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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
ハルカたち
31/96

第31話 スプリガンモンクのユラ

ユラのイメージ画像は1枚目が子供、2枚目が巨人状態となっています。巨人、もう少しカッコ良さそうなのが良かったんですが、出力できた中で一番出来が良かったのがこれだったので…。


2023/03/22

ユラの巨人化を差し替えました。こっちの方がぽいので。

 苔が生えた、かび臭い場所。2層の奥まったダンジョンの中に幼い顔立ちの女の子がいる。

 場違いな雰囲気だが、種族を知れば納得だ。

 少女に見えるこの子供、「ユラ・イル」は、異能で作成された宝物の守護者だった。種族「スプリガン」とはそういうものだ。

 見た目は幼い子供のようだが、戦闘となれば見上げるほどの巨人に変貌して戦う。

 ダンジョンの中の宝物を守り、生きていく。しかし、スプリガンという種族はいつからか、病を抱え込んでしまった。

「俺より強いやつに会いにいく。」

 そのせいで、いつの間にか宝物の番人というよりも、階層を自由に行き来するワンダリングエネミーの性格が強い存在になってしまった。

 ユラもそんな同族と同じく、2層の宝物の番人役を早々に放棄し、自分よりも強そうな相手にかたっぱしから喧嘩を売って、勝ったり負けたりする毎日だった。

 ダンジョンエネミーとして、生きるために必要な捕食以外は勝っても負けても命までは取られない。エネミー同士の争いはダンジョンの中ではあまり見かけられない光景だ。生物系エネミーが捕食することはあるが、それ以外にはほとんどと言って良いほど戦わない。

 ユラはたまに人間と戦う時もあったが、その時は全てにおいて勝利していた。

 師匠と敬愛する彼、「テンパランス」が現れるまでは。


 2層のワンダリングエネミーを除いたエネミー全てと戦ったユラは、新たな相手を待ちわびていた。新しい人間が探索に来ないかとダンジョンを当てもなく歩いていると、向こう側の角から一人の男が現れた。男は偉丈夫と呼ぶに相応しい肉体を持ち、ダンジョンの中を威風堂々という言葉がふさわしく感じる歩き方で歩んでいた。

 ()()()()()()!そう感じたユラは思わず飛び出して男に戦いを挑んでいた。


「おい!そこの人間勝負だっ!」

「ふむ、察するにスプリガンかね。吾輩に勝つのは100年早いと思うが。では、名乗っておこう。我が名はテンパランス。戦闘スタイルはドラゴンフィスト。そちらは?」


 余裕たっぷりに名乗った男はガントレットを外しながらユラに答えた。

 武器を外している男にプライドを傷つけられたユラは怒りを感じながら男に言葉を叩きつける。


「あたしはユラ!ユラ・イルだ!!スプリガンを舐めるなよ、男!!」


 そう言って、ユラは戦闘準備を行なった。ユラの身長は最初は子供の体格そのものだったが、見る見るうちに大人を超えて巨人になった。ユラはテンパランスを見下しながら、拳を構える。

 しかし、男の方は攻撃のための構えすら取らずにいた。それが余計にユラを刺激した。

 巨人となったユラは男を一捻りで潰してやるつもりで巨大な掌を男に叩き込んだ。

 しかし、男は微動だにせずに叩きつけられた掌に拳を打ちつけて弾いた。さらにその場から動かずに拳撃を放ち、足を撃ち抜いてバランスを崩させて降りてきた顎に2撃を喰らわせた。届くはずのなかった顎へと拳を叩き込まれたユラはあっという間に意識を刈り取られた。



