第35話 緑竜
今、ハルカ達はダンジョンの中を進んでいた。
メルが的確に指示してダンジョンの危険な場所やトラップを回避していく。
メルは前回の報酬でダンジョンの知識をダウンロードしていた。ウェポンスロットは基本的にはウェポンを使うためのものだが、チップなどの情報媒体の中身を取り込む経路にもなる。もっとも、この方法は本来の使い方からするとかなり外れているらしく、ダウンロード元のチップが一回でダメになるという欠点もあるが、ダイバー達の間では広く使われていたし、富裕層は基礎的な学問を収めたりする者もいた。
ハルカ達の入ったダンジョンは一見すると植物で溢れた場所だった。しかし、その樹木は金属質な表皮で覆われていたし、葉はプラスチックのようなもので出来ていた。持ち帰れば、いくらかになるかも知れないが浮荷台の容量に見合わなさそうなので、回収は見送られていた。
「あれが全部回収して売れるなら、私達もすぐに富裕層の仲間入りなのにね。」
「ソンナ美味い話は無いってことヨ、ハルカ。」
ハルカがぼやき、アモットが宥めていた。
メルが次のエリアにエネミーの反応があることを伝えてくる。
「油断すると痛い目に合うぞ。おそらく、このダンジョンのボスだと思われるが、また擬態をしているに違いない。」
ここはイミテーションが多いダンジョンだった。ハルカ達は幾度となく樹木に偽装したエネミーに襲われ、樹木の影からエネミーに仕掛けられ、とメルが予見していなければ何度か先手を奪われていてもおかしくない戦闘があった。
それどころか、回収可能資源に見せかけた爆発物などもあり、一筋縄ではいかない場所のようだった。
「その代わりに、出てくる資源は悪くはないね。オーダー抜きでも稼げてると思うぞ。」
ユラが言う通りに、回収資源は質・量ともに良いものが出ていた。これで苦労ばかりのダンジョンであれば、ここまで明るく喋ることはできなかったかも知れない。
次のエリアの扉が近づき、自然とおしゃべりは終わる。メルが扉に罠があることを事前に端末経由で教える。そのまま端末を経由してダンジョン内のシステムに侵入して罠の解除を試みる。上手くいけば、おそらく奥にいるであろうダンジョンボスに気づかれないでエリアへ立ち入ることができる。
サイコメトリーが使えるハルカが、ダンジョンそのものの構造を読み取りメルをサポートする。他の2人はシステム侵入中の無防備な2人に何か起こっても大丈夫なように周囲警戒をする。
メルはハルカから受け取った周辺の形状やエネミーの通った回数や経路などから罠の位置を入手した情報と照らし合わせて、間違っていないことを確認すると扉のすぐ先に落とし穴がある事を確認した。地味だが、巧妙に隠されているので普通に入った場合、高確率で落ちていたと思われる。
「だが、場所を特定できれば回避は容易い。各自に落とし穴の位置は送ったで御座る。間違っても落ちてくれるなよ?」
全員から返事が帰ってきた事を確認して、扉を開ける。最後の部屋もやはり、わざとらしいまでの緑が溢れた場所だった。
その中心に巨大な木があった。メルから指定されたのはその手前の位置だった。
「先制攻撃しちゃうヨー。シューティングモード、変形カンリョー。てぇーい!」
アモットがゴーレムの体を利用し、最も最適な形をとる。戦車砲の照準合わせと、反動を軽減する形に姿を変えた。旧時代の技術を使用したこの力は使うたびに負荷がかかり、少なくないダメージを受ける為アモットは滅多に使用することがなかったが、ここは決めどきだと判断した。
戦車砲の怒号が響き渡り、大木に命中する。大きくしなり、プラスチックの葉が舞い落ちる。戦車砲の直撃でも、へし折れなかった大木がエネミーとしての正体を表す。
