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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
ハルカたち
29/97

第29話 ゴーレムのエレメント・ウィザード アモット

今回は徹底して種族です。こちらの世界で独特の存在のをピックアップしてますが、エルフとかドワーフも存在しています。

 表層都市N区高校に通うゴーレムの女子高生がいる。見た目はかなりゴツいロボットと形容しても差し支えないだろう。彼女の名はアモット。この高校に通っている「問題児」だ。

 基本的に、アモットはいつも怒られてばかりだ。何故なら、あらゆる実習を全て大砲でカタつけるからだ。

 恵まれた鋼のボディに宿る健全な魂。そして、戦車砲。昔、幼かった(といっても大きさは変わっていないのだが)アモットにダイバー稼業しているオジサンから誕生日プレゼントとして渡されたのがこの巨大な戦車砲だった。

 アモットは戦車砲に取り憑かれ、何にでも戦車砲を使う様になってしまった。

 体育の授業では、ありとあらゆる手で大砲をぶっ放し、授業を破壊する。サッカーのボールを大砲から射出する、野球のバットの代わりに大砲を振るう、徒競走の合図に大砲を使用する。などはもう見慣れた光景となっているくらいで、語学の授業の時に大砲で5・7・5形式の詩を幾通りも作ってきて講師を困惑させたり、あげくは数学の時間にわからない問題についてわかる様に説明が欲しいと大砲を向けながら喋るという暴挙にまで出た。

 当然だが、アモットは学校から放逐された。下手すれば、危険因子として処分をくらってもおかしくない事をしでかしていたが、アモットはさらっとダイバーに登録し、大砲を持つ理由を作って逃げ切っていた。

 普段のアモットは、大砲を随時出すわけではなく、何かの問題を解決するために出すので、ダイバーならそういう人物はゴロゴロしており、当局もダイバーが武器を所有することを認めており、それだけでは捕まえられないのであった。


 高校中退となってしまった。しかし、アモットは気にしていない。もとより、人族が多く通う高校にいってもあまり得られるものはないと思っていたのだ。


「あたし実践的な魔法は使えるし、ウェポンスロットも3つまで解放してるし。ダイバーになった方が大砲の為にも良いわよネェ。」


 ちなみに、在学中に同じ種族はいなかったので孤独な学校生活だった。自分の特異性も自認はあったので、常に1人でいたようなものだった。なので仲の良い友達もなく、学校が終わればダイバーの予備訓練をしにダイバーズオフィスへ通っていた。

 おかげで、ダイバーズオフィスでの覚えは良かった。だが、問題児という話も浸透していたので、仲間募集をするチームもいなかったが。

 

 今日もチームメイトを探そうとオフィスに寄ったのだが、今日は様子が違っていた。

 珍しく、人だかりが出来ていて、先が見通せない。何かトラブルが起きたのかと思っていたが、しばらくたっても埒があかず、少し強引な手だが、大砲をにょきっと出して人ごみを割るように先に進んで行った。

 すると、そこにいたのは同じクラスのハルカ・クリエだった。ただし、記憶にあるハルカよりも青白い顔、額と腹部にある大きな傷、鼓動音のしない心臓、左手を貫通している包丁と思われる刃物。と、異常点が満載だった。

 ひとまず、声をかけてみることにする。


「ハルカさん?あなたヨネ?どうしたノヨ?」


 声をかけられたハルカはビクッとしたものの、クラスいや、全校1の問題児アモットがココに現れたのに思考がフリーズしてしまった。


「アモットさ、ん?」

「そうよー、あなたと同じクラスメイトのアモットよー。あ、今は『元』がついちゃうけどネェ。こんなところで立ち話もなんだから、ちょっと場所を移しまショ。」


 そういうや、ハルカの腕を掴んで立たせ、オフィスの外にある公園に足を運んだ。

 

 公園は人気がなく、ちょうど良かった。模造樹があり、見た目だけならまともに見える。遊具のようなものはなかったが、多めのベンチ設置数のおかげで、ちょっとした休憩として使う分には良い場所だ。とくに、カネのない女子高生には1CPだってとてつもない大金だ。噂に聞く「メシヤ」なんてとても使える場所じゃない。

 公園に着く頃には、ハルカも少し落ち着いてきていて、今日起こったことをアモットに説明していった。


「…そういうわけで、私は変なロボットとそれを上回る変なのにからまれてゾンビになっちゃったの。」

「悪い冗談にしか聞こえないけれど、ハルカさんの鼓動止まってるかラネ。冗談でそれは出来ないと思うワ。」


 そして、ダイバー登録をしたという話を聞いて、アモットのモノアイがキラリと光った。


「ちょうど良いデスワっ!ワタシも相棒を探してたノヨ!!ワタシタチ、チームを組まナイ?もしかしたら、ダンジョンの奥にはハルカさんの身体を治す薬とか、回復ウェポンとかがあるかもしれないワヨ。」

