第32話 ケイスケのダンジョン
言うまでもないのですが、美脚マグロの元ネタはアレです。私が子供の頃、テレビで見て衝撃を受けたアレです。
ケイスケのイメージ絵はもう少しオッサンです。
ハルカ達は依頼主の指定していた場所まで来ていた。
今回のオーダーは小規模ダンジョンの中にある特定エリアの施設再稼働だった。
再稼働と言っても、特にやることは難しくない。たいていにおいては、本来は居ないはずのエネミーがそのエリアの入り込んでしまい、施設、今回のケースは食糧プラントが正常に動かなくなっただけの場合が多い。
今回の依頼主はBSSの店主ケイスケであり、指定した場所というのは店の中だった。
「今回の依頼内容は、俺の購入したダンジョン内の食糧プラントの解放ね。前金は無し、何が悪さしてるか確認できれば5CP、プラントそのものの解放までしてくれるなら合計10CPだ。普段なら専用レーンを入り口あたりまで伸ばしてあってね。食糧資源を回収するだけなんだが…。」
ケイスケは該当エリアを購入していて、小規模ながらも食料プラントを所有していた。
普段は専用レーンを使って自動的に食糧資源をダンジョン入り口付近へと送り出していた。それをルーキーダイバーに回収してもらう簡単なお仕事のはずだった。
とある日に、いつものようにルーキーを雇って資源回収を頼んだが、何か問題があったらしく帰ってこなかった。
「ちなみに、ケイスケさん。食糧資源って何ですか?」
「唐突な質問だねぇ、君。出てくる内容はランダムだけれど、古代に作られていた『寿司』って食べ物らしいよ。こう、白いコメに何かタンパク質的なものだったりするのが載ってるんだわ。まんまだと素材の味しかしないから一緒に送られてくる黒い液体をかけて食べると美味しい。」
片手でその食糧を食べる仕草をしながらケイスケが説明する。
「フーん、それってモロで出てくルワケ?衛生的に大丈夫ナノ?」
「安心して欲しい。カバーがかかってて、常に滅菌されてるから。そこらの食べ物より安全よ。」
ちなみに、別のルーキーダイバーを雇って受け取り口の回収を依頼した時は腐敗した肉片などが入っていて、その後は送られてこなくなった。それを確認したルーキーたちは手が出せない案件と判断して途中でオーダーキャンセルしている。
そのため、ルーキーダイバーの生存は絶望視している。
「うーん、私たちで大丈夫かな?」
「大丈夫、大丈夫!いけるって!!」
「ユラ、お主の言葉は何でそう、軽さを感じるのか。まぁ、何が出ているかは見当がついたから受けるのはやぶさかではない。おそらく、マンイーターが大量に発生している。と言うことは、だ。ハルカ、其方の方が心配だ。」
「あーもしかして、アレがデルー?なら、ハルカはちょっと心配カナ?」
ハルカは周りに心配されている。心当たりがあると言ったら、一つしかない。
「大丈夫、だと思うよ。皆がいてくれるから多分、だけど!」
「なら、行っちゃオウ!ケイスケさん、オーダー正式に受けとくね!!」
そう言って、和やかに女子チームが去っていった。隙あらば、「ブレスオブファイア」を売りつけたかったが、常にチームの一人が大砲で牽制してきたので一言も出すことができなかった。ありゃ、ウチの管轄じゃないね。ギルっち3世の方だわな。今度来た時に、勧めてみますかね。
意外に、仕事には真面目なケイスケであった。「ブレオブ」を布教するのに煩いだけで、中身は割と真っ当な商人なのである。
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入ってみると、全体的に衛生的な白さが印象的なダンジョンだった。入り口近くに問題の回収口があったが、現在は何も入っていない。
今回から、4人チームとなったのでポジションの確認をしていく。
ハルカは後列からの遠距離攻撃による弱体化。ハルカのサイコガンは後列距離から相手の後陣まで届く武器なので、遊撃的に攻撃して敵を弱体化させるのが仕事だ。
