第20話 ロル&ラウル
誤字、脱字の修正を行いました。
追加点:店内の風景を追加、店内の店員と事務員がごっちゃになっていたので、店員に統一。
ロル&ラウルのイメージ画像を追加しました
セイジン達はニコの案内でビーム商会へ足を運んでいた。様々な店が並んでいるが、それら全てがビーム商会の傘下だという。
セイジンは魔術ウェポンのランクを上げるのと、改造を試みにきた。
アランは3層ウェポンを持っているので何もしない。
ニコは3つ目のウェポンスロットの解放とウェポンの範囲攻撃ができるようにするつもりだが、それ以上に兄達に会う方を楽しみにしていた。
頑丈そうな防犯の行き届いたドアを開けると、古風なドアベルがチリンチリンと鳴った。カウンターに行儀良く座っていた店員の娘が笑顔でセイジンたちへ顔を向けた。
「いらっしゃいま……せ」
店員の少女はニコを見て言葉を失った。
「あのぉ……何かあったッスか?」
ニコは不思議そうに声をかけた。その声にハッと我に帰ったようで、店員の娘が慌ただしくカウンターの下からマイクらしきものを取った。
「えっ!?あっ!すいません!!皆さーん!ニコさんが帰って参りましたよーッ!!」
店員の少女は慌てて、館内放送を行った。店内にはたくさんの客がいたのだが、皆一斉に店の外へ出ていった。
「なぁ、これって……」
セイジンは不安げにアランの方を見た。
「あぁ、何事か起こるんだろうな。何せ、ニコの実家なわけだからな。」
「だよな。オレもそう思う。」
2人は店の入り口で佇んでいた。しかし、状況が進んでいくのに身を任せて先へと進んでいった。
セイジン達は店の奥の部屋に通された。内装はかなりキレイにあつらえてある。特に2層では機械系以外の資源は取りにくいということで、ここまで見てきた中では珍しく、観葉植物のインテリア、木製の机や皮張りの椅子があった。
その部屋で二人の男が待っていた。
「ハハハッ!こんにちわ、お客さん。僕はロルで、隣のがラウル。ニコの双子の兄なんだ。」
ロルはニコニコしながら出迎えてくれたが、ラウルの方はニヤニヤと笑いながら話しかけた。
「おいロル!ニコが男を連れて帰ってきた!しかも若いのと、ダンディなのだ!!」
ラウルは爆笑しながら喜んで見せた。
「いや、違うッスよ、ニイちゃん達。ただいまッス!」
ニコは照れ臭そうに挨拶をした。こっそり、ラウルを小突いていたが。地味に痛かったらしく、ラウルは悶絶している。
「お帰り、ニコ!。こっちはお客様か?ようこそビーム商会のロル&ラウルへ!僕は当店の店主のロルと申します。以後よろしくお願いします。」
ロルは深々と頭を下げて丁寧に自己紹介をしてみせた。
「オレはセイジンだ。ニコを含んだダイバーのチームで、ここのリーダーを務めている。こちらこそ宜しく。」
セイジンも自己紹介をする。企業流のやり方よりも、こっちの方がダイバーっぽいと思い、多少、ざっくばらんにした。
アランも軽く会釈をしながら挨拶する。
「俺はアラン。今はテックドクターをしている。」
「ああ、元クルセイダーの!話は伺ってるよ、色々と、ね。大丈夫、お客さんに嫌な思いをさせるほど野暮じゃないつもりだよ。」
意味ありげに、ニコの兄達はアランへ目配せをした。なるほど、ある程度の実力者なら情報も筒抜けになっているみたいだ。
まあ、元チームメイトあたりを当たればすぐにわかる情報だとは思うが、アランも「人気者になったもんだ」、なんて余裕を見せている。その表情を見て安心してセイジンは切り出した。
「さて、早速だが本題に入らせて貰おう。ここに来る前に、表層都市で買ったウェポンなんだが」
セイジンは早速、魔術ウェポンの魔術書を取り出して見せた。
「これは…、なるほど。この階層だと力不足でしょう。こちらでは新規購入をご検討で?。」
ロルはセイジンの顔を見て、納得した様子だった。しかし、魔導書のスロットの多さは手数になる。新規購入は見送り、気になるところを改造してもらうことにする。
「あぁ、いや。改造で済ませたい。魔術ウェポンのスロット数は優秀だからな。こっちで改造はできるか?」
「ふむ、なるほど。もちろん可能ですよ。改造ですと少しお時間いただきますが、よろしいですか?」
「ああ、それくらいなら問題ないさ。使用回数を増やす改造を頼みたいんだが、いくらくらいになる?」
セイジンは率直に聞いた。
「そうですね。20CPといったところでしょうか。本日から改造用の素材なんかを用意をしまして、完成は大体ですが明後日くらいかと。」
ロルは即答した。セイジンも支払額には納得し、大きくうなづいた。
