第18話 彷徨える戦車
食事処メシヤで飲み交わした3日後、3人は出発前のキャラバン隊に集合していた。
今から出るキャラバンは衛星都市「マシンヘブン」という場所へと向かう。2層は全体的に機械よりのエネミーが多く、その部品や素材が名産となっている。マシンヘブンはその名の通りに、テック系のウェポンユーザーや旧文明の機械系種族にとっては楽園のような場所と言われていた。
「マシンヘブンはワラヒの家族がいるンスよ!着いたら、是非ともお家にご招待するッス!」
ニコがウキウキしながら、セイジンとアランへ喋っている。ニコにとっては生まれ故郷なので、テンションが高くなっている。ニコはキャラバンの装甲車を見上げながら、マシンヘブンの街並みを思い出していると専属護衛のチームから指示が端末へと飛んできていた。
キャラバンには専属の護衛チームがつき、常に護っている。ここのキャラバンについているのは「ライダーズ」という、バイクを全員が乗りこなすダイバー達だ。
全員、大仰なベルトを腰に巻いていて各人は武器らしい武器を持っていない珍しい構成だった。何でも、有事には変身して戦うらしい。個人の戦闘能力はかなりのものだが、キャラバン全体に対してのカバーが効きづらいのでその他の護衛チームを雇って広さをカバーしていた。
ニコはライダーズに腕試しを試みようとしたが、変身前の一人に軽くいなされてしまった。さすがのニコでもプライドが傷ついたかと思えば、逆にテンションを上げてハンマーの素振りを始めるという奇行をしだしたのを見て、ニコはどこまで行ってもニコなのだなと思うセイジン、アランの二人組であった。
キャラバンは4両の巨大装甲車と護衛のヴィークルで構成されている。今回のキャラバンは主に食料関係を扱っているらしく有料だが、護衛中の食事は比較的マシなものが食べれた。1両は2層へと移動する人々が乗り込んでいて、そこの護衛だけは多めに敷かれていた。
ニコ達は戦闘車両側に配置され、エネミーや障害になりそうなものを発見次第、ライダーズへと連絡する役割を与えられていた。ニコとアランは2層は既にきたことのある場所だが、セイジンは初めてなので若干の緊張が感じられた。
「まぁ、そうガチガチになるような場所でもないぞセイジン?1層と2層なら、そこまでエネミーの驚異度は高くない。本番は3層からだからな。」
「そうなのか?確かに、3層からは厳しくなると聞いたことがあるが。」
「ああ、3層からのエネミーは『戦車に乗るか、戦車を倒せるか』ってのが戦いの一つの目安だからな。」
戦車を倒せるか、という話を聞いてレベルが急に跳ね上がるのをセイジンは感じた。正直、表層都市でも戦車を使っているダイバーは何回か見たことがあるが、そんなものと個人で戦えないと攻略ができないのかと前途を憂うセイジンだったが、隣のニコは真逆の反応をしていた。
「マジっすか!ワラヒ、戦車をボコボコにできるように頑張るっすよ!!」
やはり、ニコと自分とでは根本的にモチベーションが違うなと思う。そこにセイジンは5層到達のための希望を見ているのであった。
ダンジョン内を比較的にゆっくりと走るキャラバンの巨大装甲車の上にニコ達は乗っていた。他の雇われ護衛も個人のヴィークルなんてものがない限りはキャラバンの車両の上に立って歩哨をしていた。
2層のエネミーが出てきては連絡をライダーズへ行い、即座に殲滅されるという流れを繰り返していた。ニコはその度に行われる、ライダーズの変身を見ては大興奮でセイジン、アランに喋っている。
「カッコいい!カッコいいっすよ!!アレ、ワラヒも欲しいっす!!どこ行けば買えるッスかねー?」
拳の一撃で3つ首の巨大なカエル「ケロルベロス」の頭をつぶしていくライダーズの一人の戦いっぷりを見て、セイジンはあんな戦闘力をニコが持ったら街中は出禁になるんじゃないか?と思ったが、言わないでおいた。それとも、そんな戦闘力を持たないと3層以降のダイバーはダメなのだろうか。
隣であくびをしながらも、きっちりと気は緩ませずに監視をしているアランを見て、クルセイダーのアランはどれだけ強かったのだろうかと、ふと思ったりもしたがアランは過去に触れることを嫌がっているそぶりがあるので、声に出すのはやめておいた。
キャラバンは順調に旅を続け、3日目となった。2層の風景は金属の壁が主なもので、ニコ達も若干飽きてきた監視をしていたが、そろそろ衛星都市へと着くということで気持ちを切り替えて歩哨をしていた。
「ほんっとうにライダーズの人たちは強いっすね!ワラヒたちの出る幕がないッスよ!!」
実際、単独戦闘をさせれば、ライダーズは無敵のようだった。たまに、エネミーの群れと出会した時には雇われた護衛チームに緊急的に指示を出してキャラバンへと近づけさせないように足止めを頼むくらいで、苦戦らしい苦戦はしない。順風満帆の旅と思えたが、あと少しで衛星都市へと着くという頃に事件が起きた。
「ライダーズから指示が出た。後続にワンダリングエネミーだ!ライダーズからの応援は無し、戦闘車両側で厄介なエネミーが出たらしい。」
「厄介なって、ライダーズが動きを取れないくらいにか?」
セイジンが端末を見ながら、後続車両へと移動する。それにニコとアランも続いていく。アランの疑問にセイジンが答える。
