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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
ハルカたち
36/97

第36話 反省と装備更新

 表層都市ダンジョンの入り口に戻ってきて大歓声をあげたダイバー達がいた。ハルカ達ご一行である。

 一見すると、初ダイブが成功して大喜びしているルーキーにも見えるが、装備の詳細を見れば何度か潜っているダイバーだと言うのがわかる。初心者にしては装備の内容にカネがかかっているものが多い(戦車砲を装備したゴーレムは判断が難しいが)

 とにかく、生きて帰ってこれたことを祝して食事処メシヤに駆け込み、一杯飲んで生きてることを実感する。と、言うのがそこらのルーキーだが、ハルカ達は一味違う。まず、大歓声を上げていた彼女達の中で最初に落ち着いたのは意外にもユラだった。


「今回の分前、今もらって良い?アタシ、ちょっとこの街のプロミスに会ってくる。教わりたいモンが出来たの!行ってくる!」


 そう言って、駆け足で貧民街の方へ走っていった。プロミスは企業連合にもいるが、どちらかと言えばアナーキーな存在だ。何せ、今使えるものを否定して、確実に支配下に置けたものしか使ってはいけないと言う戒めが基本思想にある。

 この考え方を貫きながら生きていくには、テックと異能を排除しても生きていける場所となる。チカラがあれば生きていける場所、それが貧民街になる。ストリートチルドレンなどに施しを与えながら、テックと異能の驚異を教え、安易に頼ることを戒める。人間および、人類に属するものが使えるチカラを開発し、人間ができる範囲で生きていくことを実践する。

 ユラは2層出身だが、プロミスはどこでも同じだと師匠であるテンパランスに教わっていた。


「あー、ユラチャンに先越さレタ!ワタシもちょっとパンツァーファックシェフトのオジサマのところに行ってくルネ!今回の取り分もらうねー!!」


 2番目に動いたのはアモットだった。行き先が戦車専門店パンツァーファックシェフトと言うことは、装備の更新だろう。メルとハルカは轟音を立てて走っていくゴーレムの姿を見送った。

 残った二人は、大体同じことを考えていた。緑龍相手に力不足を先に行った二人も感じていたのだ。メルもハルカも感じていないわけはなかった。


「私達はBSSかな?」

「某もそう思っていたところで御座る。」


 ハルカは馴染みの武器屋に足を向けた。メルも球型重力制御装置の低い稼働音を響かせながらハルカの頭上を飛んでついて行った。



 ハルカとメルはケイスケの店のドアをくぐって、挨拶もそこそこにそれぞれで行動し始める。ケイスケにあれこれと相談をし始めたのはハルカだ。

 ハルカはサイコガンの威力強化をケイスケに打診する。今までは自分はサポーターとして居れば良いと考えていたが、アモットの戦車砲を除けば火力が出るのがサイコガンであることが多い。手数こそユラやメルが多いので総合火力で負けることも多いが、装甲が硬い相手には逆転することもあると緑竜戦で思い知った。

 

「威力強化一本で良いのかい?」

「それでお願いします。」

  

 ケイスケの問いかけに迷うことなく、真っ直ぐに答えるハルカ。

 せっかくの(ゾンビだが)女子高生の常連客がもうすぐこの店を卒業してしまう雰囲気を感じ取り、一抹の寂しさを感じるケイスケだった。

 


 メルは様々な武器を吟味していた。今まで人間を相手にしていたから、愛用していた手裏剣で事足りていたのだ。

 しかし、ダンジョンではそうはいかない。ダンジョンのトラップを解除したり、道案内をする役としては今のままで十分だが、戦闘面でも貢献するなら今のままでは力不足を感じていた。肝心なのは方向性だ。火力面を優先させるか、サポート面で活躍するか。

 やはり、火力面を強化すべきか。答えが出ないままでいると、クラシック感が溢れる店内張り紙にオーダーウェポンの案内が書いてあった。


【貴方だけのウェポン作ります。詳しくは店主まで。】


 メルはそれを見たときに自分にしっくりとくる武器が作れるかもしれないと思った。早速ケイスケに相談を持ちかける。理想は、格闘戦と遠距離戦を同時にこなせる。威力は高めで。そんなウェポンが出来るのか?