「え、でも私なにもできなくって。エスパーがなにするかもぼんやりとしか把握してなくって?」

「大丈夫、始めたばっかりなのはワタシもだかラ。さっそく、チーム申請して来ルネー!」


 そういって、公園から再度オフィスの方へ移動し、受付の事務員にダイバーチームの結成を伝える。


「あの、アモットさん?あの、私なにも出来ることがないんだけれど…。」

「大丈夫、あなたはワタシの後ろから適当に攻撃してくれレバ!物は試しヨ!さっそく1層のダンジョンでお互い何ができるか確認シマショ」


 推しが強い!さすが、何にでも大砲をねじ込んでくる大砲アモット!とハルカは唸った。

 


 1層のダンジョンへと入った元・女子高生二人組。ここは冷ややかな冷気が吹き込む植物生成のプラントエリアのようだ。

 

「ワタシの後ろから離れて、間を開けて着いてきてクダサイネ。」

「は、はい!」


 余裕のありそうなアモットとは対象的に、ハルカは余裕などなく、来る途中に購入したサイコガンを握りしめていた。

 ちなみに、サイコガンは腕に取り付ける形を取り、銃と腕が一体化して見えるようになる。攻撃力もさる事ながら、超遠距離から狙撃できる性能を持つ。その代わりに近づかれると撃てなくなってしまう欠点がある。

 対して、アモットの方は常日頃から出している右肩の戦車砲である「大キャノン」、左手には魔杖をもち、魔術は「竜麟」、「治癒」の組み合わせ。

 意外なことに、ウェポンについては器用な構成をしていた。

 

 植物プラントの辺りを静かに進んでいると、ハルカが屈み込み何かの足跡を見つけた。


「あの、信じてもらえないかも。だけど言うね。ここら辺、もしかしたらエネミーの巣になってるかもしれない。この足跡を見ていると、たくさんの緑色の小人みたいなのが歩いているんだ。」


 ハルカのジョブ能力エスパーは、サイコメトリーと言って触れたものや場所の痕跡を調べることができる。初めて使った能力に感覚が混乱する。


「なんですッテ!それハ一大事!!転進しまショウ。」


 しかし、彼女たちが気づくのは少しばかり遅かった。植物の影からワラワラと4体のエネミー、ゴブロが出てきた。

 だが、敵に気付いていただけ彼女たちの方が素早く動いた。


「当てればいいんだよね!当てればいいんだよね!」

 

 半ば、錯乱気味にサイコガンで最前列にいるゴブロに狙いをつける。さらに、相手の心を限定的に読み取るリーディングマインドで回避の方向を事前に知る。ゴブロは避けたと思った方向に弾が曲がって当たり、血反吐を吐きながら驚愕の表情を浮かべた。

 

「ナイスでスよ、ハルカさん!ワタシも頑張らなキャ!!」


 アモットも初戦から強力な攻撃を行なっていく。ハルカがダメージを与えているゴブロに大キャノンを当てた。事前にハルカが心を読み取り、大雑把ながらも回避の方向をアモットに教えてくれるおかげで、命中はすんなりといった。そして、命中してしまえば、対戦車砲などを食らった人型エネミーは四散五裂といった風に散らばっていった。相手の強さが大体わかったので、アモットは魔杖での攻撃に切り替えた。威力は大幅に弱まるが、回数制限なく戦えるため、ハルカと連携して倒していけると踏んだのだった。

 ゴブロたちはまさか、こんな馬鹿げた火力を持っている相手だとは思わず、混乱している。とにかく、後ろの顔色の悪い人間だけでもさらっていこうとするが、アモットがその道を塞ぐ。

 アモットに対して、攻撃を行うゴブロたちだが、事前に行なっていた魔術支援のおかげでダメージは少なくすんだ。ゴーレムといえども、追加装甲などはないため、意外にも耐久力はないのである。

