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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
ハルカたち
33/96

第33話 トラウマ・エネミー

ハルカのイメージ画像を差し替えました。

 廃墟のように稼働停止したプラントが並ぶダンジョンを進んでいると、目的地に近づくにつれて、マンイーターの出現が増えていく。


「今ので何体めダッケ?結構倒してるヨネ?」


 アモットが誰ともなく愚痴る。砲撃をするには数が多く、弾切れを起こすことから自重をしていた。


「うーん、これって最後にはアレがイルと思うんだヨネー。大丈夫かな、ハルカ。」

「うん、アモットさん。居るね。このマンイーターなんかネクロマンサーに作られて間もないよ。」


 ハルカはサイコメトリーを使い、近辺にネクロマンサーがいるとアモットへ伝えた。マンイーターを調べるときに、マンイーターになる過程を直視してしまい、自分の死んだ時を思い出してしまった。マンイーターに手足から食われ、身動きできなくなったところで意識を失った。そんなイメージを重ねてしまい思わず吐いてしまう。

 その光景を見てアモットが心配して、背中をさすってあげる。柔らかくない金属質の手が、ひどく優しく感じた。


「これで少しでも楽になってくれればいいんだけれど。」


 ユラはプロミスのワザで回復効果がのある「チャクラ」を使った。無駄でも使って、少しでも良くなればと、緑の輝きを両手から放ち、ハルカへと注ぎ込む。すこし、気が楽になったように感じる。


「某達はハルカ殿のことは、多少は知っているが。ネクロマンサーと何やら因縁があるようだな。」


 ハルカの不調を心配した皆は、ハルカの口から経緯を説明される。

 自分が心を病んで、怪しいものを扱うストリートで妙なチップを使ってから、誰かに操られたようにダンジョンへ潜り、死んでしまったことをつっかえながら話した。


「最後に覚えているのは、マンイーターに食べられながらネクロマンサーを遠くに見ている光景だったの。普段は、ネクロマンサーなんて聞いてもちょっと怖いだけなのに…。」


 メルはネクロマンサーといえば、ルーキーの登竜門ということを思い出す。

 単体としてはそれほど強くないが、ネクロマンサーはマンイーターを召喚してくる。過去に捕獲、もしくは倒れた人間をその場で直接改造している。脳に直接バイオチップを植え付け、コントロールできるようにされる。その過程で、生身では堪えられないダメージを無視したり、出せないような力を出せるようになる。

 ネクロマンサーの召喚は一見、無尽蔵に召喚しているように見えるが、何回かの召喚を耐えることが出来れば限界に達し、マンイーターを倒し切ってネクロマンサーを討伐することができる。

 故に、これを倒せればルーキーとして一人前の強さだと認められる風潮がある。


「某も一端のダイバーとして、討伐して箔をつけようぞ。」


 メルのその言葉には、ハルカを安心させようとする響きがあった。

 拳を打ちつけて、戦意を漲らせるユラ。


「大丈夫、ワタシの戦車砲で1発ダヨ!」


 力強くハルカへ宣言するアモット。


「ありがとう、皆。私、頑張るね。」


 皆の言葉に詰まり詰まりながらも、ハルカは涙ながらに皆へと応えた。



 メルが先のエリアを偵察を終えて帰ってきた。食糧プラントにはやはりネクロマンサーがいるようだった。しかし、メルは気になることを言っていた。


「事前に端末で見ておいた姿と異なるようで御座る。このような姿で御座った。」


 各自の端末へと送られる画像、確かにダイバーオフィスで入れた1層エネミーのデータとはかなり異なる。大きさが一回り大きいのと、詳細不明の大きなパーツを左肩に備えていた。


「気をつけるしかないね。もしかしたら、新種かも。そうなったら、やるだけやってみてダメなら逃げようね。」


 ハルカが皆へと方針を伝える。

 全員がその言葉に了解したのを確認し、エリアへと進む。

 エリアの中にはマンイーターがうろつき、その奥の方にネクロマンサーがいた。しかし、偵察に出ていたメルを驚愕させる事態が起きた。


「なんだ、あの男は。某はあのようなもの、先ほどは見てはいない!」


 メルは小声ながらも、焦りを感じさせる言葉で各自の端末に送信する。

 こちらの存在には気づいていたようなそぶりを見せ、男はこちらを見もせずに話しかけてきた。



「やぁ、ハルカ君。ブラッドバッドの煮込みはまだかい?」


 その声を聞いて、サッと顔が青ざめるハルカ。あの時、チップを渡してきた男だった。


 男は隣に立っているネクロマンサーを撫でながら、ハルカに聞こえるように喋り始めた。


「まさか、ネクロマンサーとブギーマンの蘇生が競合しあって意思あるゾンビとして蘇るとは。これだから、このダンジョンは予想しづらいんだよ。」


 男は顔を上げて、ハルカを直視した。視線を合わせた瞬間にハルカは身体がこわばっていくのを感じる。


「あのチップは人間を操るためのもので、スキル付与はオマケみたいなもんだ。君を操って、人間の中にオイラを紛れ込まそうとしたのに。まぁ、今からでも問題ないけれどね。」