 ユラが気がついた時、男はこの階層で倒したと思われる、黒と緑の縞模様の外皮を持つエネミーを食していた。シャクシャクと音が鳴り響く。

 男に声をかけようとしたとき、自分の体に叩き込まれた拳の痕が無いことに気がついた。あれだけのダメージを受けて意識を失ったというのに傷一つない。


「スプリガンといえど、女子に傷を残すのも忍びないと思ってな。一通りの傷は癒しておいた。なぁに、気にするな。吾輩の気まぐれだ。」


 テンパランスの言うことが本当なら、ユラは手も足も出ずに人間に負けたこと、あまつさえ傷を治してもらったという事に震えるほど衝撃を受けていた。

 しかし震える拳を握りしめ、それ以上に強くなりたいと思った。そう思ったときにはユラは決意をした。この男に師事し、鍛えてもらうことを。

 男が軽い食事を終わらせ、ダンジョンを進もうとした時にユラは立ち上がり、右手を振るわせながら突き上げた。テンパランスがその行為に気づき、歩みを止めてユラを真面目な顔をして見つめる。

 ユラは自分をダンジョンの一部から切り離す行為を行おうとしていた。エネミーとしての自分を削除して非エネミーとしての証明がタトゥーのように右腕に刻まれていく。これで、ダンジョンとは完全な敵対者となる。ワンダリングエネミーが来る可能性が発生し、今まで殺し合いにならないで止まっていたエネミー同士の戦いが本物の殺し合いになる。

 そこまでした右腕を男に見せてユラは頼み込んだ。

 

「あたしはダンジョンのエネミーじゃなくなった。これがその証明だ!人類側につくからアンタの技を教えてくれ!」

「そこまで覚悟があるなら、鍛えて差し上げよう。ただし、生半可な物ではないからな。必死に食らいついてきたまえ。」


 男は、テンパランスは面白がって、許諾した。その日からユラはモンクとして稽古をつけてもらった。テンパランスからすると、意外にもユラは真面目に取り組んで、モンクとしての基本が教え込まれた。

 基本はダンジョンで戦うエネミーとして作られたがゆえに出来上がっていた。彼女に足りなかったのは技術。それも教えれば基礎程度は簡単に習得していった。


「(なかなかに筋はいい。さすがはスプリガンと言ったところ。しかし、猪突猛進なスプリガンの生き方そのままにすると、早晩に死んでしまうな。…回復系のワザを教えて少しでも生き残れるようにするか)」


 テンパランスはユラに回復の術を教え、「ブレーキを掛けることができるスプリガン」のモンクが出来上がった。多少、思うところがないわけではないが、師事している以上はテンパランスの教えは全て取り込んでいった。

 

「そろそろ、頃合いだな。ユラ君。君を鍛えるのはここまでだ。吾輩はこれから5層へと古馴染みを追いかけねばいかんのだ。」

「もうか!?もっと教えてくれ師匠!!」


 2層でユラに稽古をつけるのも悪くはなかったが、テンパランスは5層へと行った古馴染みを追っている途中でもあった。基本は身につけられたとし、ユラへテンパランスは一つの試練を出した。

 それは、先にダイバーとして教えていたニコという弟子がいるので、探し出して倒せれば奥義を教えようというものだった。


「ユラ君。吾輩は、ある男を追って5層へと向かう途中でな。君と言う面白い人材に会ったが故に足を止めていたがそろそろ向かうとする。そこで、君より先に弟子にしたニコというものがいる。それと試合って勝利してみよ。吾輩の見立てでは…、いや、なんでもない。勝ったならば、一筆『ユラに負けた』と書かせるが良い。それを持って来れば、その時は奥義を授けよう。その為にはまず、1層の表層都市へ行ってダイバーとなるのだ。」

「約束だぞ、師匠!」


 素直に返事をするユラ。しかし、テンパランスはユラがこれからダンジョンで生きるためにあえて言わないことがあった。

 ニコと言う名前以外の情報、全てである。

 戦うだけではなく、生きるために必要なことを調べさせる。そんな師匠からの最後の伝授であった。


 以後、師匠に教わった通りに1層に行き表層都市へとたどり着いた。エネミーは敵意を持って襲いかかってきたが、モンクのワザがユラの負傷を癒し、無事に1層のダンジョンを経由して表層都市へと足を踏み入れたのだった。


「ここが、表層都市かー。人間が沢山いるな!強そうなのばかりいるが、ここは我慢だな!!早くダイバー登録ってのをやって、思う存分『ニコ』を探すぞ!!」


 行き交う人間に教わり、ユラはダイバーズオフィスでダイバー登録を行った。意外なことに、スプリガンがこういう形でダイバーになることはそこまで珍しいことではなく、登録はすんなりと終わった。ダイバーには必須の端末と浮荷台の使い方を教わり(浮荷台はともかく、端末の使い方は最終的にはウェポンスロットを使って強引に使えるようにしていたが)、晴れてダイバーとなった。