メルはイニシアティブコントロールと後列からの攻撃による殲滅。ニンジャのメルは先手をとるための感知力や指示出しを期待されている。個別にしか攻撃できないが、手裏剣による火力フォローは射程距離が短いが手数の多さで敵の殲滅も期待されている。最悪、敵前に立って回避をする盾役も視野に入っている。
アモットは前衛でのタンク&ヒーラー。持ち前の硬さと、器用にこなす魔術のフォローで臨機応変に動く。
ユラは前衛でのアタッカー&ヒーラー。普段は回復を担当しつつ、攻撃を行う。アモット一人では辛くなってくれば、巨人化して火力サポートと、壁役の交代となる。
入ってすぐに壊れかけのドローンが数体でて、遭遇戦となった。所詮、壊れかけなので難なく倒せたが、一人も範囲攻撃を持っていないことで若干の時間がかかった。ダイバーおなじみの解体を4人でしながら話す。
「うーん、私たちって大勢に囲まれると辛いね。さっきの雑魚戦でもちょっと時間かかっちゃうし。」
「そダネー。」
「今は手数で応戦するしかない。CPが貯まれば、範囲攻撃が可能なウェポンを用立てればいいだろう。」
今回の報酬で、何をするかを喋りながら前に進んでいく。メルはこのチームの偵察や、斥候を担うので喋りながらも緊張感がある。
逆に言うと、他3人は緊張感はなかった。ユラに至っては、どこから敵が出るのかワクワクしながら歩いている。
「うむ、この先にエネミーがいるな。おそらく、メガスクイドが2体に美脚マグロ、ガーリと言ったところ。そろそろ準備をするのだ。」
「気のせいかな、なんか美味しそうな名前だね?」
ハルカがメルの報告に素直な感想を述べる。
該当エリアまではかなり真っ直ぐな道が続いている。小さな部屋に先ほどの報告の4体がひしめいていた。巨大な直立するイカ2体に、綺麗な足が二本生えたマグロが綺麗なターンをしてこちらに近づいてくる。残ったのがガーリだろう。酸っぱい匂いをさせながらジリジリと近づいてくる。
「よーしっ、一番に攻撃するのはあたしだーっ!」
ユラが突貫していく。敵の数や構成などはメルが事前に調べていたので、難なく先手とっている。
巨人化はまだ温存している。4体とは言え、そこまで強くはないはず。近づいてきていた美脚マグロに正拳突きを放つ。
立て続けに3連発の攻撃を受け、だいぶ弱るマグロ。そこにメルが手裏剣を立て続けに投げて一匹を仕留める。
「一発撃つだけなら問題ないよネっ?ネっ?ウッチマース!!」
こちらは自重できなかったようで、アモットが大キャノンを放つ。回避行動を取れなかったメガスクイドが一体吹き飛んだ。
ハルカは真面目にサイコガンでガーリを攻撃していく。多少手傷を負わせた上に、この間入れたウェポン、ブレイズ・タトゥーによる効果で攻撃に炎の属性が付与されている。ガーリはその体を燃やしながら歩き、アモットへ辿り着き自分の体を裂きながら液体をかけてきた。
「チョ!?なんて攻撃スルノッ!乙女にする攻撃じゃないッショ!?」
甘酸っぱい香りがする液体は、被るとジュワッと言う音を立ててアモットを溶かす。何気に侮れない攻撃を仕掛けてきた。
生き残ったメガスクイドも触手による乱打をユラに仕掛けていく。3発中、2発受けてダメージを受ける。
しかし、エネミー側の健闘はそこまでだった。
ハルカたちの攻撃が再開されれば、あっという間に残りの2体も倒されてしまった。
ハルカが解体をしつつ、気になったことをメルに聞く。
「私だけかな、このエネミーたちの区分が食糧と生物の境目分からないのって。」
「ああ、その二つの区分は食える、食えないではないのだ。元から何も手を加えずに可食できるのが食糧で、何かしらの調理などが必要なのが生物と覚えておるといい。今回は、イカが生物でガーリは食糧だ。」
「このマグロ、足の部分は捨ててイイノ?」
「おい、だいぶグロいぞソレ。ちょっと見えないところに捨ててくれ。猟奇的すぎる」
全員で解体を終えた後、それなりの額が回収できそうな素材を手に入れて浮荷台に重ねていく。
ケイスケから指定されたエリアまではもう少しとなっていた。
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