第37話 飛龍との遭遇
ハルカたちはダイバーズオフィスで簡単な資源回収のオーダーを受け、赤竜を倒すためにダンジョンを歩き回るコトにした。
「頑張ってねー!期待してるわよー!!あ、さっき言ってたのはこれね。無くすと100CPくらいするから、気をつけてね?」
笑顔でさらっと凄いことを言いながら手を振る受付のリカ。ハルカたちは引きつった笑顔を作りながら、オフィスを後にする。
リカが言った言葉のせいで、周りのダイバーがいろめきだった気がする。ダンジョンにつくまで周囲を十分に警戒しながら、入り口までたどり着く。
「何で、リカさんあんなこと言うかなー?ダンジョンに入る前に疲れたくなかったんだけれどー。まぁ、気を取り直して皆に説明するね。」
ダンジョンに潜る前に、ハルカがオフィスで借りてきた道具について説明をする。
「これは、使うと特殊な信号を発信して、ワンダリングエネミーとの遭遇率を跳ね上げるものなの。このアイテムは1層専用だけれど、それでも意図的にワンダリングエネミーと戦えるのは、私たちみたいな状況にとってすごく便利だからね。最近、古代技術庁ってところで解析されたアイテムで、実験がてら使ってきてって持たされたの。まだ、効果が何となくわかっただけで、実際に使うとどんなことが起こるかも実証されてないみたいで…。」
「ちょっと待って、体の良い実験隊って事か?」
「悪く言えば、そうなっちゃうかなー?」
「良く言エバ?」
「特別扱い?かな?」
ダンジョンに入る前にやる気を少し無くす面々であった。
赤竜は遭遇率がランダムであり、出て欲しいときに出てくるとは限らない。
先人のダイバー達は簡単なオーダーを受けて、延々とダンジョンを彷徨っていた。ハルカ達もそれに倣って歩き通すつもりだったが、そのことを受付のリカに話してみると、そういうことなら!とこの実験アイテムを渡されたのだった。
「スイッチ、い、入れるよ…?」
ドキドキとしながら、いつでも襲ってこられても良いように準備しながらエリアの真ん中でハルカがスイッチを押した。
ピー!というチープな電子音が鳴り響いた。
すると、エリア奥からバッサバッサと翼がはためく音がした。
1発目から当たりか!とチーム全員が期待の眼差しを向けながら、戦闘態勢を取る。
「グゥワオワオォォォォォン!」
一対の翼をはためかせて飛来したのは、赤銅色に輝く鱗を持った竜。ワイバーンだった。
一気にテンションを下げる面々。
「こ、これじゃない…。」
「気を取り直して、戦闘準備っ!」
ユラがぼやいたが、ハルカが気を引き締めるように促す。
飛龍よりもメルがいち早く動き、牽制をする。メルの両手に持ったガンファーの攻撃に合わせてハルカが【マインドコネクト】を起動させてサイコガンを放つ。強化したサイコガンが飛龍を捉え、後に続く攻撃の命中率を上げるように飛龍の動きを阻害する。ガンファーの攻撃が命中し、飛龍の翼に命中する。
「某達は翼を集中攻撃にする!地上に落ちたら、頼むで御座るよ!!」
ガンファーの攻撃を翼に集中させるが、穴が開くまでには至らない。
飛龍は遠距離の攻撃手段を持たないので、必然的に攻撃は近接距離となる。前衛のユラが巨大化し、後衛に攻撃しようとする飛龍の動きを食い止める。
「近づかせないぞ!トビトカゲ!!」
ユラの攻撃は届かない攻撃が1発あったものの、2発当てて飛龍の体力を削っていく。ユラが飛龍の動きを止めたところをアモットが魔杖で攻撃する。本番の赤竜戦前に弾丸を撃つわけにもいかず、サブウェポンのほうでの攻撃となる。
魔導エンジンが唸りを上げて、異能ウェポンの出力をさらに上げていく。魔杖から放たれる魔力の塊。翼に集中させ、穴を開ける。
「オッケー!やったよー!ワイバーンかもーん!!」
アモットがテンションを上げて声を張る。落下する飛龍が着地をなんとか成功させ、二足歩行でユラに近づき尻尾を振り回す。腕を交差させ直撃を防いだが、ユラに尻尾が叩きつけられた時に先端の針が刺さる。毒を流し込まれ、激しい激痛がユラを襲う。
