変身後、初めての告白
日曜日
1週間の中で唯一バイトを入れないこの日は、いつもなら家でだらだら休んでいる。そして、体力が充電された頃に起きて、大学の課題に取り組んだり、ハンドメイドアプリで服を見たり、ちょっと出かけて、ガチャガチャで家具類を見たりして過ごしている。
でも、この日だけは違った。
午前中はガクから紹介されたオシャレな床屋(ガクはメンズサロンって呼んでた)に行き、
午後は服を買いにショッピングモールに行く予定だ。
…トモくんも一緒に。
「一人でいいのに…」
「ダメだ!!お前一人だったら、意味不明な服買ってくるかもしれないだろ!」
遠回しに“センスが無い”と言われているのがわかる。
トモくんの服だって、もともとは俺が選んで買ってるのに…。まぁ、桃さんがセットで売り出してるのを買ってるだけだけど…。
最初にオシャレな床屋に向かう。
もう、外観からしてオシャレな隠れ家のようなお店だった。
中に入り、そして仕上がって出てくる頃には…
「べ、別人だ…」
ショーウィンドウの反射する自分の姿を見て絶句した。リュックからも、
「進〜!!めっちゃイケメンになったじゃん!!この世で2番目にかっこいいぞ!」
と、小さな声が聞こえてくる。
スタイリング剤代も含めて、いつもの床屋の10倍以上の金を使ってしまった…。
でも、悪くはない気がする。少し毛先にパーマをかけて、ふわふわに軽くなった髪は、俺の心まで少し軽くしてくれたような気がしたからだ。
そして次は服。
トモくんのアドバイスで、雰囲気の良さそうなショップに立ち寄る。…でも、
「このシャツ、俺の1ヶ月の食費と同じくらいの値段だ…」
背中から、
「素材がしっかりしてるシャツは見栄えがいいし、長持ちするんだ。1枚は持っておいたほうがいいぞ」
そう聞こえてきたが、今日は床屋でも金がかかったから、買う気にはなれなかった。
代わりに量産型のショップへ行き、トモくんに聞きながら何着か選んだ。
「まぁ、今のよれよれシャツよりはだいぶマシだな。家に帰ったらそのシャツは捨てろよ。いいな?」
「わかったから、少し黙ってろ。周りの人に聞かれるだろ?」
今日のやるべきことは済ませたので、ここからは自分の楽しみに時間を使うことにした。向かった先は…、
ガチャガチャコーナー。
最近のガチャガチャはすごい。とても精密な作りで、ミニサイズだとわからなければ、まるで本物だ。
最近はキッチンに力を入れているので、キッチン用品のガチャガチャをすることにした。
「キッチン用品買ったって、俺は料理なんかしないぜー。あ、テレビ買ってくれよー!お前のテレビはでかすぎて全然見えないからさ!」
小さな声を無視して、キッチン用品のガチャガチャを回す。1600円をつぎ込み、計4回回した。
運がいいことに1つも被りは無しで、オシャレなキッチン用品が揃った。
ドールハウスに置くところを想像してウキウキしていると、
「田口先輩??こんなところで会えるなんて!!
