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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
セイジンと仲間達
19/97

第19話 テック・ドクター アラン

アランのイメージを画像生成AIで作りました

 ニコが最後の一撃を叩き込み、彷徨える戦車はその機能を停止した。戦闘が終了した後の着弾跡が戦闘の激しさを物語っている。まだどこかで戦闘は続いているようで、砲撃の音が鳴り響いていた。

 彷徨う戦車の砲撃は苛烈だったが、ニコの攻撃が通用するようになってからは戦闘はニコ達の方に天秤が傾いた。戦車は回避運動を行うような細かい機動は出来ず、装甲任せの防御だったのが裏目に出たのだった。

 


 アランに静止のエイドキットを打たれて我に帰ったニコを見ながら、セイジンはニコの異能の才能があったことに驚いた。

 

「ニコ、君は異能の才能が有ったのか。さっきのあれはそういうことだろう?」

「あれっすか!カッコいいいっすよね!!」


 胸を張り、答えるニコ。満更でもないようだ。

 異能の才能はウェポンが無くても、発動させることが出来るという点に特異性がある。現在の人類は、ほぼウェポンを経由して異能を発揮する。異能の力を行使する源は人類の精神によるものだ。異能ウェポンは太古の昔は必須ではなかったが、旧文明の時点で人類は発動体を持つことに慣れすぎてしまい、人々は異能の使い方を忘れてしまった。しかし、時折生まれながらに一つの魔法を使い方を知っている者が現れる。彼らは異能の才能を持つものと呼ばれ、ダイバーになるものが多い。企業の研究体になるということもあるが、その場合は自由を奪われて生きる羽目になる。

 ニコとセイジンが喋っていると、アランが二人に声をかけてきた。


「先頭車両がどうなっているのかが気になる。前に移動しよう。」

「移動するって、解体もしないでか?」

「解体なぞ、後で行っても問題ないだろう。誰かに数CP渡しておけば見といてくれる。ほら、行くぞ。」


 アランは先行車両の戦闘結果が気になるようで、セイジンに了承を得ないで近くのキャラバンの乗員にCPを握らせて一人前方へ移動し始めてしまった。

 先頭に移動する頃には戦闘は終了していたようで、後処置をしていた。

 気づくと、戦闘による負傷者や影響の聞き込みをアランがしていた。どうやら、戦闘自体の危険度は低かったようだ。手を出してきた吸血鬼は客車を奪えないということを悟るとさっさと消えてしまったらしい。

 吸血鬼は人間の血液を吸うことで生きている。奴らは深い階層にいて、人間牧場なるものを作って吸血鬼王国なるものを形成していると噂されている。

 アランは吸血鬼がいなくなったということに、安堵したような不安になったような何とも言えない顔をしていた

 

「アラン、一体どうしたんだ?アンタらしくないぞ。」

「セイジンにニコ…、お前たちに話したいことがある。街について、落ち着いたら話そうと思う。」


 そういって、アランは後続側に移動していった。おそらく、放置していた「彷徨える戦車」の解体に戻ったのだと思い、ニコとセイジンもついていく。

 戦車は他チームに解体されず、残っていた。CPを掴ませてでも、見張りを頼んだ甲斐があったというところだろう。

 3人で使えそうな場所を見て回るが、大体のところはニコに溶断されたり、おおきく歪んだ凹みがあったりと使い物にならなかった。

 唯一、使えそうなパーツとして戦車砲が取り外すことができそうだった。しかし、戦車砲は大きくて取り外したところで持ち歩くことも難しいところだった。


「こんなもの、どうやって運ぶんだ?軽くみても、5トンは有りそうだぞ。おまけに、嵩張りすぎだ。」

「ああ、重さならどうとでもなるだろう。浮荷台を近づけてみろ。仮に5トンの重量なら、500kgまで軽減されるはずだ。」

「なんだそりゃ?そんな機能もあるのか、これ。」


 ダイバーには必須の浮荷台。セイジンはオフィスから貸与されたコレについて、まじまじと見て驚いていた。


「ついでにいえば、載せた段階で積載物の重量はほとんどが軽減される。つまり、浮荷台以外の重量は無視できる。いまだにオフィスがどこでコイツ仕入れているかダイバーは誰も知らないくらい、貴重なモンだが。どこかで量産されてるんだろうな。一応、紛失しても居場所が分かるらしいからダンジョンで遭難したダイバーを探すのにコレの情報で遭難位置を特定するらしいぞ」


 アランの説明を聞きながら、浮荷台を近づければ動かしようのなかった戦車砲が動かせそうな重量にまで軽減された。

 サテライトウェポンの要領で異能の力で動かすセイジンと、単純に腕力だけで持ち上げるニコの二人だけで戦車砲を浮荷台に載せる。


「ただ、嵩張るってところはどうしようもないが、な。」


 アランがぼやくように呟いた。浮荷台から前後に2m程度はみ出して載せられた戦車砲はひどくシュールに思えた。

 