「グゥッ!こいつ、毒もってるのかっ!!」
「大丈夫、ユラチャン!?」
ユラは黙って回復のチャクラの構えをとる。それを見てアモットは安心して前を向く。
しかし、ユラが回復に回ると攻撃の手数は減ってしまう。回復のチャクラは回数制限が無い優秀なスキルだが、唯一の欠点が他に何もできなくなることだった。
飛龍は牙を剥き出しにして攻撃を続けて繰り出してきた。アモットに飛龍の噛みつきが入る。頭だけでアモットの身長の半分ほどもある巨大な顎に挟まれ、装甲タイルが衝撃に対して炸裂することで緩和しながら剥がれていく。
アモットは落ち着いて、右腕に搭載している戦車砲をワイバーンの口中に向けて差し入れた。照準を合わせる必要もなく、引き金を弾く。
「これは効くデショッ!!」
怒号と共に飛龍の口の中で戦車砲が放たれた。流石に飛龍もこれを喰らって無事では済まなかったようで、掴んでいた顎が離れる。
飛龍はふらつきながらも、体勢を立て直す。驚異的な生命力で、頭を貫通した傷を無視するかのように直立した。
頭部から激しい流血をしながら立った飛龍を、ハルカはまるで、ゾンビみたいだと思った。ならば、完膚なきまでに頭部を粉砕するしかない。
「皆、頭に攻撃を集中させてっ!」
【マインドコネクト】をメンバーに繋げながら、サイコガンを放つ。通常の銃弾ではあり得ない変則的な軌道を描いて飛龍の頭を貫く。
弾丸の消耗を抑えるため、アモットは魔杖に切り替えて異能による弾丸ばらまいて飛龍の動きを追い詰めていく。頭部がアモットの魔力の弾から逃れて逃げ場をなくしたところでメルがガンファーで銃撃をする。その銃弾は飛龍の口中に吸い込まれていく様に命中したーー。
「…ゴァァァアン」
弱々しく呻き声を上げ、飛龍はその巨体を横に倒れた。
「うむ、大丈夫。皆そこまで消耗はしなかったな。」
「ソウダネー、戦車砲一発使ったけレドネ。ユラチャンはダイジョブ?」
「あぁ、大丈夫だ。結構、痛かったけどな。」
巨人化したままで体をさするユラ。傷は癒えているが、痛みを無効化するわけじゃ無いので前衛に立つのは非常に勇気がいることだとハルカは感じていた。
ユラは泣き言は言わないが、自身が巨大化しても匹敵する様な大きさの怪物と戦う時点で凄まじい勇気を持っている。自分ではできそうにも無い。
アモットも自身より巨大な敵に対して一歩も引かずに戦った。もう、二人とも初心者から感じられる頼りなさは無かった。
「どうした?こっちを見たまま黙ってて。」
「ううん、二人とも凄いねって。」
「うん?まぁ、アタシは凄いぞ。」
「ワタシもスゴいよー」
ユラは当然の様に、アモットは茶化した様にハルカへと答えた。
その答えには、どこも無理した様なところはない。本当に頼りになる仲間だと思わされた。
「よーし、頑張って解体しましょー!!」
ハルカは率先して飛龍の亡骸に向けて解体をするために近づいた。仲間達もワラワラと飛龍に近づき、使えそうな部位、売れそうな場所を選んで解体していく。
巨人のまま解体に参加していたユラが声を上げた。
「この部位、ほとんど傷がついてない!使えるんじゃ無いか!?」
そう言って持ち上げたのは飛龍の毒尾だった。ハルカはドロドロの手を拭って、端末を操作して調べた。【飛龍の毒尾鞭】という武器に加工できるらしい。
「ウェポンに加工できるみたい。それは確保してくださーい。」
どよめく一向。ウェポンに加工できるなら、装備しても良いし素材として売り払っても良い。確実に稼げるものが出たのが素直に嬉しい。
ハルカは良かったことを嬉しがりつつ、アモットの弾丸の生成時間とユラの巨人化の時間を秤にかけた。アモットは1時間で生成が完了して、ユラの巨人化が終了して1時間は使えなくなる。ユラの巨人化を残したまま、次のワンダリングエネミーを呼ぶべきか、1時間無防備になるけれどもアモットの弾丸生成を待つか。
