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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
セイジンと仲間達
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第27話 失くしたもの、生まれたもの

 セイジンは窓からさす朝の光で起きた。表層都市には光が差さない安宿も多いが、自分で探したこの部屋は光が差し込むので好きだった。

 しかし、光が差す方向が違う気がする。自分の部屋では。顔に対して右側から差し込んできたはずだが、今は真上から差し込んできている。

 何故だろうと思い、横を見ると隣に無防備に寝ているニコがいた。しかも、下着姿でだ。


 よくよく見ると、この部屋はニコの部屋だと推測した。不味い。何かが不味いと警鐘を鳴らしている!

 現状を急速に理解していく。酒を飲んで、自分の過去が無いことに気づいて混乱したことまでは覚えている。

 その後の流れが思い出せないが、おそらくニコがセイジンの部屋まで連れて帰ってきてくれたのだろうが、セイジンの部屋に入れなかったんだろう。

 それで、ニコの部屋に一緒に帰ってきたと言ったところだろうか?


 かなりの無用心さにセイジンは呆れてしまう。落ち着いて内装を見れば、確かに別人の部屋だと言うことを確信した。自分なら可愛いぬいぐるみや、アクセサリーの置かれたデジタル鏡台などは置いていない。

 そんなことを考えていると、ニコが起き出す。

 セイジンはどっと汗が噴き出る感覚を初めて知ったかもしれない。

 ニコはふあーぁ、とあくびをしながらひとしきり体を伸ばした。目が合うとニコはセイジンに朝ご飯は食べられるか聞いてくる。


 セイジン自身は昨晩は強い酒を飲んだわけでもなかったので、胃は空きっ腹を伝えたいのか「ぐう」と大きめの音を出して主張した。情けなく感じる。

 

 「体は正直ッスね。今、何か適当なものを作るので待っててくださいッス」


 ニコは笑いながら、テーブルについて待っててと伝える。それを聞いて、ベッドから起き上がりテーブルへと移動する。自分の服装は昨日着ていたもののままだったことに少し安堵する。

 手際良くニコがキッチンから戻ってくる。まさか、栄養カプセルを大量に持ってくるのかと思えば、それは意外にもしっかりと料理だった。

 保存の効くブラッドバッドの塩漬けを少し塩抜きして、ソテーしたものとスライムゼリー、水と言ったラインナップ。

 ダイバーになって、だいぶ慣れた献立に少しだけ笑みを浮かべる。企業にいた頃は、朝食といえばミニコカトリスの卵のスクランブルエッグや、新鮮なホット!ドッグだったことを思い出す。もしくは、食糧生成プラントからランダムに形成される食事を表層都市まで回収したものなどだ。

 ダイバーに慣れるまでは、いろんなことが挑戦だった気がする。


 そんなことをニコに話しながら、様子を伺う。


「へー、やっぱり企業にいた人間って、食べるものから違うんッスね。」

「まぁな。今でも、たまにスクランブルエッグくらいは食べたいと思うよ。」

「なら、今度にでも探しに行くッスよ。」


 ニコは微笑みながら返事を返してくれる。よし。

 たわいない会話は問題なし。険悪な表情もしていない。と、地雷を踏み抜かないように慎重に言葉を選ぶセイジン。恐る恐る聞いてみる。


「あのさ、オレは何もしてないと思うんだけど。実際、何もなかったよな?」

「やっぱり忘れられてるッスか」


 と、ちょっと気落ちした様子を見せるニコ、盛大に慌てるふためくセイジン。

 その慌てぶりがツボに入ったのか、ケラケラと大笑いしたニコ。


「大丈夫、キスだけッスよ」

 

 いや、何が大丈夫なのかがわからないが、大きく一線を飛び越えたわけではなかったのでひとまず安心するセイジン。正直、混乱につぐ混乱で何に一安心したのかもわからないセイジンであった。



