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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
デッドラインのエル
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第2話 エル、ダイバーズオフィスへ

実験的な視点変更。

「やれやれ、勢いだけの奴らだったな。考えが無いっていうかさ……。俺が【デッドギフト】がいくつあるか知ってるなら、その分の身体強化があるってことくらい考えて喧嘩売れっての。ァー、気持ちわrrrr」

 酒場から出て、無機質なコンクリートの道を歩く。ついでに街灯の下に吐く。街頭の辺りにいた自動清掃ロボットが俺の吐瀉物を無駄なく回収し、どこかに消えていった。きっと誰かが口にする栄養カプセルの元にでもなるんだろうと考えたら、余計な吐き気がこみ上げてきた。

 ……さっき四肢を撃ち抜いてきた連中のことを少しだけ頭に浮かべた。バランスは良かったんだよ。守りがいて、攻撃がいて、回復もいる。問題はとっさに動けなかった未熟さだな。どうせ第一階層でうまいこと依頼を完了させて、初めての良い酒でも飲んで酔っ払ったんだろうな。

 まだまだ駆け出しだったんだろうから、俺くらいの大人しい奴にやられて運が良かったと思ってもらうしか無いな。あの酒場にはもっとロクでも無い無法者が来ることだってある。下手に騒いでりゃ、向こうから突っかかってきて命まで平気で奪ってくような奴らだ。そんなのにぶち当たる前に「ケンカの相手はよく見て売りましょう」が分かってもらえりゃ先輩としては安い授業料だったと思うよ、うん。まだ俺は24歳だから、そこまで年寄りぶらないけどさ。


「おっと出しっぱなしで歩いちまった」


 俺の身長と同じくらいの腕から出っ放しのBGS装甲銃。いざとなればコイツで銃弾でもレーザーでも受け止める頑強さと、第一階層の雑魚程度なら簡単に仕留められる火力を持った名銃だ。重量を感じないものだからうっかりと出しっぱなしになってたそれを【機械に置き換わった】左腕に収める。俺のサイバーアームはこの中にいくつかの武器を収められる。さらに普段は外見から判らずに、出しても違和感なく操ることができる。見た目は服の上からじゃ普通の腕と大して変わらない。見ても白い手甲を着けて、黒い手袋をしてるくらいにしか見えないだろう。

 そういえばBGS装甲銃は駆け出しのニイちゃんも持ってたな、俺とおそらく同業だね。強化装甲服を着てたしな。旧世代のトンデモ兵器の一つを持ってるってことは運がとんでも無く良いか、めちゃくちゃ良い家なんだろうな。

 そんなどうでも良いことを考えてる間に、装甲銃は3次元から2次元に畳まれ、さらにパタパタと音を立てるように折り畳まれて左腕の中に格納が完了した。この腕だって、旧世代の技術の塊だ。俺の体にはあといくつかの旧世代の技術の塊が仕込まれてる。それも、ダンジョンの中で何度も死んだせいだ。

しょっぱなは俺がスラムでストリートチルドレンだった頃に人間狩りに捕まって、ダンジョンに無理やり他の子供たちと一緒に放り込まれた時だったな。ディスポーサブルサルベージャー。いわゆる使い捨ての回収屋として使われたんだよな。

 表層都市の外には荒野がだだっぴろく続いてる。これは子供でもわかる。別に見ちゃいけないってこともないからな。荒野には何もない。ただ、干からびた土が延々と続くんだ。何処かには似たような都市があるらしいけど、そこも似たようなもんだ。この世界で生きるだけなら、都市の貴族様どもが占有してる栄養カプセルを恵んでもらうしかねぇ。だけど、それだけじゃ足らないものが多すぎる。その足らない資源を回収してくるためにダンジョンに【潜る】必要があるんだ。

 中で死ねば当然、ブギーマンに改造されて生き返る。連中は人間とか似たようなのが中で死ぬと勝手に蘇生してくる。んで、生き返るときに何かしらくっつけられるわけだ。旧世代の機械や魔法の籠められた【何か】を。

 人間狩りする連中からすれば、元手はタダ同然。【デッドギフト】で使いもんになれば儲け物。1階層を這いずり回れる力程度が身に付けば良い。で、拳銃すら持たないガキが生き延びれるわけもなく、当たり前のように死亡。それで、出てきたブギーマンが言ったんだよな。