樹上が二つに分かれ、翼のように形をなす。その間からもたげたのは竜の頭のような形をしている。土に張った根が地上に現れ、太い4本の足となる。
アモットの放った着弾が胴部にしっかりと痕を残していた。
「赤龍の前哨戦として、緑竜といったところかな?」
「相手にとって不足なし!あんなトウヘンボク叩きおってやるぜ!」
相手の姿を確認したハルカがこぼした言葉にユラが反応する。
敵が姿を現した直後にメルは完全に近づかれる前に後衛に陣取り、ハルカに呼びかける。
「ハルカ殿ッ!頼む!!」
「了解っ!」
ハルカはマインドコネクトを起動させ、メルと同時に攻撃を行なう。サイコガンの一撃が緑竜を牽制し、動きを止めたところで緑竜の右目を狙って手裏剣を投げた。
しかし、緑竜は瞼を閉じて手裏剣を弾いた。だが、そこまではメルの計算通り。
右目を一瞬閉じたことで隙が生じる。そのタイミングを事前に知っていたかのようにユラが巨大化して顔面に両拳による連打を浴びせる。
ユラは自分にもマインドコネクトが形成されて、メルがやりたいことを瞬時に理解し、実行していた。
咄嗟の回避ができなかったことで緑竜は叫び声を上げながらユラに良い様に攻撃されてしまった。
「(ハルカの【マインドコネクト】、思ったよりも強いネー。ワタシも混ぜてモラッタ方が良かった!)」
アモットはシューティングモードを解除しつつ、前衛を固めるために移動をしていた。
ハルカによるサイコガンの一撃は緑竜の動きを鈍らせ、続く皆の攻撃を当てやすくしていた。ハルカが攻撃の起点になることで、このチームは他のメンバーが敵の回避力に悩まされにくい構成になっていた。
当然、その恩恵は【一緒】に攻撃しなかったアモットにも与えられる。アモット自身は強敵相手だと命中率に自信がないが、ハルカの後ならば安心して攻撃できるのであった。
ハルカたちの攻撃が終わり、緑竜の反撃が始まる。
金属質な幹を束ねたような首を持つ緑竜のキバがアモットへと襲い掛かる。
アモットは新調した装備で、ほぼ無傷だ。装甲タイルが剥がれたが、本体の方はダメージを受けていない。とはいえ、バリアは3回までしか使えないので温存する計画にする。
緑竜はユラにも攻撃するが、アモットとは違い装甲や防具を持っていないのでこちらはガードした腕にダメージを受ける。攻撃の手番が減るが、次に回復を行うことで耐えるつもりだ。
とどめとばかりに、緑竜はブレスを放つ。酸性の液体が、前衛二人に降りかかり嫌な臭いを放ちながら火傷を受ける。
「ダイジョブ!?」
「アモット、次で私が治すからこの攻撃は気にするなッ!」
「リョーカイ―ッ!」
ユラはこのチームの中だとあまり攻撃力が高くない。アモットが頭抜けて高いが、サイコガンを持つハルカの次くらいでチーム全体からみると真ん中くらいだ。
自分自身、単体向けだとどうしても火力が低くなる。とくにダンジョンボスみたいな強力な相手の装甲点は高いため、相対的にダメージが与えられないことが原因だ。
この時ばかりはメルの言うことが胸に刺さる。確かに武器を持った方が良いかと思うが、師匠は素手でも強かった。それが本当のモンクの戦い方に思えた。
緑竜の装甲は外皮のみだが、金属のような硬さを持っている。殴った感触でわかるが、巨人化してなければダメージが入っているか怪しいレベルの堅さに感じる。
メルは手裏剣を改造しておいて良かったと思う。攻撃力は低いが、ハルカとの連携で弱点部位を狙うことで何とかダメージを与えている
今後、赤竜と戦うとなれば手裏剣だけでは難しいと思いながら出来る精いっぱいのことをするしかなかった。
今のところは優勢に感じるが、ハルカは紙一重に感じていた。