 とりあえず、理想をそのまま伝えてみる。


「ああ、それなら簡単な方だ。すぐに作れるよ。」

「えっ?本当にござるか?」

「本当、本当。ウェポンクリエイターに条件を設定して、素材とCPをポンポン入れたらあっという間よ。」


 どうやら、特殊な3Dプリンターが勝手に条件に合うウェポンを作成するらしい。聞けば、ウェポンの改造などの加工もソレが行うらしく。てっきり、店主が気難しそうに武器に調整を行う、と言う絵面を勝手に想像していたメルは拍子抜けした。

 聞けば、本当に原始的な武器でもウェポンコネクターを持っているのはそう言う理由らしく、逆に言うとウェポンコネクターを持っていない武器というのはどこを探しても無いらしい。貧民街で勝手に棒切れを振り回すのと、見た目は棒切れでもウェポンコネクターがあるものとでは、雲泥の差が出るとのことだった。

 そんな話をケイスケとしていると、出来たらしい。ケイスケが店の奥から作成したウェポンを持ってくる。



 外観は棒に直角に取手を付けたようなものが1組だった。ウェポンコネクターを通して装備してみれば、すぐに使い方は把握できた。近接武器としてこの棒の部分を用いて打撃攻撃を行い、射出孔から弾丸を発射することも出来る。


「トンファーと言う武器をベースにした武器だな。CPをウチで入れられる限界まで突っ込んでるから強度、威力もかなり高めに出来てる筈だ。ガントンファーって名前は安直すぎかね?」

「ガンファーで良いで御座る。」


 軽く振り回して取り扱いを確認しているメルにケイスケが武器の説明をする。メルの身長と同じくらいのウェポンだが、ティンクとして背面に背負うように浮いている球型重力制御装置で操るのでパッと見はメルの周りをトンファーが勝手に浮いて振り回されているように見える。

 サイコガンの強化を先に済ませていたハルカはそんなメルを見て、ウェポンが勝手に動いているように勘違いしてしまいそうになった。


「どうですか、メルさん。良さげ?」

「うむ、申し分ない。シミュレーターを使わせてもらって射撃戦もやってみたが、なかなか良き塩梅。気に入ったで御座る。」

「そう、それなら良かった!私もシミュレーターですけれど、緑竜を再現してもらって、アレ相手に十分攻撃が通じてたので、安心しました。」

 

 二人が言っているシミュレーターというのは、この店でウェポンを買ってもらうときにウェポンとウェポンスロットの間に噛ませることで特定シチュエーションをAR(拡張現実)で再現できる。使用者の目には現実に上書きしたように現れるエネミーや、完全にVR(仮想現実)で場所自体もシミュレーションさせることも出来る。その中で、実際にウェポンを使った感想は二人とも上々だったようだ。

 ひとまず、目的を達成した二人は残りの二人にメシヤで待っていると連絡すると先に始めていることにした。 



 薄暗い路地にある戦車専門店。いつも通りにシャッターは閉まっており、開店しているとは思えない店である。

 その店の中でアモットは店主であるギザ3世と怪しい会話をしている。


「うーん、うーん。アレだねぇ?キミの体に何か付けようとすると、これ以上はどうしても持ち替えになってしまうから、厳しいねぇ。」

「やっぱり、ダメだねー。ウェポンスロット拡張が最優先カァ。ちなみに、4つ目っていくらかかるんダッケ?」

「20CPだねぇ、ワガハイはオフィスの人間じゃ無いから断言できないけれどね。」

「なら、今回はアタシこれでイーヤ。オジサマ、これでお願いネー。」

「あーなるほど、キミならコレは有効活用できるね。魔導エンジン。さすが、目の付け所が違うね。」


 アモットが指し示した機械をギザ3世はよっこいしょ、と言わんばかりの動作でアモットの背面に取り付けていく。ギザ3世は見た目が人間のようだがゴーレムであり、このくらいの力仕事は簡単にやってのけられる。

 アモットが追加したウェポンは【魔導エンジン】といい、持っている武器に異能の力を付与した上で、異能の武器の攻撃力を上昇させるという装備だ。これを追加して、戦車砲を魔導ウェポン化することでエレメント・ウィザードの【マナアロー】という攻撃異能ウェポンを効率よく使えるスキルと合わせて使うようにするつもりだ。

 今回の稼ぎがほぼ消し飛んだが、良しとする。宵越しのCPは持たない女なのであった。



 ユラのプロミス探しは難航していた。それでも、貧民街の長老のような人物に会うことで目的は達成していた。

 【シャープフィスト】、ユラが探し求めていたのはコレだった。いわゆる経験を積むことでようやく手にすることができる奥義のようなものだが、指導者にウェポンスロットをつなぐことで、精神だけを飛ばしたVR空間のような場所で修行を行うことで手に入れることができた。この記憶と経験はウェポンスロットを埋めてしまい、他の用途に使うことができなくなるが、プロミスに属して居る者は通常の半分の費用でスロットを解放することができる。ヒトは8つまでウェポンスロットを開けることができるが、このおかげで8つも解放して居るものは大体プロミス所属のものが多い。

 

