と銃撃に翻弄し、うまく攻撃対象の分散を行っている。
アモットは最後の一発のため、シューティングモードをとって攻撃する。右腕を中心に戦車砲の腕が巨大化し、身体の至るところから反動抑止のための追加の脚が生える。
「最後の一発!受け取ってネー!!」
威力の5割を紅鱗が受け止め、着弾した衝撃が弱まっているのがわかる。それでも、轟音と共に発射された弾丸は甲殻を削りながら内部の肉を抉る。
アモットはそれを見届けると、戦車砲から魔杖に持ち替えて攻撃を継続する。
ハルカは【マインドコネクト】とは別にサイコガンを撃ち込んでいる理由があった。
着実に竜の回避力を阻害する弾丸で相手の弱体化を狙いながら、ブレイズタトゥーの発火を待っていた。
何発か着弾すれば、炎によるダメージが赤竜にも効き始めるはず。
赤竜の鱗に異変が始まった。自分の吐いた炎ではなく、別の敵意を持つ炎が全身に回りつつあることに。この炎のダメージには紅鱗による防御能力は例外の様だった。
ハルカは笑みを浮かべ、あとはどちらが長く立っていられるか勝負となったことを確信した。
赤竜は焦りを感じた様に、ガムシャラに攻撃を繰り出すがアモットのバリアに阻まれ、クリーンヒットとはならない。
メルにも攻撃をしたが、うまく回避されてしまう。しかし、無視しようにもダメージの大きい銃撃と打撃を織り交ぜてくるのだ。
ユラが前線に復帰し、再び三連撃に【浸透撃】を混ぜた攻撃を繰り出して、赤竜を追い込んでいく。
勝てるかと思い始めた時、メルが爪がかすめてダメージを受ける。アモットやユラならかすり傷だが、人間の肘から手の先までの身長しかない身としては大打撃を受けてしまった。
ユラとアモットが庇いつつ、メルは後退する。
しかし、赤竜の奮闘はここまでだった。
撃ち込まれた炎によるジワジワとしたダメージの蓄積、アモットの魔導エンジンの乗った魔杖による攻撃。ユラの最後の【浸透撃】が決まり、赤竜は弱々しく吠えた。
「良かったー。思ったのと違う展開だったけれど、倒せて良かったですね!」
ハルカが疲労困憊のみんなに声をかける。他の面々は戦闘の疲れが出て、声が出ない。あの、アモットすら出せないでいる。
しかし、少しの休憩の後にユラが回復のチャクラを使うことで皆の疲労面はどうにかして、赤竜の解体を行うことにした。
赤龍の解体には、皆が注意深く行っていた。【マインドリンク】にティンクの持つ他者へのお手伝い機能まで駆使して、鱗一枚でも無駄にしない様に慎重に行う。
そのお陰か。赤龍の甲殻を初めて、貴重な素材をたくさん手に入れることができた。
ダンジョンから出る頃には夕暮れになっていたが、ハルカたちはオフィスに向かい必要な素材以外を全て売っ払っていた。
受付のリカが嬉しそうに話しかける。
「やったねー!思ったよりも早かったわ!!あの発信器は持って帰ってきてる?OK、OK。上出来よ、あなたたち。さすがにもう遅いから、ジョブのランクアップは明日に回しときなさいな。あたしの方で連絡はしておくからね。今日はパーッとお祝いでもしてきなさいよ?」
リカの勧めに従って、今日はお祝いとして食事処メシヤの普段は食べれないちょっといい食事を頼むことにした。
メシヤについて、まずはノンアルコールながら乾杯を行う。
「赤竜討伐、かんぱーい!」
赤竜討伐と聞いて、周りのうだつの上がらないルーキーたちが羨ましそうな目でハルカたちを見る。それとは別の目線は、ルーキーじゃなくなった同業者への目だった。祝うもの、警戒するもの、マンハンティングを狙うものと様々だあった。
何はともあれ、早速運び込まれてくる食事の数々。周りで見ていた連中の目が胡乱なものとなる。
限りなく生の赤竜肉、赤竜の体から抽出した機械用オイル、人形サイズの赤龍のフルコース、骨付き肉(赤竜)と言ったものがドンドンと並んでいく。
ちなみに飛龍の素材は全て売却している。尾毒鞭に関しては意見が割れたが、アモットの「ワタシは装備しないケド誰か使うノ?」の一言で売却となった。
そんなわけで、ちょっとカネが余っていたので赤竜の料理を素材持ち込みで作ってもらったのであった。
各自で用意された料理を美味しくいただきながら、ハルカがユラに話を振る。
「ユラさん。よく、あんなワザ覚えましたねー。すごかったですよ!竜が内部から破裂するなんて!!」
「なんでそんなエグい例え方から始まるんだよ…。まぁな!長老のおっさんが、これも覚えておけ!なんて言うもんだからな。」
攻撃力の低さをカバーしにきた、と言うユラに対し、教えてくれた相手が強く勧めてきたらしい。結果、しっかりとダメージを与えることができた。
「装甲無視かー、アタシもそんな武器が欲シイナー。」
「某が思うに、そちがそれ以上の攻撃力を持っても仕方ないだろうと思うのだが。と言うか前線はまだ出るつもりか?」
「モチモチ!そのためのステップも検討中だヨ!」
「ふむ、たまには某が前に出ても良いのだが。」
「アレには驚いたよー!大丈夫だった?」
「問題御座らん。しっかりと傷も癒したしな。」
アモットは相変わらず、火力と耐久力をあげることに余念がない様だ。メルは今までの生き方で、真正面から戦うと言うことがなかったので前衛をできると言う選択肢もあると匂わせたつもりだったが、アモットには伝わっているかどうか怪しい。
宴も盛り上がり、そろそろお開きというところでハルカが締めた。
「それで、明日はみんなジョブランクが上がったらダイバーズオフィス前に集合でいいですか?」
「異議ナーシ!」
「右に同じく」
「問題ない!遂にジョブランクアップだぜー!!」
遂に、彼女たちもルーキーが取れて、晴れてダイバーと堂々と名乗ることができる様になるのであった。