 しかし、ゴブロたちは火力の差が絶望的だったために、一匹、また一匹と数を減らし、最後の一匹がやられたのだった。


「なんとかナリマシタネ!ハルカさん。解体しましょう!」

「えーと、そうだよね…。」


 ゴブロの死体を見ていると、何故か食欲が沸いてしまうハルカであった。ハルカはおそらく、これはゾンビの本能みたいなものなのかな、と考えていた。

 左手に開いた傷は開いたままだった。少し、アモットに告白する勇気を持って、言葉を伝える。


「あ、アモットさん。私、ゴブロの死骸を食べてみたいの。…いい?」

「もちろん、全然構いませンヨ。こちらの死骸はワタシのほうでやってオキマスネ」


 意外なほどにあっさりと許諾を得たので、一口かじってみる。死んだゴブロの腕の指先から。不思議と、嫌悪感は出てこなかった自分がいる。食べ進めると、左手に開いた傷が泡立ちながら修復していく。その光景を自分で見て、やっぱり私は人間じゃなくなったんだなぁと思う。

 一通り、食べて満足したのでそれ以上はやめておいた。

 頭の中に、どこからか声がした気がする。ワタシは治ることはなく、直ることしか出来ない。その声を聞くと、どうしても憂鬱な気分になった。


 アモットは初めてのダイブで、興奮していた。ハルカさんは思った以上に動いてくれたし、自分もしっかりと戦える。

 しかし、二人というのは心許ないので、あと二人くらい。前衛と後衛を仲間に入れた方がいいと判断した。

 何よりも、アモット自身は本来は後衛のジョブなのだ。装備を固めて、タンクという役割をすることもできるかもしれないが、それには先立つものが必要だ。

 安全に、かつ効率よく稼ぐにはチーム人数を増やすこと、美味しいオーダーを受けること。この2点が必要だと思っていた。


「ハルカさん、そちらさえ良ければ手早くエリアボスを探シテ、このダンジョンを退出しまショウ。」

 

 ハルカもそれには異論はない。正直、いろんないみで生きた心地がしないのである。ただ、心臓が止まっているからドキドキもしないだけかもしれないが。

 

「あの、エリアボスってどんなの?」

「ダイバーズオフィスで聞いたのデスと、巨大化したハングリーアリゲータとのことデス」

 

 聞いて、大きなワニという生き物を端末で調べる。エネミーとしても特別な能力はなさそうだ。

 

「私たちで倒せるかなぁ?」

「大丈夫でスヨ!ハルカさんの能力で敵の回避を断つ事ができれば、ワタシの主砲が火を噴きますカラ!!」


 実際、アモットが一番懸念していたのは戦闘向きではないジョブなので、命中率が悪い事だった。それを補ってくれるのがハルカのリーディングマインドと、もう一つの能力だった。1層のエネミーは決して強くはない。しっかりと装備さえしていれば戦えると言う相手ばかりだ。ワンダリングエネミーに気を付けるくらいで、ルーキーでも安全に帰ってこれる難易度である。

 意外なことに、探索にはサイコメトリーが役に立ち、仕掛けられた罠や、宝物庫の鍵あけなどに活躍した。


「うーん、意外。私、役に立つことってあるんだ。」


 今も、噴出する酸の罠を見破り、解除している。サイコメトリー頼みだが、ちゃんと仕事をしているのを実感できた。


「おかげサマデ、いらないダメージを受けずに済んでまスヨ。ハルカさん、様様デス。」


 ゾンビのハルカもそうだが、ゴーレムのアモットも自然回復はしないタイプである。回復には異能の力による癒しが必要になる。そのため、アモットは自分も回復できるように魔術ウェポンを取り、回復の魔術をストックしているのである。ちなみに、この手の回復はハルカには効果を示さない。ハルカはテック、異能どちらかの力が含まれた時点で効果を拒否してしまうのである。


 いろんな罠を掻い潜り、その後も弱いエネミーとの遭遇はあったが幸いなことにワンダリングモンスターは出てこなかった。

 その中で、ハルカはもう一つの才能?に気がついていた。


「あうあう、なんでこれが美味しく感じるのー?なんでこんなの食べれるのー?」


 ハルカの悲痛な叫びも最もである。目の前にあったのは、たった今破壊したドローンである。そして、それをハルカは美味しそうに感じ、食べているのである。

 この戦闘自体はあっさりと終わったのだが、遠距離を攻撃できるドローンのせいで、後衛のハルカにまでダメージが回ってしまった。(最も、ゾンビなので痛覚は殆どなく、流れるものもなかったので混乱はなかったが。)そして、倒し終わったときに不思議な空腹感があった。


「これ、もしかしたら食べれる?」


 アモットに一言、断りを入れて破片を食べてみたハルカには、「美味しい」と言う感覚が生まれた。ハルカには、おそらく食べれないものが無さそうである。

 本人にとって、いいのか悪いのか。ただ、損傷した体を直す手段が多いに越したことはない、とアモットのアドバイスのおかげで、少し前向きになったハルカであった。


挿絵(By みてみん)

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