「お客様への蘇生サービスは無事完了いたしましイたt。追加サービスとしてオプションがk確定していmaす。何がよろしいでしょうkあ?」


 ぼんやりと、まだ自分に何が起こったのかもわからないなりに面と向かったバケモノに確かこう言ったんだっけ【死にたく無い!死にたく無い!!】

 それで、俺の体には敵意やショックに反応して体の内部から銃弾程度なら弾き返してやれる装甲の鱗が生えるようになったんだっけ。それからなんらかんらあって、だいぶ俺の体は弄られまくったなぁ。俺から死ぬことを覚悟して死んだ時もあれば、死ぬことを最後まで足掻いて結局死んだ時もあったっけな。

 思えば、ツイてたのは今も着てる強化装甲服の元持ち主の爺さんに匿ってもらった時だったなぁ。爺さんには世話になった。と、自分の思い出を振り返っていたときに


「ヤァ、そこを行くのは我が友!ミスター・ジ・エンドことエル氏では無いかっ」

「やめろ、終わってない。再起してるところだよMr.トリック。愛すべきポンコツAIよ」


 俺の思い出を邪魔するかのように、目の前に渦巻くように霧が出てその中に人の姿が浮かび上がった。

 人の姿は次第にハッキリとし、ヘンテコな帽子(Mr.トリック曰くシルクハットと言うらしい)を被った上に外套をまとった優男の姿をとった。顔の中ほどまで帽子を下げ、肩の辺りまで切りそろえた髪は緑色。全身灰色ずくめのコーディネイトをしたこいつはミストマン、霧の人間と呼ばれてる連中だ。見ての通り、実態がなくて霧の中に姿を投影している。どこから投影してるのかは俺にはわからんし、ヤツも説明しても妙に専門用語を羅列してハッキリ説明した試しはない。ダンジョンの中のどこかに存在している独立型AI、それがこいつらの本体ということをダイバーオフィスで聞いたことがある。

 Mr.を頭につけて呼んでやらないと怒って仕事をしなくなることと、無駄に自分を天才だと持ち上げること以外は優秀なハッカーだ。こいつがいないとダンジョンに潜る気にはなれない。でも、ダンジョンには潜りたくはない。形式的な話という奴だ。


「何もかも、承知だとも我が友!君のプライベートは96%観察しているからね!大船に乗ったつもりでいてくれたまえ、ダンジョンに潜るのだろう?完璧なガイドをして見せようじゃないか!どうせなら私の本体がある場所まで行くかね!むしろ、行くのかね!?」

「いかねぇよ。少なくともお前のガイドで2階層以下に潜るつもりはないぜ」


 実は、失敗しないMr.トリックを見たことはない。実力はあるはずなんだが、どこかがポンコツなんだ。だから、行っても2階層まで。

 大体、俺自身そこまで実力があるダイバーってわけじゃない。死んだ回数と潜り抜けた修羅場が多いだけで装備も揃ってない。装備がないテックソルジャー、俺みたいな強化装甲服着て、前に立って戦う奴には武器も防具も必要だ。

 俺に残されてる死亡回数は後1回。1回は死ねるが、それしかない。もう、4回死んでるからな。人間の場合、5回は死ねる。6回目にはダンジョンのエネミーになるか、生きる気力を無くして植物人間になるか。4回も死ぬと、感じるんだ。前は持ってた心とか、気持ちってのが改造されるたびに無くなってく。だからなのかね、さっきのルーキー相手にぶっ放しても可哀想程度にしか思えなかったのは。案外、街中のサイコ野郎は俺みたいに何度も死んで、死に慣れちまった間抜け野郎かもしれない。


「とりあえず、オフィスに行こうじゃないか我が友よ。さすがの私もオフィスを覗くような野暮はしないからね!何が待ってるんだろうね!ワクワクしてくるねエル氏!!」


 俺のプライベート9割除いてることを豪語する奴の言うことじゃねぇよ?って言うか、観てない4%は何なんだ、すげー気になるが聞いたら後悔する気がする。

喋る霧みたいなミストマンが相手じゃ殴る意味もない。なので、一番の嫌がらせのダンマリを決め込んでオフィスまでの道を歩いていく。野郎、対抗して口数がさらに増して、もはや独り言を喋ってるに近いぞ。さらにMr.トリックの奴、俺の真横を浮かびながらマントをはためかせて大仰な身振り手振りもし始めた。くそ、後もう少しだ。意地でも喋るな俺!聞くな!!