「わかった、それで頼む。あと、防御用のウェポンも見せて欲しい。盾みたいなのが欲しいんだ。」
「かしこまりました。そちらは改造の完成後に引き渡しの時に同時にお見せできるように準備いたしましょう。」
こうして、魔術ウェポンの改造を依頼し、防御用のウェポンを見繕ってもらう約束を取り付けた。ふぅ、と一息ついてセイジンはニコに尋ねた。
「ところでニコ、そろそろ教えてくれないか?一体どういう経緯があって実家に戻って来たのかを。」
「いや、ウチの実家はここらじゃ有名な商店っすからね。ここで手に入らないものはないってところを見せようかと。」
ニコは照れくさそうに答えた。深い意味がないのがニコらしい。
「そうか。お前らしい理由だな。」
セイジンは微笑んで返した。
その後、最初に大声で報告していた店員の娘がやってきて各人にお茶を淹れていった。淹れたての香りをかいで、もしやと思いながらも一口飲んでみる。
貴重な茶葉を使用したちゃんとしたお茶だ。これにはさすがのセイジンもビックリした。ここは2層目でただでさえ、食糧なんかの資源が不足していると聞いた場所だったから、尚更この商会の規模が伝わってくる。
味わって飲んでいるセイジンの隣で、グイッと一息に飲み干すアランとニコ。お茶受けとして用意された菓子だってバリバリと食べている始末だ。
ニコは自分の家で飲み慣れているのもあるんだろうが、アランは3層到達者だから故なのか、余裕を持っている。ただ単純に味が分からない可能性もあるが。
ロルから、せっかくなのでゆっくりしていって欲しいと言われ、ニコの強い押しもあって厚意に甘えることにする。
お茶を楽しんでいると、ニコと双子の片割れラウルが話をしている。どうやら、連れてきたチームメイトが気になるらしく、質問攻めにあっているようだ。
「なぁ、ニコ!あっちすごいイケメンじゃね?もしかして彼氏か?スミにおけねーな、お袋が泣いて喜んで、親父が泣き叫ぶぜ?」
ラウルはニヤニヤしながら喋り始めた。ロルと違って結構軽い性格をしているように見える。
ニコは必死になって否定するが、ラウルはそうですかと終わらせない。
「いや、違うッスよ。お兄さんは、えっと……そう、仲間なんだよ?」
「へぇ、そうなのか?それにしちゃ随分仲が良さそうじゃないか。」
ラウルはニコに詰め寄った。しかし、追い詰められたニコは物理制裁をする方向で舵を切った。
「…ラウル兄ちゃん。いい加減にしないと。」
ニコはギガントハンマーを振りかぶる。即座にラウルはニコを制止する。
「悪かったよ、冗談だって!そんな物騒なもん降ろせよ!!」
応接室は一気に静寂に包まれた。両手をあげたラウルが硬直している。それに対し、ニコが苦い顔をしてラウルへ向けて振りかぶったハンマーを床に下ろす。ミシィと静かな空間に響き渡った。
「はぁ、全くもう。ラウルニイの悪いクセ。調子に乗ると、いつもこれッスよ。」
「ごめんな、ニコ!お詫びに、お前向けのウェポン用意しとくわ!」
ラウルは謝りながら瞬く間に部屋を出ていった。
それを見届けて、アランが呆れたようにニコへ呟いた。
「ニコ…、お前、武器振り回す癖あるな。冗談でもやめとけよ?」
ニコは笑いながら答える。
「まぁ、昔から割とそうッスけどねー。バーサーカーになってからはしないようにしてたンスよ?」
ふと気になったセイジンが尋ねる。
「ニコのお兄さん達はここではどういう立場なんだ?店主と言ってたが…?」
「あぁ、ウチの兄貴達は2人でこの店ロル&ラウルを仕切ってるんスよ。ロル兄ちゃんはテックウェポンの改造と店の経営全般で、ラウル兄ちゃんは異能ウェポンの改造と商品管理ッス。それで、ワラヒがいた時はダンジョン潜ったり、お使いしたりとかしてたッス。」
ニコはさらりと答える。セイジンがなるほど、とうなづいた。
「そうなると、ここはロルさんが直接管理している感じか?」
「その通りですよ、セイジンさん。僕が基本的に店を回してますね。」
「ラウル兄は経営のほとんどをロル兄に任せっきりッス。ちなみに商会全体の経営はお父さんとお母さんがまだやってるっすよ。この店で感覚を掴んだら、そっちにも回るんじゃないッスかね。」
「そうだ、大切な妹が世話になっているようですし、忙しくないなら今日は挨拶も兼ねて、今夜にでも食事をご一緒にしませんか。」
「そうですね、宜しければご一緒しましょう。」
セイジンが食事に行くことに同意すると、ニコとアランも了承の意を返事した。
「あっ!それいいッスね!」
「そうだな。オレもここらへんの美味いところは知らない。よろしく頼む。」
ロルの提案で、ロルとラウル、ニコ、アラン、セイジンの5人は今夜の食事を共にすることになった。