「ふむ、其方の拳にはテンパランスの教えが見えるな。弟子か。」

「わかるんだ!アタシはテンパランスに鍛えてもらったんだ!!ニコって女に勝たなくちゃいけないから、もっともっと強くならないといけないんだっ!」

「なるほど、狂戦士ニコか。あれに試合で勝つのは何とかなるだろうが、本当の戦いで勝つのはかなり厳しいな。必ずダンジョン内で仕掛けるんだぞ?」


 何故という顔で長老を見るユラ。しごく当たり前のように答えを出す長老。


「死んでも良いところで戦わんとな。バーサーカーに食い下がられたら、負けは死を意味するぞ。」


 ユラはゴクリと喉を鳴らす。長老の目は真剣だった。


「わかった、肝に命じておく。ありがとうな、長老」


 ユラは両手に1つずつ、額に2つウェポンスロットを解放し、【シャープフィスト】ともう一つワザを教えてもらい、貧民街を後にした。



 食事処「メシヤ」には結局、ユラが最後に集まり、全員が揃った。

 

「お〜、遅かったジャナイ。ユラっち。何してたん?おおお!?オデコにスロットが2つも開いてる!!」

「修行の証だ!」

「プロミスは独特の強化をするからなぁ。某にも、強さがはっきりとわからんで御座る。」

「でも、普通は2つで40CPかかることを考えたら、すごいよね。それだけで歴戦のダイバー感ある。」


 アモットはいつも通りに、魔力の込められた液体をチビチビと非常用の燃料タンクに差し流しながらユラに絡む。

 メルは一見、プロミスっぽいのだが無関係なので、ワザというものがどんなものかわからないので感想がはっきりしない。

 ハルカはCPの話をするあたり、ある意味一般的な感覚である。ちなみに、ハルカは初期解放の両腕だけなので、ルーキーっぽい(ゾンビだが)


 各自が今回の稼ぎで何をどうしたのかを報告しあう。一番驚かれたのがユラで、一番呆れられたのがアモットだった。


「なぁんで、全額使い切っちゃうかな…。今飲んでるのはどうするの?」

「あ、それはもうココのマスターにお願いシテ、次回の稼ぎで支払うコトにシテアル。」

「気をつけてね?<回収屋>とか怖い人が来ちゃうからね?」


 <回収屋>とは、それなりの到達者がダイバーを廃業した後につく職業の一つで、貸し借りで返せなかった相手から回収する荒事を仕事として居る。多くはダイバーズオフィス付きのものが多いが、非合法な所に所属して居るものもいる。そんな輩の場合は、半殺しにした後にスキルやウェポンを非合法なリセット装置でチップ化したり、売り物のウェポンにしたりなどした挙句に、臓器売買など「売れるものなら何でも売る」を実践するという噂がある。


「まぁ、それは冗談としても。次の稼ぎが必要ってことはわかったで御座る。各々、装備は仕上がったようで御座る。いくで御座るか、赤竜討伐。」

「そうだね、緑龍のときは結構てこずったけれども、次は問題ないと思うし。赤竜ってどんなのだかわかる人いる?」


 メルが赤竜討伐を話題に出すと、ハルカが赤竜の情報を欲しがった。


「メルっちとこの間調べた時のでイイ?端末に送るネー。」


 赤竜、レッドドラゴンと呼ばれる1層のフロアボスである。それは、巨大な赤い鱗を持った蜥蜴に一対の翼を生やした姿をしている。

 主な特徴は、常時空中に浮かび、炎を定期的に吐いて攻撃してくること。攻撃を受ける赤い鱗はあらゆる攻撃を吸収して剥がれ落ち、即座に再生されるため、かなりの火力で攻撃できない場合ダメージを与えること自体が困難になる。解体できる鱗は鎧として作ることで特殊な鎧になる他、2層到達の証としてジョブのランクアップにも必要となる。


「鎧欲シーイ!」

「ジョブのランクアップ!早く倒そう!!」


 非常に素直な意見を叫ぶアモットとユラ。思案顔なのはメルとハルカだった。


「ワンダリングエネミーなんだよね?」

「その通りで御座る。狙って戦えないのが、問題で御座るな。」


 ワンダリングエネミーは1層ならば赤竜を入れた7体がそれで、ランダムにしか出会わない。一度倒した相手にはしばらく会わないため、何かしらの識別をしているのではという噂がある。

 メルとハルカが懸念しているのは、緑竜と戦った時のようにダンジョンの最後にいるわけでもなく、いつ現れるかがわからないと言う点だった。

 自分たちのコンディションに問題があるときに遭遇など、ただでさえ強いはずのフロアボスに最善じゃない状態で戦いたくなかった。とはいえ、そこに関してはある程度割り切っていくしかないというのが現実だった。


「よし!明日は完全に休みにして明後日に討伐を目的に、資源回収のオーダーを受けるよ!!」


 ついに、という思いが各自の胸中に飛来する。


「頑張ろー!!」


 ハルカの声に、チームメンバーはそれぞれのグラスやら缶やらを持ち上げて声を上げて応えるのだった。

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