 コンクリートの道をひたすらに歩いて、色あせた建物が目に映ってきた。ようやく着いたぜ、ダイバーズオフィス。

 ダイバーズオフィスは深い蒼色を基調とした内装の建物だ。青が目に染みる場合、ナノマシンを仕込んだコンタクトレンズで色補正しちまうのが手っ取り早い。俺は右目が【デッドギフト】で生身の目じゃなくなってるので、そこんところが難しくてこの目に痛い青色を直視するしかない。なんでだ、ツイてない人生にも程が有る。


「ダンジョンの中でこの天才たる私に出会えたことは幸運だろう!それほど運命の女神に見放されてはないさ!!」


 くそ、独り言が漏れてたか。もう、さっさとカウンター行こう。


「あら、来たのねチェックメイト男?」

「だから、俺は手詰まりじゃねえってリカ。」


 なんでどいつもこいつも俺のことをこう呼ぶのかね?誰だよ広めてる奴。Mr.トリックお前か?

【カウンターに浮かんでいる人形】みたいなのに俺は声を掛けた。見た目は背中に銀色の球体を浮かべたストレートロングの掌台の大きさの人形、としか言いようがない。

 リカは珍しいが、そこらの自動人形と違って自由意志がある旧世代の人形【ティンク】だ。魔法じゃなく、科学で動いている。とは本人の弁で、俺から見たらどっちも旧世代の力としか思えないが。張り付くように浮かぶ背中に2つの銀色に輝く球体、それが重力を直接制御しているらしい。なんのことかは俺には分からん。だけど、その力でリカはその気になれば俺の持ってる装甲銃くらいなら持ち上げてぶっ放すことだってできる。それが分かってない新入りが時々やらかしてガチ死をしかける。もう、俺の仇名くらいには有名になっても良いんじゃねえかな。なんで年間の若手ダイバーの負傷理由ランキングに入るんだよ。引き金が軽すぎるだろうって言うか、得物を選ばないから銃でもソニックブレイドでもなんでも良いんだよな。まぁ、リカは良いや。本題が重要なんだよ。


「俺宛に何か依頼が入ってるんだろ?何の依頼が入ってるんだ?俺を個人指名するなんて、俺も偉くなったもんだ」


 そんな俺を鼻で笑い、リカはカウンターで足を組んだ。見た目が子供だからあんまり決まってないぞ


「あなたに指名が入ったんじゃなくて、あなたは指名されただけよ?オフィスからね。ながーくサボってたから、オフィスもあなたの実力を問いただす意味で初級レベルの依頼をしたってことよ!依頼内容は第一階層の侵入、及び依頼主の護衛よ。あなただったら、別に問題なく完遂できるでしょ?【再起のエル】さん」


「そこまで言われては、と言いたいところだがやりたくない。金はまだ残ってる。酒を飲んで後1年は現実から目を背けていたい。酒場から出たのもルーキーどもに絡まれて出たからだし、Mr.トリックに絡まれてとりあえず行ってみるか、確認くらいはしておくか。顔出して終わりにしようと思ってただけだった。第一階層のエネミーども程度で死ぬとは思わんけれども、Mr.トリックがトラップ解除にミスって死ぬかもしれん。やだ。」


「何、整然と述べてやり切った顔してんのよ。良いから、受けておきなさいよ。後ろもつっかえてるんだから。これ以上は依頼人と直接やり取りしなさいよ。私も暇じゃないんだから。ほら、行った行った!!」


 く、何と言う力押しだ。後ろに4本ソニックブレイドちらつかせながら言いやがった。ダンジョン外で死んだら元も子もない。とりあえず、受けておくしかなかった。


「友よ、仕方ないではないか。いろいろな理由でダンジョンに入らざるを得ないことになった流れだ。ならばこれはダンジョンに潜り、吾輩の本体まで進撃するしかなかろう!!」

「断じて、ない!」


 Mr.ポンコツに変えてやろうか、この野郎。もう良いや、Mr.ポンコツ。俺はリハビリが必要なんだよ。介護も必要なんだ。それにその介護にはお前は含まれないんだよ、スカスカ霧人間。そうだ、介護だよ!俺のことを介護してくれる治療者が必要だ!!第一階層なんかじゃ、攻撃役なんかいても過剰火力だ。俺が万が一傷ついたら癒してくれるメディックが必要だ。ここまできたらアイツも呼んで、アイツが動かないならメンツが足りないから入らない!って依頼人にゴネよう。いや、先に依頼人に会って、メンツをいきなり追加!こんな報酬じゃもう一人を動かすわけにはいかんな〜!申し訳ないがキャンセル!!この流れでいこう!!勝った!今回の依頼完ッ!!



 そう思ってた時が、俺にもありました。


「良いですよ。規程報酬額に足して、さらに追加のメンバーへの報酬ですね。」


 何で全部通ってるんだよ、この依頼人……。いやだ!行きたくない!!死にたくない!!死にたくない!!

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