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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
セイジンと仲間達
15/97

第15話 サイキックディフェンダー セイジン

セイジンのイメージを画像生成AIで作りました。

チヒロ→エーミーに変更しました。

誰かの嘲笑する声、信頼していた女に裏切られた失意、庇うどころか突き放してきた両親。そんな夢を見てしまったことに深く憤ったが、毎週のように見て居る悪夢だからか、表には出なくなってきた。のそりとベッドの中から気怠げに起き出して、自分でコップに水を入れて黒い粉末の入ったカプセルを入れてインスタントコーヒーを作って飲む。美味いとは思わないが、目が覚めた。ちょっと前まで、メイドアンドロイドにさせていたことだが、ようやくこんな生活に慣れてきた。

 男の名前はセイジン・クラと言った。かつては、この表層都市の上流階級で生きていたが今は落ちぶれて、この安い賃貸で寝泊りをするダイバー暮らしだった。

 セイジンは以前はオールバックにしていた髪を伸ばし放題にして居る。そろそろ切ろうかと思うが、まだ良いかと右目にかかる髪をかき上げて、ダイバーズオフィスへと向かう準備をし始めた。



 セイジンは表層都市の中でも、資源分配決定権のある企業群のエリートだった。この表層都市であらゆることは企業群が決めている。ダイバーズオフィスも実際には公的機関に見えるが強大な6大企業シックスコーポレーションの一つである。他には、【ロイヤルブラッド】、【ピン重工】、【教会】、【古代技術庁】、【集積図書庁】がある。かつては公共機関だったものがいつの間にか企業化したものも多い。

 表層都市は食糧カプセルを稼働できる人間が貴族となるが、【ロイヤルブラッド】などは貴族の血縁者で都市で集めた資源の分配権利を持って都市の拡充や発展に関わる企業だ。その政治的関心が向くのは中央の部分であり、表層都市は円状に街が作られ、中央の方に企業が集中し、外側に行くにつれ民間、貧民となっていく形になる。ダンジョンの資源は重要だが、危険なものも出る可能性があるので、都市の外れにあるように作られていく。

 セイジンは【集積図書庁】の上流階級と言っていいところの親を持ち、将来的には権力を争う立場になるはずだった。

 特に古代技術庁と集積図書庁は旧時代の文明を発掘、再現する表層都市の生命線でもある。そのためにも大量の資源を必要とする。その分、そこに所属できて居る社員も大きい恩恵を受けることになる。誰にでも扉が開かれて居るのがダイバーであれば、ごく一握りの人間にだけ扉を開くのが企業と言えた。

 そんな様々な利権に塗れたエリート同士は内部争いが絶えない世界だ。

 セイジンはその世界の中で、信じていた女に踏み台にされるように裏切られて転落したのであった。



 企業から外れたセイジンには残ったものは少なかった。それまで企業の中で生きていくことしか知らないエリートコースの人間だったゆえに、使えるコネも企業に属してこそ使えるものばかり。形として、親の不祥事を自分が責任を取る形で被ってしまったので、親に頼ることすら出来なかった。ダンジョン産の異能遺物に関する資源を取り扱う部署にいたので、異能に関しては少しばかりの知識はあった。

 そして、底辺の人間に落とされたセイジンの心には火種が点っていた。このどん底から這い上がり、あの女「エーミー」に目に物見せてやろうと。

 そのために大博打になるがダイバーに身を投じる決意をして、1年が過ぎた。まだ表層都市と1層を行き帰りして居る身だ。赤龍討伐のチームに臨時で入れたから2双到達者にはなったが、目標の5層到達者には未だ遠い。


 今のセイジンはサイキック・ディフェンダーだ。このジョブは初期投資が少なく、自分が異能を少し知っているのもあって選択した。

 選択の理由は、まず生き延びる強さが欲しかった。サイキック・ディフェンダーは自分自身とそれ以外にも異能による力場を形成して守ることができる。ウェポンを触らずに操り、攻撃できるのも気に入った。

 守る側になることは、守られる側に貸しを作れるのも悪くない。今の自分にはコネを作るところからのスタートだった。

 まず、1層を攻略する。そのためにと、即席のチームに加入したが、自分の素性が知られると溝が出来た。自分が思って居るよりも企業に居た人間というのは風当たりが強かったようだ。臨時加入できたチームにスラム街出身の奴がいたらしく、セイジンの素性が知れた途端に煽ってきた。