 昨晩、ニコはアランが遠回しに俺が預かろう、と言ってたのを突っぱねて自分の部屋へと連れ込んでいた。

 セイジンが見たら「意外に女の子なんだな」なんて言うかもしれない内装の部屋に帰ってきた。

 まずは、すぐにベッドへセイジンを寝かせる。寝かせる間際にも何かうなされている様子で痛々しい。

 優しくセイジンの頬を撫でて、その後に記憶を失ったであろうセイジンに変わってないよ、と声をかけた。

 表層都市は気候が一定で、少し暑いくらいの夜と少し肌寒いくらいの昼がある。今の時間帯は暑く、空調をかけることでちょうど良い室温になる。

 少し落ち着いたセイジンを見つめながら、自分も今日は寝ようかと思う。


「ワラヒはここまで取り乱さなかったッスけど、親よりも大事なものを失ったってことッスかね?」


 独言を言って、寝るために装備を外し、服も脱いでいく。脱いだ服は清浄機に突っ込んでいく。古い型なので、轟音と言ってもいい音がするので動かすのは日が明けてからの時間で予約しておく。

 

「お兄さん、一番大切なものは今は何?」


 そう言って、うなされるセイジンの口にキスをして、シャワー代わりに清浄機能付きのタオルで体を拭いていく。

 替えの下着を着けて、自分も眠気が襲ってきたのでセイジンの隣に潜り込んでいく。室温を下げたので、人肌の温もりが心地いい。

 ニコはセイジンを抱きしめて、


「約束したよね、5層までいくって。一緒に行くんだからね。」


 と小さくセイジンに呟き、眠りについた。



 

 ここ、表層都市で受けられるオーダーは大体がルーキー向けだが、企業から出されるオーダーは比較的難易度が高いものもあり、報酬も良かった。

 特に6大企業のものは競争率が高く、一般にはあまり出されないオーダーが多い。

 今、セイジン達は企業が連ねるビル群の一つ、集積図書庁の本庁を歩いていた。セイジンにとっては元の古巣でもあり、目的地まで真っ直ぐに進んでいた。


「何ッスかね、今回のオーダーって?お兄さんを名指しで来たんスよねー?」


 今回は何故か集積図書庁のツブタカと言う人間から、セイジンを名指しでオーダーが入った。

 セイジンのみと指定もなかったので、ニコとアランがついてきている。スカイとバレリアは戦車の中で待機している。

 酒場での混乱から5日経ち、セイジンは表面上は元通りに動けるようにはなってきた。

 実はあの晩、抱きしめられたときに起きていたセイジンはニコの言葉でダイバーとしてのモチベーションをある程度持ち直した。

 「ニコと5層へ」、それが新しくセイジンの中で生まれたモチベーションだった。


 長い廊下を移動レーンを使って移動し、重厚そうな扉がセイジンの顔をスキャンして自動で開く。中には高級なインテリアで固められた一室にツブカタは待っていた。


「ふむ、約束の時間までに来る程度にはまともだな。ダイバーになってもそこらへんは変わっていないようで安心したよ。」


 ツブカタと言う名前にセイジンは聞き覚えがあった。自分の所属する派閥とは別の派閥にいた人間のはずだった。

 記憶と役職が違う気がするが、今のセイジンは自分の過去に対してあまり自信が持てない。

 目の前のツブカタはオールバックの金髪で、ダークグレーのスーツを着こなし、ミラーシェードを着用し目元を悟らせない。いかにも企業人らしい。そして堅物と言うイメージ通りの喋り方をした。

 セイジンはツブカタが元同僚で、自分のライバルだったことは思い出せた。過去には権力争い、果ては派閥争いにも相手は自分の敵として存在していた。

 しかし、向こうはクライアント、今の自分はダイバーと言うことで過去に触れるような会話はしないつもりだった。


「ええ、信用が第一のダイバー稼業ですから。それで、今回の依頼の詳細はどのような?」

「ふん、つまらない男になったなセイジン。今から端末へデータを送る。念のため、コピーは不可、2分で消滅するからしっかりと目を通してくれ。」


 ツブカタから仕事内容の詳細データが送られてくる。簡単に言えば、荷物運搬であった。

 荷物の内容はクローズ。精密機器として扱い、3層の下部組織に渡せば終了

 

「このオーダーは昔の縁ではなく、新進気鋭のダイバーとして名前があったから依頼した。そこは勘違いするなよ?」


 ツブカタが念を押してくる。セイジンは「了解しました」と軽く答える。


 ツブカタと報酬の詳細を詰めていると、別室から女性が入ってくる。

 

