第28話 ゾンビ・エスパー ハルカ
ちょっと短い、種族チームの結成とダンジョン攻略を書いてみようかと思います。
私、ハルカは正直、普通に生きていたかった。表層都市のCP配当がちょっと少なめでも良いから、しっかりとした企業傘下の仕事について安定したカネを稼いで、普通に優しい旦那さんを見つけて、子供を二人くらい産んで、おばあちゃんになる。
全然、贅沢なことは言ってないのに、なんでこうなったんだろう。
ハルカは高校生として、学校生活を送っていた。しかし、これといって特別に突出したものもなく、成績も下の上。つまり、底辺なのであった。
この高校は大企業の傘下にあり、将来の有望なビジネスマンを育成している。その中で、ハルカはあまり成績が良くなく、来年の2年生には上がれずに、放校かと周りのクラスメイトから思われていた。
「ハルカさん!あなた、またひどい物を作ったのですね。これは、人間が食べられるものじゃないのですよ。何故、塩と青酸カリを間違えてしまうの!?」
「ううっ、ワザとじゃないんです!手元にあったのを見ずに入れてしまったので…。」
「しかも、致死量以上!仮に塩と間違えていても分量がおかしいのですよ!幸い、発見が早くてウノ君は助かりましたが…。」
ハルカは、もうどうしようもないと思っていた。料理に失敗したばかりか、殺人未遂まで犯してしまった。
先生の制止を振り切って、気付けば教室を出て商店街のあるストリートを少し外れたところに来ていた。無我夢中で走り、いつの間にかこんなところまで来ていたようだ。ここは、生徒が立ち入るのを禁止されているところであり、ハルカはすぐに帰ろうと踵を返したところだった。
「おヤァ、お姉ちゃん。もしかしてお困りごとかなあ?ここに来る子って、大抵何かに困ってるんだよねぇ。僕に教えてご覧?」
そこにいたのは、薄汚れた灰色のジャケットを着た年齢不詳の優男だった。警戒心が一気に高まり、逃げ出そうとするーーーー
「これ、いらないかな?誰でもすごく美味い料理ができるスキルチップ。お題は5CPと言いたいところだけど、タダでいいよ。その代わり、ダンジョンに潜ってブラッドバッドの煮込みを作ってきて欲しいんだな。」
男はチップを渡してきた。スキルチップというのは、この世界の人類なら誰もが持つウェポンスロットと呼ばれる接続孔を通して、中のデータにアクセスすることで
その技術や知識を我が物とできる。
しかし、この場合中身が何なのかが分からないのが怖い。もしかしたら、殺しの技術かもしれないし、人格破壊のチップなのかもしれない。
だが、ハルカはもう投げやりになっていた。何者にもなれないなら、このチップを使って何者かになれる保証があるなら、それに賭けたい。
ハルカは男の手からチップを受け取り、左手のウェポンスロットに握り込んだ。頭の中にあらゆる料理の知識が流れ込んでくる。
そして
今すぐ料理がしたくなった。
男は持っていた包丁一本を投げ渡した。器用に片手で受け取り、男へとにじり寄る。
「君が料理するのは、ダンジョンの中だよ!ハルカちゃん、お一人様行ってらっしゃーい!!」
そういうと、男の周りの景色が歪み、ハルカはダンジョンの中に送り飛ばされて行った。
気がつくと、ハルカは刃物を握り締めて、ダンジョンらしきところに横たわっていた。ここは下水のような場所らしく、鼻につく嫌な匂いがどこからでもする。照明の類は最低限ついていて、見えないわけではないが、よく見えるとは言いづらい。
気がつくと、左手の中にあったチップは砕けていた。組成が変化し、一度きりしか使えないらしくパラパラと粉になって落ちていった。
とにかく、ここから脱出しないと!そう思い、包丁片手に歩き出した途端に下水の奥から、何かの駆動音が鳴り響き近づいてきた。
車輪が3つついており、円筒型のボディを持つエネミーだった。ハルカを見つけると、途端に内部にしまっていた伸縮アームを伸ばして襲いかかってきた。
とっさに包丁で防ごうとかざすが、そんな動きでは回避も防御もできず、ハルカは腹部と額を貫かれて即死してしまった。
「ウイーン、検体確保。今ヨリマンイーーたーへの改造を行う。」
そう言いつつ、ネクロマンサーはマンイーターを増やすための手術を行い始めた。
ある意味、幸運で。ある意味、不幸だったのはこの時がピークだったかもしれない。
片手に10の指を持ち、4つの腕を生やし、清潔な白衣を羽織っていて三つの首にそれぞれ仮面を被った人型の生物である彼がきたのである。
「蘇生手術を実行します。対象はハルカ・クリエ。あなたにはデッドギフトを選ぶ権利があります。」
