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崩壊世界とダンジョンと   作者: めーた
バレリアとスカイ
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第13話 関係性

 目的地のエリアは緑の蔦が支配していた。ダンジョン内のプラントは大小あれど、自己再生を行う施設が殆どだがココは這いまわっている蔦が自動メンテナンスを拒否していた。

 装甲車が蔦の前で停止する。繁茂している蔦のせいでかなり見通しが悪くなっている。何が起こるのか分からないから、慎重に装甲車を進ませる。

 突如、エネミー感知をした装甲車内で警戒警報が鳴り響く。


「エネミーかっ!どこだいスカイッ!!」

「3時方角です!エネミー確認できました。王爆甜瓜キングボムメロンです!!」


 キングボムメロンと呼ばれたエネミーは、3mを越して見上げるような丸いボディに申し訳程度の手足が生えた植物系エネミーであった。


「こいつ、体内から爆発性の種をばら撒いてきます!装甲車から出ないでください!!距離をとって戦いましょう。」


 うかつに出れば、装甲車ともども爆発に巻き込まれてしまう。だがバレリアは瞬時に判断を下していた。


「スカイ、アタシが前に出る。このくらいの速度なら、カタナで切り落とせる。アタシに任せな!」

「でも、こんなに爆風がありますよ!?負傷しないわけじゃないでしょう?」

「スカイ!アタシは相棒であるアンタに言ったんだ。任せな。」

「…わかりました。でも、負傷がかさんだら後退してくださいねっ!」

「よしきた、任せなぁッ!!」


 バレリアはフォースカタナのスイッチをウェポンスロット経由でオンにして、前衛に躍り出る。逆に装甲車は後ろに下がり砲撃による支援を行う。

 前線に出たバレリアは敵に先手を許すが、ばらまかれた種の弾をカタナで一閃する。全ての弾の進む方向を微妙にずらして自分には当たらないようにする。

 2射出目までは耐えたが、3射出目には若干の逸らし漏らしが出てしまい攻撃を受ける。


「チッ、流石に全部弾くのは無理か。それでも、アタシは退かない!」


 サムライはカタナを使うことに特化したジョブである。他の前衛系ジョブでもカタナ自体を扱うことはできるが、その真の性能を引き出すのはサムライだけだ。フォースカタナはウェポンスロットを通じ、どうすれば飛来物を弾けるかを教えてくれる。だが、その軌跡をなぞれるのはサムライのみなのだ。

 ただガムシャラに振り回しているだけにも見えるが、その全てが射撃攻撃に対する防御だった。

 キングボムメロンの攻撃に耐えたバレリアは反撃に出る。しかし、全てを攻撃に当てるのではなくマルチガンの1手を自分の回復ヒーリングバレットに当てていた。すぐに弾倉をクラスターマイクロミサイルに変えて攻撃を行う。着弾とともに爆風がバレリアの元に届く。その爆風を切り裂くようにバレリアが肉薄していた。

 

「真っ二つに割ってやるぁ!!、果物風情がっ!!」


 フォースカタナを一閃させ、メロンの体に切れ込みを入れる。ざっくりと刀身が入り中身がはみ出る。


「離れてっ!バレリアさんっ!!」


 背後から拡声器を通してスカイが叫んだ。バレリアは即座に離脱して距離を開ける。そこに装甲車に積んである大砲からの一撃が命中した。はみ出ていた種に直撃し、誘爆させてメロンの体を損壊させる。しかし、まだまだ動ける様子で弱った素振りを見せることはなかった。


「思ったよりもタフだな。まあ、やるしかないんだがッ!」


 バレリアはカタナを構えて王爆甜瓜キングボムメロンに向かい合った。所詮、爆弾スイカのデカくなった版だ。吐いてくる爆裂種弾はフォースカタナで弾き返せばダメージは最小限に抑えられる。蓄積する負傷はヒールバレットを撃ち込んで回復する。弾切れまではこれで持たせていく。

 王爆甜瓜キングボムメロンにも着実にダメージが重なっていく。後列のスカイが乗る装甲車から繰り出される砲撃はいかな王爆甜瓜キングボムメロンでも耐え切れずにボディを損傷していく。


「くっ!弾切れかいっ!!下がるよ、」

「了解です!装甲車の耐久いっぱいまで食い止めておきます!!」

「どうせなら、倒しちまっても良いんだよっ!」


 バレリアからの一声が届きつつ、前後を交代する。装甲車は王爆甜瓜キングボムメロンを眼前に立ちはだかった。装甲車はバレリアのように弾き返すなどの防御行動はない。ひたすら回避運動をとりつつ、貼り付けた装甲タイルとその下にある本体の耐久力で持たせるしかない。バレリアが前衛にいないので迫撃砲を混ぜながら攻撃を行なっていく。


「硬い!と言うよりも、耐久力がある感じかっ。」


 スカイは車中で敵の分析をする。金属のような硬さで攻撃を防いでると言うよりも、無尽蔵のような生命力に物を言わせて動いているようだ。

 若干の焦りをスカイは感じていた。迫撃砲の弾も使い果たし、主砲の弾ももう少しで使い切ってしまう。あとは、運転席から身を乗り出してレーザーガンを撃ち込んでいくしない。