「エーミー様、どうかされましたか?」


 ツブカタがエーミー様と呼んだ女性は20歳前半、青いスーツに身を包んで、颯爽と歩いてきてツブカタの個人デスクに腰掛けた。

 セイジンは敵意のこもった目線を受けていることに気が付いたが、全く知らない相手なのでスルーすることにした。隣にニコが座っていたのを見て敵意が憎悪になった気がする。

 セイジンは端末を操作し、エーミーと言う名前を調べた。エーミー・サクラヅカ。まさか、端末の中に何故か名刺データが入っていた。


「(過去に繋がりがあったんだろうな、しかもあまりよくない仲だ)」

「あなた、私に何か言いたいことがあるんじゃなくって?」

「申し訳ありませんが、私からは特にありません。Mr.ツブカタと依頼の詳細を詰めているところでして。」

「私はツブカタの上司よ。ここにいて仕事内容を確認する権利があるわ。」

「よろしいですか、Mr.ツブカタ?」


 明らかにセイジンに対して攻撃的な会話をするエーミー

 意に返さないセイジン。若干、苦しげと言うか胃が痛そうな顔をしているツブカタ。


「私は構わない。エーミー様、どうぞご自由に。」

「そう、ありがとう。それで、私の事を覚えていないとでも言うの?」

「非常に言いにくいのですが、ありません。」

「はっ!?この私のことを知らないとでも?」

「不勉強で申し訳ありません。次回までにはご経歴等々調べさせていただきます。」


 しかし、セイジンがさっぱり気にしないと言うか、言われても平然としている。それに対し顔を真っ赤にするエーミー。


「そこまでにしてくれ。ダイバーが過去を無くしたんだ。察してくれないか、Ms.エーミー?」

「まさか、そんな!?」

 

 アランからのフォローに、エーミーは今度は顔を蒼白させる。


「そう、それなら問答は無用ね。はい!これが前払いの報酬よ!!さっさと行きなさいッ!!」


 エーミーは机にあった前払いの報酬をセイジンに押しつけ、怒り散らす。その後は、目線すら合わせずに元の別室へと戻っていった。

 訳がわからないが、前払いの報酬を手に、そそくさと退場するセイジン達。

 最も訳がわからないまま、取り残されたツブカタは一人、冷めたコーヒーを飲みながら窓の外を眺めていた。



 エーミーは別室に戻り、一人憤っていた。

 嘘でしょ、なんで記憶を失ってるのよ。

 私が派閥戦で落としてから、こっちに拾ってあげようと思ってたのに勝手にダイバーなんかになっちゃって!

 そのあとも追跡してたら、いつの間にか女を入れたダイバーチームなんか作ってて、3層到達者にもなっちゃって!!

 挙句、死んで私を記憶から消去したっての!? 

 そう独言を述べてから、異能ウェポンを起動し、目の前にあるレトロな鏡を粉々に粉砕する。


 いいわ、私のことを再び記憶に刻ませてあげるわ。

 手始めに、あの小娘をチームから排除してあげる。


 クックックッと、どこか壊れたような笑い声を上げていた。



 ビルから追い出されるような勢いで外に出たセイジン達。とりあえず、スカイとバレリアに詳細を省いて、依頼だけは受けたことを知らせる。

 その後、アランとニコに謝る。

「済まないな、多分オレが忘れたってのはあの女なんだろうな。実は、名刺データが端末に入ってたんだ。元企業の、元派閥争いの相手ってところか。それがなんで俺を指名依頼してきたのかまでは分からんが。」


 急に謝られて、気を使わせたことにアランとニコは返答した。


「そんなところだろうと思ったよ。大丈夫だ、俺らは気にしていない」

「いーや、そんなことないッス!こっちもキレていいレベルッスよ!?」


 ニコはしっかりと怒っていたが、急にトーンダウンしてセイジンに問いかける。


「こんなこと聞くのも何かなぁって思うッスけど、何か思い出せたッスか?」

「いや、何も。酒場ではあれだけ混乱するほど気にしてたけど、今はサッパリしてる。なんでだろうな。」


 セイジンの答えにニマっとした表情を浮かべるニコ。アランは「まぁ、良いか」と独り言を言って、先に歩いていく。

 セイジンはニコにさらに語りかける。


「まぁ、今のモチベーションはニコや皆と一緒に5層へたどり着ける実力者になるってことだ。あんな女に構ってる暇はないよ。」

 

 ニコは大いにはしゃいで、激しいスキンシップをセイジンに浴びせた。

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