メルに相談してみると、アモットの弾丸を生成する方に答えが返ってきた。
「某に意見を聞くのならば、アモット殿の弾丸が生成されるのを待つ方に1票投じよう。ユラ殿の1時間は賭けではあるが、何も出ないという結果もあり得るわけで。赤竜がその時に出たのならば逃亡する手段も取れると思うので御座る。」
「なるほど、私がちょっと視野が狭かったですね。何も出ないことを期待して待機しましょうか。」
早速、前衛組にもこの話をしつつ、了承を得た。
解体も終えて、周囲警戒をしつつその場で待機をする。ダンジョンでは特殊なトラップがない限り、エネミーが他の部屋から出てくることは殆どない。
どうやら、エネミー達に縄張りの様なものがあり、基本的に移動することはない。まれに、人間が施した物に対し排除するために出てくることがあるくらいだ。
エネミー自身も、ダンジョンに自動的に生成されるらしく、一度殲滅したダンジョンに長いこと居座ったダイバーが、ある日いきなりダンジョンの壁に穴が開いてそこからエネミーが現れたなんていう逸話がある。
ハルカ達は静かに【会話】をしていた。こういう時に、エスパーは便利だ。音を発せずとも、会話を自由にできる。
話題がオフィスで受け取ったこの装置に移る。欠陥というわけではないがワンダリングエネミーの種別を選べないのは不便なところだと皆が思った。
正直、ワンダリングエネミーを呼べるのは便利だと思うが、やっぱりワンダリングエネミーをかたっぱしから倒す勢いがないと使いづらくないかー?
いえいえ、間違いなく便利だと思いますよ。ただ、フロアボスを狙う時とかは他がお邪魔になってしまうだけですよ。
でしょ?ユラっちが言う通り、出てくるのを全部倒す勢いがないと使いづらいとはアタシは思うなー。
どうでも良いことだが、アモット殿の変なアクセントは物理的なものか。精神的に繋がっていると出ないのだな。
あぁ、それね?何か悪さしているみたいなんだけれど、わからないんだよねー。普段から普通に話してるつもりなんだけれど。
と、時間を潰していたらアモットの弾丸生成が完了した。巨人化が終了し、次はユラの巨人化待ちに入る。
メルさんも5層をめざしてるんですよね?私も実は5層を目指そうかなって思ってて。
意外で御座るな、某は5層にいる何某かを討つためにいくので御座るが。
え、ハルカって5層目指してたのかっ!意外だな!!
あー、ハルカちゃんは目指しても不思議じゃないよ。だって、その…、戻りたいもんね?
うん、元々は人間だったわけで。今、ゾンビだけれど不便なことばかりだから。
アタシは別に気にしないぞ!何かもげても、アタシのチャクラで繋げてあげられるし。
いや、そう言うところが不便なのだろう。時々思うが、デリカシーに欠けておらぬか?
む!アタシは細かいところがわからないだけで、デリカシーに欠けてない!!
そう言うところだと思います…。
そう言うところだと思うよー。
そこだ!そこが欠けているのだ!!
3人から言われて、しゅんとして隅っこに座るユラ。ダイレクトにマインドに刺さった様だ。
3人から一気にフォローの念話が届いて、すぐに元気になるあたりユラは良くも悪くも素直だった。
飛龍討伐から、2時間が過ぎて何も怒る事はなかった。やはり、この装置は100CPの価値はダイバーにとってはあるとハルカは考えた。今回貸与されなければ、何時間このダンジョンを彷徨ったかわからない。
巨人化の待機時間も解け、ハルカは皆に警戒を促しつつ装置を使用した。
電子音が鳴り響き、どこかの壁がゴーンと音を立てた様に思えた。
と思ったのも束の間。隣のエリアと隔てる壁を豪快に破壊しつつ、ようやく待ちにまった存在が現れた!
真紅の甲殻に身を包まれ、一対の翼をはためかせて真っ直ぐにこちらに突っ込んでくる。
「赤竜だっ!皆来たぞーっ!!」
テンションを上げたユラの声が響く。他のメンバーもウェポンを握る手が力む。
遂に、フロアを統べるボスである赤竜が目の前に姿を表したのだった。