 

「あとは車体がどのくらい持つかだな」


 知り合いのエルフがこんな状態をチキンレースと言ってたような気がする。真正面からの撃ち合いで、どちらが音を上げるかの勝負。

 先に敗北に片足を突っ込んだのは、バレリアたちの方だった。


「すいません、弾丸が切れました!僕は壁役に徹します!!」


 装甲車の弾丸が全て底をついた。レーザーガンは弾切れを起こさないが、ダメージとしては心許ない。バレリアも後ろに下がっての銃撃をしていたが、これは不味いと焦り始める。

 装甲車の装甲タイルはもう全て剥げて、本体の耐久性任せの状態になっていた。旧世代の遺物でもあるテックフレームは曲がりすらしないが、それ以外は原型らしい形を保っているのがやっとである。


「アタシも前に出る!攻撃に集中して短期決戦にするぞ!!」

「了解!」

 

 バレリアはフォースカタナの刀身を再形成しつつ、前に出て装甲車の横に陣取った。片手にカタナ、片手に銃のいつものスタイルでメロンのバケモノに喰らい付いていく。

 唸り声のようなものをあげ、王爆甜瓜キングボムメロンも攻撃に集中する。向こうもだいぶ攻撃を受けていてボディ部分には数カ所の大きな穿孔があり、手は使用不能になりぶら下がっているだけ。それでも、戦意を崩さずに戦い続けるのはダンジョンの僕だからだろう。

 スカイはレーザーピストルでその大穴に撃ち込んでいく。内部に当たればさすがに効くだろうと見込んでだ。数回当てて、流石の王爆甜瓜キングボムメロンも動きそのものは鈍くなっている。

 バレリアも爆発による無数の細かい傷が全身に刻まれていたが、戦意は未だ衰えることはなく戦い続けている。気迫で何とか体を動かし、迫りくる爆裂種弾を弾き落とし、時には打ち返していく。痛みを感じる暇もなく、エネミーへの攻撃を続けていた。

 王爆甜瓜キングボムメロンが一瞬だけ、ふらついた。バレリアはその隙を逃してなるものかと、裂帛の叫びを上げカタナを振り切った。

 カタナは胴体部に致命的な一撃を与え、ついに胴体部分が上下二つに割れて王爆甜瓜キングボムメロンは活動を停止した。



 バレリアたちの目の前に、至る所から果汁を吹き出して転がっている巨大なメロンがあった。行動停止した王爆甜瓜キングボムメロンに対してバレリアたちは解体を行い、巨大なメロンの中身から爆発する種を戦利品として手に入れていた。


「あぁ、どうなることかと思ったぜ。これで帰り道にワンダリングエネミーが出たら泣くに泣けないぞ。」

「それは、考えたくもありませんね。さっさと蔦を切り離して片付けましょう。自動メンテナンスが動き出すと思います。」


 スカイが言ったように、バレリアがフォースカタナで蔦を切り離して片付けると水資源生産プラントが活動を再開し始めていた。


「どう言う理屈かわからん。なんでここのプラントは活動停止していたんだ?」

「蔦が生産される水を片っ端から自分のモノに吸い上げてたんじゃないですかね。憶測ですけど。」


 冷たい金属質の床に置いておいた巨大メロンの残骸とともに片付けた蔦もろとも、自動メンテナンスの人形オートマータ達が触れる端から塵に分解して吸引していく。


「旧時代の機械人形が出始めたな。もう、ここで出来ることはないな。アタシらも『掃除される』前に逃げておこう。」

「賛成ですね。乗り心地は悪いかもしれませんけれど、乗ってください。スピード出せる範囲で出していきますから捕まってください。」

「応とも相棒。あー、できるだけ安全運転で頼むぜ。まぁ、さすがにこの状態でワンダリングエネミーとか会いたくないけどな。」

「それに関しては、完全に同意ですね。」

 

 こちらの申し出に素直に装甲車に乗ってくれるバレリアに対し、スカイの表情に笑顔が浮かんだ。周囲の安全を確認したスカイは行きで通った道を可能な限りのスピードで帰るのだった。



 帰り道に、エネミーと遭遇したが幸いなことに弱いエネミーだったのでバレリアが一蹴して終わった。


「まぁ、アタシらは今日はギリギリでラッキーなのかもしれんな。」

「そうですね…。」 


 ボロボロになった装甲車を見て、騒然となるダンジョン入り口の衛兵達。1層へ向かう途中だったルーキー達も何事かと集まり始める。少し前に1層で5層のエネミー「バルバトス・フレッシュフィレ」が現れたこともあり、皆がピリピリしている。

 

「何か勘違いしてるかもしれないが、アタシらは普通のエネミーと戦ってきただけだ。勘違いするなよ。」

「ほら、討伐時の端末の録画です。強いエネミーでしたけれど、1層のエネミーですよ。」


 バレリアとスカイの証言で集まっていた連中は納得して散り散りになっていく。

 衛兵もほっとしたように持ち場へ戻る。衛兵には1層くらいまでしか相手にできないウェポンしか持っていないので、もし5層エネミーが出たりしたら即死で生き返ることもできない表層都市では絶対に避けたいことだろうと推測できた。

