うどん、カツカレー、クリームパン
昼休みになり食堂へ向かうと、途中でなごみに声をかけられた。
「先輩、今から食堂行くんですか?」
「ああ、そうだよ」
「ご一緒してもいいですか?」
「もちろん。いいよ」
なごみを見ると、嬉しそうに笑っている。すると、なごみに告白されたことを思い出し、急に顔が熱くなった。
食堂に着き、それぞれで注文をして、二人で向かい合って座った。
俺はかけうどん(食堂で一番安いメニュー)、
なごみはカツカレーだ。
カツカレーはただでさえボリュームがあって、金欠空腹な俺にとって魅力的なのに、なごみの見事な食いっぷりが、さらに俺の食欲を誘う。
「本当にうまそうに食べるよなー」
思わずそう言うと、
「カツ一切れ食べます?美味しいですよ」
俺にカツを一切れ恵んでくれた。
食堂の、薄くて固いカツが、こんなに美味く感じられたのは初めてだった。
早くバイト代をもらって、腹いっぱい食べたいな…。
そう考えていると、
「そういえば先輩、すっかり雰囲気が変わりましたね。髪も服も似合ってます。かっこよすぎて近寄り難いくらいです」
そう言って、なごみは少し照れていた。でも俺は、
「でも実は違和感を感じるんだ。俺、目が細くてつり上がってるからさ、ちょっと俺には可愛すぎる髪型だったかも。服も、俺の顔が追いついてない感じがする」
さっき秋山との件があったせいか、ついつい後ろ向きな発言をしてしまった。咄嗟に謝る。
「あ、ごめん、マイナスな発言しちゃって。なごみにはついつい思ったことを何でも言ってしまうんだ。何でだろうな、はは…」
下手な笑いでごまかすと、なごみは俺の手をガシッと掴んで、
「先輩、それだけ私に気を許してくれてるってことですよね?私、嬉しいです!!」
「お、おぅ、そうか」
なごみの勢いに圧倒される。なごみは続けて、
「先輩の目は、切長で綺麗な目ですよ。色っぽくて、見るとドキドキします」
俺が嫌いなこのキツネみたいな目を、なごみはすごく自然に褒めてくる。きっと嘘ではなく本心なのだろう。わざとらしさを感じない。
嬉しかった。
「色っぽい?そんなの初めて言われたよ」
思わず笑い出す。するとなごみは、
「先輩、笑いましたね。良かった!今日先輩をお見かけした時、なんか元気がなさそうだったので、心配してたんです」
そう言われて心がじわっと熱くなる。なごみは人の心を穏やかにする天才だ。
俺の手を包み込む、クリームパンのような手からも、温かさが伝わってきた。
その後、なごみが手を離すと、カバンの中から何かを取り出した。
「先輩、これプレゼントです」
「え、なに?」
そう聞くと、なごみは小さな声で、
「…ドール服の新作です。夏に向けて、浴衣と水着も作ってみました。よかったら、着せてあげてくださいね」
「あ、金払うよ!買わせてくれ」
そう言うと、
「いえいえ、これは注文じゃなくて私が勝手に作ったものなので、お代は結構です。
でも、どうしてもと言うなら、今度どこかでお茶をおごってください」
なごみはデートの誘いもスマートで、驚かされる。実は恋愛経験は豊富なのか?
その後もしばらく食堂でおしゃべりをして、楽しい時間を過ごした。