頼みの綱の戦車砲はあと2撃で終わり、魔杖にシフトしてしまうのでアモットの火力はかなりダウンしてしまう。
【マインドコネクト】を全員と連携して攻撃しても、ユラとメルが火力不足気味でもしかすると長引く可能性がありそうだった。
緑竜の耐久力は未知数だが、今のところはかなりタフに感じる。
酸性のブレスがユラのおかげで脅威にならないのが救いだった。これが通っていたら、持久戦において不利だったと思う。
ユラはチームを支える土台役として、貴重なメンバーにハルカは感じていた。
以降、2発の戦車砲が命中したが、緑竜は健在だったためアモットは魔杖に武器をシフトする。
「思ったよりも固イネー!次に報酬で増弾改造とか考えチャウネー!!」
アモットが珍しく弱音みたいなことを言いだした。自慢の戦車砲で倒しきれなかったのがショックなのかもしれない。
ユラは回復に手一杯で、防戦気味だ。メルも手裏剣を打っているが、ハルカが最も火力貢献している状態だ。
自身が最も攻撃しているという事態に困惑しながらも、ハルカはもう少しで倒せる予想を立てていた。
サイコガンで攻撃する際に、ブレイズタトゥーによる燃焼攻撃が緑竜に効いているからだ。ダメージこそ小さいが、ジワジワと耐久力を削っていく。
積み重ねのダメージが緑竜の限界ギリギリまで押しているハズだった。ここで戦車砲が撃てれば一気に押し通せたかもしれないが、ない物ねだりしても仕方ない。
「どこまでユラちゃんが耐えてくれるか次第だね!頑張って!!」
ハルカが端末経由でユラに応援を送る。巨人は竜を組み伏せつつ、右手で親指を立てて応じる。
「ハルカー、魔杖の回復魔術の使用回数が切れたヨー。」
「わかったわ!アモットちゃんはそのまま、攻撃継続お願いね!!」
防御はもうアモットのバリアとユラの回復頼み。ユラの回復は回数制限こそないものの、回復量は低く複雑な精神統一を必要とする関係で手一杯になってしまう。
メルが悔しさを滲ませながら、手裏剣を打っている。こんな時に針に刺されたようなダメージしか与えられないのが申し訳なかった。
1層の相手には自分の手裏剣術でも通用すると慢心していた。表層都市で暗殺者まがいの事しかしていなかったから、ダンジョンという環境をよくわかっていなかったと痛感していた。
「大丈夫!私たちは勝てるよ!メルちゃんも、しっかりと弱点狙って当ててるから!!」
ハルカから、激励の言葉が飛んでくる。そうだ、ここでクヨクヨしても仕方ない。メルは相手の防御の薄い所、すでに傷口が開いたところなどを積極的に打っていく。
防戦気味になり、皆からの声が少なくなる。ハルカは逆に声を出してサイコガンを打ち続けた。
ここで気力負けしたら、押し切られる!そんな思いもあった。不思議に、人間だったころに感じていた卑屈さはとうに無くなっていた。
今の自分は、ダイバー。ゾンビになった哀れな女の子の前に、ダンジョンに挑む一人のダイバーとしての感情が強かった。
幾度となく、崩れそうになる戦線をユラが立て直し、温存するつもりだったバリアさえもアモットが投入して時間を稼いだ防戦だった。
ようやく、竜は頭部まで回った赤い炎に身をくねらせながら、地べたへと這いつくばった。
チームを結成して以来の、耐久戦となった。しかし、緑竜を征することをまっとう出来たのだった。
「ハルカ―、この後の帰り道で赤竜に会ったらドウスル―?」
「やめよ、アモットちゃん。そういうの、良くないよ…。」
幸いにも、赤竜と遭遇することなく帰路は安全に終わった。
元から手に入れていた回収資源に加え、緑竜の甲殻も手に入れて収支としては大幅プラスになり、ダンジョンから出た瞬間に全員が歓声をあげたのだった。