 男はニヤリと笑って、ネクロマンサーに合図するとネクロマンサーは周囲の影から大量のマンイーターを呼び出し始めた。

 マンイーターは周囲を取り囲むほどに集まり、男とネクロマンサーをハルカ達と隔てた。

 ユラが巨大化をして攻撃するが、モンクの手数でも1撃で倒せないマンイーターは徐々に数を増していく。


「くっ、マズイかもなっ!アタシの攻撃が届かないっ!マンイーターをどうにかしない限り奥の連中に届かないぞッ!!」

「ユラッ!これは某、いや他の者も届かないぞっ!!これを見ろ!!」


 メルの手裏剣は奥の男へと投げつけられたが即座に対応したマンイーターに阻まれた。そのマンイーターはダメージを受けてはいるが、代わりが次々に呼び出されている。


「マズイネ、このマンイーターの群れはアイツラへの攻撃を食い止める盾になってルヨ!」


 アモットがこの状態に対し、攻撃の方針を変えざるを得なくなった。

 一撃で倒せる戦車砲だが、次から次へと出てこられるとすぐに弾切れになってしまう。

 状況が変わるまでは戦車砲を温存して、魔杖で自身に防御強化の【竜麟】をかけて攻撃する。しかし、こちらの攻撃力はそこまで高くないので、数で攻めてくるマンイーターの群れには分が悪い。

 メルの手裏剣も、ユラの拳も似たようなものだった。


「君たちは実に健闘しているが、こちらのネクロマンサーは改造を施されている。ダンジョン中の屍を集めて作り出してるからね。一日中呼び出し続けても枯れることはないさ。」


 男の言う通り、大量のマンイーターを作り出して飽和攻撃をしてくる。


「不味い。面で攻撃できるのが居ない弱点が如実に現れてしまっている。この状況を変えられるとしたら、ハルカ殿しかいないのだが…。」


 メルが言う通り、ハルカのサイコガンは超遠距離から攻撃でき、相手の盾役を回避して攻撃することができる弾道変更がある。

 しかし、ハルカは男の声を聞いてから行動ができなくなっている。


「もしかして、頼みの綱はハルカ君かな?残念ながら彼女は戦力外と思った方がいいね。オイラのチップの影響を再活性化させたから、行動をとることができないはずだよ。」


 男の言う通りででハルカはチップによる行動抑制があってうまく攻撃ができない。照準を合わそうにも腕が震えてまともに動くことすらできないのであった。ハルカのサイコガンなら届くのだが、攻撃したくても攻撃ができない。


 ハルカは目の前の男に力を振り絞って話しかけた。


「何で…、何で私にチップを渡してきたの?」

「特に意味なんてないさ。女子高生を操りたかった。反省してはいない。」


 男におどけた態度で返答され、言葉が詰まるハルカ。男はそのまま、異様なテンションで続けていく。


「強いて言えば…。科学技術の向上に貢献かな!ニンゲンを操作するなんて、素晴らしい研究だと思わないかな!?」


 アモットが戦車砲で攻撃しようとするが、マンイーターの壁に阻まれる。

 メル、ユラも懸命に攻撃するが、数が多すぎて対応するだけで手一杯になる


「ダンジョン管理人ってさ、知ってるかい?マザーAIから委託されてエネミーを操る権限やら、なんやらと任されているのさ。それで、人間をはじめ、亜種の人類や与する機械連中も適正に管理する必要がオイラにはあるんだな。そこでオイラは考えた。もっと効率よく管理する方法を。ズバリ、人間に洗脳チップを入れて、こっちのいう通りにしちまうのが楽じゃないかってね。あはは、アタマいいだろー?」