「マンイーター化、現在64%実行中。」
「蘇生完了。さ、あデッドギフトを選んでkd生。」
「シークエンスにエラー発生。処置不可能と判断。蘇生者に優先権があるため、パトロールに戻る。」
「デッドギフト提供完了。ソロと判断。ダンジョン入り口へ移動します。」
ハルカは再び、ダンジョンで目を覚ました。今度は後ろを見ると、自動ドアがあり、ダンジョンから帰れそうだった。
だが、自動ドアの鏡面部に映る自分に違和感を感じる。そこにいたのは、青白い肌の自分だった。服はお腹のあたりで破れ、へそが見えている。しかも、お腹には大きな傷跡がついていた。額もよくみると、髪に隠れがちだが、傷があった。
そして、体温がないことにも気づく。体が冷え切っていた。しかし、寒いと感じることもない。立とうとして、さらに異常に気が付いてしまった。左手の甲から手のひらへと包丁が貫通していた。しかし、それすらも感知していない
ハルカは思った。これでは、まるでゾンビではないか、と。
とぼとぼと貧民街を歩く女の子がいる。ハルカは、今どうすればいいのか途方に暮れていた。ホラー作品だったら、自我を失ってダイバーに倒される役所だけれど、自我がある。とりあえず、学校には戻れない。経緯を説明した時点で放校決定だと思われた。
両親に連絡を取ろうとしたが、何て説明をすればいいのかが分からない。
何をすればいいのか、分からなくなり貧民街を彷徨いている。貧民街の人間も気付いていないわけではない。ただ、エネミーらしきものが彷徨っているのを見て、手を出しあぐねいている。
そんな状況で、ハルカは一つの看板を見た。
「どんな方でもオールオッケイ!表層都市のダイバーズオフィスへ!!」
今のハルカがすがれるものは、それに感じた。ダイバーになって、なんだかよくわかならない自分を治せる方法を探そう!
そうして、ハルカはダイバーズオフィスへと向かった。
ダイバーズオフィスは未曾有の混乱に巻き込まれていた。
ベテランもルーキーも遠巻きに見ているが、それは何かおかしなことをしでかしたら殺すという殺気のこもった目線である。
何故なら、先ほどオフィスの自動ドアを潜り抜けてやってきた子は、やけに色白で若い女の子だと粗野な連中がはやし立てる。
しかし、数瞬間するとおかしさに気づく。手のひらに包丁が突き刺さっているのだ。しかも、血は流れてない。
何名かがスキャンすると、鼓動音が聞こえない。
これは、エネミーじゃないか?
と、そこまで行ってハルカは受付に話しかけたのだった。
「すいません、ダイバーって女子高生でもすぐになれるものでしょうか?」
「えっと、ジョブはどうしましょうか?もう決まってます?」
ジョブ、なるほどそういうものもあるのか。何せハルカ自身、ダイバーの世界に興味なんてなかった。資源を回収してきてくれる人たち、くらいの認識だ。
「まだ決まってないんです。何も持ってなくても出来るものってありますか?」
「ああ、そういうことでしたらモンク、エスパー、バーサーカーあたりがありますね。」
「それじゃ、あまり戦わなさそうなので。エスパーとかどうですかね?」
「エスパーは異能ウェポンを使って、相手に阻害などを与えるデバッファーですね。」
ならば、エスパーというものを選ぶしかない。こちとら、花も恥じらう一般女子高生。戦いなんてもの、遠ければ遠いほど良い。
しかし、戦うのがダイバーだと諭され、お金を借りて基礎的な装備を見繕ってもらう羽目になった。
この頃になると、他ダイバー達は経過観察に状況をシフトさせていった。とりあえず、話が通じて、ダイバーになろうとしているルーキー。
ルーキーなら、そこまで怖くないという図式が出来上がり、警戒心が下がって行ったのだった。
ハルカはその後、簡単な説明を受けて端末を受け取った。いざとなれば、これはドッグタグがわりにもなるらしいが、ドッグタグってなんだろう?
ちなみに、受付の人にゾンビから戻る方法は知らないかと聞いたが、知らないけれども集積図書庁なら、そういう呪いとかを解除する方法を知っているかもしれないと、教えてもらった。
しかし、教えてもらったはいいが気付くと自分の周りは人が多く囲んでいた。
「あの、すいません!ちょっと通してください!!」
周りの人垣は多少の大声では崩れない。周囲にいるのは、ほとんどがルーキーと思えた。歳が自分に近い人ばかりだったからだ。
しかし困った。動くに動けない。
そうしていると、まるで大海が分かれて道ができるように人垣が崩れていった。奥から、何かが来た。