「アランが言うとおりだな。これ自体、俺たちの誰も使えない代物だ。おとなしく、売却しよう。ちょうどよく、扱ってくれそうな商人ならキャラバンに一人くらいはいるだろうしな。」


 セイジンは二人にそういって、浮荷台を曳き始めた。背中にある荷台が冗談みたく軽い。歩く分には困らないと思ったが、すぐに砲が何かにぶつかるので、やはり安くてもここで売るべきだと判断した。

 出鱈目な技術力の旧文明に呆れているセイジンと、すごいすごいっす!とキャラバンの方へとはしゃぎながら歩くニコ。その少し後ろをアランが電子タバコをふかしながらついていった。



 浮荷台を引いてキャラバンにたどり着き、商談をしていると異常事態が起こった。

 なんと、ニコが交渉を仕切りだしたのだ。そもそもの始まりは、セイジンが多少安くてもいいから、この大荷物を処分しようとして戦車のパーツを扱う男に商談を持ち掛けたところから始まる。


「なるほど、なるほど。この大砲を処分したいということですな。ならば、5CPでどうでしょうか?多少の痛みもあるようですが、こちらで買い取らせてもらってもよろしいですか?」

「(思ったよりも買い叩かれたか?まぁ、相場も良くわからないしな)それじゃ、それでお願いs…。」


 ダンッ!と叩かれる床。音の方を見ると、ニコが笑いながらも、足を踏み鳴らした音だった。


「そちらのおじさんが言う事、ちょっとワラヒにはわからないっスね。2層で売り払うなら、20CPで買ってもらいたいっすね。」

「20とは、ずいぶんと大きく出ましたなお嬢さん。我々商人は暴力には負けませんからな。そう、強気に出てもらったところ悪いですけれど、ここには他のダイバーもいる。悪いことは言いません、8でどうです?」

「20ッスね。2層ならばマシンヘブンに行けば、すぐに買い手は見つかるッス。適正の使い手がそこら中にいるっスからね。もし、それを1層に売りつけるなら、運搬費用が割高になって儲け所の話にならないと思うっスよ?しかも、駆け出しのルーキー相手には買い手がつくことがなさそうっス。なんなら、ワラヒの方で2層の買い手を探してあげてもいいくらいっす。それくらいなら、ワラヒの家のお客さんの中にいそうっスからね。」

「…、もしや?もしや、貴方は狂戦士のニコさんですか?2層のマーチャントギルド長のご息女の…?ダイバーになっていると聞いてはいましたが、なるほど。端末で調べさせてもらいましたが、ご本人のようだ。」


 何が起こっているか、展開についていけてないセイジンとアラン。お互い、目線を交錯させるが言葉が出てこない。

 凄みを感じる笑顔を浮かべたニコが、自身の端末から商人の端末へと何かを送ったようだ。商人が言葉を詰まらせる。

 

「まさか、ここでこんな縁を結べるとは思いませんでしたよ。ニコさん、ありがとうございます。お礼に20CPでこちらの戦車砲は買い取らせていただきます」


 意外なところで頼れる商人の娘もとい、ギルド長の娘。そりゃ、ダイバーになるのも反対もするわけだな、とセイジンはぼんやりと思っていた。

 ひょんなところでニコの事を深く知れた二人だった。その二人の方へドヤ顔を決めて、振り返るニコ。


「意外だったっスかね?でも、役に立ったっスよね!」


 頷くしかない二人であった。



 衛星都市マシンヘブンはテック製ウェポンの改造や素材の在庫が豊富で、ロボットやアンドロイドなどの人間以外の人種も多い。

 ニコは慣れ親しんでいる光景だが、道を行く人々の4割がそういった人種で構成されている風景に表層都市生まれでそこから出たことのないセイジンは圧倒されていた。

 「彷徨える戦車」を討伐して解体した戦車砲を売り払った後、セイジン達は無事にマシンヘブンにたどり着き、キャラバンから護衛代金を受け取り酒場へと繰り出していた。

 客の3割方が機械的な人種だが、意外なことにテック系の種族はティンクと呼ばれる小型アンドロイドしかいない。ゴーレムと呼ばれる、ぱっと見が人間の様な個体から、見ただけでロボットだと分かるものまで様々な外見がある種族は異能の力で動いている為、彼ら自身は魔術や魔法に近い存在だ。その割には、戦車のウェポンを直接装備できるあたり、旧文明の生み出した種族は都合よく作り出された存在なのだと思わされる。