「何でも、吸血鬼とやらが出たらしい。戦力的には十分らしいんだが、安全マージンをとるために総力で当たるってことらしいが。」
「吸血鬼だと!?」
アランが急に大声を上げた。そればかりか、拳を震わせながら立ち止まり先頭車両側を見つめていた。ただならぬ雰囲気を纏わせながら、歯を食いしばるアランを見てセイジンが慌てて声をかける。
「アラン、俺たちへの指示は後続車両の対応だ。間違っても、先頭車両のヘルプじゃないぞ。」
セイジンの声を聞いて、アランは何か言いたげだったが黙って後続側に向かって走り出した。ニコも若干あたふたしてアランへと続いていく。セイジンが最後を走る形になりながらも、後続車両の対応へと急いだ。
駆けつけた後続車両は履帯部分が破損しており、動くことが不可能になっていた。不幸中の幸いに、この車両は貨物車なので人的被害は出ていないことであった。
ニコが走り込みながらも、巨大なハンマーでエネミーを粉砕していく。セイジンは全員にサイシールドを張りながら、グラビティグラブで近づけさせないように攻撃していく。アランも珍しくアサルトライフルによる攻撃を行なっていた。
他の場所でも戦闘が発生していて、ここの場所にはニコ達以外のチームが見当たらなかった。一通り倒して、波が去ったと思ったところに誰かの叫び声が響きわたった。
「畜生!戦車が来たぞ!!『彷徨える戦車だ』!!」
旧文明の自動戦闘が可能な自立戦車が砲撃をしながら現れた。1発もらうことでニコに張っていたシールドが吹っ飛んだ。まさか!?と思うが、現実は変わらない。破片が戦車へと突き刺さるが、対したダメージにはならない。それでも、相手の動きを阻害するように隙間に埋め込まれていく。
そんなエネミー相手にニコは臆することもなく、真っ直ぐに走っていく。懐に入って、ハンマーの連撃をお見舞いしていく。呆けている場合じゃないと、自分の頬を叩いてニコに支援魔術をかけていく。
「とりあえず、、【竜麟】と【魔刃】はかけた!【倍速】と【怪力】は次にかけるからな!!アラン、ニコのフォロー頼む!」
「任せろ!サイシールドの回復が出来たら、すぐに張ってやれ!!」
「もちろんだ!」
ニコに対してのセイジンとアランの支援。このチームで本格的な戦闘が開始された。
戦闘の高揚を感じながら、ニコは歪んだ世界の中で自分の肉体を操っていた。できることは、どうやって効率よく攻撃を行うかだけ。それ以外の行動は受け付けない。セイジンから支援魔術が届いたようで、自分の動きがさらに加速する。手綱を取ることで手一杯の状態だったが、さらに難易度が増したかのようだった。
正直、支援魔術がなければ相手するのは厳しいという感想をエネミーに思っていた。何せ、装甲が分厚くて一撃目は少し凹ませるのがせいぜいという感じだったのだ。おまけに、一撃で消し飛んだ青い光壁。あれを生身で食らって、戦意喪失しないのはバーサーカーだったからとしか言いようがない。それも、魔術による防御力アップがあった上でだ。
受けたダメージは即座にアランが治してくれる。流れでた血が体内で増産されたのを感じる。それは、心臓が熱くなり、外部に露出した肉から無意味に流れていく血が凝血して、肉片となって失われた部分が再生していく。こんなプロセスを経るのは魔術で治しているからだろうか?
テックドクターは回復するウェポンに対してその効果を増幅する能力がある。それはテックウェポンだけではなく、異能ウェポンに対しても同様だ。アランはありとあらゆる種類の回復ウェポンを持っているようで、攻撃されるたびに回復してくれる。異能ウェポンの使用可能回数を使い切れば、次の杖を持ち出したようだ。それが無くなれば、次はエイドキットを右腕に取り付けて射出している。
セイジンも隣に立って攻撃をしている。重力を操る小手と具足を宙に飛ばして、攻撃を防いでいる。見方によってはすごいシュールな光景だなとニコは思った。
自分も頑張らないといけないな。そう思い、自分の中の枷を一つ外すイメージを思い浮かべた。体が熱くなる。燃え上がるような血液が全身を駆け巡るように感じた。
直後に、ニコの手にしていたハンマーから炎が吹き出していた。ニコの中にある異能の才能。炎を操る才能が文字通りに火を吹いた。
セイジンが前に立ったニコのハンマーから炎が吹き出したのを見て、とっさにびっくりする。自分はそんな魔術をかけていないし、アランがそんなことをしたとも思えない。答えは、一つ。ニコ自身の力で行ったことだ。
こんなことが出来るってことは、ニコ自身に異能の才能があったんだとしか思えない。企業にいた時に、時折何も教えてもらってないはずの子供が水の槍を作ったり、石の壁を張り巡らせることを研究結果の一つとしてレポートが上がっていたことを思い出した。<異能の才能>、これは天賦の才。炎を上げたギガントハンマーが戦車の装甲板を殴り付けると、ひしゃげた装甲板が熱で溶断していく。どれだけの熱を発しているかもわからないが、戦車は着実に破壊されていく。
応戦する砲撃だが、回復したサイシールドが張られて弾け飛んでは破片が戦車を削っていく。動きがだいぶ鈍くなった戦車は、それ以上の砲撃を行おうにも照準が合せられないようだった。