第21話 キャノンtーREX
数日後、セイジン達はダンジョンに来ていた。買い替えたウェポンやチームワークの確認を兼ねて、簡単な資源回収のオーダーを受けてきていた。
今、目の前にはンルバ、暴走芝刈り機、NETスパイダーがいてニコが相手をしている。セイジンはニコの近くに、アランは後陣に陣取っている。
エネミーの前者二つは旧時代の掃除用具が暴走したモノらしい。暴走しただけで戦闘力があるエネミーになるとは、旧時代の掃除というのはどういうものだったのか想像がつかない。後者の蜘蛛型エネミーは旧時代の通信装置の整備用機械とのことだったが、それに戦闘力があるのも謎と感じるセイジンだった。
ニコはそれまで使っていたのと少し外観が異なるハンマーを振りかぶると、手元の操作スイッチを押した。すると、ハンマーのヘッド部分が変形し、ブースターが現れて猛烈な勢いでハンマーが振り回される。その勢いで周囲の3体のエネミーを巻き込んで攻撃していく。
セイジンのウェポン改造が終わるまでの間に、ニコはラウルが用意したタイタンハンマーを更に改造してもらうようにロルにオーダーしていた。
新調したタイタンハンマーは強力な武器ではあったが、それは対個体を相手にした場合でありギガントハンマーからあった問題点だった。ニコからロルへと相談したのは「複数の相手をするのに何かないか」という話だった。
セイジンの魔導書が引き渡された後にニコに渡された時、ハンマーを見るロルの顔が笑いを堪えながらのように見えたのはコレのせいだったのかとセイジンは納得した。
セイジンはニコに支援魔術をかけ、念の為にフォースシールドを浮かべているが、出番がなさそうだと苦笑する。
アランは回復役としてとして構えているが、あちこちに吹っ飛んでいくニコに四苦八苦しているようだった。
ニコは暴れまわり、いくつかのダメージを受けつつも、敵を吹き飛ばしていく。セイジンもサテライトウェポンを使い、シールドバッシュによる攻撃を行い、ダメージを与えていく。
しばらくして、ようやく全ての敵を片付けた。アランがニコにエイドキットを打ち込んで暴走を止める。
各自で解体を終えて、資源を回収した後にニコはセイジンに駆け寄ってきた。
「どうッスか?ワラヒもパワーアップできたッスよ!」
「あぁ、想像以上だ。複数相手には頼もしい限りだな。」
セイジンはニコへ親指を立てて応じた。内心、バーサーカーの戦いぶりそのものだったと感想を抱いていたが、言わぬが花と胸にしまう。
アランもやってきたが、その表情は怒っている。
「なんだ、あの戦い方は。やっぱりバーサーカーの戦い方は見てられん。あんな戦い方じゃいつか死ぬぞ!……まぁ、俺がいるからには死なせないがな。」
「あはっ!ありがとッス!」
アランの言葉を聞いて、嬉しそうに笑うニコであった。
セイジンは2層での戦闘が問題なく行えたこと、チームとして機能していることを確認でき満足げにうなづいた。
それからしばらくして、今日のセイジン達は2層のフロアボスを探していた。2層で停滞するよりも、ジョブチェンジが可能な3層で試行錯誤したいというセイジンの意見に2人も賛同してくれたからだった。
「さぁ、探索を続けるぞ。」
セイジン達は別のエリアへと足を進めた。2層のダンジョンはどこのエリアも無機質な金属質の壁で囲まれているのだが、この辺りは壁の色がくすんでいるように感じられ、長い年月を経た場所なのだと推測した。
2層に入ってから30分程歩いたところで、セイジン達の前に3つの分かれ道が現れた。それぞれ右・左・正面の道となっていて、正面の道を進むことにした。
しばらく歩くと、前方に大きな扉があった。自動で開閉するタイプのようだった。セイジンが端末でアクセスして罠の有無や隠し扉などを調べていると、端末から緊急アラートが発せられた。それは後方からのエネミーの接近を知らせていた。
セイジン達が振り返ると、そこには1体のエネミーがいた。
「キャノンtーREXだ!油断するなよ!!これがやれるなら、ギガントタンクも行けるはずだ!!」
そのエネミーは2層のワンダリングエネミーの1体であり、フロアボスのギガントタンクに対し、中ボスとあだ名されてるエネミーである。
外観はその名の通り、巨大な2対の大砲を携えたティラノサウルスである。その火力は尋常にあらず、フロアボスと比較しても引けを取らない相手という噂もある。
キャノンt-REXはその巨体からは考えられない速度で突進してきた。その勢いに遅れての反応となったため、セイジン達は先手を許してしまった。
セイジンは咄嵯にフォースシールドを展開し、サイシールドを張り巡らせた。なんとかキャノンt -REXの突撃を防いだ。
しかし、すぐに限界を迎えたフォースシールドは砕け散った。サイシールドはまだ少し耐えることができる。
「まさかっ!こんなに容易くフォースシールドが砕けるなんて!?」
セイジンが驚愕する。即座にニコがキャノンt-REXに向かう。
「お兄さん!危ないッス!」
ニコは叫ぶとバーサークし、同時にハンマーを振るう。
ハンマーは見事に直撃したが、相手の巨大さ故に足元しか攻撃できず致命打にならなかった。
キャノンt-REXはセイジンに狙いを定めると再び突撃を開始した。
「クソッ!なんて硬さだ!!」
セイジンはシールドエネルギーの再充填メモリを見ながら、ニコにサイシールドを張る。
ニコはキャノンt-REXに向けて走る。
気合いの叫びと共にハンマーを全力で叩きつける。