 そんな彼らにとって、アルコールのような嗜好品が酩酊チップと俗称されるデータ媒体で、一度使うと機能しなくなるように作られている。その中身は、彼らではないと感じられない特殊なデータ群であり、人間がみても数字の羅列と幾何学模様の組み合わせにしか過ぎない。



 その酒場の壁際のテーブルにセイジン達は座っていた。他のテーブルとは違い、どこか重たい雰囲気を纏っている。

 ニコは軽いアルコール飲料を少しづつ、セイジンは強めの酒を盃で飲みながらアランの出方を待っていた。

 アランは、セイジンと似たようなアルコールをぐいっとあおり、二人に話始めた。


「俺は、3層到達者だということは二人とも知ってるな。そして、元はテック・クルセイダーだということも。」


 アランのチームは中堅どころで、3層で活躍をしていた。テッククルセイダー、テックスナイパー、ニンジャ、サムライという攻撃に割り振った構成だった。

 2層まではその勢いでフロアボスを倒し、3層もその火力で突き進んでいたところで突然に不幸に見舞われる。3層より深いところから来た吸血鬼との戦闘が起こった。吸血鬼は様々な階級に分かれており、爵位持ちはその中でも強力なエネミーで有った。


「俺たちは仲間を見捨てる判断をしたんだ。ニンジャのソフィアが食い止めている間に。ソフィアは逃げ切ると言ったが、無理な話だったんだ。そして、吸血鬼の眼前で死んだものは吸血鬼の仲間にされる。この間、3層で賞金首が暴れているって話があっただろう?おそらく、ソフィアのことで間違いない。」


 吸血鬼の厄介な能力の一つが、ダンジョンでの死亡のルールを上書きすること。死んでもデッドギフトを得て蘇るという法則を根底から変えてしまう。これは呪いであり、アンドロイドやロボットでも例外はない。

 

「仲間だった二人はそれ以来、ダンジョンに潜れなくなって引退した。俺は、ソフィアを呪いから解放するためにダイバーを続けたが、まともに銃を持てなくなった。銃の照準が震えるようになっちまった。情けない話だがな。それでもソフィアをどうにかしたい。その一心で俺はテックドクターに鞍替えしたんだ。心残りもあったんだよ。あの時に俺たちのチームに一人でもヒーラーがいれば、救えたんじゃないか、…てな。」

「それで1層からやり直しをしてたのか。」

「ああ、テックドクターの戦い方は何もかも違う。いきなり3層に行っても仕方ないと思ったからな。回復役が居れば、彼女は死なずに済んだかもしれない。だから、回復役になったんだ。俺の前では絶対に死人を出さない。ってつもりなわけだ。」

 挿絵(By みてみん)

  アランはそう言ってグイッと酒を飲んだ。

 だから、セイジンは過剰なまでに装備しているのかと納得する。はっきりと過剰装備に身を包んでいるアランのウェポンを思い出していた。ウェポンスロットはいいところ3つくらいだろうが、ウェポンそのものは見える範囲で5つはある。アサルトライフル以外が全てヒーリングウェポンだった。テック、異能とどちらでも対応可能な装備。

 通りで、今までの戦闘でまともにアサルトライフルを使わなかったわけだとセイジンは思っていた。この銃は伊達とまでは言わないが、スラム街なんかの治安の悪いところを歩く時に余計なトラブルを招かないためのお守りみたいなものなのかもしれない。

 アランが何を目的にしてるかを知ることができたおかげで、アランに対する見方が変わっていた。クルセイダーからドクターに鞍替えした男なんて、どこか信じきれなかったが、こう話を聞くと信じられるようになった。

 ニコも話を聞いてから、しきりに「ワラヒに任せるっすよ!バンバン回復してもらえば、ワラヒはガンガンエネミー倒しまくるッスよ!!」とアランの背中を叩きながら、何度も同じようなことを言っている。

 セイジンはアランの行動指針、やれる事や出来ない事を加味した上で、今後のチームの方向性、自分の役割を決めていた。ひとまず、護衛の報酬と戦車砲の売却で手に入れたカネでチーム全体を強化するために、2層のウェポンショップを探すところから始めることにした。

 

「よし、今日は休んで明日はウェポンショップに行こうか。少し、欲しいウェポンがあるんだ。」

「あ、それならワラヒのウチにくると良いっすよ。ついでに、泊まって行くと良いッス。」


 さすが、オレの予想の斜め上をいくニコだな、とセイジンは脳裏に浮かんだ言葉を飲み込んでニコに返事をする。


「そうか、なら頼むよ。せっかくだからな、良い装備を期待する。」

「任せるッスよ!ビーム商会はここじゃ一番デカイっすからね。お兄さんの欲しいものだって、絶対に見つかるッスよ。」

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