 その直後に行ったのが、ダイバーで強そうな相手に「お前がニコだな!」と言い放ち、喧嘩をふっかけるという傍迷惑なスプリガンが爆誕したのだった。師の心、弟子知らずであった。



 今日も仕事を探して、ハルカはダイバーズオフィスへと向かっていく。すると途中で揉め事が起きているらしく、オフィスの外で野次馬の人だかりができていた。

 怪訝に思い、人ごみをかき分けていくとその真ん中には子供のような女の子と、最近見慣れたゴーレムのエレメンタル・ウィザードのアモットがいた。


「アモットさん…?いや、そんなところで小さな女の子相手に何やってるんですか!?」

「あ、ハルカー!なンカ誰かとワタシのこと勘違いシテるらしくテネー。今から決闘するっテー。」

 

 どうやら、アモットのことを誰かと勘違いしたらしく、勝負を挑まれたらしい。というか、決闘ってなんなのだろうとハルカは思った。

 

 アモットは野次馬に囲まれながら考えていた。彼女としては非常に大切なことを悩んでいたのだった。


「(表層都市内、オフィスの外でのストリートファイトダシ、大キャノンの使用はダメだよネー。魔法の杖で魔法少女スタイルな戦い方をするシカなイカ)」


 ハルカはリーディングマインドをせずとも、アモットが考えていることが読めるようだった。

 アモットはゆっくりと魔杖を構えて女の子へと構えて見せた。一見すると【虐殺】という言葉がハルカの脳裏をよぎる。なんで誰も止めないの!と思って、もっと前に行って止めようとしていると、誰かが「スタートだっ」と叫んだ。

 二人は同時に動いたが、少女は一手先に動いた。彼女は雄叫びをあげて体を変貌させていく。見る見るうちに手足が伸びて、胴が大きくなり巨人の姿へと変貌した。両拳を打ち鳴らしながら、アモットの方へと接近してくる。

 ここでこの流れを何度も見ている野次馬たちも、この瞬間だけは歓声が湧き上がる。見たことのないハルカは余計に混乱した。少女の面影を残しつつも、巨人はアモットへ攻撃を仕掛けていく。

 これ、キャノン使っていいんじゃないかと思いながらも、アモットは初志貫徹で魔杖で応戦する。胴に魔法の光弾を受けるが、巨人は少しよろけながらもアモットにその大きな拳を打ちつけていく。


 双方ともに足を止めての殴り合いとなった。アモットも自分に防御強化の魔術をかけて、光弾をぶつける。異能と物理の激しい攻撃の音が鳴り響く。

 両方とも攻撃を当てるが、有効打になかなか結びつかない。なぜなら、お互いある程度のダメージをすぐに回復してしまうのだ。

 アモットは魔術で自己回復を行なっていく。相手の巨人も何か特殊な印を結ぶと緑色の光が散りばめられ、自分の傷を治していく。

 ギャラリーもダレ始めた頃に、最前席でユラをじっと見つめていたハルカは大変なことに気がついた。目の前の巨人ユラに大声で叫ぶ。


「巨人さーん!ユラさーん!!目の前のヒトはアモットさんだよ。ニコさんって人とは別人だよっ!。」


その言葉にユラが大きく頭を振り、拒絶の言葉を吐いた。


「嘘だ!こんだけ強いんだ、もうコイツがニコでいいだろう!?あたしはもうこいつがニコでいいと思ってる!!」


 ハルカはエスパーのリーディングマインドを使い、ユラが何故戦っているのかを探っていた。テンパランスの伝言や、ユラの動機も読み解いていった。その上で、ユラに話しかける。