すると、立て続けに振り下ろされたハンマーはキャノンt-REXの足を凹ませるほどに衝撃を与えた。
ニコはそのままハンマーを叩きつけ続けた。
「オイ!!あまり調子に乗るなよ!そいつの本領は砲撃だぞ!」
アランの叫び声が聞こえた時には、既に遅かった。咆哮を上げたキャノンt-REXは2門の大砲をニコ向けてぶっ放した。
ニコは突然の攻撃に避けることもできず、サイシールドを砕け散らせながらそのまま吹き飛ばされる。砕けた破片はキャノンt-REXを襲い、幾ばくかの自由を奪っていく。
サイシールドの破片で動きが鈍ったキャノンt-REXだが、ニコへと追撃を加えるために再び走り出す。
「させるかっ!!」
セイジンは走り込んでキャノンt-REXの前に陣取る。フォースシールドを再稼働させて、守りの体勢をとる。
キャノンt-REXは再び大砲を構えて撃ち放つ。
フォースシールドは衝撃を吸収しきれずに割れてしまったが、砲撃の軌道を逸らすことには成功した。まだサイシールドもあり、背後のニコを見やる。
「大丈夫か?」
「大丈夫だ、しっかり前向いとけセイジン!」
アランからの声を聞き、セイジンは安心して前を向く。
「任せた!ニコを早く復帰させてくれよ!流石に抑えるだけで手一杯になりそうだ。」
「了解だ。」
アランが答えながら、エイドキットをニコに重ねて打ち込んでいく。ニコは傷が治り次第、獣のように立ち上がっては握りしめたままのハンマーを豪快に一閃させて暴君の王へ向かって走り出した。
キャノンtーREXも姿勢を整えて迎撃の態勢をとった。
ハンマーとキャノン砲が激しくぶつかり合う。まるで鍔迫り合いのように武器と武器をぶつけ合う激しい攻防を繰り広げていた。どちらかがそらせなかった時に攻撃が当たる。
そらし切れずにニコが何発か被弾する。その度にニコの体が大きくひしゃげるが、アランのヒールロッドから癒しの光が放たれ、逆再生するかのようにニコの負傷は回復する。そのうち、シールドの重点が終わったセイジンが加わり、防御を担う。
攻撃を受けた狂戦士は強烈な力を持って、さらにハンマーを振り回して攻撃を押し込んでいく。バーサーカーのジョブは負傷を受けるたびに攻撃力が上がり、負傷の衝撃を無視する。
バーサーカーが血を流すたびに強くなると言われている所以である。ニコはまさしく恐れを知らない狂戦士として戦っていた。
ニコはぼやけた視界の中で、今までにない安心感を持って戦っていた。2層を1人で戦っていた時、バーサーカーになってからも自分一人で戦っていた。やはり、「襲いかかるかもしれない」という相手を受け入れるほど懐は広くない。
ニコは憧れたダイバーになったが、チームを組めない自分はこのままなのかと思っていた。
今も覚えている。初めてチームを組んだ時、戦闘後に意識が戻った時の怪物を見るような目を。ハンマーで仲間を叩き殺そうとしてる自分を止められない自分を。
だが、今は守ってくれるセイジンと癒してくれるアランがいる。ニコは安心して、死を恐れぬバーサーカーとなれる。痛みも恐怖もなく、全身全霊で目の前のバケモノにハンマーをふるい続けた。
ニコが攻撃した数はもはや分からないほどに打ち合っていた。対するキャノンt-REXは残弾が尽きたのか、間隔を置いて砲弾の生成を待って攻撃をするようになってきた。戦況はニコの方へと傾いていた。
ニコが幾度となく振り下ろしてきたハンマーが遂に機械の恐竜の足を打ち砕いた。その勢いでニコは大きく振り抜き、もう一方の足に衝撃を与えてキャノンt-REXの姿勢を崩した。狂戦士は暴君を地に這いつくばらせた。
「いけぇー!ニコォッ!!!」
セイジンは思わず叫んだ。
ニコは雄叫びを上げながら渾身の一撃を振り下ろす。
キャノンt-REXは頭に渾身の一撃を受け、押し潰されるかのように床に叩きつけられる。
ニコはキャノンt-REXの背中に飛び乗り、マウントポジションを取るとその大きな頭めがけて何度もハンマーを振り下ろした。一打ごとに暴君の顔にヒビが入り、亀裂は大きくなって遂には破損部分からスパークが走った。
キャノンt-REXはまるで生物のように痙攣するように動き、やがて動かなくなった。
その光景を見たアランとセイジンは、お互いの顔を見て気を緩めて笑い合った。もっとも、その直後に次の獲物を探す狂戦士が襲いかかってきたのだが。
討伐後、3人が横に寝転んでもなお余る長さの暴君の残骸を3人が協力して解体を行っていた。しかし、見た目通りに得られたものは大砲だった。ニコがメッタ打ちにしたからか、まともに回収できる資源が限られていた。
「また、コレかい。」
アランはガッカリしながら、解体された大砲を浮荷台へ積み込んだ。ニコが苦笑いをしつつ、アランの肩を揉んでいた。
その後も続けていると、解体したガラクタの中から小さな箱のようなものが出てきた。
アランはそれを拾い上げてセイジンへ見せた。
それは、掌サイズの黒い立方体だった。
セイジンは首を傾げながらも受け取り眺めていると、アランが説明を始めた。
「こいつはな、ブラックボックスっていうんだ。運がいいと、エネミーの中から1つ見つかることがある。こいつは、研究者連中がよく欲しがるから持って帰ればいいカセギになる。」
アランが言うには、これは古代の遺物らしい。
旧時代のブラックボックスとして、何か秘められてる可能性があるということで、古代技術庁へ渡せば幾らかのCPに交換してもらえるという事だった。セイジン達はとりあえず持っておくことにした。
そして、一行は更に先へ進むのであった。