男が道化じみた動きでネクロマンサーの周りをクルクルと回る。そして、正面のハルカを見据えてこう言った。


「名乗るのが遅れたね。オイラはテック至上主義者の集まり「アザゼル」のリーダーにして、ダンジョン管理者のヴァイスだ、よろしくねー。」



 ヴァイスと名乗った男に散々煽られるが、全員の攻撃は大量のマンイーターに阻まれて届かない。

 アモットが群れに絡まれて、ダメージを受け始める。ほとんどの攻撃はその装甲で弾いていたが、数の暴力に押され始めている。

 ユラは巨人化したものの、単体攻撃のみなので自分の周りをどうにかするので手一杯でアモットの救出すら出来ない 。

 メルは奮闘しているが、しょせん人間相手に使う武器であり急所らしい急所が存在しないマンイーターには火力にならない。

 唯一、ハルカだけがこの状況を打開できる可能性を持っているが、ヴァイスの支配下にあって動けないでいる。ヴァイスの支配は恐怖による支配であり、こんなことになるまでは普通の女子高生だったハルカには荷が重い話だった。


「このままじゃダメなんだ。みんなの為にも。私の為にも…ッ!」


 ハルカは自身をコントロールしようとする。

 私はゾンビ、人間じゃない。私はゾンビ。ゾンビは怖がらない。私はゾンビだ、アレを食べる。その為なら、攻撃する。

 ハルカはエスパーのリーディングマインドを応用し、自分に暗示をかける。強制的なヴァイスのチップを通じた暗示を異能の力でねじ伏せていく。


「まず、は、おまえ、だ。」


 ハルカは目を真っ赤に染めて、攻撃する相手を銃口を指して宣言する。それは、ハルカの直接のトラウマであるネクロマンサーだった。

 ネクロマンサーを倒せば、増援もなくなり、楽になる。だが、ハルカは今そこまで考えてはいない。ただ、憎しみをぶつける相手としてネクロマンサーが居ただけだ。

 ハルカは目元から血の涙を流しながら、サイコガンを構えて連射した。配下のマンイーターが庇おうとするが、縦横無尽に弾道が変わりすべての肉壁をすり抜けていく。

 放った弾は全てがネクロマンサーに当たった。ハルカのエスパーはデバフ、相手の弱体化を得意とする。一発当たれば動きに枷をつけ、2発目からは炎に包んでいく。

 炎に包まれたネクロマンサーは、反撃をしようにも距離が離れすぎていて届かない。近くのユラやアモットに当てるが、ダメージは回復されてしまう。

 

 やがて、炎に焼かれたネクロマンサーは動くのを止めた。機能が停止したのだった。


 再度コントロールを試みていたヴァイスはここに至って、自分の負けを認めた。

 ハルカのサイコガンがマンイーターを避けてヴァイスを貫く。ヴァイスはあっけないほどに倒れた。

 しかし、その倒れた体の近くにホログラムのような半透明のヴァイスが居た。


「ありゃりゃ、オイラの義体が壊れちまった。まあまあ、量産型の義体だったから仕方ないねー。おっかしいね、ハルカ君は何でコントロールできなかったのかな。不思議、不思議。」

「人間を操ろうとしたからじゃないの?私は、ゾンビだから。」

「あ、なーるほど。こりゃ、一本取られたねー。次に会うまで元気で居てね。もっとも、それまで人間の部分がどれだけ残ってるかなー?ハハハハハッ!!」


 ヴァイスは嘲笑を響かせながら、空中に消えていった。

 他の面々も、供給が途絶えたマンイーターを全力で薙ぎ払い、このエリアに静けさが戻ってきた。

 気が付けば、アモットもユラも返り血で真っ赤になっていた。メルは真っ赤に染まった手裏剣を回収しつつ、ヴァイスの正体に見当をつけていた。


「ミストマンか。厄介な相手で御座るな。通常の攻撃は効かないホログラムを投影する輩で御座る。倒すには、ダンジョンの奥深くにいるという本体を叩くしかないで御座る。」

「そんなメンドウナ相手ナノー?なら、ワタシたちが強くなって、深い所に潜れるようになるまでお預けだねー。」


 アモットがいつも通りの呑気な答えを返している。

 その背後で、アモットが食糧生産プラントの再稼働を行っていた。ハルカがサイコメトリーを駆使し、協力している。

 

「ねえ、みんな私の事怖くない?やっぱり、私はゾンビで人間じゃないし…。」

「ダイジョブ、ダイジョブ!ワタシはハルカがゾンビでも友達だヨ!だって、ワタシは食べられないモンネ!!」

「あのね、私は機械とかでも食べられるんだけど…。」


 悲鳴を上げつつ、ハルカにハグをするアモット。固い金属の体が優しく感じる。


「某は簡単には食べられるつもりは御座らん。」

「ユラも一緒だ!」


 ハルカの周りを飛んでいるメルと、巨人化したままのユラが答えてくる。


「ありがと、皆!」


仲間の方を振り返ったハルカの表情は明るい爽やかさに満ち溢れていた。



挿絵(By みてみん)

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