「事情は飲み込んだけれど、それニコさんじゃないよ。」

「くそ!いつもこうだ!!ニコはどこにいるんだ!!」


 ハルカがいつまで経っても連絡をよこさないので、何が起こっているのかと、文字通り飛んできたティンクのメルがハルカに事情を聞き、ユラへ冷静にツッコんだ。


「そもそも、顔も素性も知らない名前だけの相手なんて探してもいないに等しいではないか。せめて、わかりやすい特徴なり、外見なりと聞いておかなかったのか。」


 痛いところを突かれたユラが拳を振りかざしたまま固まり、メルへ弱々しく返す。


「…そこは、カンで。」

「阿呆かお主。いや、馬鹿か。どちらでも良い、某が調べて来てやるからここまでにするがいい。両者ともに矛を収めよ。」


 アモットもさすがに魔術の使用回数が切れて、負けたくない一心でキャノンを使うか使わざるかを迷い始めていたところで、ストップが入り安堵した。


「アッブナー。もうちょっとで戦車砲使うところだったヨー。良かっタネ!巨人の女の子!!」

「なんか、こいつ危ないヤツなんじゃ…?」


 今更、喧嘩を売った相手の危険性を認識したユラである。学校で教師に回答する際に景気良くぶっ放した履歴は伊達ではない。



 その後、ハルカのマインドリーディングやサイコメトリー、メルの諜報術で調べた結果、1ヶ月前に1層から3層へと旅立ったことをユラは聞かされた。

 

「あのね、ユラちゃん。ニコって人はバーサーカーで、もうベルセルクにジョブチェンジもしてるみたい。3層到達者だよ?ユラちゃん、全然敵わない相手だと思うよ。あ、ちなみに女の人ね。」

「正直な話、絶対に勝てないぞ。某ら1層どまりのチームメンバーであるアモット殿にも引き分けてる間はな。」

「…うぐぅ。」


 この話を聞いて、現状では話にならない実力差があるとユラは認識した。一体どうすればいいのか、と途方に暮れる。自分には強くなる方法が浮かばない。


「なら、私たちのチームに入ろう?ちょうど前衛の人を探してたんだ。良いですよね、メルさん?」

「うーむ、こやつの実力はさておき、本当は壁役が欲しかったのだが…。」


 若干の難色を示すメル。このチームには敵を押しとどめる壁役がいない。アモットは乗り気であるが、エレメント・ウィザードは後衛ジョブ。自分は回避盾にはなれるかもしれないが、当たれば倒れる非常に安定しない前衛にしかならない。

 理想は、テックソルジャーやサイキックディフェンダーのようないざという時に庇える能力を持ったジョブが理想だったのだ。ユラもどちらかといえば攻撃役の部類になる。


「自己回復がデキテ、攻撃もできる前衛。悪くナイヨー。アタシたちは押せ押せで速攻を理想として戦った方がイイ。」


 アモットは賛成に一票投じた。それ以上に大事なことを説明した。


「何より、ゾンビのハルカのことを回復できるヨー。貴重ダヨー。」

 そうなのだ。彼女の回復能力は異能でも、テックでもない別の次元の回復能力。プロミスたちが伝える「ワザ」と言う特殊な技術を伝承されている。それをアモットはゾンビのハルカを回復できる貴重な人材であると説明した。これが決め手となりユラのチーム加入が決定した。


「では、アタシはユラだ。モンクで回復が得意だ。よろしく頼む。」


 前衛なのに回復が得意という、また個性的なメンバーのユラのチーム加入が決まった。せっかくだから、どんな風にダイブできるのかを早速ダンジョンで確かめる話になった。


「あ、今からなら特定エリアのエネミーの殲滅があるよ。報酬は1人10CPね。」

 

 受付のティンクのリカが今残っているオーダーの中で、ハルカたちにできそうな仕事を割り振ってきた。

 食糧プラントが生きているエリアで、エネミーが占拠しているせいで回収に行けないと言う。

 ハルカが皆んなに意見を求めるために振り返った。


「悪くないと思う。どうでしょうか?」

「ハルカがいいならサンセーい。」

「某はそのエネミーの情報が知りたいが、現地収集になってしまうか。」

「強くなるためなら、なんでも良い。」


 賛成意見多数と言うことで、本日は食糧プラントのエネミーを一掃と言うことで決定したのだった。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

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