夜になり、本日の宿を決めた後にロルのオススメの店を訪れた。この店もなかなか良い雰囲気で、調度品からしっかりした店だと感じられる。
先に通されていたロルとラウルは快く迎えてくれた。すでにオーダーは済まされてると聞いてアランの事が脳裏によぎったセイジンだったが、どこから聞いていたのかロルが気を利かせて、他の料理を出してくれるので問題はなかった。特にロルとラウルがお勧めしていたグリーンハートドラゴンのタンステーキの味は非常に上品な味で、セイジンは企業人時代を思い出すような料理の数々を楽しんだ。
食事が落ち着き、飲み物を飲んだセイジンがラウルに話しかけた。
「気を悪くしないで欲しいんだが、昔からニコはああなのか?バーサーカーになるまえはどんな戦い方だったんだ?今はバーサーカーだが、いつもあんな調子なのか?」
「ハハハッ、ニコは昔から『あぁ』だよ!いや。最近は見てないから分からんけどな、以前は本当に酷くてな。ハハハッ!ウチで扱ってるメチャクチャに高いエイドキットを持たせて、ようやく生きてたって感じだったぜ!本当に、死ななかったのが不思議なくらいだ!」
ラウルは爆笑しながら答えた。
「でもな?ニコはバーサーカーになると性格が変わるんだ。凶暴になると言うよりは、普段以上に冷静になるんだよ。知ってたか?」
セイジンは意外なことを聞いて、耳を疑った。
「マジか?!あのニコがか!?」
「あぁ、あれで叩く相手とか選んでるんだぜ。バーサーカーになる前はパニックを起こして手近なやつしか攻撃できなかったくらいだったのにな。最も、複数対象が出てこなきゃ叩くだけしかできないニコにとってはおんなじだろうけどな!」
「へぇ、なるほど。意外だ。」
「お兄さん、ワラヒだって何も考えずにやってるわけじゃないッスよ!」
ニコが真っ赤になって反論してきた。ロルとラウルはその後もチームの方針や結成からのニコのダイバーとしての活躍を聞いて上機嫌になっていた。
その日は5人で楽しく話しながら、心ゆくまで語り合ったのだった。
あれから2日後に改造完了の報告を受け、セイジン達は再びビーム商会の「ロル&ラウル」に来ていた。
店に入り、ロルの姿を見つけえるとセイジンは笑顔で話し掛けた。
「やぁ、ロル。改造完了って話だったな。」
「注文通りになってるはずさ。おーい、ラウルー!頼まれてた魔導書を持ってきてくれ!!」
ロルは奥にいるラウルに声をかけた。
「ああ、わかった!今行くよ!!」
奥の部屋からラウルの声が聞こえてきた。しばらくするとラウルが魔導書と大きな盾を抱えてやってきた。
「はいっ、お待ちっ!!こちらがお求めの品だっ!!」
ラウルが持ってきた魔導書は、以前は白だったカバーが真っ黒に染まっており、禍々しいオーラを放っている。
セイジンが思わず心配そうにラウルに尋ねた。
「おい、何かヤバそうな雰囲気だが大丈夫か?」
「安心しろ。これは俺が手を入れたモノだからな。性能は間違いない。色はオレの趣味だ!!ハハハッ!!」
ラウルは自信満々に答えた。勝手に色を変えられたわけだが、セイジンは気にしない方向で話を進めることにした。
「そうか、まぁ特にこだわりはないから使わせてもらうが。あと、防御用のウェポンだったが…。」
「おうよ!これさ!」
ラウルが取り出したのは、銀色に輝く大盾。
「この『ナイトシールド』はシンプルな盾だが、旧時代の製法で作られた金属素材を流用してる。軽いが、そんじゃそこらの銃弾じゃ貫けない頑強さをしてる。もう一品を用意しててな、そっちはロルが用意してる。」
ロルが言われてケースを取り出して開けた。複雑な形をした機械のようであり、ロルが実際に持って動作させる。すると、青い力場が発生して盾状の障壁を形成した。
「こちらはフォースシールド。取り扱いにテック技術への知識が必要になるけど、力場を発生させて衝撃を相殺できる。一定の衝撃を受け止めると障壁は消えてしまうが、それまでは攻撃ダメージを受けることなく戦える。1層でも取り扱われるが、こいつは2層から手に入る素材でエネルギーシールドの部分を大幅に強化してある。消えても戦闘中のわずかな時間にエネルギー充填が可能な逸品だ。」
ロルは自慢げに語る。
「そうか。なら、フォースシールドにしておこう。オレのサイキックディフェンダーのシールドと似た部分があって、気に入ったよ。」
「わかった、私事になるが妹をそのウェポンでしっかりと守ってやってくれ。」
ラウルは若干悔しそうだったが、ロルは嬉しそうに微笑んだ。
セイジンは新たなウェポンを持って、重さやバランスなどを確かめては明日にでも早速チームでの運用テストをしようと考えていた。