「元企業人かよ、そんな上流階級様がなんでこんなところにいるんでしょうかねぇ?あ、落ちぶれたからココにいるってわけか!」

「おい、口の利き方に注意しろ。貴様風情に侮られるほど落ちぶれていないんだ。」


 それからは、【ウェポン】こそ使用しないが殴り合いの喧嘩になった。もちろん、そのチームから即座に外された。

 もう、全てがひっくり返って居るという意識を持つまでしばらくかかった。当然、すぐに噂になり臨時のチームに入ることすらおぼつかない状況になった。それでも着実に力をつけ、ダンジョンへの知識を深めていった。自分に役割が作れるなら、価値があるなら「仕事」はできる。企業に居た時にも通用した考え方だ。

 そうして、時には前線で体をはり、時にはダンジョンのカラクリを見破り少しづつだが評価を上げて行った。おかげで、余程の企業嫌いでもなければチームに入れてもらえるようにはなった。サイキック・ディフェンダーはソロでの戦闘能力は低いので、ソロで潜るという選択肢は持たなかった。

 そのため、自分でも組めるような相手を探していたが、今まではコレという相手はいなかったのだった。だが、昨日から噂に上がった2層出身のルーキーに興味が湧いた。さらには赤龍をソロ討伐する力量を持っているとなれば尚更だった。

 セイジンはダメ元だが、できる限りの報酬の融通は聞かせるつもりで話しかけた。


「キミとオレでチームを組まないか?キミは防御面で不安を持っている。オレと組めば防御面は充実する。」

「あ、あのぅ。ワラヒ、ダンジョンの捜索とかカラッキシなんスよ。だから、お師匠さんの言ってた通りにダンジョンに詳しい人と組もうかなって考えてて」


 ここで逃してなるものか、ダンジョンの知識なら本職の斥候並みに仕入れた。罠の解除も、ダンジョン解析もできる自負はある。


「なら、安心したまえ。オレはダンジョンの捜索にも心得はある。赤龍討伐の方も済んでいる。ジョブのランクアップをしたところで2層そのものは未経験だがな。」

「あ、なら全然OKッスね!ワラヒはニコッス。よろしくお願いしますッス」

「まぁ、自己紹介は2回目だが良いだろう。オレはセイジン・クラだ。よろしくな、ニコ。」


 見たところ、あまり深く考えるタイプではなさそうだが、念のために聞いておく。


「キミは2層出身だったな。表層都市にある企業に関してどう思う?彼らは富を独占し、下限域での分配しかしていないと噂されてるが。」

「よくわかんねッス!難しい話は考えてないので!」


 …問題はなさそうだ。パッと見、貧民街出身にも見えていたからカマをかけたつもりだったが。正直、そんなことも必要なかったような答えだったが、予想の斜め上を行くニコのことをセイジンはこれから初めて体験するのだった。


「あ!それよりそれより!!セイジンは殴るジョブっすか!?」

「まぁ、殴ると言えば殴るだね。このウェポンがオレの攻撃方法だ。」


 セイジンはそう言って、背中に納めていたグラビティグラブ・ブーツを宙空に浮かべた。このウェポンの本来の使い方は手足に装着し拳や蹴りの重さを調節して戦ったり、力場を発生させて受ける威力を相殺するのが正しい使い方だ。それを、今は異能の力で空中に飛ばして敵にぶつけるようにして戦って居る。


「おわっと!それ、グラビティグラブっすよね!面白い使い方するンスね!!興味湧いてきたぁ〜っ!!!!!!」


 何か、不穏な空気を感じとるセイジン。興味が湧いてきた?オレのグラビティグラブに興味が湧いたのなら、気が済むまで使ってみるといいと言おうとした瞬間に


「ワラヒと勝負ッス!何はなくとも、殴り合えば分かり合えるッスよ!!」

 

そう言って、ニコは背中の巨大なハンマーを地面に振り下ろして宣言した。正直、この展開は予想だにしていないセイジンだった。

「(な、何を考えて居る…?表層都市で殴り合いなんて、下手に死んだらどうするつもりなんだこの女…ッ!?何は無くともだと?もしや、ここまでこのノリでいたから一人でダイブしてるのかッ?)」