 

 とにかく、大破寸前の装甲車でダイバーズオフィスの前で停車する。浮荷台をつなげていた装甲車から切り離し、二人でオフィスの入り口を潜り抜ける。

 中はいつも通りの喧騒だった。自分たちと同じくらいの駆け出しダイバーが受付でオーダーを受注したのを見計らい受付の機械妖精ティンクのリカに声をかける。

 リカは先のルーキー達に「頑張ってねー!」と声援を送って見送った後にバレリア達にカウンターの上で向き直した。バレリアは出ていく同ランクの同業者に道を譲ってから近づいていく。


「リカ、水資源生産プラントの再稼働の件だが完了したぞ。依頼主に問い合わせて、確認してもらって良いか?」

「あら、バレリア。結構ハードだったの?」


 バレリアのボロボロ具合と、先ほど上がってきた衛兵からのダンジョン入り口の治安情報を受け取って状況を察する。


「まぁまぁ、だったな。ワンダリングエネミーとオーダー指定の場所でユニークエネミーと出会した。そろそろ腕の良い斥候が欲しいんだが、心当たりはないか?」

「うーん、とりあえず依頼主に問い合わせを送っておくわね。スカイは?装甲車に乗ってるけれど、ダンジョンに関することなら知識をダウンロードするだけでしょ?」

「いや、リカさん。ボク達は先手を安定して取れるような斥候が欲しいんですよ。」

「あら?あらあら?」

 

 声をワントーン上げて、リカはその小さな体をカウンターに下ろし、足を組んで座った。リカは何事か二人の仲にあったことに気がついた。

 

「あれだけよそよそしい雰囲気だったあなた達なのに、仲良くなったのね?」


 仲良く、と言われるとバレリアは耳をピンと立たせ、スカイは頬を指でカリカリとかいた。ダンジョンに潜る前までは険悪とは行かないが、ギクシャクしていたのだ。リカにとっては、今回のダイブで失敗か、何か問題でも起こるようなら新しいチームを組むことを提案するつもりでいたくらいだ。


「まぁ、何があったかなんて聞かないわ。事前通りの報酬10CPに、浮荷台の分10 CPよ。はい、お疲れ様でした〜。」


 リカはニヤニヤと笑みを浮かべて、報酬を渡していく。

 一言何もないと言えるのだが、二人ともそれを言ってしまうのは何か違う気がして、逡巡してしまった。後ろに並んでいたテッククルセイダーが順番待ちをしていたこともあり、そそくさとオフィスを後にしたのだった。


「とりあえず、どうします?僕は装甲車の修理から始めないといけないですけれど。」

「アタシは装備の改造かな。でも、その前に打ち上げに行こうか。今回も無事に終わったわけだからな。」

「じゃあ、いつもの『メシヤ』でだな。一度、服を着替えにアタシは戻る。そっちはどうする?」

「僕も一応戻ります。それじゃ。」


 バレリアは悩んでいた。相棒という関係性で納得できた。少なくとも、表面上は。

 だがしかし、あの言い方よ!と声に出さずに拳を握り込む。その手はフルフルと震えていた。気にしているのは、まるで“愛の告白”にも聞こえなくもなかった言い方だ。あいつは自分の言ったことを覚えてるんだろうな、と。あとで「忘れました」、とか。「勢いでした!」とも言わせんぞ。

 今日のダイブはいろんな意味で疲れたが、気づきも多かった。


「(とりあえず、あいつを保護対象に見るのはヤメだな。アタシと同格のダイバーだ。装甲車に関係なく、頼れる相棒だからな。)」


 スカイは悩んでいた。相棒という関係性を確立できた。少なくとも、表面上は。

 だけど、ずっと思いを秘めていたことを全て言ってしまった。勢いだけの事ではないのだが、ここしかないと思って伝えてしまったというのもある。

 初めてのダンジョンダイブで助けられて以来、ずっと思っていた事だ。だが、「僕はあなたの特別でいたい」は、言葉のチョイスとしていき過ぎてなかったか?

 正直なところ、自分はケモへの特別な感情とかはなかったと思う。初恋だって、人間相手であった。異種族恋愛は自分には縁遠い話だと思っていたが、やはりバレリアに助けられた時に憧れと同時に好意も胸に宿ったように思う。

 

「とりあえず、バレリアさんの方にも思うところがあるだろうし!僕だけ考えてもしょうがない!!今日は大人しくお酒でも飲んで楽しく過ごそうっと!」


 この後、食堂件酒場「メシヤ」にて飲むペースがいつもより早くなっていたスカイが、「結婚を前提にーッ!」と叫んで、バレリアにビンタを食らったのだが。それはまた別の話。

とりあえず、バレリアとスカイの物語は一つ区切ります。次は、エルに戻るか、新規のキャラをすえるか。まだ構想中です。

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