っていうか、髪!!!!」
話しかけてきたのはなごみだった。
「お、なごみか。あぁ、髪切ったんだ。変かな?」
なんだか緊張する。急に俺には不釣り合いなカツラを被ってるような気がしてきた。
するとなごみは、穏やかな菩薩のような笑顔で、
「変なわけないじゃないですか!…すっごく素敵ですよ。先輩は色白だから、そういう中性的な髪型がお似合いです」
なごみが言うと、説得力があるのはなぜなんだろう。よくわからないが、俺は安堵感を得た。
「そういえば、なごみも買い物しにきたの?」
そう言って、なごみの持っている買い物袋をちらっと見ると、布が入っているように見えた。
「はい。私、手芸が趣味なので、その材料を買ってきたところです。
ところで、先輩今日はバイトないんですか?」
「うん。日曜日はいつもバイト入れてないんだ」
「そしたら、この近くに美味しいうどん屋さんがあるんですけど、一緒に行きませんか?」
そういえば、いつの間にかもう午後1時を過ぎていた。腹も減っている。
「行く!!俺、実はうどん好きなんだよ」
「あはは!私もです。一緒ですね」
そう言ってなごみが笑うと、少し胸がドキッとした。なごみって、本当に笑顔が柔らかくてかわいいよな…。
無愛想な俺とは正反対だ。
「お前もこの子の半分くらいの明るさがあればいいのになぁ」
背中からも嫌味が聞こえてくる。はぁ…。
店に入ると、俺はかけうどんの大サイズを注文した。かけうどんが一番安いからだ。
なごみは迷っていたが、天丼とざるうどんの大のセットを注文した。
おいしいうどんだったと思う。でも、あまり味が思い出せない。
なぜなら、食べている間、ずっとなごみが気になってしまったからだ。なごみ…の食いっぷりが。
雑談など一切せず、黙々と口に運んでいく。結構ボリュームのあるメニューに思えたけど、なごみにとっては楽勝で食べられる量のようだった。
とにかく、すごく美味しそうに食べている。また、食べ方がきれいだ。
橋の持ち方、お椀の手の添え方、時折口をタオルで押さえるときなど、所作が本当にきれいだ。ついつい見惚れてしまった。すると、なごみが少し困った顔になって、
「すみません。バクバク食べて。よく友だちや家族から、あまり食べるな、痩せろって言われるんです。
でも、私食べることが大好きなので…。あ、でも少しは運動してるんですよ?」
そう言って、笑顔を見せる。
俺は、
「バクバク食べるの、いいじゃん。見ていて気持ちがいいよ。食べ方もきれいだし。
俺は逆に、よく食べろって言われるよ。ヒョロヒョロでかっこ悪いからな。俺も少しは運動して筋肉つけようかな」
と言った。なごみは少し泣きそうな顔をした。
「どうしたの?なんか俺悪いこと言ったかな」
なごみは首を横に振って、
「いいえ、田口先輩にそう言われて嬉しくて。実は私、先輩のこと好きなんです」
ゴホゴホッ!!!!
驚いた拍子に、うどんが喉の変なところに入ってむせる。
「大丈夫ですか?ごめんなさい。急に変なこと言って」
「だ、大丈夫。だけど、俺のこと本当に好きなの?なんで??」
俺、いいところなんて全然ないのに…。
「田口先輩…。実は私、大学に入る前から先輩のこと知ってたんです」
「…え?どういうこと?」
「先輩、よくハンドメイドアプリで“桃”からドール服を購入されてますよね?実は、私が“桃”なんです」
「えっ、ええー!!!!」
そこで思い出す。なごみの本名は百田なごみだ。百田の“もも”からきてたのか、全然気づかなかった。
…というか、俺がドル活してることが知られている!?
俺は急に青ざめた。
「あ、先輩がドール服を買ってることは、他の人には絶対に言わないので安心してくださいね。
先輩が購入してくれた後に、いつもお褒めのレビューを書いてくれていたので、すごく励みになっていたんです。そしたらたまたま同じ大学に入学して、しかも同じ学科で先輩の名前を見つけて…。
先輩は、バイトも忙しいのに、いつも授業も真剣で…。レポートもいつも教授にほめられていて、本当に尊敬しています。
私なんかがこんなお願いするのは、差し出がましいとはわかっているのですが、もし良ければお付き合いしていただけませんか?」
本当に驚いた。俺のことをそんな風に思ってくれてる人がいたなんて。それも、俺が気に入っていたドール服作家さんが…。
すごく嬉しかった。でも…、
「俺、まだ人と付き合う余裕がないんだ。最近自分磨きを始めたばかりだから…。
でも、なごみとはもっと仲良くなりたいし、もっと知りたいと思うんだ。だから、とりあえず友だちからでもいいかな?」
そう言うと、なごみはいつもの笑顔で、
「もちろんです。お友だちになれるだけでも充分幸せです!!あ、今度ドール服作ってプレゼントしますね。リクエストがあったら言ってください!!」
そして、連絡先を交換して別れた。
「よぉ!色男!早速一人女の子を引っ掛けたな」
トモくんが背中からからかってくる。
「そんなんじゃない…」
そう言いながらも、俺はドキドキが止まらなかった。