 巨大なハンマーをブンブンと振り回しながら、距離をゆっくりと詰めてくるニコ。嫌な汗が流れるセイジン。

 とにかく、答えを出す。あちらが不利に、こちらが有利になるように。


「ニコ!まず、ルールを決めたい!!どちらかが参った!と宣言して武器を落としたら負けだ。加えて、重傷を負った時点でも負けを認めよう。」

「ワラヒ、狂戦士バーサーカーなんで!参ったとか、多分言わないッス!!」

「なら、この勝負はどうやってつけるつもりだ!?」

「ワラヒが!満足するまで戦うっす!!」

「さては相当だなッ!キミっ!?」


 ルールすら決められない単なる殴り合いをするつもりはセイジンにはない。まさか、ここまでとは思わなかったがこのままでは、興奮しきったニコが今にもハンマーを振り下ろしかねない。そこで、知らない声が二人にかけられた。


 

「おいおい、物騒な雰囲気だな。正気か?ここは表層都市だぞ?」


 強化服に身を包んだ筋骨隆々という表現が相応しい男がそこにいた。そして、正論を二人に浴びせる。

 最も、ここら辺で殴り合ったくらいでは警備企業は動かない。殺し合いになって、周囲に被害が出たらようやく動くくらいだ。それを知ってるからセイジンは焦っていたわけでもある。

 少しクールダウンしたニコを視界に入れながら、セイジンは現れた男に注意を払う。

 装甲服の下に隠れて居るが、鍛え上がった太い首筋と顔面に走る傷跡から歴戦の雰囲気を伺えるが、その装甲服とのミスマッチ感が拭えなかった。

 なぜなら、その装甲服は前線で戦闘するためのものでも、後方から火力支援を行うためでもなく、医療支援を行うためのものだった。


「ふむ、俺の名はアランだ。最近だと、あまり言い方で噂になっていないがな。名前くらいは聞いたことあるか?」


 セイジンはアランという名前で思いついた相手だとしたら、ここは状況をひっくり返せると確信した。


「アラン、だな。アラン・ジ・エイドマンって最近だと呼ばれていたな?元テック・クルセイダーの3層到達者だ。所属チームが空中分解して、なぜかその後テックソルジャー系からテックドクターにジョブを変えたと聞いている。」

「話が早くて助かる。そのアランだ。で、俺は目の前で殺し合いが行われるのを許容しない。良いか、もう一度言うぞ。殺し合いは止めろ。俺の目の前で死にそうなことをするな。」


 アランから強めの口調で言われるが、ニコは全くもって動じない。


「殺し合いじゃないっすよ?腕試しっす。」

「バーサーカーのお前が器用に戦闘停止できるんなら、その言い分を認めてやるがな。ベルセルクではなく、バーサーカーだろう?任意で脳内麻薬の分泌停止はまだできないだろう?」

「マジっすか!?ベルセルクにジョブチェンしたらそんなことまで出来るんすか!?だから師匠は早く3層に行けって言ってたンスね?」

「知らん知らん。そちらの言い分はともかく、安全にやりあえるなら俺は気にしないが。」


 そこで、セイジンが待ったをかける。


「アラン、あんたに俺たちの模擬戦の審判をしてもらいたい。そっちのニコはバーサーカーだから、一度始まったら止まらんだろう。明らかな重傷、骨折や吐血などをした場合、あんたにニコの暴走を解除してもらいたい。テックドクターなら、そういうことが出来たよな?」

「ふん、確かに出来る。そして、俺の目の前で戦うっていうなら俺が止めに入らないわけにもいかんな。いいだろう、何も起こらないように俺が審判を務めよう。」


 対面では、ニコが狂喜乱舞して居る。よほど、戦いたいらしい。気がつけば、野次馬がゾロゾロと並び始めて居る。正直、やけくそ気味になりながらもグラビティグラブを宙に浮かべ、戦闘準備を表明する。

挿絵(By みてみん) 

「よし、こちらは準備良しだ。」

「こっちも!こっちも準備オっけええええええ ぇっす!!」

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